ODA(政府開発援助)

平成31年4月24日

評価年月日:平成31年2月4日
評価責任者:国別開発協力第二課長 門脇仁一

1 案件名

1-1 供与国名

パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)

1-2 案件名

パキスタン医科学研究所における母子保健センター及び小児病院の集中治療拡充計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は,パキスタン有数の第三次医療施設であるパキスタン医科学研究所(PIMS)において,小児病院及び母子保健センターのハイリスク周産期を対象とした診断・治療機能を新施設に集約・拡充するため,新施設建設及び機材(新生児保育器等)の供与を行うことにより,母子保健にかかる診断・治療体制の強化及び保健・医療サービスの質の向上を図り,もって同国の母子保健を中心とした保健システムの強化,ひいては人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に寄与するもの。供与限度額は,36.20億円。

1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

  • (1)治安・政情が極度に悪化しないこと。
  • (2)本計画は,JICA環境社会配慮ガイドラインにおいて,環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)パキスタン(一人あたり国民総所得1,510ドル)は,OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上,低中所得国に分類されている。
  • (2)パキスタンは,南アジアにおいて母子保健指標が最も低い水準にある国の一つであり,パキスタン政府は国家政策「Pakistan Vision 2025」において,社会セクター開発を柱の一つに掲げ,国民の保健サービスへのアクセス改善を重点課題として取り組んでいる。特に,国民の約3割を占める貧困層が負担可能な費用で医療サービスを提供するための公的医療機関の強化が喫緊の課題となっているが,高まる保健医療サービスのニーズに対して,医療施設の老朽化や人材の不足といった課題を抱えており,妊産婦や新生児へのケアも含め保健医療サービスの強化が急務となっている。
    PIMSは,首都イスラマバードに位置し,総合病院,小児病院,母子保健センター,看護短大,医療技術短大等から構成される医療複合施設である。PIMSは国内有数の公的第三次医療機関であり,首都周辺のみならず,隣接するパンジャブ州やハイバル・パフトゥンハー州といった他州からの患者の受入れも行っている。入院患者数は約5千人(1988年)から6.8万人(2016年)に,外来患者数も40万人(1988年)から120万人(2016年)と大幅に増加しており,PIMSの果たすべき役割の重要性は年々増している。
    しかしながらPIMSの医療機材は,経年劣化等に伴い一部故障や不具合が発生している。また,患者数の大幅な増加に伴い,施設の上限を超える年間約5,800件の帝王切開や約5,000件にのぼる小児に対する手術を実施している一方で,収容能力不足のために,母子保健センターでは死亡に至った重症患者のうち約50%が集中治療室での治療を受けられていないなど,緊急性の高いハイリスク妊産婦及び新生児の治療や感染管理が適切に行えない状況にあり,同国における母子保健にかかる診断・治療体制強化のために,PIMSの現状を早期に改善することが喫緊の課題となっている。
  • (3)本計画は,これらの状況を踏まえ,既存の施設では十分な対応が困難となっている緊急性の高いハイリスク妊産婦及び新生児への診断・治療機能を集約し,効率的な医療サービスを提供することを通じて,PIMS全体の母子に対する医療サービスの質の向上に寄与するものである。
  • (4)本計画は,同国の開発課題・開発政策に合致するとともに,我が国の対パキスタン国別開発協力方針(平成30年2月策定)における重点分野の一つである「人間の安全保障の確保と社会基盤の改善」にも合致する。さらに,持続可能な開発目標(SDGs)のゴール3(あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し,福祉を促進する。)の達成に貢献する。
  • (5)パキスタンは,世界第6位の人口を有し,アジアと中東の接点に位置するという地政学的重要性を有するとともに,テロ撲滅に向けた国際社会の取組において,重要な役割を担っている。このため,同国の安定的な発展は,アフガニスタンを始めとする周辺地域,ひいては国際社会全体の平和と安定に資する点から極めて重要である。また,2018年8月に発足したカーン新政権は,保健分野の改革を重視しており,同分野での支援は新政権との関係構築の上でも重要である。
  • (6)以上の観点から,同国の保健医療サービスの向上を始めとした人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に資する支援を行い,同国の安定的かつ持続的な社会の構築の達成に貢献する本計画の開発協力としての必要性及び外交的意義は高い。

2-2 効率性

 我が国によるパキスタンに対する他の関連支援との連携を図る他,同国の保健セクターで,世界保健機関(WHO),国連児童基金(UNICEF)やアメリカ開発庁(USAID)等の他の援助機関による母子保健を含む保健分野での支援との重複はないことを確認した上で,案件形成を行った。

2-3 有効性

 本計画の実施により,以下のような成果が期待される。

  • (1)新設される母胎胎児集中治療室により,事業完成3年後(2024年)には300件/年の同集中治療患者を収容できるようになる。
  • (2)新生児集中治療室の床数増加により,収容件数が2017年時点の947件/年から事業完成3年後(2024年)には1,100件/年に増加する。
  • (3)産婦人科及び小児科の手術室の増加により,両科の手術数が2017年時点の14,410件/年から,事業完成3年後(2024年)には16,500件/年に増加する。
  • (4)PIMSにおけるハイリスク妊産婦・褥婦・新生児への医療サービス提供体制が強化されるとともに,患者サービスの質が向上する。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)パキスタン政府からの要請書
  • (2)パキスタン国別評価(第三者評価)報告書(2014年度)
  • (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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