ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和4年5月23日
評価年月日:令和4年2月7日
評価責任者:国別開発協力第三課長 西野 修一
1 案件名
1-1 供与国名
ガーナ共和国(以下「ガーナ」という。)
1-2 案件名
ノーザン州における保健医療体制改善計画
1-3 目的・事業内容
ノーザン州において、タマレ中央病院の施設の建て替え・拡張と医療機材の整備及び上位病院への緊急搬送が困難な同州内郡病院に対する医療機材の整備を行うことにより、母子保健医療サービスの質及びリファラル(病院連携)システムの改善を図り、もって同地域の母子の健康状態の改善に寄与するもの。
供与限度額は24.55億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリーCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
- (2)以下の前提・外部条件が確保される必要がある。
- ア 本計画の実施にあたって、同国の医療システムの見直しが生じた際にタマレ中央病院の州病院としての位置付けに変更がないこと。
- イ COVID-19の感染拡大が収束に向かい、予定通りに実施設計や工事が進められること。
- ウ 本事業の対象地域の治安情勢が急激に悪化しない。
- エ 物流の乱れや急激な物流費用の上昇が発生しない。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)ガーナ(一人当たり国民総所得(GNI)2,220ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類される。
- (2)同国は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage。以下、「UHC」という。)の達成に向けて、保健医療サービスへのアクセス改善に取り組んだ結果、熟練出産介助者による分娩、産前産後ケア受診率、予防接種率の向上など、保健医療サービスへのアクセスが向上した。その結果、母親と子どもの死亡率が1990年から半減するなど、健康状況に改善がみられたものの、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals。以下、「SDGs」という。)で定められた妊産婦死亡率の目標値(出生10万人当たり70人)の達成に向けては依然として厳しい状況にある。特に、本事業の対象地域であるノーザン州は、妊産婦死亡率が出生10万人当たり278人、5歳未満児死亡率が出生1,000人当たり77人(Ghana Maternal Health Survey、2017)となっており、施設内妊産婦死亡率については同国全州で最も高く(出生10万人当たり207人、Health Sector Holistic Assessment 2018)、地域住民への保健医療サービスの更なる質の改善は喫緊の課題として人道上のニーズが高い。
- (3)同国政府は、国家中期開発計画「An Agenda for Jobs 2018-2021」において保健を重点分野の一つと位置付け、「国家保健セクター中期開発計画 2018~2021」において、UHCの達成を見据えた保健サービスへのアクセスの是正及び質の改善を政策目標としている。
- (4)我が国は、対ガーナ国別開発協力方針(2019年9月)において、「保健」を重点分野の一つとして定めている。本計画は同方針に合致するとともに、SDGsゴール3「すべての人々に健康と福祉を」に貢献する。また、我が国は、2016年8月に開催したTICAD6(第6回アフリカ開発会議)において、ガーナをUHC推進国に位置づけたほか、2019年8月に開催したTICAD7(第7回アフリカ開発会議)において、「UHC拡大とアフリカ健康構想」を表明したが、本計画はこうした我が国の重要政策を具体化するものである。
- (5)同国は、安保理改革で我が国の立場を支持している。また過去7回のTICAD全てに大統領が参加し、2018年度には大統領が訪日するなど、我が国と良好な関係を築いており、開発協力の実施による協力関係の維持・強化は重要である。特に保健分野への支援は、野口記念医学研究所やUHCへの支援等、我が国の対ガーナ開発協力を代表するものであり、同国政府からも日本の支援に対して感謝の意が表されるなど、これまでの保健分野の支援は高く評価されている。2019年8月の日ガーナ首脳会談においては、安倍総理大臣(当時)から同分野における協力を継続していくことを表明しており、本事業を通じて二国間関係の更なる強化を図る外交的意義は大きい。
2-2 効率性
- (1)維持管理の容易さとランニングコストの低減に配慮し、現地流通資材及び現地で一般的な工法を採用すると同時に特殊な技術を要しない施設を計画した。
- (2)本事業対象の病院は、「北部3州におけるライフコースアプローチに基づく地域保健医療サービス強化プロジェクト」(2017~2022年)や「母子手帳を通じた母子継続ケア改善プロジェクト」(2017~2022年)などの技術協力案件における協力対象施設でもあるところ、これら事業間の相乗効果が見込まれる。
2-3 有効性
本計画の実施により、同病院における2017~2019年の実績値の平均と事業完成から3年後の2027年の目標値を比べると、主に以下のような効果が期待される。
- (1)定量的効果
- ア タマレ中央病院の外来患者数が、年間93,479人から109,800人に増加する。
- イ 対象施設における合計分娩数が、年間11,639件から15,000件に増加する。
- ウ 合計帝王切開数が、1,205件から1,500件に増加する。
- エ タマレ中央病院における超音波診断装置使用回数が、年間6,584件から8,150件に増加する。
- (2)定性的効果
- ア 施設・機材の整備・充実により、母子保健医療サービスの質の向上が図られる。
- イ 院内環境、機能の充実により業務効率が向上し、安全性が改善する。
- ウ 施設・機材の整備・充実により、スタッフの働きやすさ、モチベーションと満足度の向上に繋がる。
- エ 院内環境、機能の充実により患者の満足度が高まる。
- オ 院内環境の改善により、現職及び実習生の院内研修の機会が増加する。
- カ 各対象病院がガーナの基準で示されているレベルに合った重症度の患者を適切に受け入れることが可能となる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ガーナ政府からの要請書
- (2)TICADプロセスを踏まえた最近10年間の日本の対アフリカ支援評価報告書(2017年度・第三者評価)、保健関連ミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けた日本の取組の評価報告書(2014年度・第三者評価)
- (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)