ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和3年12月3日
評価年月日:令和3年3月1日
評価責任者:国別開発協力第三課長 黒宮 貴義
1 案件名
1-1 供与国名
モルドバ共和国(以下「モルドバ」という。)
1-2 案件名
消防機材整備計画
1-3 目的・事業内容
モルドバの首都キシナウ市、第二の都市バルツィ市、カフール県、ウンゲニ県及びオルヘイ県において、消防機材(車両及び装備)の整備を行うことにより、消防・救助活動能力の改善を図り、もって対象地域住民の安全の確保を通じた、モルドバの公共サービスの向上に寄与するもの。
供与限度額は15.49億円。
1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)に掲げる、環境への望ましくない影響は最小限と判断されるため、カテゴリCに該当する。
- (2)同国における政情・治安や、新型コロナウイルス感染症等の感染症の流行状況が急激に悪化しないこと。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)モルドバ(一人あたり国民総所得(GNI)2,990ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低中所得国に分類される。
- (2)同国の首都や大都市における住宅火災件数は、絶対数としては多くはないものの、他国と比較して火災規模が大きいため、火災100件あたりの死者数が2.38人と、世界平均の1.18人を大きく上回っている(International Association of Fire and Rescue Service (2019) ‘World Fire Statistics’)。また、同国は、洪水や土砂災害等の自然災害に脆弱であり、毎年平均約7万人の被災者及びGDP比約1.5%の経済損失を出す規模の洪水に見舞われている(World Bank (2017) ‘Disaster Risk Profiles’)。
- (3)このような火災・災害に対し、消防車両は、消火活動のみならず、洪水等の自然災害時や交通事故の救急救命を目的として使用されているが、車両数の不足、現有車両の老朽化が課題となっている他、予算の不足等により、中高層集合住宅が多い同国において需要が高いとされるはしご車等の更新は進んでいない。
- (4)かかる状況の下、適切な消火・救助活動を実施し、災害時の被災規模の拡大を防ぐため、消防車両の増加及び老朽化した車両の更新が急務となっている。
- (5)我が国は、対モルドバ国別開発協力方針において、「保健医療・教育等の公共サービス向上」を重点分野に掲げ、公共サービスの質と量の改善による同国国民の生活水準向上を目指すとしており、本事業は同方針に合致する。また、SDGsゴール11「包括的で安全かつ強靭で持続可能な都市及び人間居住の実現」およびゴール13「気候変動とその影響への緊急の対処」に貢献するものであり、本計画を実施する意義は高い。
- (6)同国は、欧州連合(EU)加盟を目指しており、政治経済改革を図ることを目的に締結されたEUとの連合協定において「自然・人的災害への対応能力強化」を掲げ、この達成のための国家行動計画にて「技術及び機材の改善による出動能力の強化」を重要な目標に位置付けている。モルドバは、国民生活の安全の観点からも本事業を重要な案件として位置づけており、平成30年7月の日・モルドバ外相会談においても本事業に対する支援要請があったことから、我が国との二国間関係強化の観点に鑑みても本計画を実施する外交的意義は高い。
2-2 効率性
モルドバ政府との協議を通じ、更新の要望があった機材等について調査を行い、本協力の更新対象を、老朽化が激しい機材に絞り込んだ。また対象地域については自然災害の多さや維持管理体制等を考慮して適切な地域を選定し、適正な規模かつ効率的な事業となるよう、コスト縮減を図った。
2-3 有効性
- 本計画の実施により、2020年実績値に比べて計画完成3年後の2026年までに以下のような効果が期待される。
- (1)出動指令から出動までに要する時間が、平均10分以上から1分以下へと短縮される。
- (2)出動指令から1分以内に出動可能な消防車両の整備比率が、53%から100%に増加する。
- (3)消防車の現場到着から消火活動開始までに要する時間が、平均5分以上から5分以下に短縮される。
- (4)はしご車の現場到着から消火もしくは救助活動開始までに要する時間が、平均約180秒から100秒以下に短縮される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)モルドバ政府からの要請書
- (2)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)