ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:令和4年6月28日
評価責任者:国別開発協力第二課長 秋山 麻里
1 案件概要
(1)供与国名
バングラデシュ人民共和国(以下、「バングラデシュ」という。)
(2)案件名
南部チョットグラム地域開発計画
(3)目的・事業内容
南部チョットグラム地域において、基礎インフラの整備等を行うことにより、地域住民の利便性及び生活の質の向上を図り、もって対象地域の経済成長及び格差是正に寄与するもの。
- ア
- 主要事業内容
- 土木工事・機材調達(道路・橋梁、排水・洪水対策施設、給水施設、廃棄物管理施設、その他公共施設等)
- コンサルティング・サービス
- イ
- 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 324.62億円 0.70% 30(10)年 一般アンタイド - (注)コンサルティング・サービス部分の金利は0.01%を適用。
(4)環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 環境影響評価(EIA)
本計画は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)(以下、「JICAガイドライン」という。)上、セクター特性、事業特性及び地域特性に鑑みて、環境への望ましくない影響が重大でないと判断されるため、カテゴリBに該当する。
バングラデシュの環境保全規則に基づき、本計画に係るIEE/EIAの作成・提出に関しては、同国政府によるIEE/EIAの承認及び環境許認可証明書(Environmental Clearance Certificate)の取得が義務付けられている。第1バッチのサブプロジェクトに係るIEEは2021年8月に作成済みであり、詳細設計段階で精緻化され、各サブプロジェクトの工事開始までに承認予定。第2、3バッチのサブプロジェクトについては2021年10月に環境フレームワークを作成済みであり、各バッチ実施前にそれぞれのサブプロジェクトについてIEE/EIAを環境フレームワークに沿って作成し、工事開始までに承認される予定。 - イ
- 汚染対策
本計画では、第1バッチのサブプロジェクトに係るIEE及び第2、3バッチのサブプロジェクトに係る環境フレームワークに基づき策定された環境管理計画に則り、緩和策が策定される予定。IEE及び環境フレームワークでは、工事中は大気汚染、水質汚染、騒音・振動、廃棄物等による影響に対して、散水、定期的な工事機材の点検、排出される汚染物質や廃水の適切な処理等の対策がとられる予定。また、供用時の排水施設等からの排水、廃棄物による土壌汚染、廃棄物管理施設からの悪臭等の影響に対しては、定期的な点検、モニタリングや廃棄物の適切な処理等の対策がとられる予定。 - ウ
- 自然環境面
第1バッチのサブプロジェクトの事業対象地は国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺に該当しない。また、第2、3バッチについても事業対象地が国立公園等の影響を受けやすい地域又はその周辺に該当するものは、サブプロジェクトに選定しないよう地方政府・農村開発・共同組合省地方行政総局地方行政技術局(Local Government Engineering Department, Local Government Division, Ministry of Local Government, Rural Development and Cooperatives。以下、「LGED」という。)と合意済み。 - エ
- 社会環境面
第1バッチのサブプロジェクトのうち社会環境面の対応が必要なものについては、同国国内手続き及びJICAガイドラインに沿って簡易住民移転計画を2021年8月に作成済みであり、2022年7月頃に承認予定。第1バッチのサブプロジェクト実施においては約3.3ヘクタールの用地取得が想定されているが、非自発的住民移転は発生せず、被影響住民から事業に係る特段の反対意見は出ていない。第2、3バッチ以降は、2021年10月に作成された用地取得ポリシーフレームワークに基づき各バッチごとに簡易住民移転計画を作成し、これに沿って取得が行われる。 - オ
- その他・モニタリング
本計画では、工事中の大気質、水質、土壌汚染、廃棄物等に関するモニタリングは、LGEDに設置される事業管理ユニットの責任・監督の下、施工業者が行い、供用時は、地方自治体が行う。住民移転・用地取得は地方自治体の担当ユニットがモニタリングを行い、郡についてはLGEDの県エンジニア事務所もモニタリングを行う。なお、サブプロジェクトにカテゴリA案件は含まれないことを合意済み。 - カ
- 外部要因リスク
特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
