外交青書・白書
第1章 国際情勢認識と日本外交の展望

2 日本外交の展望

国際社会が歴史の転換期に差しかかり、パワーバランスの変化と地政学的競争が激しさを増す一方で、気候変動や感染症など地球規模課題は、人類の生存そのものを脅かすものであり、価値観や利害の相違を超えて、国際社会が全体として協力して解決策を模索することが求められている。このように国際関係は対立や競争と協力の様相が複雑に絡み合う状況にある。こうした状況において、日本は、自国及び国民の安全と繁栄を確保し、自由、民主主義、基本的人権の尊重といった普遍的価値を増進し、国際社会の多様性を念頭に包摂的なアプローチで、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持発展させるため、力強く、きめ細やかな外交を進めていかなければならない。

日本は、戦後一貫して平和国家としての道を歩み、アジア太平洋地域や国際社会の平和と繁栄に貢献し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に取り組んできた。また、各国の多様性を尊重しながら、あらゆる国との間で、同じ目線に立って共通の課題を議論し、相手が真に必要とする支援を行う「きめ細やか」な外交を展開してきた。さらに、多角的貿易体制の下で今日の繁栄を築きながら、自由貿易の旗振り役としてルールに基づく自由で公正な経済秩序を推進してきた。同時に、人間の安全保障の理念に立脚した開発途上国への協力を行い、能力構築支援などを通じて持続可能な開発目標(SDGs)の達成も含めた地球規模課題に取り組んできた。核軍縮・不拡散や国際的な平和構築の取組にも積極的に貢献してきた。

こうした努力により世界から得た日本への「信頼」は、今日の日本外交を支える礎となっている。

しかし、これまで国際社会の平和、安全、繁栄を支えてきた法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は、パワーバランスの歴史的変化と地政学的競争の激化に伴い、重大な挑戦にさらされている。日本の周辺でも力による一方的な現状変更の圧力が高まっており、日本は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。このような環境に対応するため、2022年12月に「国家安全保障戦略」などを策定した。同戦略の下、日本は、防衛力の抜本的強化に裏打ちされた力強い外交を展開し、経済力・技術力・情報力を含む総合的な国力を最大限活用して、国際社会の期待と信頼に応えつつ、日本自身の平和と繁栄を確保していく。

岸田内閣は、基本方針として、普遍的価値を守り抜く覚悟、日本の平和と安全を守り抜く覚悟、そして、地球規模の課題に向き合い国際社会を主導する覚悟を持って、外交・安全保障を展開することを掲げてきた。これら「三つの覚悟」を持って、厳しさと複雑さを増す国際情勢の中で、対応力の高い、「低重心の姿勢」で、引き続き日本外交を進めていく。2023年は、日本がG7議長国、そして安保理非常任理事国を務める。日本として、国際社会と緊密に連携し、山積する国際社会の課題の解決を主導するため取り組んでいく。

(1)法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化

第一に、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するための取組を更に推進する。

(ア)同志国連携の強化

ロシアによるウクライナ侵略に際し、緊密に連携し、最も効果的に対応してきたのがG7である。日本が2023年5月にG7議長国として開催する広島サミットでは、力による一方的な現状変更の試みやロシアの核兵器による威嚇、その使用を断固として拒否し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7の確固たる意志を示していく。同時に、エネルギー・食料安全保障を含む世界経済、ウクライナやインド太平洋を含む地域情勢、核軍縮・不拡散、経済安全保障、また、気候変動、保健、開発などといった地球規模の課題などへの対応を主導していく。

日米豪印での連携も格段に強化してきた。力による一方的な現状変更をいかなる地域においても許さないとの決意を示しながら、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた幅広い分野の実践的協力を進めていく。

また、この歴史の転換期において、FOIPの重要性は一層高まっている。日本は、外交的取組を強化する新たなFOIPプランを進め、また、日米豪印に加え、東南アジア諸国連合(ASEAN)や欧州、大洋州、中南米などのパートナーとの間で、FOIPの実現に向けた連携を強化する。特に、友好協力50周年を迎えるASEANとは、2023年12月を目処(めど)に東京で開催する特別首脳会議の機会に、日・ASEAN関係の将来のビジョンを打ち出す考えである。

(イ)ルールに基づく自由で公正な経済秩序の拡大

ルールに基づく自由で公正な経済秩序は、日本はもちろん、世界の成長と繁栄の基盤である。引き続き、自由貿易の旗振り役としてのリーダーシップを発揮し、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)のハイスタンダードの維持や地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の完全な履行の確保に取り組み、世界貿易機関(WTO)改革を主導する。デジタル分野でも、「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」の推進に向け、WTO電子商取引交渉など、国際的なルール作りで中心的な役割を果たす。インド太平洋地域に持続的・包摂的な経済成長をもたらす重要な枠組みであるインド太平洋経済枠組み(IPEF)においても、IPEF参加国と緊密に連携しながら、早期に具体的成果につながるような枠組み作りに貢献していく。

日本企業の海外展開支援にも積極的に取り組み、日本産食品に対する輸入規制措置の全廃に向け、政府一丸となって働きかけていく。また、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の成功に向け引き続き力強く取り組む。

(ウ)国連機能の強化

ロシアによるウクライナ侵略に直面し、国連と安保理は試練を迎えている。しかし、分断と対立の様相を深める時代だからこそ、193か国が加盟し、多国間主義の下、国際社会の総意を映し出す国連の意義は大きい。また、現下の国際社会の混迷から抜け出す上で、主権尊重、領土保全、武力行使の一般的禁止などを掲げる国連憲章の理念と原則に立ち戻ることが極めて重要である。それゆえ日本としては、国連が本来の責任を果たせるよう、各国との緊密な対話を通じて安保理改革を含む国連全体の機能強化に積極的に貢献していく。安保理改革に向けては、議論のための議論ではなく、行動が必要である。日本、ドイツ、インド、ブラジルのG4に加え、米国、英国、フランス、アフリカなど関係国とよく意思疎通しつつ、早期の進展のため引き続き努力する。さらに、国連平和維持活動(PKO)その他の国連の平和構築の取組にも引き続き貢献していく。

