ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和2年6月11日
評価年月日:令和2年4月23日
評価責任者:国別開発協力第一課長 渡邊 滋
1 案件名
1-1 供与国名
カンボジア王国(以下「カンボジア」という。)
1-2 案件名
シェムリアップ州病院改善計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,シェムリアップ州病院及び同州の下位4病院の施設及び機材を整備することにより,シェムリアップ州の保健システムを強化し,基本的な保健医療サービスへのアクセス改善を図り,もってカンボジアのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)達成への貢献を通じた同国の生活の質向上に寄与する。
供与限度額は21.53億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
本計画は,JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリCであり,環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)カンボジア(一人あたり国民所得1,485ドル)は,OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上,後発開発途上国(LDC)に分類されている。
- (2)地域の連結性と域内の格差是正の鍵を握る国としてカンボジアは重要であり,我が国は,同国内戦後の和平・復興・開発への貢献や活発な要人往来,国際社会における協力(KR裁判)等を通じ,同国との関係を強化してきた。近年は,二国間の経済関係も緊密化しており,我が国から同国への民間投資が増大している。2013年12月には,両国関係が「戦略的パートナーシップ」に格上げされ,地域・国際社会の課題に関しても一層緊密に連携・協力していくことで一致している。
- (3)同国における公的保健医療サービスの提供体制は,内戦後の20年前と比較し,質・量ともに改善し,首都プノンペンを中心に基本的保健医療サービスの提供体制が整いつつあり,5歳未満児死亡率や妊産婦死亡率の削減等,国全体の保健指標は改善してきている。しかし,1970年代に建設された施設の老朽化や機材不足により,医療ニーズに十分に対応できておらず,州内の下位病院における機材や人材の不足により,下位病院で対応すべき患者まで州病院を受診している状況のため,患者集中を引き起こしている。こうした中,同国政府は,「国家戦略開発計画2019-2023」において,保健分野を優先課題と位置付け,「国家保健戦略計画2016-2020」において質の高い保健医療サービスの提供と公平なアクセスの確保を優先政策の一つに掲げており,本計画はこれらの計画に資する事業と位置付けられている。
- (4)我が国は,対カンボジア国別開発協力方針において,保健医療・社会保障分野における取組の推進を含めた「生活の質の向上」を重点分野の一つとして掲げており,本計画は,我が国の開発協力方針並びに同国政府の開発政策に合致するとともに, SDGsゴール3(すべての人に健康と福祉を)及び11(住み続けられるまちづくりを)にも貢献すると考えられる。また,我が国の国際保健政策においても,戦略としてUHCの主流化を図ることが掲げられており,同国におけるUHC促進への貢献に向けた支援を実施する意義は大きい。さらに,同国は,貧困層及び貧困層に近い層が依然多く,公的医療機関の充実を図ることは個人の生命・生活に対する脅威に備える上で不可欠であり,無償資金協力として本計画の実施を支援する必要性は高い。
- (5)また,2019年5月に開催された日カンボジア首脳会談においても,都市機能強化について首脳間で認識が一致したほか,北朝鮮や南シナ海を始め地域・国際社会における喫緊の課題についても連携していくことで一致している。以上のことから,同国の開発ニーズ及び我が国の支援方針に合致する本計画を実施することは,良好な二国間関係の維持・強化に資するものであり,外交上の重要性も高い。
2-2 効率性
今後,保健省政策アドバイザーの派遣が予定されており,人材育成に係る政策の整備を支援する計画である。本計画と合わせて人材育成体制が強化されることで,病院の保健医療サービスの質の向上が期待される。
2-3 有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- (1)定量的効果:2026年(事業完成3年後)の時点で,基準年(2018年・各実績値)と比して,それぞれ,ア 外科系入院患者数が年間5,975人から6,500人に増加,イ 外科病床占有率が191.2%から90%に減少,ウ 手術件数が年間3,306件から4,732件に増加する。
- (2)定性的効果:質の高い医療サービスの提供,地域のリファラル体制の強化,医療従事者の意欲向上,新設・既存建物の適切な維持管理と長期継続的な使用。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)カンボジア政府からの要請書
- (2)JICAの調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)カンボジア国別評価(2017年度/第三者評価)
- (4)南部回廊を中心としたメコン地域の連結性の評価(2017年度/第三者評価)
- (5)メコン地域のODA案件に関わる日本の取組の評価(2014年度/第三者評価)
- (6)カンボジア保健医療分野支援の評価(2012年度/第三者評価)