ODA(政府開発援助)

平成30年9月3日

評価年月日:平成30年7月19日
評価責任者:国別開発協力第二課長 寺田 広紀

1 案件名

1-1 供与国名

パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。)

1-2 案件名

ムルタン市気象レーダー整備計画

1-3 目的・事業内容

 本計画は,パキスタン中部のパンジャブ州ムルタン市において,気象レーダーシステムを整備することにより,災害を引き起こす気象現象の監視能力の強化及び気象・洪水情報や予警報の精度向上を図り,もって同国における自然災害による被害の軽減を通じた人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に寄与するもの。供与限度額は,20.42億円。

1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点

  • (1)治安・政情が極度に悪化しないこと。
  • (2)本計画は,JICA環境社会配慮ガイドラインにおいて,環境への望ましくない影響は最小限であると判断される。

2 無償資金協力の必要性

2-1 必要性

  • (1)パキスタン(一人あたり国民総所得1,510ドル)は,OECD開発援助委員会(DAC)の援助受取国リスト上,低中所得国に分類されている。
  • (2)同国は,北部に8,000メートル級の高い山々がそびえ,インダス川が国土の中央を縦断するという地形的特徴を有し,大雨の際は,洪水や鉄砲水,地滑り等の自然災害が発生しやすい。頻発する自然災害は,人命や財産を多数奪うのみならず,社会経済発展の阻害要因ともなっている。特に洪水は,同国における1982年~2016年の自然災害数(132件)の約6割,死者数(16,229名)の約7割,被災者数(69,881,589名)の9割以上を占めている(出典:Emergency Database)こともあり,特にモンスーン期の集中豪雨による洪水被害の軽減は,同国にとって喫緊の課題となっている。
  • (3)また,同国政府は,2005年10月に発生した北部大地震を契機として,自然災害に対する防災体制強化に向けて,国家防災令の公布,防災行政の中心となる国家防災庁の設置,我が国の技術協力による「国家防災計画」の策定等,国を挙げた取組を行ってきた。これら政策の下,自然災害による人的・社会的・経済的損失の軽減に向け,同国気象局(Pakistan Meteorological Department:PMD)の観測能力及び予警報精度を向上させ,自然災害の危険を事前に予測し,また,適切な対策をとるために,予警報をより迅速,かつ,適時・適所へ配信することが強く求められている。
  • (4)しかし,現状では,モンスーン期に集中豪雨をもたらす雨雲,積乱雲発達に伴う雷雨やインダス側に並行して連なるスライマーン山脈周辺での大雨についてのPMDの観測精度が低いため,洪水予警報の効果的な発信ができていない。特に,ムルタン市は,モンスーン期に集中豪雨をもたらす雨雲の進入路であり,積乱雲発達に伴う雷雨やスライマーン山脈周辺の豪雨の観測に最適な場所に位置しているにもかかわらず,現時点で稼働中の設備は,航空気象観測に特化したもののみであり,洪水予警報等に必要な適切な水準の観測精度が確保されていない。
  • (5)これら状況を踏まえ,本計画において,ムルタン市に新たな気象レーダーを整備することにより,パンジャブ州での精度の高い気象観測を可能とし,気象情報及び洪水予警報の安定的かつ持続的な国民への提供を可能とするものである。
  • (6)本計画は,同国の開発課題・開発政策に合致するとともに,我が国の開発協力方針における重点分野「人間の安全保障の確保と社会基盤の改善」にも合致する。さらに,持続可能な開発目標(SDGs)のゴール11(包摂的,安全,強靱な都市及び人間居住の構築)及びゴール13(気候変動とその影響への緊急の対処)に貢献する。
  • (7)我が国は,同国の安定した経済成長を通じて,持続的な社会の構築を達成するため,これまで,経済基盤の改善を始めとして,頻発する自然災害に対する防災能力の強化に繋がる支援を実施してきた。本計画の実施は,過去の日・パキスタン首脳会談の成果を含むハイレベルのコミットメントの着実な実施にも寄与するものである。

2-2 効率性

 我が国による関連支援との連携を図る他,UNESCO「津波予警報システム強化プロジェクト」及びアジア開発銀行「ラホール・マングラにおける気象レーダー設置計画」等の他ドナー実施事業との重複はないことを確認している。

2-3 有効性

 本計画の実施により,以下のような成果が期待される。

  • (1)2017年時点で既設の地上観測所(143か所)において,平均74.6キロメートル四方毎に1観測地点の観測密度で降水データを観測しているが,気象レーダー設置により,事業完成3年後(2025年)には,気象レーダーサイトから半径300~400キロメートル内において1キロメートル四方ごとに1データの観測が可能となり,観測密度が向上する。
  • (2)2017年時点で風の観測は30分間隔,雨量の観測は地上観測地点のみの1時間間隔であったが,気象レーダー設置により,事業完成3年後(2025年)には,気象レーダーの観測範囲において,10分間隔で突風及び大雨の観測が可能となり,突風及び大雨の観測能力が向上する。
  • (3)PMDによる関係機関等への正確な情報の提供が可能になり,災害軽減策の実施促進,二次災害防止に繋がる。

3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等

  • (1)パキスタン政府からの要請書
  • (2)パキスタン国別評価報告書(2014年度)
  • (3)JICA協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
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