ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和元年7月2日
評価年月日:平成30年11月8日
評価責任者:国別開発協力第二課長 門脇 仁一
1 案件名
1-1 供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下,「バングラデシュ」という。)
1-2 案件名
バングラデシュにおける全球測位衛星システム連続観測点高密化及び験潮所近代化計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,バングラデシュ全土において,既存の全球測位衛星システム(GNSS)連続観測点及び験潮所の機材を増設することにより,高精度で効率的な測量・地図作成を可能にし,地理空間情報のデジタル化・高度活用のための基盤整備を通じたインフラ整備の効率化を実現し,もって全国民が受益可能な経済成長の加速化に寄与するもの。供与限度額は,12.58億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)バングラデシュの治安・政情が極度に悪化しないこと。
- (2)本計画は,JICA環境社会配慮ガイドラインにおいて,環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)バングラデシュ(一人あたり国民総所得1,470ドル)は,OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上,後発開発途上国に分類される。
- (2)同国では,近年の7%程度の堅調な経済成長に伴い,2011年から2020年までの10年間で740億米ドルから1,000億米ドルの大規模なインフラ投資が必要になると予測されている。特に,当該インフラ投資需要全体の約5割を占める運輸交通分野では,2014年時点で状態の良い道路は全体の62%にとどまる等,同国の広範な地域においてインフラ整備が不可欠となっている。これらのインフラ整備に当たっては,案件ごとにマスタープランから工事まで段階を踏んで検討・建設が進められるが,対象地の地形などを確認・把握するために,検討段階に応じた精度の地図が必要となる。現在,地図作成のための測量に関し,同国では基本的な測地基準点網が整備されているものの,これらの設備だけでは,測量の際に基準点の選定や踏査が必要となることから,全国地図の更新や個別インフラ事業の検討のための高精度な測量作業を効率的に行うことが難しい状況である。
- (3)同国政府は,ハシナ首相の意向で,膨大なインフラ需要に対応するために,国土計画策定の効率化を目指して,バングラデシュ測量局(Survey of Bangladesh: 以下「SOB」という。)が整備してきた地図データ及びSOB以外の組織が持つ地理空間情報を統合し,官民の様々な分野で地理空間情報の活用を推進できる社会の実現に向け,国土空間データ基盤(National Spatial Data Infrastructure。以下「NSDI」という。)を整備する計画を進めている。
- (4)上記取組に当たっては,全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System。以下「GNSS」という。)連続観測点網の導入による高精度でリアルタイムに更新可能な地図情報に基づく,NSDIの基盤となる地図の整備が不可欠となっており,この点,SOBは高精度かつ効率的な測量・地図作成を可能とするGNSS連続観測点(電子基準点)の試験的導入を2011年に決定し,現在6点を設置・運用している。しかし,観測点が少なく,点間距離が150km以上あるため,実用に耐え得る精度での測量は実現していない。さらに,電子基準点を活用した測量に必要なジオイド(注)データの整備に当たり基準となる平均海面の決定を同国内で唯一担うチッタゴン験潮所では,験潮に必要な機材が古く,旧式の部品が調達できないことから,近い将来に安定的に継続した観測ができなくなる状態である。
(注)水が重力だけを受けていると仮定した場合,その水が地球の表面で落ちついたときにつくる面を「重力の等ポテンシャル面」といい,このうち世界の海面の平均位置に最も近い「重力の等ポテンシャル面」を「ジオイド」という。なお,標高は「ジオイド」から測った高さを言う。 - (5)これら状況を踏まえ,本計画を通じて,GNSS連続観測点及び験潮所の機材を増設することにより,同国における高精度かつ効率的な測量・地図作成を可能とし,その膨大なインフラ需要への効率的対応を実現するものである。
- (6)同国政府の「第7次五か年計画」においては,土地管理及び土地利用効率化の観点でデジタル地図活用の重要性が指摘されており,また,ハシナ首相の下,同国内のICT基盤の強化を推進する「デジタル・バングラデシュ」構想においてもデジタル地図及び地理空間情報活用を掲げている。本計画は,これらの同国の開発課題・開発政策に合致するとともに,インフラ整備の根幹を成す高精度かつ効率的な地図の整備に寄与するものとして,電力・エネルギーや運輸交通の分野を中心とする経済インフラ整備を開発課題に掲げる我が国対バングラデシュ国別開発協力方針の重点分野「中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化」における小目標「経済インフラ整備」にも合致する。さらに,持続可能な開発目標(SDGs)のゴール9(強靱なインフラ構築,包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進),及びゴール11(包摂的,安全強靱で持続可能な都市と人間住居の構築)に貢献するものである。
- (7)また,同国は,その独立以降,一貫して我が国と友好関係を維持し,国際社会においても協調している他,南アジア地域の安定と経済発展に重要な役割を果たしていることから,同国との関係強化は,同地域との連携強化の観点からも重要である。
加えて,同国の経済発展に伴い,近年日系企業の同国への進出は増加傾向にあり,我が国との経済関係は年々深化している。この点,我が国の「インフラシステム輸出戦略」においても,同国は大きなインフラ需要が期待される国の一つとして位置づけられている。このような状況において,同国にとって最大の二国間援助供与国である我が国が,同国政府の開発政策に沿って継続的に必要な支援を行うことは,同国との関係を更に緊密化させる上で重要であり,本計画を通じて,同国における測量や地図作成を高精度化・効率化し,その膨大なインフラ需要に対応する基盤の整備に貢献することで,同国の投資環境改善に繋がり,我が国との経済関係の深化にも寄与する。以上のことから,本計画の実施は外交的観点からも意義が大きい。
2-2 効率性
現在実施中の技術協力「デジタルバングラデシュ構築のための地図作成能力高度化プロジェクト」との連携を図り,支援における相乗効果を図る。
2-3 有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- (1)2018年時点で10件である電子基準点の登録ユーザー数が,事業完成3年後(2023年)には280件に増加する。
- (2)2018年時点で約7%となっている電子基準点の故障率が,事業完成3年後(2023年)には約3%に低下する。
- (3)2018年時点で17,000平方キロメートル(国土の約12%)であるリアルタイムでの測量可能範囲が事業完成3年後(2023年)には約141,000平方キロメートル(国土の約96%)に拡大する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)バングラデシュ政府からの要請書
- (2)バングラデシュ国別評価報告書(2010年度)
- (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)