ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成31年3月27日
評価年月日:平成31年3月4日
評価責任者:国別開発協力第二課長 門脇 仁一
1 案件名
1-1 供与国名
キューバ共和国(以下「キューバ」という。)
1-2 案件名
青年の島における電力供給改善計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,キューバ最大の離島である「青年の島」において,電力系統安定化に必要な機器(蓄電池,受変電設備等)を整備することにより,電力供給の安定化及び気候変動対策として再生可能エネルギーの導入促進を図り,もって同国の持続可能な社会・経済開発に寄与する。
供与限度額は23.92億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)本計画は,JICA環境社会配慮ガイドライン(2010年4月制定)におけるカテゴリはCであり,環境への望ましくない影響は最小限と判断される。
- (2)現地国内輸送,据付がキューバ側によって計画通りに行われること。
- (3)米国によるキューバに対する経済制裁。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)キューバは,多くの開発課題を抱えているが,現在も続く米国の経済封鎖等により,深刻な物資や外貨の不足に直面しており,これらの開発課題を解決するために必要なインフラや機材の整備・更新が進んでいない。
- (2)キューバは,総発電量19,088ギガワット(ギガワット時)の約80%にあたる15,315ギガワット時を火力発電により賄っているが,その約40%にあたる5,900ギガワット時の発電に必要な石油は,輸入に頼っている(2014年,キューバ電力公社)。特に,2000年以降は,この輸入石油の調達先のほぼ全てがベネズエラであるが,昨今の同国における政治・社会状況の混乱により,安定的に石油を確保することが困難となっており,電源の多角化による安定的な電力供給が最優先課題となっている。
- (3)このようなエネルギーセキュリティ上の脆弱性は古くから認識されており,この克服のため,同国政府は2006年に政策「キューバ・エネルギー革命」を策定し,省エネルギーの促進,国内送電網の整備,再生可能エネルギーに係る新技術の導入等に注力している。さらに,2014年には,高価な火力発電の割合を減らしつつ,再生可能エネルギーの割合を2030年までに24%に引き上げることなどを目標に「再生可能エネルギー及びエネルギー効率化促進政策」を策定し,実施している。
- (4)このような背景の下,同国政府は同国最大の離島であり,独立した電力系統にある「青年の島」において,2030年までに島内総発電量に対する再生可能エネルギー導入比率を現時点の5%から全国の目標よりも高い30%まで上げることを目指している。しかし,太陽光や風力は,気象条件によって発電量が大きく変動することから,今後,更に再生可能エネルギー比率を増やすためにも,それらを安定的に供給するための電力系統安定化システムが不可欠となっている。
- (5)「青年の島」は,キューバ本島と送配電網が接続されておらず,比較的小規模の電力系統安定化システムの導入で効果が見込まれるとともに,同国政府は本計画で同設備を導入後,本島への類似設備の展開を計画していることから,本計画は国内標準として導入される可能性がある。加えて,本計画は再生可能エネルギー導入の推進を通じて,持続可能で安定的なエネルギーへのアクセスを目指すSDGsゴール7及び気候変動への対策を促進するSDGsゴール13にも貢献すると考えられることから,本計画を実施する重要性は高い。なお,対キューバ国別援助方針(2018)の重点分野として,再生可能エネルギー分野での支援を含む社会・経済基盤の整備が掲げられており,本計画は我が国の対キューバ開発協力の上位政策にも合致している。
- (6)非同盟国の雄として国際社会においても影響力を有するキューバへの支援は,我が国の外交を円滑に進める上で高い効果が見込まれる。また,キューバには交通やエネルギー分野を始め,膨大なインフラ需要が存在し,日本企業は同国の発展に関心を有していることから,電力供給の安定化を通じて同国の経済開発に貢献することで,同国への進出を考える日本企業の支援,二国間の経済関係の進展を後押しすることにつながる。
2-2 効率性
JICA開発計画調査型技術協力「電力セクターマスタープラン策定プロジェクト」(2017年3月採択)における再生エネルギー導入計画の策定において,本計画を電力系統安定化システム導入の実証の一例と位置付け,相乗効果の発現を図る。
2-3 有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- (1)「青年の島」における再生可能エネルギー導入可能な総発電容量が,5.5メガワット(2018年:実績値)から22.5メガワット(2024年:事業完成3年後目標値)に増加する。
- (2)「青年の島」における総発電量に占める再生可能エネルギーの割合が,5%(2018年:実績値)から18%(2024年:事業完成3年後目標値)に増加する。
- (3)「青年の島」における系統周波数が,60.0±0.2ヘルツを超過する場合がある状態(2018年実績値)から60.0±0.2ヘルツの運用基準範囲内に収まる状態へ改善する。
- (4)ヘロナ発電所のディーゼル発電機への依存度が軽減されるため,燃料価格変動のリスクが緩和される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)キューバ政府からの要請書
- (2)キューバ国別評価報告書(2012年度/第3者評価)
- (3)JICA協力準備調査報告書