ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成30年4月6日
評価年月日:平成30年2月28日
評価責任者:国別開発協力第三課長 大場 雄一
1 案件概要
(1)供与国名
イラク共和国
(2)案件名
灌漑セクターローン(フェーズ2)
(3)目的・事業内容
主にチグリス・ユーフラテス川流域において,灌漑・排水設備及び農地の整備・復旧を実施することにより,農業生産量の増加を図り,もってイラクの経済・社会復興に寄与するもの。
- ア 主要事業内容
- 土木工事,資機材調達
- コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件 154.65億円 円LIBOR+15bp 25(7)年 一般アンタイド (注)下限金利は,年0.1%。また,コンサルティング・サービス部分の金利は0.01%を適用。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア
- EIA(環境影響評価):本計画は,JICAの融資承諾前にサブ・プロジェクトが特定できず,かつ想定されるサブ・プロジェクトが環境に影響を及ぼすことが想定されるため,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)上,カテゴリFIに該当する。このため,サブ・プロジェクト特定後,イラク実施機関が円借款で雇用されるコンサルタントの支援を受けつつ,イラク国内法及び「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」に基づき,各サブ・プロジェクトについてカテゴリ分類を行い,該当するカテゴリに必要な対応策をとることとなっている。なお,想定されるサブ・プロジェクトにカテゴリA案件は含まれない。
- イ
- 用地取得及び住民移転:本計画により用地取得及び住民移転は伴わない。
- ウ
- 外部要因リスク:イラク政府は「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」からの全土解放宣言を表明しているが,ISIL分子の休眠細胞等によるテロ等の脅威は,本計画対象地域において引き続き存在しており,本計画のサブ・プロジェクト実施においてイラク政府と事業実施業者,国際協力機構等が連携して安全対策を行うことで,治安上のリスクに対応する。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア
- 開発ニーズ
イラクの農業セクターはGDPの一割近くを占める非石油部門の主要産業である。イラクにおいては,油価が低迷する中,産業の多角化が急務であり,失業問題が深刻化する中,農業以外に就労の機会に乏しい地方部では,農業セクターが有望な雇用吸収先として期待されている。一方,イラクの国土の大部分が年間降水量250ミリメートル以下の砂漠気候に属し,多くの地域で灌漑農業が不可欠であるにもかかわらず,灌漑排水施設の老朽化,灌漑農地での塩類集積などの問題があり,農業の生産性は低いままである。また,灌漑用水の主な取水源であるチグリス・ユーフラテス川は,流量減少や不適切な水資源管理により,利用可能水量の減少が確認されており,今後,灌漑耕作地面積の一層の減少が懸念されている。
このような状況の中,チグリス・ユーフラテス川流域における水資源の効率的利用へのニーズは高く,灌漑排水施設の整備・改修による配水効率の改善,灌漑農業の拡大が喫緊の課題となっている。 - イ
- 我が国の基本政策との関係
我が国は,対イラク国別開発協力方針(平成29年7月)において,イラクに対し,「経済成長のための産業の振興と多角化」,「経済基礎インフラの強化」,「生活基盤の整備」及び「ガバナンス強化支援」を重点分野として協力していくこととしている。また本計画は,非石油部門の主要産業である農業分野の生産性向上に寄与するものであり,「経済成長のための産業の振興と多角化」に合致する。
本計画により,イラクにおける農業生産性の向上並びに産業の多角化を図り,経済活性化に貢献することは,イラクの安定化にも資することから,外交上の戦略的意義が認められる。
(2)効率性
我が国は,灌漑・農業セクターにおいて,水利組合の設立,灌漑・排水施設の水管理及び維持管理体制等に係る国際協力機構の技術協力(研修等)を実施しており,当該分野での相乗効果と本計画の効率的な実施が見込まれる。
(3)有効性
本計画では,新規灌漑・排水設備の整備,既存の灌漑・排水設備のリハビリテーション,水利組合の活動に必要な小規模灌漑・排水施設の整備等を行う予定であり,本計画の実施により,灌漑耕作地面積の拡大及び水資源の有効活用による農業生産性の向上及び農業生産量の増加が見込まれ,もって,イラクの経済・社会復興に寄与することが期待される。(サブ・プロジェクト確定後に,ベースライン調査を実施し,基準値及び目標値を設定予定。)
さらに,イラクの経済・社会の発展を通じた我が国との二国間関係の強化が期待される。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
要請書,国際協力機構環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構より提出された資料。
案件に関する情報は,交換公文締結後公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構のプレスリリース及び事業事前評価表
を参照。
なお,本計画に関する事後評価は実施機関である国際協力機構が行う予定。