バングラデシュは、2000年以降(新型コロナウイルスの影響を受けた2020年以降を除く)、年平均6.0%程度の安定的な成長を続けており(国際通貨基金、2020年)、また、2000年に48.9%であった貧困率は2016年には24.3%まで改善した(世界銀行、2020年)。しかし、順調な経済成長を遂げる都市部の貧困率18.9%に比べ、コックスバザール県を含む農村部の貧困率は26.4%と依然として高く(バングラデシュ統計局、2016年)、地方開発は同国政府の重要な政策課題となっている。
現在、コックスバザール県及び周辺地域は、ベンガル湾産業成長地帯(Bay of Bengal Industrial Growth Belt。以下、「BIG-B」という。)構想に基づく総合開発が行われており、コックスバザール県は同開発の拠点として将来的にバングラデシュの成長を牽引する地域となることが期待されている。また、ミャンマーと国境を接するコックスバザール県には、2017年8月以降、ミャンマー・ラカイン州からの約90万人の避難民流入による人口増加が生じており(国連難民高等弁務官事務所、2021年)、飲料水の不足・森林伐採・農地減少等の地域資源への影響及び地域住民の収入機会の減少・賃金の低下等の問題が顕在化している(国連、2019年)。今後、同地域では、更なる人口増等により、通行車両の増加による道路状態の悪化や交通渋滞、水処理・供給のひっ迫や廃棄物増加による住民への社会サービス低下等基礎インフラの不足に起因する問題が深刻化することが強く懸念されている。
バングラデシュ政府は、2041年までに達成すべき長期開発課題を定めたビジョン2041(バングラデシュ計画省、2020年)において、2031年までに高位中所得国、2041年までに貧困撲滅を達成した先進国化を目指すとしている。また、同国の「第8次五か年計画」(2020/21~2024/25年度)では、2031年までに高位中所得国へと変容するためには地方部の発展が重要であるとの観点から、都市開発及び地方自治体の機能強化に関する戦略を重視している。
本計画は、南部チョットグラム地域の総合開発地域及びミャンマー・ラカイン州からの避難民流入により影響を受ける地域において、基礎インフラの整備等を行うことにより、地域住民の利便性や生活の質向上を図り、もって対象地域の経済成長及び格差是正に寄与するものであり、同国の開発政策における優先度の高い事業として位置付けられる。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国は2018年2月に策定した「対バングラデシュ国別開発協力方針」において、今後の対バングラデシュODAの重点目標として、(ア)中所得国化に向けた、全国民が受益可能な経済成長の加速化(質の高い運輸・交通インフラの整備による人とモノの効率的移動の促進、発電所・送配電網整備等による電力・エネルギーの安定供給等)、(イ)社会脆弱性の克服(貧困削減、初等教育、母子保健、安全な飲料水の供給などSDGsの達成に貢献、防災・気候変動対策等)を掲げている。
本計画は南部チョットグラム地域において、基礎インフラの整備等を行うことにより、地域住民の利便性及び生活の質の向上を図るものであることから、上記(ア)に合致するとともに、貧困削減等の観点から、上記(イ)にも資するものである。また、2014年の日・バングラデシュ首脳会談において両首脳は経済インフラの開発、投資環境の改善、連結性の向上を柱とする「ベンガル湾産業成長地帯」(BIG-B)構想を推進することで合意したが、本計画は同構想に基づく開発の拠点となる地域の基礎インフラの整備等を行うものであり、首脳会談のフォローアップの観点から、外交的重要性が高い。
(2)効率性
インドネシア向け円借款「地方インフラ整備事業(III)」(評価年度2007年)の事後評価結果等から、小規模分散型の案件では、体系的なマネジメントシステムの構築とその適切な運用が重要であり、特にフィールドレベルから中央への階層的な責任分担関係の明確化が重要であるとの教訓を得ている。本事業では対象都市の開発計画等の上位計画から個別事業の予算承認・執行、事業実施監理の各段階における関係機関の役割と責任を明確にし、LGED本部内において事業実施責任を統括するプロジェクト管理本部を設置するとともに、各対象地域においてプロジェクト実施ユニットを設立する予定。また、同事後評価からは各関係機関の調整が重要であるとも教訓を得ている。本教訓を踏まえ、プロジェクト管理本部の上位組織としてLGED本部内に各関係機関が参加する事業実施委員会を設置し、各サブプロジェクトのセクター横断的事項に係る協議や事業全体の進捗管理及びモニタリングを行う予定。
(3)有効性
南部チョットグラム地域において、基礎インフラの整備等を行うことにより、地域住民の利便性及び生活の質の向上、経済成長及び格差是正を図り、もって全国民が受益可能な経済成長の加速化と社会脆弱性の克服に寄与することが期待される。
3 事前評価に用いた資料、有識者等の知見の活用
バングラデシュ政府からの要請書、JICAガイドライン、その他JICAから提出された資料。
案件に関する情報は、交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要、借款契約締結後公表されるJICAのプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお、本計画に関する事後評価は、実施機関であるJICAが行う予定。