ODA(政府開発援助)

平成28年6月30日

評価年月日:平成28年6月27日
評価責任者:国別開発協力第二課長 田中 秀治

1 案件概要

(1)供与国名

バングラデシュ人民共和国

(2)案件名

災害リスク管理能力強化計画

(3)目的・事業内容

 自然災害の頻発するバングラデシュにおいて,自然災害で被災した脆弱なインフラの復旧・復興,情報伝達機器や救援用機材の整備,災害復旧・復興の仕組み構築及びその実施を行うもの。これにより,政府の総合的な災害リスク管理能力の強化を図り,災害に強靭な社会の構築など同国の持続的開発を通じて,もって社会脆弱性の克服に寄与するものである。

  • ア 主要事業内容
    • 災害リスク削減の体制強化(堤防,橋,道路等生活インフラの復旧・復興)
    • 災害応急対応の体制強化(無線通信装置,通信移動無線車等の機材整備)
    • 被災後の迅速且つ効果的な復旧・復興の体制強化
    • コンサルティング・サービス
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件
    169.96億円 0.01% 40(10)年 一般アンタイド

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

ア EIA(環境影響評価)
 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)上,JICAの融資承諾前にサブ・プロジェクトが特定できず,かつそのようなサブ・プロジェクトが環境への影響をもつことが想定されるため,カテゴリFIに該当する。
イ その他・モニタリング
 本計画では,インフラ復旧を担う水資源省水資源開発庁及び地方自治農村開発協同組合省地方行政技術局が,円借款で雇用されるコンサルタントの支援を受けつつ,バングラデシュ国内法制度及び「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に基づき,各サブ・プロジェクトについてカテゴリ分類を行い,該当するカテゴリに必要な対応策がとられることとなっている。なお,サブ・プロジェクトに,カテゴリA案件は含まれない。
ウ 外部要因リスク
 特になし。

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

ア 開発ニーズ
 バングラデシュは,ベンガル湾に面した国土の約9割が,標高10m以下の低平地である世界最大規模のデルタ地帯に位置し,雨季には国土の約20%が浸水する。また,ほぼ毎年サイクロンが来襲し,地形的要因に加えて,気象・気候的要因による災害が頻発している。国際災害データベース(Emergency Events Database: EM-DAT)によると,過去30年間(1985年から2014年まで)の自然災害による総死者数は17万人超,総被災者数は262百万人超,同期間の年間平均経済的損失は5.7億ドルと同期間の平均GDPの約0.9%を占めており,世界で最も災害に脆弱な国の一つとされている。
 また,2015年4月に発生したネパール地震を契機として,地震に対する警戒も高まっている。同国では,国際機関による支援の下,2012年に防災法が施行され,防災救援省の主導による災害リスク削減及び応急対応活動の包括的な実施が定められている。
 しかしながら,災害リスク管理体制は依然脆弱で,省庁横断的な防災計画,指針の策定及び防災関連省庁間の横の連携の仕組みが十分確立されていない。インフラの復旧・復興については,省庁毎に,個別の基準に基づく防災対策が取られているが,省庁間の連携が不十分なために防災投資が行われないケース(堤防道路への予算措置がなされたが,同堤防の基礎部分の補修予算が措置されない等)や,時宜に適った改修がなされず周辺地域を災害リスクに晒しているケースが多数見られるなど,防災予算の効率的・効果的活用には改善の余地がある。
 また,災害時の情報伝達に係る体制や機材については,近年のサイクロン発生時の住民避難率が上がる等政府全体の災害情報発信体制が向上しているのに比して,被災中の情報収集網が脆弱であり,的確な応急対応や早期復旧の障害となっている。さらに,被災後迅速な対応が必要な復旧・復興事業については,その必要性を見据えた手続きや規則が整備されておらず,迅速な復旧・復興を阻害している。
 同国政府は2021年までに中所得国入りを目指すとの目標を掲げ,国内外の投資の増大等を目指しているが,災害への脆弱性は投資リスクを増大させるほか,インフラの再被災による復旧費の増大,構造物の被災により,発生する被災者の救助・救援のために必要な資機材需要の増加,被災による貧困層の生計手段の喪失等,様々な形で社会・経済の持続的発展を阻害する要因となっている。災害への脆弱性を克服し強靭な社会を構築するため,同政府は「第7次五か年計画」(2015/16~2019/20年度)の目標・活動に仙台防災枠組で合意された優先行動を組み入れ,全職員への能力強化を行い,災害リスク削減を進めるとしている。
 本計画は,仙台防災枠組に沿った活動(災害リスク削減,災害への応急対応,及び迅速かつ効果的な復旧・復興の体制強化)に向けて,頻発する自然災害リスクを適切に管理する能力強化を図るものとして位置付けられている。
イ 我が国の基本政策との関係
 バングラデシュの人口の約3割が依然として貧困状態にあり,電力,運輸等の基礎的な経済インフラが絶対的に不足していること等の開発ニーズを踏まえて2012年6月に策定された「国別援助方針」においては,今後の対バングラデシュODAの重点目標として,(ア)中所得国化に向けた,全国民が受益可能な経済成長の加速化(「経済成長を通じた貧困削減」を追及するためのインフラの整備等),(イ)社会脆弱性の克服(貧困削減,初等教育,母子保健,安全な飲料水の供給などMDGsの達成に貢献)を掲げている。
 本計画は防災・気候変動対策に資するとの観点から(イ)に合致する

(2)効率性

 「スリランカ津波被災地域復興計画」の事後評価等から,被災後は,同時期に数多くのインフラ復興支援が実施されることから,資機材・コントラクター不足や実施機関の職員の多忙により,調達手続の対応に通常以上の時間を要することを勘案のうえ事業期間を設定することが望ましいこと,また実施機関への作業負担を最小限に留め,工事の質が確保されるよう留意しつつ,適切な調達方式の採用を検討すべきであるとの教訓が得られている。これを踏まえ,迅速かつ効果的な復旧・復興体制強化に当たり,職員等のリソースの不足,作業負担の軽減を念頭においた業務フローの整理等を支援する。

(3)有効性

 本計画によって,事業完了二年後の2023年には,省庁間調整の下で実施された復旧・復興事業数,2系統通信システムを備えた防災局の数が増化するとともに,消防局数が153に増加する(2015年の実績値:41)等,自然災害で被災した脆弱なインフラの復旧・復興,情報伝達機器や救援用機材の整備,災害復旧・復興の仕組み構築及びその実施を行うことにより,政府の総合的な災害リスク管理能力の強化を図り,災害に強靭な社会の構築など同国の持続的開発を通じて,社会脆弱性の克服に寄与することが期待される。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 バングラデシュ政府の要請書,バングラデシュ国別評価報告書(2009年度),国際協力機構環境社会配慮ガイドライン別ウィンドウで開く,その他国際協力機構から提出された資料。

 案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。

 なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

ODA(政府開発援助)
ODAとは?
広報・イベント
国別・地域別の取組
SDGs・分野別の取組
ODAの政策を知りたい
ODA関連資料
皆様の御意見
政策評価法に基づく事前・事後評価へ戻る