ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和5年2月24日
評価年月日:令和5年1月18日
評価責任者:国別開発協力第三課長 西野 修一
1 案件名
1-1 供与先名
パレスチナ自治区(以下「パレスチナ」という。)
1-2 案件名
感染性廃棄物管理改善計画
1-3 目的・事業内容
パレスチナのヨルダン川西岸地区において、感染性廃棄物の無害化、収集・運搬及び最終処分に必要な機材を整備することにより、同地区における感染性廃棄物管理体制の強化を図り、もって廃棄物由来の感染拡大防止に寄与するもの。
供与限度額は10.06億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2022年1月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
- (2)中東和平問題に係る紛争の激化等により、政治・治安状況が大幅に悪化する可能性があるといった外部要因リスクが存在する。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)パレスチナ(一人当たり国民総所得(GNI)4,120ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得「国」に分類される。
- (2)パレスチナでは、地方自治庁(Ministry of Local Government、以下「MoLG」という。)の監督の下、各地方自治体が廃棄物の収集・運搬、処分サービスを提供している。しかし、人口数千人以下の小規模な自治体は、単独で廃棄物管理サービスを提供することが困難であるため、県ごとに連合して広域行政カウンシル(Joint Service Council、以下「JSC」という。)を結成し、廃棄物管理事業に係る人員、車両及び資金の効率的な活用を推進している。
- (3)感染性廃棄物については、その管理と適正処理は発生源である各医療機関の責任に属する一方、一部の大規模病院を除き院内で無害化処理ができず、一般廃棄物に混合する形で排出・処理されており、公衆衛生における重大な感染リスクとなっている。パレスチナ自治政府は、医療廃棄物管理条例(2012年)により、院内処理ができない感染性廃棄物については、分別して排出し、地方自治体若しくはJSCが処理することを定めているが、近年の新型コロナウイルス感染症の流行の拡大・長期化により、感染性廃棄物の発生量が増加の一途にあり、JSCにおける収集・運搬、無害化処理及び最終処分の負担が増大している。特に、ヨルダン川西岸地区では、地形的特徴や入植地問題によって分断化された影響等により、適正処理に必要な機材の整備等がガザ地区よりも遅れており、2022年7月時点で感染性廃棄物の約2割(2,055kg/日のうち450kg/日)しか適正処理できておらず、自家処理が困難な複数の医療施設で発生した感染性廃棄物を収集し、集約して処理する広域拠点集中型の処理能力の強化が緊急の課題となっている。
- (4)パレスチナ自治政府は、国家政策アジェンダの中の3本目の柱「持続可能な開発」の下で、国家の優先事項の一つとして「強靭なコミュニティづくり」を掲げ、その実現手段として公衆衛生の確保と廃棄物管理の拡大を図ることとしており、本計画はこれらの政策に合致し、パレスチナにおいて優先度の極めて高い事業として位置づけられる。
- (5)我が国は、対パレスチナ自治区国別開発協力方針(2017年9月)における重点分野として「財政基盤の強化と行政の質の向上」を重点分野の一つとして定め、「制度構築・改善、組織能力の強化、人材育成を支援する」としており、感染性廃棄物管理体制の強化に資する本計画は同方針に合致するとともに、SDGsゴール11「持続可能な都市」にも貢献するものである。
- (6)我が国は、パレスチナに対し、新型コロナウイルス感染症対策としてワクチン接種の実施に必要なコールド・チェーン関連機材の供与等も実施しており、本計画の実施を通じ、我が国として、感染性廃棄物への対応も含めた感染症対策を包括的に支援するとの姿勢を示すことは、日・パレスチナ関係の強化につながるだけでなく、国際社会における我が国のプレゼンス強化につながるものであり、外交的意義も大きい。
2-2 効率性
- (1)パレスチナ自治政府の要請を踏まえつつ、現状においてもある程度の感染性廃棄物の無害化処理能力を有しているガザ地区は対象外とし、西岸地区に対象を絞り込んだ。
- (2)また、供与機材についても、要請機材の優先度、必要性、仕様、数量等につき現地調査で確認し、本計画の目的のために真に必要な機材に絞り込んだ。
- (3)さらに、先方が過去に感染性廃棄物滅菌装置の建屋を設置した実績を有していること等を踏まえ、本計画における同建屋の設置を先方負担事項として整理するなど、コスト削減に努めた。
2-3 有効性
- 本計画の実施により、2022年の推測値を基準値とし、事業完成3年後の2028年の目標値と比較すると、主に以下のような効果が期待される。
- (1)滅菌処理される感染性廃棄物の処理量が450kg/日から2,210kg/日に増加する。
- (2)医療従事者や廃棄物管理事業者等における廃棄物由来の感染症罹患リスクが減少する。
- (3)JSCによる感染性廃棄物の分別収集・運搬及び最終処分場の管理強化により、公衆衛生が改善する。
- (4)感染性廃棄物の処理料金収入の増加により、JSCの財務安定化及び廃棄物管理基盤の強化が図られる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)パレスチナ自治政府からの要請書
- (2)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)パレスチナ自治区に対する支援の評価(2012年度・第三者評価)
- (4)無償資金協力個別案件の評価報告書・第3章:2014年度パレスチナ自治区に対する「ノンプロジェクト無償資金協力」の評価(2017年度・第三者評価)