ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和5年6月23日
評価年月日:令和5年3月24日
評価責任者:国別開発協力第一課長 石丸 淳
1 案件名
1-1 供与国名
ソロモン諸島(以下、「ソロモン」という。)
1-2 案件名
キルフィ病院整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、ソロモン・マライタ州アウキ市において、既存のキルフィ病院の中央診療棟及び分娩棟の新設並びに医療機材の整備を行うことにより、同病院の診療サービスの強化を図り、もってマライタ州に提供される保健医療サービスの向上を通じた同国の脆弱性の克服に寄与するもの。
供与限度額は、20.11億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ソロモン(一人当たり国民総所得2,320米ドル(2021年、世界銀行))はOECD開発援助委員会が定める所得階層区分では後発開発途上国に位置付けられる(2022年)。
- (2)ソロモンでは、1999~2003年に発生した部族紛争に起因する社会情勢の悪化やその後の自然災害等により保健医療セクターの発展が妨げられ、同セクターは予算・人材不足、施設老朽化等の問題を抱えており、同国における保健医療人材は人口千人当たり2.36人と低い水準となっている(世界保健機関が推計するSDGs達成に必要な保健医療人材は千人当たり4.45人)。
- (3)同国は、「開発戦略(2016-2035年)」において、質の高い保健医療サービスの提供を優先課題とし、老朽化した地方病院再建の必要性を掲げており、「保健セクター戦略計画(2016-2020年)」では同国最大の人口(2019年現在約17万人)を擁するマライタ州にあるキルフィ病院を再建優先度の高い病院としている。同病院は、設立以降、小規模な増築・修復を繰り返してきたが、院内の動線が非機能的で患者の円滑な移動に支障を来しているほか、同州の人口増加等による患者増に伴うスペース不足や人材・設備不足、機材の老朽化、更には新型コロナウイルス感染防止対策導入等の課題を抱え、同州の診療需要に対応できていない状況にある。
- (4)本計画は、マライタ州における受診需要の増加への対応、診断・治療の効率化や適切な実施のため、既存のキルフィ病院において、施設整備の優先度が最も高く、病院機能の基幹となる外来部門、画像診断部門、手術部門を備えた中央診療棟及び分娩棟の施設の新設と医療機材を整備するものであり、マライタ州における保健医療サービスの向上が期待される。
- (5)ソロモンの所得水準は相対的に高いが、ソロモンは小島嶼国であり、気候変動や自然災害に対する脆弱性を抱えていることに加え、国内市場が小さく、国際市場から地理的に遠いなど、経済的にも脆弱である。
- (6)同国は、これまでの我が国の協力を評価し、国際社会において我が国の立場を一貫して支持している。また、同国EEZでは我が国漁船が操業していることから、同国との協力強化は重要であるところ、同国の保健医療体制の強化を通じて、同国の自立的・持続的な発展を後押しする本計画を実施する意義は大きい。
- (7)2021年7月に開催された第9回太平洋・島サミットにおいて、我が国は「新型コロナウイルスへの対応と回復」を今後3年間の重点分野の一つとして表明している。また、我が国の対ソロモン諸島国別開発協力方針(2019年4月)では、社会・経済基盤の強化を通じた自立的かつ持続的経済成長の達成と国民の生活水準の向上を掲げ、「脆弱性の克服」を重点分野の一つと定めているところ、本計画は、これらの方針と合致するものである。また、本計画は、拡大する保健医療ニーズに対応する施設の新設や機材の整備を通じ同国の保健医療サービスの質の向上に資するものであり、SDGsのゴール3(保健)にも資する。
2-2 効率性
「ODAコスト総合改善プログラム」の考え方に基づき、従前と同様コスト縮減の明示に努め、先方政府との調整を行った結果、新設対象を本館全棟から中央診療棟及び分娩棟のみに変更するとともに、施設設計や機材の内訳を抜本的に見直し、総事業額は約10億円縮減された。
2-3 有効性
本計画の実施により、2019年の実績値を基準値として、事業完成から3年後の2028年の目標値と比較すると以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア キルフィ病院における年間診療件数が、13,397件から16,000件に増加する。
- イ 同病院において実施する年間X線検査件数が、2,399件から4,100件に増加する。
- ウ 同病院において実施する年間超音波検査件数が、2,505件から4,100件に増加する。
- (2)定性的効果
- 動線の整理・医療諸室及び機材等の環境整備による医療サービスの向上及び効率化、換気・手洗い・清潔エリア区分の整理による院内感染対策の向上、患者や医療従事者の満足度・信頼度が向上する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ソロモン政府からの要請書
- (2)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)太平洋島嶼国の ODA 案件に関わる日本の取組の評価報告書(2015年度・第三者評価)