ODA(政府開発援助)
世界のどこにもないまったく新しい技術を作り上げる
将来的なキハダマグロの完全養殖に向けて
原稿執筆 在パナマ日本国大使館
準絶滅危惧種「キハダマグロ」を救え
海外で日本文化への関心が高まっている近頃だが,日本文化と言えば和食,和食と言えば寿司,そして寿司と言えばマグロ。そう,日本文化と言えばマグロ,とも言えるこのマグロについて皆さん,どのくらいご存じであろうか。
マグロ,と聞くと日本ではクロマグロがすぐに思い出されるかも知れないが,実は世界のマグロ総漁獲量で見ると約65パーセントは,キハダマグロが占めている。このキハダマグロは,ツナ缶の原料として日本ではもちろん,世界中で人気がある一方,乱獲によって絶滅が危惧されている種(準絶滅危惧種)でもある。
キハダマグロは,東太平洋沿岸国でみるとメキシコに次いでパナマで大きく捕獲されており,捕獲したキハダマグロの輸出は,パナマ経済の中で重要な役割の1つを担っている。キハダマグロが絶滅すれば,パナマ経済に大きな打撃を与えることに。そこでパナマ水産資源庁は,マグロ資源の管理のために,近畿大学と共同でキハダマグロの資源管理についての研究を行うべく,日本政府へ技術協力を要請した。
大学と連携,日本の技術で夢の完全養殖を!


近畿大学は2002年,世界で初めてクロマグロの「完全養殖」(注)に成功しており,その技術と経験をキハダマグロに応用するため,2011年4月から5年間の計画で技術協力が開始した。
この技術協力は,パナマのアチョチネス研究所において,産卵条件,各成長段階に必要な栄養,飼育方法等について室内の大型水槽と海上の生け簀を利用して進められ,2015年6月には世界で初めて,キハダマグロの稚魚を海上生け簀へ移す作業が行われた。この様子は報道関係者に取材され,アチョチネス研究所は「マグロの聖地」としてパナマの新聞に大きく取り上げられた。
これら研究結果をクロマグロの生態と比較することで,未だ謎の多いマグロ類の生態解明に大きく貢献し,将来的にキハダ・クロマグロを含めたマグロの完全養殖方法が確立すれば,みなさんの食卓にマグロがたくさん並ぶ日も遠くないかもしれない。その時は,パナマでキハダマグロの養殖について技術協力が行われていた事を少しでも思い出してもらえると幸いである。
(注)「完全養殖」とは,卵から人工孵化させた稚魚を育て,成魚となった後に産卵させ,その卵を再び人工孵化するというサイクルのことで,外洋の幼魚を捕獲して育てる「畜養」とは異なり,海洋資源に負荷をかけない循環型の養殖方法である。