ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和2年4月9日
評価年月日:令和2年3月23日
評価責任者:国別開発協力第一課長 渡邊 滋
1 案件名
1-1 供与国名
カンボジア王国(以下「カンボジア」という。)
1-2 案件名
タクマウ上水道拡張計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,首都プノンペン近郊の人口が急増するタクマウ市において,上水道施設を拡張することにより,給水サービスの向上を図り,もってタクマウ市及びプノンペンにおける生活環境の改善及びカンボジアにおける社会開発の促進に寄与する。
供与限度額は34.21億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は,JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリBであり,環境への望ましくない影響は重大ではないと判断される。
- (2)本計画で整備する浄水施設等の事業・運営権の本邦企業への付与について,カンボジア政府及びプノンペン水道公社の方針が変更しないこと。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)カンボジア(一人あたり国民所得1,485ドル)は,OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上,後発開発途上国(LDC)に分類されている。
- (2)地域の連結性と域内の格差是正の鍵を握る国としてカンボジアは重要。我が国は,カンボジア内戦後の和平・復興・開発への貢献や活発な要人往来,国際場裏での協力(クメールルージュ裁判)等を通じ,同国との関係を強化してきた。近年は,二国間の経済関係も緊密化しており,我が国からカンボジアへの民間投資が増大。2013年12月には,両国関係が「戦略的パートナーシップ」に格上げされ,地域・国際場裏の課題に関しても一層緊密に連携・協力していくことで一致している。
- (3)我が国は,内戦終了直後の1993年より首都プノンペンの上水道支援を開始し,北九州市など地方自治体と連携した協力によって,2006年には給水率90%,24時間給水の実現等を達成し,“プノンペンの奇跡”と呼ばれるなど,大きく貢献。現在もプノンペンの成果を地方都市にも展開するため,技術協力と資金協力を組み合わせ,上水道施設の運転技術向上・経営改善と施設拡張に継続的に取り組んでおり,水分野に対する我が国からの支援への期待は大きい。一方,プノンペン都の南側約11キロメートルに隣接するカンダール州の州都タクマウ市においては,プノンペン水道局(以下,「PPWSA」という。)がプノンペン都内の浄水場から配水管を接続し給水を行ってきたが,プノンペン都及びタクマウ市の水需要の急増に伴い,既存の供給能力のままでは継続的な給水が困難な見通しである。このため,タクマウ市内に独自の浄水場を新規に整備することによる給水体制の強化と,プノンペン都内の浄水場の負荷の低減が緊急に必要となっている。一方で,タクマウ市は貧困層が多い地区のため水道料金の引き上げは難しく,また,取水源がプノンペン都の下水排水口の下流にあるため水質悪化のリスクに対応する必要がある。このため,PPWSAは,効率的に施設の整備及び運営・維持管理を行うために我が国及び民間企業の資金・技術を活用したいとして,事業運営権対応型無償資金協力を我が国に対し要請してきた。なお,都市生活環境整備に資する上水道分野における取組は,我が国の対カンボジア国別開発協力方針(2017年)において,重点分野「生活の質向上」の中で取り組む具体策の一つと位置づけられている。
- (4)本計画は,我が国及びJICAの援助方針・分析並びに同国政府の開発政策に合致し,浄水設備の整備を通じた安定的な水供給に寄与し,住民の水・衛生環境の改善に資するものであり,SDGsゴール3(健康)及び6(水・衛生)に貢献すると考えられる。また,同国は,貧困層及び貧困層に近い層(一日の収入が3ドル以下の国民は約72%(出典:世界銀行(2011年))が依然多く,人間の安全保障の観点から本計画を通じて,貧困,感染症など個人の生命,生活に対する脅威への対応が必要であり,生活環境の改善に寄与する本計画の実施を無償資金協力にて支援する必要性は高い。
- (5)また,2019年5月に開催された日カンボジア首脳会談においても,プノンペンの都市開発や都市機能強化について首脳間で認識が一致したほか,同国は北朝鮮や南シナ海を始め地域・国際社会における喫緊の課題についても連携していくことで一致している。以上のことから,カンボジアの開発ニーズ及び我が国の支援方針に合致し,メコン地域の連結性にも資する本計画を実施することは,良好な二国間関係の維持・強化に資する。
2-2 効率性
技術協力「水道行政管理能力向上プロジェクト」(2018~22年)により,民営水道事業者の規制監督メカニズムの構築・強化に係る協力を実施しており,本事業を通じて得られる本邦企業の運営・維持管理等の知見を共有し,民営水道事業者が給水を行う地域において特に水質基準の順守や安定的な給水量の確保等に係るモニタリング体制の構築を図っていることから,実施体制面,技術面についての特段の懸念はない。
2-3 有効性
本計画の実施により,事業完成3年後(2026年)には,2015年比で以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果:日平均給水量が11,440 立方メートル/日から30,000 立方メートル/日に増加する。
- (2)定性的効果:給水栓からの水量・水圧不足の改善及び対象地域の公衆衛生の向上。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)カンボジア政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)カンボジア国別評価(2017年度/第三者評価)
- (4)南部回廊を中心としたメコン地域の連結性の評価(2017年度/第三者評価)
- (5)メコン地域のODA案件に関わる日本の取組の評価(2014年度/第三者評価)