ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和2年3月11日
評価年月日:令和元年8月14日
評価責任者:国別開発協力第三課長 井関 至康
1 案件名
1-1 供与国名
ナイジェリア連邦共和国(以下「ナイジェリア」という。)
1-2 案件名
ナイジェリア疾病予防センターにおけるネットワーク検査室機能強化計画
1-3 目的・事業内容
ナイジェリア疾病予防センター(NCDC)が統括する国内のネットワーク検査室(計8室)を対象に,施設や機材整備等を実施することにより,感染症対策及びサーベイランス機能体制の強化を図り,もって同国における感染症アウトブレイクの早期検知及び拡大防止,ひいては包摂的かつ強靱な保健・医療システムの整備を通じ,同国の経済・社会開発,社会の安定化に寄与する。
供与限度額は,20.05億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は,JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリCであり,環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
- (2)本計画の実施機関である連邦保健省及びNCDCが,先方負担事項である用地提供や整地を適切に履行することが必要となる。
- (3)政情・治安が極度に悪化しないこと,また,想定外の自然災害や物価高騰が発生しないこと。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ナイジェリア(一人あたり国民総所得(GNI)2,080ドル)は,OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上,低中所得国に分類される。
- (2)同国は,2014年のエボラウイルス病,2017年の黄熱病,また,同国起源のラッサ熱が毎年流行するなど,感染症リスクが依然高い国である。2011年以降,感染症の予防,緊急対応,サーベイランスの向上等を目的として,NCDCが設立され,国土の広い同国において迅速かつ正確な診断を実施する必要から,NCDCが統括する全国38公衆衛生検査室による検査室ネットワークが形成されている。しかし,これら検査室の多くで,適切な検査施設や検査機器が欠如し,また,検査技師の診断能力の不足から,感染症の早期検知・対応の遅れが課題となっている。
- (3)同国政府は,ナイジェリア経済復興成長計画(Economic Recovery and Growth Plan 2017-2020)において,「国民への投資(Investing in Our People)」を戦略的目標の一つとして掲げ,その中で国民の健康が当国の発展に不可欠である旨を明示している。また,国家保健政策(National Health Policy 2016)において感染症対策を重要課題の一つと位置付けている。2018年に策定された国家公衆衛生安全保障計画2018-2022(National Action Plan on Health Security 2018-2022)では,検査室整備及び検査試薬等の必要物資供給の強化を優先すべき活動の一つとして位置付け,医療検査サービス政策(Nigeria Medical Laboratory Services Policy)に基づき検査室の機能強化に取り組んでいる。
- (4)我が国は,対ナイジェリア国別開発協力方針(2017年9月)において,「包摂的かつ強靱な保健・医療システムの整備」を重点分野と定め,JICAは国別分析ペーパー(2015年5月)において,保健医療の改善を重点分野と分析しており,本計画はこれらの方針・分析に合致している。また,先行無償案件及び本計画に加え,実施予定の技術協力プロジェクトにてソフト面とハード面での感染症対応能力強化に係る支援を行うことにより相乗効果が期待される。これらの計画を通じ,感染症の検査・診断能力の向上やサーベイランス機能体制が強化され,国際的な脅威となり得る感染症発生時の早期検知や拡大を抑制することができることから,SDGsゴール3「すべての人に健康と福祉を」に貢献すると考えられる。さらに,これらの公衆衛生危機の発生・拡大は個人の生命の危機のみならず,社会・経済面においても大きな影響を及ぼし,喫緊に取り組むべき課題であることから,無償資金協力にて実施を支援する必要性は高い。
- (5)我が国は,G7伊勢志摩サミットにおける成果の一つである「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」をアフリカにおいても着実に実践することを宣言し,TICADVIナイロビ宣言の優先分野の一つとして,「質の高い生活のための強靱な保健システムの促進」を表明しており,本計画は同表明にも合致するものである。加えて,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)推進を加速するために,UHCフォーラム2017の「UHC東京宣言」で,我が国は今後29億ドル規模の支援を行うことを表明し,本計画は同コミットメントの達成にも貢献するものである。
- (6)さらに,TICADVIの機会に行われた安倍総理大臣とブハリ大統領との首脳会談において,両国の経済関係促進,安保理改革など国際社会での協力関係強化を確認するなど,同国は,国際社会において,我が国の立場を支持する友好国であり,二国間関係の維持・発展の観点からも同国への支援は重要である。
2-2 効率性
- (1)ナイジェリア政府からの要請及び検査室に関する国際基準を踏まえつつも,現地調査による支援対象の絞り込みを実施し,必要かつ適切な規模とした。
- (2)供与機材については,単価及び維持管理費の比較検討を行い,その結果を基に導入機材を選定した。
- (3)過去に実施した同様の案件との比較を行い,事業費の妥当性を検討し,コスト縮減を図った。
2-3 有効性
本計画の実施により,2019年基準値に比べて事業完成3年後の2025年には以下のような成果が期待される。
- (1)本計画にて支援する8検査室のうち,優先感染症を診断できる検査室数が,薬剤耐性菌については3から5に,黄熱病は0から4に,コレラは1から4に,髄膜炎菌性髄膜炎は1から2に,インフルエンザは0から1に,ラッサ熱は2から5にそれぞれ増加する。
- (2)検査能力制度及び作業効率の向上により,国内の各地域における衛生拠点検査室としての重要性・機能性が上昇する。
- (3)支援対象州の公衆衛生検査サービスの質の向上により,支援対象州及び近隣州住民の安全・安心確保が促進される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ナイジェリア政府からの要請書
- (2)「ナイジェリア疾病予防センターにおけるネットワーク検査室機能強化計画」協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)