ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成29年11月15日
評価年月日:平成29年11月7日
評価責任者:国別開発協力第一課長 岡野 結城子
1 案件概要
(1)供与国名
フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)
(2)案件名
マニラ首都圏地下鉄計画(フェーズ1)(第一期)
(3)目的・事業内容
マニラ首都圏において地下鉄を整備することにより,増加する輸送需要への対応を図り,もってマニラ首都圏の深刻な交通渋滞の緩和に資するとともに,大気汚染や気候変動の緩和を図るもの。
- ア 事業内容
- 土木工事
- 鉄道システム
- 車両調達
- コンサルティング・サービス
- イ 供与条件
供与限度額 金利 償還(据置)期間 調達条件 1,045.30億円 年0.1% 40(12)年 日本タイド (注)STEP(本邦技術活用条件)を適用。但し,コンサルティング・サービス部分は金利年0.01%を適用。
(4)環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
- ア 本計画は,「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年4月公布)に掲げる鉄道セクター及び影響を及ぼしやすい特性(大規模非自発的住民移転)に該当するため,カテゴリ分類はA。
- イ 1,123世帯への影響が想定され,住民移転及び用地取得はフィリピン国内手続き及びJICAガイドラインの要件を満たす住民移転計画に沿って実施される。
- ウ 外部要因リスクは特になし。
2 資金協力案件の評価
(1)必要性
- ア 開発ニーズ
- (ア)マニラ首都圏は620平方キロメートルと比較的小さな都市地域であるにも拘わらず,人口が年間1.8%の割合で増加しており,1990年の792万人から2015年には約1.6倍の1,287万人に達した。しかしながら,大量輸送手段としての軌道系公共交通の整備は遅れており,首都圏内の高架鉄道三路線(うち,二路線は軽量)の総延長は50キロメートルにとどまり,交通渋滞が深刻化している。渋滞による社会的費用は,1日あたり24億ペソ(1ペソ=約2.2円(2017年11月時点))に達すると試算されるなど,フィリピンの国際競争力を低下させる要因となっている。
- (イ)フィリピン政府は,2017年にインフラ計画「Build Build Build」を発表し,同計画において,過去50年間のインフラ投資は平均でGDPの2.4%であったが,2017年はGDPの5.4%にすることを目指しており,「マニラ首都圏地下鉄計画」を同インフラ計画の最優先事業に位置付けている。
- イ 我が国の基本政策との関係
- (ア)我が国の対フィリピン共和国国別援助方針(2012年4月)は,「投資促進を通じた持続的経済成長」を重点分野として掲げ,「大首都圏を中心とした運輸・交通網整備等」に対する支援を実施することとしている。また,対フィリピン共和国JICA国別分析ペーパー(2014年11月)では,「大都市圏を中心としたインフラ整備」を重点課題としており,本計画は右方針・分析に基づく案件である。
- (イ)本計画は,マニラ首都圏において地下鉄を整備することにより,増加する輸送需要への対応を図り,マニラ首都圏の深刻な交通渋滞の緩和に資するものであり,SDGsゴール9(強靱なインフラの構築)に貢献すると考えられることから,事業実施の必要性は高い。
- ウ 二国間関係等
2017年1月の日フィリピン首脳会談において,安倍総理大臣は今後5年間でフィリピンに対する1兆円規模の官民支援を表明しており,本計画はその着実な実施に寄与するものの一つである。
(2)効率性
- ア 我が国は,これまでに「LRT1号線増強計画(I)(II)」,メトロマニラ大都市圏交通緩和事業(I)(II)「マニラ首都圏大量旅客輸送システム拡張計画」及び「南北通勤鉄道計画(マロロスーツツバン)」等の支援を行ってきており,フィリピンの旅客輸送・システム整備におけるもっとも重要なパートナーとなっている。
- イ 本計画では,都心部での地下土木工事手法,駅構内諸設備(ホームドア,自動改札,昇降設備等),安全性・定時性の高い信号システム,軽量で省エネルギー効果の高い車両等に係る本邦活用技術を活用する予定である。また,有償勘定技術支援による詳細設計・入札図書(案)策定等を想定している。
- ウ フィリピン政府は鉄道人材育成のためにフィリピン鉄道訓練センター(以下,「PRI」という。)の設立を検討しており,これに対し,我が国は円借款付帯プロジェクトや無償資金協力等による支援を検討している。本計画の運営・維持管理主体はPRIで基礎訓練を受けることが想定されており,これらの連携により,本計画での効率性を確保する。
(3)有効性
本計画の実施により,フィリピン首都圏の運輸・交通網の整備が進展することが期待される。運用・効果指標として,2027年(事業完成2年後)に,1日あたりの乗降者数は約50万人,運行数(列車本数/日)は94本,ミンダナオアベニュー駅からFTI駅間の所要時間は,現在自動車では約2時間のところ急行列車で約30分となる見込みである。また,定性的効果として,地下鉄沿線における公共交通指向型(TOD)開発,マニラ首都圏の深刻な交通渋滞の緩和,大気汚染及び気候変動の緩和に貢献する見込みである。
3 事前評価に用いた資料,有識者等の知見の活用
- (1)フィリピン国別評価報告書(2010年度),国際協力機構(JICA)環境社会配慮ガイドライン,その他国際協力機構(JICA)から提出された資料。
- (2)案件に関する情報は,交換公文締結後に公表される外務省の約束状況に関する資料及び案件概要,借款契約締結後公表される国際協力機構(JICA)のプレスリリース及び事業事前評価表を参照。
- (3)なお,本案件に関する事後評価は実施機関である国際協力機構(JICA)が行う予定。