ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成31年2月12日
評価年月日:平成31年2月7日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子
1 案件概要
(1)供与国名
フィリピン共和国
(2)案件名
ミンダナオ紛争影響地域道路ネットワーク整備計画
(3)目的・事業内容
本計画は,フィリピン・ミンダナオ島の紛争影響地域において,都市間幹線道路への接続道路等の新設・改修を実施することにより,交通・物流の円滑化及び地域内外との連結性強化を図り,もって同地域の経済活性化及び貧困削減,並びに平和の定着に寄与するもの。
- ア 主要事業内容
- (ア)都市間幹線道路への接続道路の新設(約73キロメートル)及び改修(約6キロメートル)
- (イ)マラウィ市内道路の舗装(約23キロメートル)
- (ウ)コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(うち据置)期間 調達条件 20,204万ドル 米ドル6か月LIBOR+105bp 25(7)年 アンタイド
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- 本計画の実施対象地域では,イスラム過激派の存在等,治安面での不安定要因が存在しているため,計画の円滑な実施のためには,ミンダナオ和平プロセスの安定的な進展が前提となる。本計画は,事業特性及び地域特性に鑑みて,環境への望ましくない影響が重大でないと判断されるため,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)上,カテゴリBに該当する。
- イ
- 環境許認可:本計画に係る環境影響評価報告書(EIS)は,2018年6月に環境天然資源省によって承認済みである。
- ウ
- 用地取得及び住民移転:本計画は,全サブプロジェクト合計で91世帯の非自発的住民移転が想定されており,住民移転及び用地取得はフィリピン国内手続き及びJICAガイドラインの要件を満たす住民移転計画に沿って実施される。住民移転に関する住民協議では,事業概要,補償及び支援の概要について説明がなされ,事業実施に係る特段の反対は確認されていない。
- エ
- 本計画の実施対象地域は,イスラム過激派の存在等,治安面での不安定要因が存在しているため,現地での施工は現地事情に精通した現地企業によって行われる想定である。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
フィリピン・ミンダナオ島の紛争影響地域は,年間を通して豊富な降水量や肥沃な土壌等,農業生産に適した自然条件を抱え,高い開発ポテンシャルを有しているが,長年の紛争によるインフラ投資の不足等が影響し,貧困率が全国平均22.1%に対し53.4%と全国平均の2倍以上であり当国内で最も高い(出典:フィリピン国家統計2015年)。特に,経済発展に資する道路網の整備が遅れており,同地域の道路密度が全国平均の半分以下の水準に留まるとされており,地域経済活性化及び貧困率削減のため,道路の新設・改修を通じた,交通・物流の円滑化及び地域内外との連結性強化が課題である(出典:2016年「バンサモロ開発計画II」)。
一方,同地域では,新たな自治政府(バンサモロ)の創設に向けた動きが本格化し,2019年1月には住民投票が行われるなど,和平プロセスが重要な局面を迎えている。このため,道路等,必要なインフラ整備を行うことで平和の配当を実現し,2022年に予定されている新自治政府発足に向けて,平和の定着を支援することが必要である。
フィリピン政府が策定した「ムスリム・ミンダナオ自治地域(ARMM)開発計画2017~2022」では,地域の社会経済成長を促すためにインフラ整備を加速するとしており,本計画の各サブプロジェクト(都市間幹線道路への接続道路の新設)は,ARMM開発計画の優先事業に位置付けられている。また,当国政府は「ビルド・ビルド・ビルド」政策の下,75の旗艦事業を定めており,本計画は同旗艦事業の一つでもある。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
- (ア)日本政府は,2017年10月の日フィリピン首脳会談に際し発表した「今後5年間の二国間協力に関する日フィリピン共同声明」において,ミンダナオ和平プロセスの進展に呼応し,ミンダナオ開発支援を強化していく方針を掲げ,本計画の迅速な案件形成・実施に協力していく方針を明示している。
- (イ)我が国の対フィリピン国別開発協力方針(2018年4月)は,「持続的経済成長のための基盤の強化」及び「ミンダナオにおける平和と開発」への貢献を重点分野として位置づけ,経済開発・コミュニティ開発等に貢献していく方針を掲げており,本計画は同方針に沿う取組である。
- (ウ)本計画はSDGsゴール1(貧困),8(成長・雇用),9(強靱なインフラ),16(平和)の達成にも貢献する。
(2)効率性
上記1(4)エのとおり,現地での施工は現地事情に精通した現地企業によって行われる想定であり,それにより事業の円滑な実施に努める。
(3)有効性
ミンダナオ和平の進展に合わせ,人々の生活の基盤となる道路網を整備することにより,平和の配当を実現し,地域経済活動の活発化,周辺住民の社会サービス(病院等)へのアクセス等が改善される。2026年(事業完成2年後)には,新設された道路において以下の利用が見込まれる。
- (ア)年平均日交通量(台/日):約9,000台/日
- (イ)旅客数(人/年):約2,000万人/年
- (ウ)貨物量(トン/年):約155万トン/年
- (注)各サブプロジェクトの合計値。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構より提出された資料。2010年度フィリピン国別評価(外務省ODA第三者評価)。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース,事業事前評価表
を参照。
なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。