ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
評価年月日:平成29年11月5日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一
1 案件名
(1)供与国名
ヨルダン・ハシェミット王国(以下,「ヨルダン」という。)
(2)案件名
北部シリア難民受入地域廃棄物処理機材整備計画
(3)目的・事業内容
ヨルダン北部のシリア難民受入地域において,廃棄物処理に係る中継基地及び最終処分場に必要な機材の整備を支援することにより,廃棄物処理状況の改善を図り,もって同難民受入地域の衛生・生活環境改善ひいては地域の安定化に寄与するもの。供与限度額は16億3,100万円である。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
以下の事項がヨルダン政府により実施される必要がある。
- ア 本計画における先方負担事項として,機材の運営維持管理に要する人員・予算が確保されること。
- イ 本計画で機材を設置する施設のうち新設となる国連開発計画(UNDP)が支援予定のジェラシュにおける中継基地の建屋建設工事が遅滞なく実施されること。
- ウ 対象地域の治安が急速に悪化しないこと。
2 無償資金協力の必要性
(1)必要性
2011年3月に始まったシリア危機の影響で,ヨルダンには多くのシリア難民が流入している。2017年6月現在,同国で国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に登録されているシリア難民は約66万人で,トルコ,レバノンに次ぐ,シリア難民受入国となっている。同国に避難してきたシリア難民の約8割は,ホストコミュニティで生活しているが,首都アンマン及びシリア国境に近い北部地域で難民の受け入れが多く,特にアンマン県(ヨルダン国内のホストコミュニティで生活するシリア難民の35.2%,以下同じ),イルビッド県(26.5%)次いでマフラック県(15.4%)等に集中している。これら地域では,難民流入による人口増加に伴い,廃棄物発生量が増加しており,加えて廃棄物処理機材の不足や老朽化により,廃棄物の収集・処理・処分能力が十分でないため,不法投棄の増加,廃棄物の不適正処分や野焼きの増加等を招いており,環境汚染や衛生面等での問題が発生している。
ヨルダン政府は,Jordan Response Plan 2017-2019(以下,「JRP」という。)を策定し,シリア難民受入に伴う開発ニーズの確認や脆弱性評価を実施しており,その中で廃棄物問題への対応の必要性を指摘している。国際機関や各ドナーも,シリア難民受入地域を中心に廃棄物処理セクターへの支援を続けているものの,開発支援ニーズは増え続けている。
本計画は,難民流入による廃棄物増加の影響を多大に受けている北部地域(イルビッド県,マフラック県,アジュルン県,ザルカ県,バルカ県,ジェラシュ県)において,廃棄物処理に係る中継基地,最終処分場の機材整備を支援するものであり,JRPにおいて,シリア難民を含め対象地域に居住する地域住民の衛生・生活環境改善に貢献するものとして位置付けられている。
2017年9月に行われた日・ヨルダン首脳会談では,安倍総理からアブドッラー国王に対し,ヨルダンの社会的・経済的安定のため,引き続きあらゆる可能な支援を行う旨表明しており,また,我が国は2016年5月のG7伊勢志摩サミットの機会に,中東地域安定化のための包括的支援を表明しており,本計画はこれを具体化するものとなる。
(2)効率性
- ア ヨルダン政府との協議を通じ,要望のあった対象中継基地・処分場25か所を全て調査し,優先度を見極め,最終的に10箇所に絞り込み,適正な規模かつ効率的な事業となるよう計画したほか,要請機材の使用目的を考慮し,廃棄物管理に必要な機材を優先的に絞り込むと同時に,各実施機関が保有する機材の年式・状態を調査した上で,目標年(2022年)に適切な廃棄物処理ができるよう必要最低限の機材台数とするなど,コスト縮減を図った。
- イ ジェラシュ中継基地については,UNDPが先行して中継基地の建屋を2018年8月までに建設し,2019年8月に本計画で屋内型圧縮装置の据付を行うなど役割分担を明確化した。
(3)有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- ア 定量的効果として,基準値(2017年実績値)から目標値(2022年:事業完成3年後)への推移として,(ア)中継運搬量は374(トン/日)から1,073(トン/日),(イ)最終処分量は2,625(トン/日)から3,977(トン/日)になると見込まれる。
- イ 定性的効果として,北部地域における処分場の周辺環境に対する悪影響(悪臭・ごみの飛散・火災等)が軽減され,同地域の衛生・生活環境が改善される。また,北部シリア難民受入地域に十分な収集サービスが提供されることによって,同地域の難民の生活環境が改善される。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)ヨルダン政府からの要請書
- (2)JICAの協力準備調査報告書(JICAを通じて入手可能)
- (3)JICAの事業事前評価書
- (4)相対的に所得水準の高い国に対する無償資金協力の評価(2014年度)