ODA(政府開発援助)

平成30年11月2日

原稿執筆 在リオデジャネイロ日本国総領事館

スラム街の現実に柔道で立ち向かう

(写真1)ブラジル代表監督も務めたジェラルド・コーチと供与した柔道着を着た各世代の選手たち ブラジル代表監督も務めたジェラルド・コーチと
供与した柔道着を着た各世代の選手たち
(写真2)供与された畳の上で準備体操をする子供たち 供与された畳の上で準備体操をする子供たち

 2016年リオ五輪のメイン会場だったオリンピック・パークから,北東に車で約10分の距離に位置するスラム街「シダージ・ジ・デウス(意味:シティ・オブ・ゴッド)」。
 軍隊・警察と麻薬組織との衝突による銃撃戦が頻発する,リオ市内で最も治安の劣悪なスラム街の一つです。2002年のアカデミー賞ノミネート映画「シティ・オブ・ゴッド」でも有名となったこの地区は,昨年,銃撃戦の影響で教育施設が最も多く閉鎖された地域でもあります。

 その「神の街」で,約300名の子供たちが,NGO団体「インスティトゥート・ヘアソン」が整備した道場に通っています。2016年のリオ五輪では,この地区で育ち,この道場で練習を積んだラファエラ・シルバ選手が見事に金メダルを勝ち取りました。道場に通う子供たちは,ラファエラ選手を模範に,未来の金メダルを目指し柔道に取り組んでいます。また,リオ五輪に史上初の難民選手団として参加したポポロ・ミセンガ選手,ヨランデ・マビカ選手も,東京2020オリンピックへの出場を目指し,ここでトレーニングを行っています。

畳の外でも一本を

 このNGO団体名となっている「ヘアソン(意味:リアクション)」という言葉には,貧困地区の厳しい現実に押しつぶされずに,柔道の練習のように,何度倒されても起き上がり立ち向かっていくという気持ちが込められています。合言葉「尊厳を持って社会で生きるための精神的な力を,柔道を通じて身に付け,実生活でも畳の上でも金メダルを目指す」の下でのここでの柔道は,必ずしも十分とは言い難い初等教育機関を,モラルの面から補完する非常に重要な役割を担っているのです。

一人でも多くの子供たちへ

(写真3)供与した超音波治療器具で,膝の炎症を緩和するための治療をするリオ五輪難民選手団のポポロ・ミセンガ選手 供与した超音波治療器具で,膝の炎症を
緩和するための治療をする
リオ五輪難民選手団のポポロ・ミセンガ選手
(写真4)柔道ブラジル代表100キロ超級のフアン選手。怪我の治療のため,供与した理学療養機器を毎日使用している。 柔道ブラジル代表
100キロ超級のフアン選手。
怪我の治療のため,
供与した理学療養機器を
毎日使用している。

 日本政府は2016年に,草の根文化無償資金協力を通じて,一人でも多くの子供たちが柔道に取り組むことのできる環境を整備するため,畳・柔道着・理学療養機器・トレーニング機器を同NGO団体に供与しました。

 それまでの畳は借り物を使用しており,道着の数も足りていませんでした。理学療養器やトレーニング機器も導入することで,子供たちや競技レベルの選手の怪我の予防や,早期の怪我からの回復に向けた取り組みも可能となりました。

(写真5)総領事館の日本文化講座で折り紙を初体験 総領事館の日本文化講座で折り紙を初体験
(写真6)柔道のデモンストレーションを行う子供たち 柔道のデモンストレーションを行う子供たち

 今年からは,柔道の祖国に興味を持つ子供たちに日本について学んでもらうため,在リオデジャネイロ総領事館による日本の紹介(地理・風土・文化・食・祭り等)や折り紙のワークショップ等の教育広報も始まりました。一人でも多くの子供たちに柔道を通じて尊厳を持った人生を生きることを教えたい,そのような団体の気持ちに寄り添って,日本政府の支援は行われています。

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