ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和4年7月28日
評価責任者:国別開発協力第三課長 西野 修一
1 案件名
1-1 供与国名
シエラレオネ共和国(以下「シエラレオネ」という。)
1-2 案件名
フリータウン半島に沿った配電網拡張計画
1-3 目的・事業内容
フリータウン半島の南部において、変電所の新設及び送配電網の整備を行うことにより、同地域の電力供給の拡大・安定化を図り、もって同地域の基礎インフラの強化及び経済成長に寄与するもの。
供与限度額は20.70億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリーBであり、環境への望ましくない影響は重大でないと判断される。他方、周辺には保護区となっている国立公園等が存在するため、生態系への影響が少ない設計、施工方法及び緩和策を充分に確認する必要がある。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)シエラレオネ(一人当たり国民総所得(GNI)490ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類される。
- (2)同国では、1991年から約10年にわたる内戦の影響により、発電・配電設備を含む国内のインフラが著しく損壊した。2008年の首都フリータウンの電力アクセス率は約30%程度であったが、内戦後の復興により、2018年には50%を超えている。一方、全国の電力アクセス率は約26%に留まっており、地方部は未だ約6%と低い(世界銀行 2018年)。2015年の電力需要は203メガワットであったが(エネルギー省)、国内で送配電網整備が進んでいるとされる首都圏の電力供給容量は2018年の時点でも約85メガワットにしか満たず、発電量の不足や送配電網の未整備等の理由により、加速する電力需要の増加に対応できていない(世界銀行 2018年)。こうした不十分な電力供給は、同国の産業振興や基礎的な社会サービス(教育、医療サービス等)の提供に当たっての重大な障害となっている。
- (3)同国政府は、2018年に「New Direction」政策を掲げ、電力アクセス率の向上を優先課題の一つとして位置付けている。また、2023年までを対象に策定された「中期国家開発計画」において、「インフラ整備と経済競争力の向上」を重点分野として掲げ、全国の電力アクセス率を44%まで引き上げることを目標に、発電容量を167メガワットから650メガワットまで引き上げること、及び全国の送配電網を200キロメートルから1,500キロメートルまで延長することを計画している。
- (4)我が国は、対シエラレオネ国別開発協力方針(2019年4月)において、「基礎的インフラの整備」を重点分野の一つとして定めている。本計画は同方針に合致するとともに、SDGsゴール7「安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保」、ゴール9「強靭なインフラの構築」及びゴール11「包摂的、安全、強靭で、持続可能な都市」にも貢献する。また、我が国は、2019年8月に開催した第7回アフリカ開発会議(TICAD7)において、連結性強化に向けた質の高いインフラ投資への支援を行う旨表明しており、本計画はこうした我が国の重要政策を具体化するものである。
- (5)同国は、2005年8月以来、安保理改革に取り組むAUの10か国委員会(C10)の議長国としてアフリカ共通ポジションの取りまとめ役であることから、同国との関係強化は安保理改革を含む国際社会での協力を推進する観点からも重要であり、本計画を実施する外交的意義は大きい。
2-2 効率性
シエラレオネ政府の要請を踏まえつつ、現地調査による支援対象の絞り込みを実施し、必要かつ適切な規模とするとともに、事業費の妥当性を検討した。昨今のコンテナ不足による輸送費の高騰、コロナ禍による工場の稼働率低下による機材費の高騰等による事業費増額を極力抑えるよう努めるなど、コスト縮減を図った。
本事業は2021年11月に実施した現地調査の結果、本計画で新設する変電所を当初予定の1か所(トンボ変電所)から2か所(トンボ変電所及びヨーク変電所)へ増加させた。追加したヨーク変電所付近の浜辺は、内戦で一時破壊されたものの、既に新しいホテルが10軒以上建設されるなど、今後電力需要の増加が見込まれる。変電所の数が1か所のみだと、電力供給の効率が悪く、配電ロスが大きくなることから、2か所必要であると判断したもの。
作業工程の見直し、工事工程に係る作業員1人当たりの作業量の見直し、メーカーによる供与時の操作・運用指導、過去の技術協力(2011年~2019年)で実施済みの送配電網の運営維持管理能力向上の指導で代替することにより本事業内での維持管理に係る費用を削減し、全体のコスト削減を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により、2021年の基準値と事業完成3年後の2027年の目標値を比べると、主に以下のような効果が期待される。
- 年間送電電力量(MWh/年)(ヨーク変電所)が、0から22,624に増加する。
- 年間送電電力量(MWh/年)(トンボ変電所)が、0から35,231に増加する。
- ピーク時送電電力(kW)(ヨーク変電所)が、0から3,614に増加する。
- ピーク時送電電力(kW)(トンボ変電所)が、0から5,627に増加する。
- ナショナルグリッドに接続される医療施設(箇所)が、0から7に増加する。
- ナショナルグリッドに接続される教育施設(箇所)が、0から48に増加する。
- エネルギーコスト(フリータウン半島南部における世帯及び事業が所有する自家用発電機の利用に必要になる1年間の費用を合算したもの)が、20百万米ドル削減される。
- フリータウン半島南部における市民の生活環境の改善及び医療・教育サービス、経済・社会活動の活性化につながる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)シエラレオネ政府からの要請書
- (2)TICADプロセスを踏まえた最近10年間の日本の対アフリカ支援評価報告書(2017年度・第三者評価)
- (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)