ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和元年12月12日
評価年月日:令和元年10月29日
評価責任者:国別開発協力第一課長 渡邊 滋
1 案件名
1-1 供与国名
カンボジア王国(以下「カンボジア」という。)
1-2 案件名
プルサット上水道拡張計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,プルサット市において,取水施設,導水管,浄水場,及び送水管を建設し,配水管網を敷設することにより,安全な水へのアクセス率の向上と安定した給水サービスの提供を図り,もって住民の生活の質向上及び同国の社会開発の促進に寄与する。供与限度額は24.05億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は,JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリBであり,環境への望ましくない影響は重大ではないと判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)カンボジア(一人あたり国民所得1,230ドル)は,OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上,後発開発途上国(LDC)に分類されている。
- (2)地域の連結性と域内の格差是正の鍵を握る国としてカンボジアは重要。我が国は,カンボジア内戦後の和平・復興・開発への貢献や活発な要人往来,国際場裏での協力(KR裁判)等を通じ,同国との関係を強化してきた。近年は,二国間の経済関係も緊密化しており,我が国からカンボジアへの民間投資が増大。2013年12月には,両国関係が「戦略的パートナーシップ」に格上げされ,地域・国際場裏の課題に関しても一層緊密に連携・協力していくことで一致している。
- (3)カンボジアでは,内戦後わが国及び他ドナーの支援により,プノンペン都の給水サービスは24時間給水を実現,給水率は90%,無収水率は6%(2010年)にまで改善し,全国の都市部における安全な飲料水へのアクセス率も74.85%(2013年)にまで向上した。しかし,全国の都市人口の約半数を抱えるプノンペン都の成果がこの全国平均を押し上げているものであり,地方都市では,給水普及率は35%(2005年)に留まっていた。このため,工業・手工芸省では,都市部の給水普及率を2025年までに100%とする目標を掲げ,地方都市の上水道施設整備を進めている。JICAは,日本及び他ドナーの協力を得て浄水場施設が整備された8都市の公営水道事業体を対象に,2007年から北九州市等と連携した技術協力を開始し,運転・維持管理技術及び経営能力の強化支援を進めた。その結果,一定レベルの給水サービスの提供は可能となったが,給水能力が小さいため地方都市における給水普及率は未だ低位に留まっている。カンボジア政府は「国家戦略開発計画」において,2025年までに都市部人口の100%に対して安全な水へのアクセスを確保する目標を掲げている。上記を踏まえ,プノンペン都に続き,地方都市においても上水道分野でも我が国の地方自治体と連携した協力を行うことは二国間関係の一層の強化に資すると考えられる。なお,都市生活環境整備に資する上水道分野における取組は,我が国の対カンボジア王国国別開発協力方針(2017)において,重点分野「生活の質向上」の中で取り組む具体策の一つと位置づけられている。
- (4)本計画は,我が国及びJICAの援助方針・分析並びにカンボジア政府の開発政策に合致し,上水道施設の建設及び配水管網の拡張により給水普及率の向上を通じて住民の生活環境の改善に資するものであり,SDGsゴール6「安全な水とトイレを世界中に」に貢献すると考えられる。また,当国は,貧困層及び貧困層に近い層(一日の収入が3米ドル以下の国民は約72%(出典:世界銀行(2011年))が依然多く,人間の安全保障の観点から本計画を通じて,貧困,感染症など個人の生命,生活に対する脅威への対応が必要であり,無償資金協力にて本計画の実施を支援する必要性は高い。
- (5)また,本年5月に開催された日カンボジア首脳会談においても,都市機能強化について首脳間で認識が一致した他,同国は北朝鮮や南シナ海を始め地域・国際社会における喫緊の課題についても連携していくことで一致している。以上のことから,カンボジアの開発ニーズ及び我が国の支援方針に合致し,メコン地域の連結性にも資する本計画を実施することは,良好な二国間関係の維持・強化に資する。
2-2 効率性
技術協力「水道人材育成プロジェクト・フェーズ3」(2012年~2018年)にて,本計画対象市を含む8都市の水道経営能力の強化を支援している。本計画による施設改善と技術協力事業による経営改善の相乗効果により,安定的な水道事業経営,ひいては給水普及率の改善につながる。また,本計画の実施後は運営・維持管理の対象となる施設が増えるため,職員を21名増員し,58名とする必要があり,プルサット州水道局は2025年までに人員増を行うこととしている。更にソフトコンポーネントによって,浄水施設運転維持管理,配水施設運転維持管理,生産管理に関する技術指導を行い,本計画で整備される施設が適切に運転・維持管理されるよう技術面から支援する。財務面に関しては,本計画の実施に伴い維持管理費が増加するものの,給水人口拡大に伴い,水道料金収入の増加が見込まれ,増額分を吸収できる見込みである。
2-3 有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果:2025年(事業完成3年後)に給水人口が基準年(2018年)実績値である37,661人から75,033人に増加,1日あたりの平均給水量が5,607立方メートル/日から11,386立方メートル/日に増加する。
- (2)定性的効果:住民の生活環境の向上,貧困層への接続促進,水因性疾患の減少。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)カンボジア政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)カンボジア国別評価(2017年度/第三者評価)
- (4)南部回廊を中心としたメコン地域の連結性の評価(2017年度/第三者評価)
- (5)メコン地域のODA案件に関わる日本の取組の評価(2014年度/第三者評価)