ODA(政府開発援助)

令和3年9月1日

評価年月日 令和3年4月19日
評価責任者:国別開発協力第二課長 秋山 麻里

1 案件名

1-1 供与国名

 パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)

1-2 案件名

 シンド州における母子保健医療施設拡充計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は、パキスタンのシンド州ハイデラバード県のリアクアット大学病院(LUH)ジャムショロ分院において、母子保健センターの新設及び医療機材の整備を行うことにより、母子保健に係る診断・治療体制を強化するとともに、新型コロナウイルス感染症対策における地域の基幹病院である同病院の感染症対応能力を強化し、もってシンド州における母子を対象とした保健・医療サービスの質の向上を通じ、同国の人間の安全保障の確保及び社会基盤の改善に寄与するもの。
 供与限度額は、34.45億円。

1-4 環境社会配慮、外部要因リスクなど留意すべき点

  • (1)本計画は、JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリCであり、環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
  • (2)パキスタンの治安、新型コロナウイルス感染症流行の状況が大幅に悪化しないこと。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)パキスタン(一人あたり国民総所得(GNI)1,530米ドル)は、OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上、低・中所得国に分類されている。
  • (2)同国は、南西アジア地域において母子保健指標が最も低い国の1つである。同国は国家開発政策「Vision 2025」において、社会セクター開発を柱の一つに掲げ、母子保健・医療サービスへのアクセス改善を重点課題の1つとしている。特に、国民の約3割が貧困層(世界銀行2016年公表)の同国において、貧困層が負担可能な価格で医療サービスを提供する公的医療機関における母子保健・医療サービスの強化が喫緊の課題となっている。
  • (3)特に、シンド州は同国の中で母子保健指標が最も低い州の1つであり、同州政府は、その政策において医療サービスへのアクセス格差是正を柱に掲げ、州内各県での医療施設の不足により州都カラチに集中する患者を分散するため、州内各県でのリファラル体制構築に取り組んでいる。こうした中、LUHは、医療技術者養成機能を有する総合病院であり、同州ハイデラバード県の中核となる公的第三次医療施設として重要な役割を担っているが、患者数の増加や手術室・病床の不足により、新生児・小児病床の稼働率は514%に達している。また、リスクを伴う出産に対する体制も未整備のため、十分な母子保健の医療サービスが提供できていない状況となっている。このため、同州における母子保健サービスの改善のために、同病院の母子保健医療体制を拡充することが急務となっている。
  • (4)母子保健を含む保健分野の支援は、我が国の対パキスタン国別開発協力方針における重点分野の1つである「人間の安全保障の確保と社会基盤の整備」に合致するものである。また、LUHは新型コロナウイルス感染症対策における地域の基幹病院であり、本計画の供与機材には新型コロナウイルス感染症治療にも活用できる機材が含まれていることから、感染症対策の観点からも重要性が高い。さらに、SDGsゴール3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」にも貢献するものである。
  • (5)同国は、世界第5位の人口を有し、アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに、テロ撲滅に向けた国際社会の取組において重要な役割を担っている。このため、同国の安定的な発展は、アフガニスタンを始めとする周辺地域、ひいては国際社会全体の平和と安定に資する点から我が国にとっても極めて重要である。
  • (6)以上の観点から、母子保健サービスの改善を通じて住民の生活環境を改善し、同国の人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に資する本計画の実施は、開発協力としての必要性及びカーン政権が保健分野を重視する中、二国間関係強化にも資するため、外交的意義が高い。

2-2 効率性

 LUHに対するおける他ドナーからの支援の重複性はないことが確認されている。また、本計画に加えて、調達機材の運営・維持管理に係る研修を実施予定であり、効率的な案件実施を行う。

2-3 有効性

  • 本計画の実施により、2018年の実績値を基準値として、事業完成3年後の2027年の目標値と比較すると、主に以下のような成果が期待される。
  • (1)定量的効果(年間)
    • ア 分娩数が、7,500件から9,700件に増える。
    • イ 外来件数が、48,636件から63,000件に増える。
    • ウ 母体・胎児集中治療室の患者収容件数が、0件から80件に増える。
    • エ 新生児集中治療室の患者収容件数が、0件から420件に増える。
  • (2)定性的効果
    分娩環境の改善により、ハイリスクの妊婦・新生児も含め、母子保健サービスの質が向上する。また、調達機材の運営・維持管理に係る研修も併せて実施することにより、医療機材の保守管理に係る業務が効率化し、院内の管理体制が強化される。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)パキスタン政府からの要請書
  • (2)パキスタン国別評価報告書(2014年度・第三者評価)
  • (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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