ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成31年2月22日
評価年月日:平成31年2月6日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子
1 案件名
1-1 供与国名
フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)
1-2 案件名
バンサモロ地域社会経済インフラ緊急整備計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,バンサモロ新自治政府設立に向けて,社会経済インフラ(本件においては,職業訓練施設等)を整備することにより,和平の定着や社会の安定を図り,もってミンダナオにおける持続的な平和と開発に寄与する。供与限度額は,18.00億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)環境社会配慮:特になし
- (2)外部要因リスク:本件計画の実施対象地域は,イスラム過激派の存在等,治安面での不安定要因が存在しているため,現地での施工は現地事情に精通した現地企業によって行われる想定である。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)フィリピン(一人あたり国民総所得3,660ドル)は,OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上,低中所得国に分類される。
- (2)2018年7月27日,40年以上にわたり紛争が続いたフィリピン・ミンダナオ島のムスリム・ミンダナオ自治地域において,自治政府を設立するため「バンサモロ基本法」が大統領により承認された。バンサモロ自治政府の領域を確定するための住民投票が2019年1月に実施され,2022年の自治政府設立に向けて,バンサモロ暫定移行政府(BTA: Bangsamoro Transition Authority)の発足等が今後行われる予定である。
- (3)他方,当該地域は,長年の紛争によるインフラ投資の不足等が影響し,フィリピン国内で開発が最も遅れた地域である。また,貧困率が全国平均22.1%に対し53.4%と2倍以上であり当国内で最も高い状況となっている。武装勢力の戦闘員や,近年ミンダナオ島で活発化している過激派への支持層はこうした貧困率の高い地域に多く,脆弱なミンダナオにおける平和と安定は,当該地域・国のみならずアジア全体の平和と安定に寄与することから,バンサモロ自治政府のガバナンス強化とともに,地域住民の生活改善や生計向上に資するインフラ開発を早期に実現することが急務である。
- (4)本計画は,バンサモロ自治政府の領域になることが想定される地域において,マラウィ市人材開発センターの再建及びその他2か所の職業訓練センターへの機材調達等を通じて,武装組織からの除隊兵士等が地域の産業ニーズに応じた技術的・職業的スキルを身につけるための支援等を行う。我が国は,2017年10月の日フィリピン首脳会談に際し発表した「今後5年間の二国間協力に関する日フィリピン共同声明」において,ミンダナオ和平プロセスの進展に呼応し,ミンダナオ開発支援を強化していく方針をかかげている。また,我が国の対フィリピン国別開発協力方針(2018年4月)は,「ミンダナオにおける平和と開発」への貢献を重点分野の一つとして位置づけており,本計画はこれら方針に合致する。
- (5)本計画は,2017年1月の日フィリピン首脳会談の場で安倍総理大臣が発表した,フィリピンに対するODA及び民間投資を含めた今後5年間で1兆円規模の支援の一環でもある。加えて,本計画はSDGsのゴール4(包摂的かつ公正な質の高い教育の提供)及び16(平和で包摂的な社会の促進)の達成にも貢献する。
2-2 効率性
本計画対象地域においては,2013年からJICA技術協力「バンサモロ包括的能力向上プロジェクト」を通じてバンサモロ自治政府の設立を見据えた制度・組織構築と人材育成に関する支援を行うとともに,バンサモロ開発計画(BDP:Bangsamoro Development Plan)の策定も支援した。これら支援を通じて得られた知見を生かすことで,バンサモロ地域住民の生活改善や生計向上に資するインフラ開発の実現と効果的かつ効率的な正常化プロセスに資する支援の実施が期待される。
2-3 有効性
- (1)マラウィ市人材開発センターの再建及びその他2か所の職業訓練センターへの機材調達等を通じ,2025年(事業完成3年後)において,これら施設の研修修了生を年間約4,000名輩出する。
- (2)本計画による支援対象施設による公共サービスの質の向上等により,当該地域住民にとって目に見える形での平和の実感につながる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)フィリピン政府からの要請書
- (2)技術協力「バンサモロ包括的能力向上プロジェクト」
- (3)フィリピン国別評価(第三者評価)報告書(2010年度)