ODA(政府開発援助)
政策評価法に基づく事前評価書
平成29年3月24日
評価年月日:平成29年3月6日
評価責任者:国別開発協力第一課長 原 圭一
1 案件名
1-1 供与国名
フィリピン共和国
1-2 案件名
違法薬物使用者治療強化計画
1-3 目的・事業内容
本計画は,フィリピンの違法薬物使用者更生及びリハビリテーション支援に対し,治療施設及び関連ガイドラインや啓発活動ガイドライン及び広報資料の作成等の整備への財政支援を行うことにより,フィリピン保健省による違法薬物使用者の治療体制・政策を強化し,フィリピンの脆弱性の克服と生活・生産基盤の安定に寄与することを目的とするものである。供与額は,18.5億円。
1-4 環境社会配慮,外部要因リスクなど留意すべき点
以下の事項がフィリピン政府により実施される必要がある。
迅速かつ円滑な実施のための事業実施状況のモニタリングの確保。
2 無償資金協力の必要性
2-1 必要性
- (1)フィリピン共和国では,違法薬物使用者が約300万人に上るとされ,社会経済的に大きな課題となっている。当国政府は,「薬物対策国家行動計画2015-2020」を制定し,違法薬物対策に取り組んできているが,逮捕者数に対し,治療施設の数,治療プログラム,社会復帰のための体制等が不十分な状況にある。かかる状況下,現政権による違法薬物の取締強化により,現時点で約8万人を超える(国連薬物・犯罪事務所(以下,「UNODC」という。)資料)人々がリハビリセンターでの治療を必要としているとみられている。
- (2)一方,フィリピン全土で保健省(DOH)の許認可を受けたリハビリセンターは44か所,収容可能人数は3,339人に留まることから,違法薬物使用者の治療ニーズに対応できていない状況である。また,リハビリセンターの運営や治療プログラムも不充分な水準・内容にとどまっている。当国政府は,2016年10月にリハビリセンター整備・支援に係る大統領令(Executive Order No.4 ”Providing for the Establishment and Support of Drug Abuse Treatment and Rehabilitation Centers throughout the Country”)を発出し,関係省庁の大臣・次官レベルからなるタスクフォース(以下,「TF」という。)を組織した。こうした取り組みを後押しするとともに,リハビリセンターの整備,社会復帰のための中間治療施設,これらの運営ガイドライン,効果的な治療プログラム,再犯防止策の導入等を図ることが今後の緊急の課題となっている。
2-2 効率性
- (1)違法薬物使用者の治療ニーズへの迅速かつ円滑な対応
フィリピン政府が違法薬物使用者の治療ニーズに対応できない現状において,フィリピン保健省に対して財政支援を行うことにより,同保健省の違法薬物の治療体制・政策の迅速な実施を支援する。また,現在フィリピン保健省に派遣中のJICA専門家「保健アドバイザー」や今後開始予定のJICA技術協力専門家等,在フィリピン日本大使館及びJICA事務所を通じ,フィリピン保健省と連携を図り,治療政策の円滑な実施を行う。 - (2)その他のスキームや他ドナーとの連携
現在,JICAは治療プログラム作成やその指導者育成を目的とした技術協力支援を検討中であり,本計画と併せてフィリピンにおける違法薬物使用者更生・リハビリテーション支援の相乗効果を図る。また,EUは専門家を派遣し中間治療施設運営のためのガイドラインを作成中であり,本計画においてこのガイドラインがフィリピン政府によって承認・実践されるよう政策改革を支援する。
2-3 有効性
本計画の実施により,以下のような成果が期待される。
- (1)既存及び新規に建設される治療施設において,政府承認を受けた新運営・設計ガイドラインが適用される。同ガイドラインが適用された施設の割合は0%(2016年)から100%(2023年:事業完成3年後)になる。
- (2)フィリピン保健省の違法薬物使用者の治療体制・対策を強化することにより,違法薬物使用者の減少による治安の改善や生産人口の増加をもって当国の脆弱性の克服と生活・生産基盤の安定化が期待できる。
3 事前評価に用いた資料及び有識者等の知見の活用等
- (1)フィリピン共和国政府からの要請書
- (2)JICAの概要資料(JICAを通じて入手可能)
- (3)フィリピン国別評価(2010年度)