ODA(政府開発援助)

平成30年11月22日

評価年月日:平成30年11月15日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子

1 案件概要

(1)供与国名

フィリピン共和国

(2)案件名

南北通勤鉄道延伸計画(第一期)

(3)目的・事業内容

 本計画は,マニラ首都圏における南北通勤鉄道(マロロス~ツツバン)を南方はラグナ州カランバまで,北方はパンパンガ州クラーク国際空港までそれぞれ延伸することにより,マニラ首都圏及び近郊における都市交通の連結性強化と交通渋滞の緩和を図り,もってマニラ首都圏の経済圏の拡大,投資環境の改善,大気汚染の改善や気候変動の緩和に寄与するもの。

  • ア 主要事業内容
    • (ア)鉄道システム・軌道工事
    • (イ)車両調達
    • (ウ)コンサルティング・サービス
  • イ 供与条件
    供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件
    1,671.99億円 年0.1% 40(12)年 日本タイド

    (注)金利は,本邦技術活用条件(STEP)を適用。コンサルティング・サービス部分は金利0.01%を適用。

(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

環境影響評価
 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月制定)に掲げる影響を及ぼしやすい特性に該当するため,カテゴリAに分類される。
 環境許認可:本計画に係る環境影響評価(EIS)報告書に対し,2018年8月に環境天然資源省(DENR)より環境許認可(ECC)を取得済み。
用地取得及び住民移転
 本計画は,約14,000世帯と約1,900人の事業主への影響が想定され,住民移転及び用地取得はフィリピン国内手続き及び国際協力機構ガイドラインを満たす住民移転計画に沿って手続きが進められる。移転対象の住民の大半は非正規住民であり,関係機関(国家住宅庁及び社会住宅金融公社)を通じて住民自身に移転地の選択の機会が与えられた上で住宅購入の機会が提供される。住民移転に関する住民協議では,本計画の概要及び補償・生活支援の概要について説明がなされている。移転実施段階においては住民移転計画に基づいて着実に移転が行われるよう,進捗状況のモニタリングを行う。
外部要因リスク
 特になし

2 資金協力案件の評価

(1)必要性

開発ニーズ
 マニラ首都圏は,人口が急増しており,国全体の人口の13%,GDPの36%が一極集中する国内最大の経済活動集積拠点となっている。また,マニラ首都圏に近郊のラグナ州,ブラカン州及びパンパンガ州を加えた人口は,1990年からの20年間で1,235万人から2,181万人に急増しており,マニラ首都圏への流入交通量が増加している。しかしながら,大量輸送手段としての軌道系公共交通の整備は遅れており,首都圏内の高架鉄道3路線の総延長は50キロメートルにとどまっている。このため,マニラ首都圏及び近郊の交通渋滞は日々深刻化しており,円滑な物流や人々の移動のボトルネックとなっている。
 マニラ首都圏の混雑を解消し,持続的な郊外開発を促進することは,首都圏及び近郊の質の高い成長において喫緊の課題となっているが,首都圏南方においては,マニラ市ツツバンからカブヤオ市ママティッドまでの区間を,運行数の少ない通勤線が非電化路線として運行しているのみである。首都圏北方においては,軌道系公共交通がなく,同地域の住民は,自動車交通の速度が終日時速20キロメートル未満にとどまる渋滞の中,バスや自動車等で通勤せざるを得ない。また,現在,マニラ国際空港の混雑を緩和するために,クラーク国際空港の拡張が進められており,さらにその北では米軍跡地を利用したニュー・クラーク・シティの再開発事業が進められている。これら計画により,今後,マニラ首都圏及びその近郊の通勤・高速移動需要はさらに高まることが予想されている。
 我が国は「南北通勤鉄道計画(マロロス~ツツバン)」(2015年11月に交換公文署名)により,マニラ首都圏近郊の北方のブラカン州のマロロス市とマニラ首都圏中心部のツツバンとを結ぶ区間(約38キロメートル)の整備を支援中であり,本計画は同区間の南方約57キロメートル及び北方約52キロメートルへの延伸となる。本計画により鉄道が延伸されることに伴い,マニラ首都圏及び近郊における都市交通の連結性強化と交通渋滞の緩和への貢献が期待されている。
 フィリピン政府は,国際協力機構が策定を支援した「マニラ首都圏の持続的発展に向けた運輸交通ロードマップ」(2014年)の中で,マニラ首都圏の南北軸となる大規模公共交通網の整備を最優先課題としている。また,現政権は,政権発足後「Build Build Build」プログラムを発表し,インフラ投資が過去50年間の平均でGDPの2.4%であったところ,2017年はGDPの5.4%まで引き上げ,2022年には7.3%にまで引き上げることを計画している。本計画は,同プログラムの旗艦プロジェクトに位置付けられている。
我が国の基本政策との関係
 2018年4月に策定した対フィリピン国別開発協力方針では,「持続的経済成長のための基盤の強化」を重点分野の一つとして位置付け,大首都圏及び地方都市を中心とした交通網ネットワークを始めとした質の高いインフラの整備に対する支援の実施を掲げており,本計画は同方針に沿う取り組みである。
 2017年1月,日フィリピン首脳会談において,安倍総理大臣は,今後5年間でフィリピンに対する1兆円規模の官民支援を表明しており,本計画はその着実な実施に寄与するものである。また,「今後5年間の二国間協力に関する日フィリピン共同声明」(2017年10月)において,日本政府は,マニラ首都圏の交通渋滞の抜本的な解決のために,本計画の整備及び実施に協力する方針を明示している。本計画はこの方針を具体化するものであり,我が国とフィリピンとの二国間関係の強化に資することが期待される。
 さらに,本計画は,SDGsゴール9(強靱なインフラの構築)及びゴール11(持続可能な都市)の達成に貢献すると考えられる。

(2)効率性

 本計画では,マロロス~ツツバン区間を含め,鉄道システム及び車両の統一した運用が予定されており,効率化が図られている。

(3)有効性

 本計画の実施により,カランバからクラーク国際空港までの所要時間が,現在の約240分から事業完成2年後の2027年に約120分に半減される。また,マニラ首都圏及び近郊における都市交通の連結性強化,大気汚染の改善,気候変動の緩和,マニラ首都圏の経済圏の拡大,これらを通じたフィリピンの投資環境の改善に貢献することが見込まれる。

3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用

 要請書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構より提出された資料。2010年度フィリピン国別評価(外務省ODA第三者評価)。
 案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース,事業事前評価表を参照。
 なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。

開発協力白書等報告書へ戻る