ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和4年8月5日
評価年月日 令和4年2月7日
評価責任者:国別開発協力第二課長 秋山 麻里
1 案件名
1-1 供与国名
パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)
1-2 案件名
ムルタンにおける下水・排水サービス改善計画
1-3 目的・事業内容
本計画は、パキスタン・パンジャブ州南部のムルタン市において、下水道機材等の更新・新規整備を行うことにより、同市における下水道サービスの向上を通じた衛生環境の改善を図り、もって同国の人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に寄与するもの。
供与限度額は、12.36億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限である。
- (2)パキスタンの治安・新型コロナウイルス感染症流行状況が大幅に悪化しないよう注視する必要がある。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)パキスタン(一人当たりの国民総所得(GNI)1,280ドル(2020年、世界銀行))は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リストにおいて、低・中所得国に分類されている。
- (2)同国では、都市人口の増加に対し、都市インフラの整備・更新が計画的に行われておらず、下水道に関しては、普及率が低いことに加え、下水管や関連機材の老朽化により処理能力が低下しており、マンホール周辺に下水が溢れるといった衛生上の問題を抱えている。このような状況を改善するため、同国政府は長期国家開発方針「Vision 2025」の優先開発事項に公衆衛生の改善を挙げている。
- (3)パンジャブ州は同国の人口の53%、GDPの56%を抱える最大の州であり、ムルタン県は同州南部において最大規模の人口を擁する中心県である。ムルタン県の下水道施設の多くは1970年代以降に整備されたものであり、既存の下水管(約2,100キロメートル)のうち約48%(約1,000キロメートル)が敷設から30年を超えている。人口増加に伴う下水流量の増加と泥砂やゴミの堆積による流下能力の低下により、道路が下水で冠水し、封鎖される等の事態が発生しているが、ムルタン上下水道公社が所有する下水管路の清掃に必要な保有機材や排水ポンプの多くは老朽化しており、十分な対応ができていない状況である。近年、ムルタン県の下水からポリオウイルスが検出されていることからも、下水道サービスの向上は、ポリオ感染拡大防止等の保健衛生上の観点からも喫緊の課題となっている。
- (4)本計画は、下水管路の維持管理に必要な清掃機材や排水ポンプなどの下水道機材を更新することにより、下水道サービスの向上を図り、もって衛生環境の改善に貢献するものであり、同国の開発課題・開発政策並びに我が国の対パキスタン国別開発協力方針の重点分野「人間の安全保障の確保と社会基盤の改善」に合致し、SDGsゴール6(すべての人々に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する)にも貢献するものである。
- (5)同国は、世界第5位の人口を有し、アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに、テロ撲滅に向け重要な役割を担っている国である。同国の安定的な発展は、アフガニスタンを始めとする周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定に資する点から我が国にとっても極めて重要である。また、2022年は日パ外交樹立70周年であり、このタイミングで本事業を実施することは、親日感情を高め、二国間関係強化に資する。
- (6)以上の観点から、下水道サービスの向上を通じた衛生環境の改善を通じて住民の生活環境を改善し、同国の人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に資する本計画の実施は、開発協力としての必要性及び二国間関係強化の観点から外交的意義が高い。
2-2 効率性
2021~2024年に実施中の技術協力「パンジャブ州上下水道管理能力強化プロジェクト(フェーズ2)」により、上下水道サービス改善のため、実施機関職員を対象とした能力強化を行っている。同案件において、実施機関職員の計画的な下水道施設管理の重要性に対する意識の醸成及び維持管理能力を強化することにより、本事業によって整備する機材の適切な活用にも資することが見込まれる。
2-3 有効性
本計画の実施により、2021年の実績値を基準値として、事業完了4年後の2027年の目標値と比較すると、主に以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア 下水管内堆積物除去距離が、年間4.1キロメートルから230キロメートルに増加する。
- イ 排水ポンプセット緊急時排水能力(対象区域の総排水能力)が、毎分140立方メートルメートルから392立方メートルに増加する。
- (2)定性的効果
都市衛生環境の改善、水系伝染病罹患の危険性の減少、市民の経済・社会活動の活発化、下水道サービスに対する市民の満足度の向上(2020~21年度の苦情件数16,134件)等に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)パキスタン政府からの要請書
- (2)パキスタン国別評価報告書(2014年度・第三者評価)
- (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)