ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
令和2年3月3日
評価年月日:令和2年2月20日
評価責任者:国別開発協力第三課長 黒宮 貴義
1 案件名
1-1 供与国名
パレスチナ自治政府(以下「パレスチナ」という。)
1-2 案件名
医療機材整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,ヨルダン川西岸地区及びガザ地区における拠点病院4病院(西岸地区:ラフィディア病院,ガザ地区:ヨーロッパ病院,ナセル病院及びインドネシア病院)に対し,非感染性疾患の診断・治療に必要な医療機材を整備することにより,公的病院の専門性及び診断,治療能力を高め,域外搬送による患者の身体的,精神的負担を軽減するとともに,インフラ整備及び保健財政の正常化を図り,もってパレスチナの民生の安定・向上に寄与するもの。
供与限度額は19.55億円である。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)上,環境への望ましくない影響は最小限であると判断されるため,環境社会配慮カテゴリはCである。
- (2)パレスチナへの機材輸入の際は,事前にパレスチナ自治政府がイスラエル政府から承認を取り付けることが必要となることから,円滑な承認取付けのため日本政府及びJICAが側面支援する必要がある。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)パレスチナでは,2017年時点で妊産婦死亡率15.7(出生10万対),5歳未満児死亡率13.9(出生千対),及び平均余命73.13と報告されており,1990 年(それぞれ118,43,68.08)以降,保健に係る指標は著しく改善したものの,疾病構造の変化により循環器系疾患,癌,脳血管疾患等を含む非感染性疾患(Non-Communicable Diseases,以下「NCDs」という。)が死亡原因の7割以上を占めている(2016年,世界保健機関(WHO))。他方,NCDs対策は遅れており,診療環境の整備不足から,NCDs患者等をパレスチナ域外の医療機関へ紹介,搬送せざるを得ないケースが年々増加している。また,特にガザ地区については,域外への搬送の許可を待つ間に病状が重症化するケースも多く,患者の生命予後に大きく影響するだけでなく,域外での診療費用は自治政府の保健財源から支出されていることから,2017年には公的保健支出の37%を占めており,保健財政逼迫の主要因となっている。
- (2)このような状況を踏まえ,パレスチナは,2016年に策定した「国家政策アジェンダ」に基づく「国家保健戦略2017~2022」において,NCDsの死亡率低減や重症化改善のための早期発見,医療サービス向上等の実現,二次及び三次病院におけるインフラ整備を掲げている。また,同方針は「NCDsの予防と治療に向けた国家戦略2017~2022」にも反映され,NCDsが国家として喫緊に取り組む課題と位置付けられている。
- (3)我が国は,対パレスチナ自治区国別開発協力方針において,保健を含む「人間の安全保障に基づく民生の安定と向上」を重要分野と位置付けており,本計画は同方針に合致するとともに,SDGsゴール3「すべての人に健康と福祉を」にも貢献すると考えられることから,本計画の実施を支援する必要性は高い。
- (4)また,我が国は,安倍総理大臣が打ち出した「中庸が最善」という考え方の下,中東・北アフリカ地域への安定化支援として,パレスチナ等の不安定な国・地域における経済開発・社会安定化支援等を実施していくことを表明しており,本計画は,我が国が対パレスチナ支援の柱の一つにしている「民生の安定と向上」を医療機材の供与による医療サービスの質の向上を通じて実現させるものであることから,本計画の実施を支援する必要性は高い。
2-2 効率性
供与対象以外の病院における整備計画,医療サービス提供状況等を確認したほか,国際機関等他支援機関との協議を通じて重複等がないことを確認し,過剰診断能力とならないよう,医療サービス提供体制全般での整合性をとることで効率的・効果的な案件実施を行う。
2-3 有効性
本計画の実施により,事業完成3年後(2024年)には,2018年比で以下の成果が得られることが見込まれる。
- (1)ガザ地区から同地区外への搬送数が,年間21,266回から16,266回まで減少する。
- (2)整備する病院において,MRI検査が年間10,000回実施可能となる。
- (3)地域の二次病院,三次病院の機能強化を行うことにより,パレスチナの保健サービスの質が改善する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)パレスチナからの要請書
- (2)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)