ODA(政府開発援助)

政策評価法に基づく事前評価書

平成27年5月29日

評価年月日:平成27年5月20日
評価責任者:国別開発協力第三課長 西永 知史

1.案件概要

(1)供与国名

イラク共和国

(2)案件名

クルド地域下水処理施設建設計画(第一期)

(3)目的・事業内容

 クルド地域エルビル市において,下水処理場の建設等,下水道システムを整備することにより,下水処理能力の向上を図り,もって衛生環境の改善に寄与するもの。

  • (ア)主要事業内容
    • 土木工事,資機材調達
    • コンサルティング・サービス
  • (イ)供与条件
    供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件
    344.17億円 年0.1% 40年(10年) 本邦技術活用条件(STEP)

    (注)コンサルティング・サービス部分については,金利年0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

  • (ア)EIA(環境影響評価):国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺には該当せず,自然環境への望ましくない影響は最小限であると想定される。本計画に係るEIA報告書は,クルド自治政府の定める法令によって作成が義務付けられおり,実施機関が作成した同報告書が先方政府内で承認済み。
  • (イ)土地収用及び住民移転:下水処理場建設に際して,農地所有者(10名程度)の耕作地(計約54ha)の取得が予定されていることから,エルビル市の定める規定に基づく代替地の提供,また,建物や作物に対しては,再取得価格での補償がなされる予定。
  • (ウ)外部要因リスク:国内の一部地域において,イラク・レバントのイスラム国(ISIL)の侵攻の影響を受けているものの,本計画の対象地域の治安情勢に特段の変更は見られない。

2.資金協力案件の評価

(1)必要性

  • (ア)開発ニーズ
     イラクは,2003年のイラク戦争終結以降,平均 6%を超える経済成長率,年2.5%の人口増加が続き,電力設備や石油関連産業等の経済インフラが整備されつつある。他方,イラクの下水道は,80年代までに多くの施設が整備されたが,80年代前半以降のイラン・イラク戦争,湾岸戦争,経済制裁及びイラク戦争等により,下水道施設の更新・維持管理が殆ど行われておらず,下水処場や管渠の機能低下が著しい。2011年時点の下水道普及率は全国平均で約3割強となっている。この結果,悪質な汚水放流が引き起す環境汚染や未処理汚水による不衛生な活環境に起因した下痢等の健康被害が生じている。
     クルド地域では,人口増加率年3.5%を記録し,急激に都市化が進むイラク北部クルド地域の中心都市エルビルでは,し尿を地下浸透させており,飲料用水源である地下水の汚染リスクが懸念されている。雑排水は,近年整備された雨水管渠を通じ市外に放流されているものの,下水処理場は設置されておらず,希釈された雑排水が家庭用取水源となる河川にそのまま流入し,病原菌の拡散や水質の悪化原因となっている。農業を営む周辺地域では,灌漑用水として河川水を利用しているため,健康被害の発生が懸念されている。
  • (イ)我が国の基本政策との関係
     我が国は,国別援助方針において,イラクに対し,「経済成長のための産業の振興と多角化」,「経済基礎インフラの強化」及び「生活基盤の整備」を重点分野として協力していくこととしている。イラクは石油資源に富むことから,日本とは経済的に補完関係にあり,イラクの安定的な発展は同国と友好関係にある日本にとって重要な意義がある。また,国際秩序を揺るがすイスラム過激派との戦いにも取り組む一方で,度重なる紛争からの復興に意欲的に取り組んでいるイラクを支援する意義は引き続き大きい。
     本計画は,下水処理場等を建設することにより,対象地域における下水処理能力の向上に資するものであることから,国別援助方針の重点分野の「生活基盤整備」に合致し,特に上下水道・環境の向上を重点開発課題として位置付けており,本計画はこれら方針に合致する。

(2)効率性

 本計画では有償勘定技術支援による詳細設計を行うほかコンサルタントが実施する研修等を通じて運営・維持管理体制の構築,能力強化を図ることで効率性を高める。

(3)有効性

 クルド地域エルビル市において,下水処理場の建設等,下水道システムを整備することにより,同地域の衛生環境の改善に寄与することが期待される。さらに,イラクの経済・社会の発展を通じた我が国との二国間関係の強化が期待される。運用・効果指標として,汚水処理人口(各戸接続を完了し,下水道契約を締結した人口):基準値(2014年実績値)0,目標値(2025年:事業完成2年後)540,000人の見込み。
 本計画は,生活排水の処理を下道システムで行うとともに,汚泥処理過程におけるメタン発酵を図り,温室効果ガス(GHG)排出削減(年5,563トン/年CO2換算)に貢献するもの。

3.事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 要請書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン別ウィンドウで開く,その他国際協力機構より提出された資料。

 案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要(国別約束情報(年度別交換公文(E/N)データ)),借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース別ウィンドウで開く及び事業事前評価表別ウィンドウで開くを参照。

 なお,本計画に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。