ODA(政府開発援助)

令和5年10月2日

評価年月日:令和5年8月28日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井土 和志

1 案件名

1-1 供与先名

 パレスチナ自治区(以下、「パレスチナ」という。)

1-2 案件名

 ジェニンにおける上水道改善計画

1-3 目的・事業内容

 パレスチナのヨルダン川西岸地区のジェニン市において、送配水施設の改修・新設及び取水施設の改修を行うことにより、水道サービスの向上を図り、もって住民の生活環境の改善を通じた、パレスチナの行政の質の向上に寄与するもの。
 供与限度額は27.93億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

  • (1)本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)におけるカテゴリBであるが、工事中はジェニン市の責任の下、コントラクターにより、大気質、水質汚濁、騒音・振動等のモニタリングを行う。また供用時は、ジェニン市上下水道局が水質等についてモニタリングを予定。
  • (2)本計画は、水源の7割をコネクションポイント計画(CP計画。フランス開発庁(AFD)及び世界銀行(WB)の支援により進行中の、ヨルダン側西岸地区の北部を通過しイスラエルから用水供給するためのパイプラインを建設する計画。)に依存しており、同計画の進捗が開発効果の発現に影響。
  • (3)中東和平問題に係る紛争の激化等により政治・治安状況が大幅に悪化する可能性があるといった外部要因リスクが存在する。

2 無償資金協力の必要性 

2-1 必要性

  • (1)パレスチナ(一人当たり国民総所得(GNI)4,120ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得「国」に分類される。
  • (2)パレスチナは降雨時期が偏っており、特に夏季の水源確保が難しい地域である。加えて、1995年に結ばれた「西岸地区とガザ地区に関するイスラエル・パレスチナ暫定合意」(オスロ合意II)に基づき、水源の多くはイスラエルの管理下にあり、新規水源開発には同国の許可が必要となり、許可の取得は政治情勢に左右され得る。
  • (3)ヨルダン川西岸地区北部に位置する主要都市の1つであるジェニン市の水道普及率は81%(2020年)であり、水源は同市内の市営井戸、私設井戸、イスラエルからの買水で賄われている。しかしながら、ジェニン市内の上水道環境は、(1)配水方式の混在による水圧管理の欠如、送配水管の老朽化等に起因した高い無収水率(注)(60%:2020年)、(2)ジェニン市人口の約19%が水道未普及の状態、さらに、(3)今後見込まれるジェニン市の人口増加(2020年:約6.4万人→2025年:約7.1万人)に伴う水需要増に対応できなくなる恐れ等の課題を抱えており、効率的な上水道整備及び安定的な給水は喫緊の課題である。
  • (4)パレスチナ自治政府は、国家水政策(2013-2032)において、水道事業体の財務持続性の確保や無収水の削減に取り組むことを重要政策に挙げており、本計画はこれらの政策に合致し、パレスチナにおいて優先度の極めて高い事業として位置づけられる。また、現在、フランス開発庁(AFD)及び世界銀行(WB)の支援により、ヨルダン川西岸地区の北部を通過し、イスラエルから用水供給するためのパイプラインを建設するコネクションポイント計画(C-P計画)が進行中であり、ジェニン市の新たな水源としての活用が見込まれる。
  • (5)我が国の対パレスチナ自治区国別開発協力方針(2017年9月)では、「財政基盤の強化と行政の質の向上」を重点分野の1つとして定め、また、事業展開計画(2021年4月)において行財政制度の強化の一環として行政サービス向上プログラムを挙げており、水道サービスの向上に資する本計画は同方針に合致するとともに、SDGsゴール6「安全な水・衛生」にも貢献し、本計画を実施する必要性は高い。
  • (6)我が国は、パレスチナに対し、配管の老朽化や高低差のある地形における不適切な水圧管理に伴う漏水の削減対策や水道料金徴収率向上等の技術協力支援を実施しており、本計画の実施を通じ、我が国として、水道サービスの向上を包括的に支援するとの姿勢を示すことは、日・パレスチナ関係の強化につながるだけでなく、国際社会における我が国のプレゼンス強化につながるものであり、外交的意義も大きい。
  • (注)無収水率:生産水量から販売水量を差し引いた量の生産水量に対する割合

2-2 効率性

 パレスチナ自治政府の要請を踏まえつつ、他のパレスチナ主要都市の無収水率(20~50%前後)と比較して無収水率の高い(60%)ジェニン市を対象に絞り込み、事業費の妥当性を検討した。また、既存の施設を最大限活用し、新設・更新のコストを最小限とする方針で調査・設計を行い、配管の用途、老朽度、管種等を考慮して更新範囲を絞り込んだ。

2-3 有効性

 本計画の実施により、2020年の実績値を基準値とし、事業完成4年後の2030年の目標値と比較すると、主に以下のような効果が期待される。

  • (1)ジェニン市における水道普及率が、81%から98%に改善する。
  • (2)同市内における平均配水量が、10,134㎥/日から13,155㎥/日に増加する。
  • (3)給水時間の延長、無収水率の低下、給水圧不足地域の削減による利便性の向上等により住民の生活環境が改善される。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)パレスチナ自治政府からの要請書
  • (2)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
  • (3)パレスチナ自治区に対する支援の評価(2012年度・第三者評価)
  • (4)無償資金協力個別案件の評価報告書・第3章:2014年度パレスチナ自治区に対する「ノンプロジェクト無償資金協力」の評価(2017年度・第三者評価)
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