ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成30年5月18日
評価年月日:平成30年4月19日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子
1 案件名
1-1 供与国名
トンガ王国(以下「トンガ」という。)
1-2 案件名
全国早期警報システム導入及び防災通信能力強化計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,トンガ全土において,防災無線システム,音響警報システム及びトンガ放送委員会(TBC)放送局の機材・施設を整備することにより,自然災害にかかる警戒情報や安全情報の迅速な伝達を図り,もって自然災害による被害の軽減に寄与する。供与限度額は,28.37億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- (1)環境社会配慮:特になし
- (2)外部要因リスク:特になし
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)トンガは,世界リスク報告書(国連大学,2016)においてバヌアツ共和国に続き世界で2番目に災害リスクが高い国と報告されており,毎年のようにサイクロンの脅威に晒されている。
2014年1月にはサイクロン「イアン」が同国ハアパイ島を襲い,88%の家屋が大破し,約5,000人(国民の約5%)が被災した(Tropical Cyclone Ian Response Plan 2014)。また,2016年2月には,サイクロン「ウインストン」がババウ島に襲来し,約2,500人が被災した(European Civil Protection and Humanitarian Aid Operations Daily Flash 2016)。さらに,2018年2月には,サイクロン「ジータ」が襲来し,水道や電力などのライフラインが止まるなど国民の生活に多大な支障を来している。加えて,地震の巣と呼ばれるトンガプレートが東沿岸近郊に位置し,地震も恒常的に発生しており,それに伴う津波発生リスクが高い環境にある。
諸島の地形も様々であり,首都のあるトンガタプ島(約75,000人),観光客の多いハアパイ島(約6,000人)などは平坦な地形であり,津波や高潮などの発生時において,指定避難場所への迅速な移動ができるよう,警戒情報・安全情報を住民に迅速に伝える必要がある。 - (2)トンガ政府は,緊急災害時対応の手順を有しているものの,トンガ気象局から情報配信機関への確実な通信や住民への直接的な情報伝達をするために必要な機器に不備があり,また,上記の情報伝達などを行うTBC放送局の設備老朽化のため,効果的な運用が行えていない。加えて,離島への連絡体制がハード・ソフト面ともに整備が不十分であることなど,現状様々な問題を抱えており,住民避難等に係る対策に遅れが出ている。トンガ政府は,2015年から2025年までの枠組として,「トンガ戦略的開発フレームワーク2」を策定し,2025年までに自然災害の脅威から人命を守ることを目標に,ハザードマップの作成,緊急時行動計画の策定等を行っている。10年間の主要なインフラ投資計画である「トンガ国家基盤投資計画2013」では,気候変動・適応及び災害危機管理の向上が重要事項となっている。
- (3)本計画により,トンガ全土において,防災無線システム,音響警報システム及びTBC放送局の機材・施設を整備することにより,自然災害に係る警戒情報や安全情報の迅速な伝達が可能になり,もって自然災害による被害の軽減に寄与する。これは,我が国の対トンガ国別援助方針における重点分野「環境・気候変動」に合致する。
- (4)本計画は,2015年3月の国連防災世界会議で我が国が発表した「仙台防災協力イニシアティブ」において,自国の知見と技術を活かした国際貢献の実現に資するとともに,自然災害リスクの高い太平洋島嶼国における生命財産の安全保障の観点からも重要であり,第7回太平洋・島サミット「福島・いわき宣言」で表明された日本政府による対大洋州支援方針にも沿うものである。更に,SDGsゴール11「包摂的,安全,強靭で,持続可能な都市と人間住居の構築」及びゴール13「気候変動とその影響への緊急の対処」の実現にも貢献する。
2-2 効率性
- (1)本計画のなかで,機材の運営・維持管理能力向上に関する研修やコミュニティの危機管理体制強化のための啓発活動・避難訓練などを実施することにより,本計画で整備される機材の活用や情報伝達体制の強化が期待される。
- (2)建設資機材は,トンガ国内での調達を基本とする。なお,品質の確保に不安がある資材や免税措置により安価に調達できる輸入品は,日本又は第三国調達も検討する。
2-3 有効性
本計画の実施により,以下の成果が期待される。
- (1)防災無線伝達対象組織数が5(2017年実績値)から19(2023年,事業完成3年後)に増加する。
- (2)津波ハザード地域におけるサイレン音到達人口カバー率(%)(サイレン音到達人口(人))が,19.0%(12,906人)(2017年実績値)から100.0%(66,945人)(2023年,事業完成3年後)になる。
- (3)トンガ気象局から住民への津波警報到達所要時間が最大90分(2017年実績値)から8分以下(2023年,事業完成3年後)になる。
- (4)防災専用通信網が整備されることによる ア 緊急時の情報伝達の安定化・迅速化,イ 平時・災害時における中波ラジオ放送の継続的な放送,災害情報伝達円滑化による防災体制の改善,ウ 情報伝達の安定化・迅速化及び防災体制の強化が図られることにより,人的および資産の被害リスクが軽減する。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)トンガ政府からの要請書
- (2)JICAの準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)太平洋島嶼国国別評価(2008年度)
- (4)太平洋島嶼国のODA案件に関わる日本の取組の評価(2015年度)