ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和3年3月16日
評価年月日 令和3年2月10日
評価責任者:国別開発協力第一課長 竹端 昌宏
1 案件名
1-1 供与国名
カンボジア王国(以下、「カンボジア」という。)
1-2 案件名
シハヌークビル港船舶航行安全システム整備計画
1-3 目的・事業内容
カンボジア唯一の大水深港であるシハヌークビル港に対し、同港の港湾運営及び航行船舶の安全対策に必要な船舶航行監視システム(VTS)に係る機材を供与することで、同港の安全対策能力の向上を図り、もって同国の更なる社会・経済発展及びメコン地域の連結性強化に寄与するもの。
供与限度額は11.32億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
特になし。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)カンボジア(一人当たり国民総所得(GNI)1,530ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、後発開発途上国に分類されている。
- (2)シハヌークビル港は、カンボジア唯一の大水深港であるとともに、経済活動の拠点港であり、同国における輸出入貨物の約65%以上を取り扱う重要な港湾である。近年、同港における取扱貨物量や入出港船舶数は急激に増加しており、港湾運営は年々高度・複雑化してきている。しかし、現在同港に設置されている航行船舶を監視するシステムは、港湾の保安強化を目的としたものであり、船舶の航行安全を目的としたシステムではないため、レーダーの補足範囲は港湾に接近する船舶を監視する程度と狭く、航行船舶の安全対策に十分なシステムにはなっていない。
- (3)また、同国では、新型コロナウイルスの影響で、タイ・ベトナムの国境におけるトラック運転手の越境が困難となっていることから、同港を利用した海上輸送に切り替える物流事業者や荷主も現れており、同港を利用した海上輸送の重要性が増している。こうした中、仮に、港内及び同港近傍において大規模な船舶事故が発生した場合、同国唯一の大水深港である同港の円滑な利用が妨げられ、同国にとって多大な経済的・社会的損失をもたらすこととなる。
- (4)このように、海上物流の担う重要性が高まる中、同港の安全対策能力を早急に向上させ、安全で効率的な入出港管理を実現させることが急務となっている。我が国は、1999年に実施した同港における円借款事業を始めとし、有償資金協力、無償資金協力、技術協力を通じて、同港のインフラ整備及び運営能力強化を一貫して支援している。我が国がこれまで実施してきた同港への支援と併せて、時宜を逃すことなく、早急かつ効果的な支援を実施することで、これまでの支援効果を更に向上させることが期待される。
- (5)我が国は、対カンボジア国別開発協力方針において、「2030年までの高中所得国入りの実現に向けた経済社会基盤の更なる強化を支援」を基本方針とし、「産業振興支援」、「生活の質向上」及び「ガバナンスの強化を通じた持続可能な社会の実現」を重点分野として定めており、当該計画は「産業振興支援」に合致する。また、シハヌークビル港は太平洋とインド洋を結ぶ結節点であり、我が国の重要政策「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」における「連結性向上等による経済的繁栄の追求」に資する案件であることからも、本計画を実施する必要性は高い。
- (6)さらに、2017年8月には、安倍総理大臣、フン・セン首相の立ち合いのもと、円借款「シハヌークビル港新コンテナターミナル整備事業」の交換公文(E/N)が署名されるなど、引き続き、我が国による同港に対する継続的な支援が予定されている。2020年8月の茂木外務大臣のカンボジア訪問時には、フン・セン首相から、シハヌークビル港は最も優先順位の高いプロジェクトとの言及があるなど、同港の支援に対する両国の優先度は高く、二国間関係強化に資することからも本計画の実施意義は外交政策上も大きい。
2-2 効率性
我が国は、円借款「シハヌークビル新コンテナターミナルビル整備事業」(2017年E/N署名)、技術協力「シハヌークビル港コンテナターミナル経営・技術向上プロジェクトフェーズ2」(2018年4月から2021年4月)及び技術協力「港湾運営アドバイザー」(2019年5月から2021年5月)等を通じて、同港のインフラ整備及び運営能力強化を一貫して支援しており、本計画との相乗効果が見込まれる。
2-3 有効性
- 本計画の実施により、主に以下のような成果が期待される。
- (1)シハヌークビル港周辺における貨物船舶事故数が、2020年実績(11月末時点)の2件から、2024年実績で0件に減少する。
- (2)航行船舶がシハヌークビル港から安全情報を受けとることができる距離が、現在の約3から10海里(約5.5から18キロメートル)から約30海里(約54キロメートル)に改善される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)カンボジア政府からの要請書
- (2)カンボジア国別評価(2017年度/第三者評価)
- (3)南部回廊を中心としたメコン地域の連結性の評価(2017年度/第三者評価)
- (4)メコン地域のODA案件に関わる日本の取組の評価(2014年度/第三者評価)