(2)安全保障上の課題への対応

日本の安全保障に関わる総合的な国力の要素の第一は外交力である。新たな国家安全保障戦略の下、防衛力の抜本的強化に裏打ちされた力強い外交を展開し、危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出していく。同時に、日本を守り抜く意思と能力を表す防衛力もまた、ほかの手段では代替できない。抜本的に強化される防衛力は、日本に望ましい安全保障環境を能動的に創出するための外交の地歩を固めるものである。このような取組を進める上で、平和国家として、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を堅持するとの基本方針は変わらない。また、変化の激しい国際情勢に的確に対応するため外交実施体制の抜本的強化に取り組んでいく。

さらに、経済安全保障を推進するため、同志国との一層の連携強化や新たな課題に対応する国際的な規範の形成に積極的に取り組んでいく。

(ア)日米同盟の強化

日本の外交・安全保障政策の基軸である日米同盟も更に深化させていく。

米国とは、累次の会談機会を通じ、いかなる地域でも力による一方的な現状変更は決して受け入れられないことを明確にしてきた。日米同盟を基礎に、両国にとって戦略的に最も重要なインド太平洋地域の潜在力を、安定と繁栄につなげていかなければならない。

そのため、日米同盟の役割及び任務の進化も踏まえ、同盟の抑止力・対処力の強化に日米で共に取り組んでいく。その際、同盟調整メカニズムを通じた二国間調整の更なる強化、平時における同盟の取組、日本の反撃能力の効果的な運用に向けた日米間の協力の深化、宇宙・サイバー・情報保全分野での協力、同盟の技術的優位性の確保のための技術協力や、新興技術への共同投資などを重点的に進めていく。また、米国による拡大抑止4が信頼でき、強靱なものであり続けることを確保するための努力も続けていく。さらに、日本における米軍の態勢の一層の最適化に向けた取組を進め、普天間飛行場の一日も早い辺野古(へのこ)移設を始め、地元の負担軽減と在日米軍の安定的駐留に全力を尽くす。

同時に、7月に立ち上げた日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)を通じて、外交・安全保障と経済を一体として議論し、経済安全保障、ルールに基づく経済秩序の維持・強化といった日米共通の課題について、一層連携を強化していく。

(イ)同盟国・同志国との連携強化

日米同盟に加えて、同盟国・同志国間のネットワークを重層的に構築し、それを拡大し、抑止力を強化していくことも重要である。そのために、日米韓、日米豪などの枠組みを活用しつつ、オーストラリア、インド、韓国、欧州諸国、ASEAN諸国、カナダ、NATO、EUなどとの安全保障上の協力を強化する。

オーストラリアとは、1月に日豪円滑化協定5に署名し、10月の日豪首脳会談では、首脳間で新たな安全保障協力に関する日豪共同宣言に署名するなど、インド太平洋地域の平和と繁栄の確保に向け、引き続き安全保障分野の協力を着実に強化・拡大させている。

欧州諸国及びEU、NATOとは、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識の下、安全保障に係る連携を強化している。EU、NATOを始め欧州諸国もインド太平洋への関心を高めており、こうしたことを背景に、4月には、NATO外相会合に日本の外務大臣として初めて林外務大臣が、6月には、首脳会合に日本の総理大臣として初めて岸田総理大臣が出席したほか、12月には日本、英国及びイタリアの3か国間による次期戦闘機の共同開発(GCAP)への合意を発表し、2023年1月には日英部隊間協力円滑化協定6に署名した。引き続き、欧州諸国及びEU、NATOによるインド太平洋への関与拡大に向けて具体的協力を進めていく。

(3)近隣諸国などとの関係

日本及び地域の平和と安全を維持するため、近隣国などとの間の難しい問題に正面から対応しつつ、安定的な関係を築いていく。

日本と中国との間には、様々な可能性がある一方で、尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海における中国による力による一方的な現状変更の試みは強化されつつあり、さらに8月に日本のEEZを含む日本近海に弾道ミサイルが着弾したことを始めとする、中国による台湾周辺での一連の軍事活動の活発化など、数多くの課題や懸案が存在している。台湾海峡の平和と安定も重要である。さらに、新疆(きょう)ウイグル自治区の人権状況や香港情勢についても深刻に懸念している。同時に日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を有している。中国とは、首脳・外相を含む様々なレベルで意思疎通を行い、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかりと重ね、共通の諸課題については協力するという「建設的かつ安定的な日中関係」の構築を日中双方の努力で加速していくことが重要である。

韓国は、国際社会における様々な課題への対応に協力していくべき重要な隣国である。北朝鮮への対応などを念頭に、安全保障面を含め、日韓・日米韓の戦略的連携を強化してくことの重要性は、論を俟(ま)たない。国交正常化以来築いてきた友好協力関係の基盤に基づき、日韓関係を健全な関係に戻し、更に発展させていく必要があり、11月の日韓首脳会談の結果も踏まえ、韓国政府と緊密に意思疎通していく。また、竹島は、歴史的事実に照らしても、かつ、国際法上も日本固有の領土である。この基本的な立場に基づき、毅(き)然と対応していく。

ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがすものである。ウクライナの一部地域の違法な「併合」や無辜(こ)の民間人の殺害などの一連のロシアによる行為は、国際法違反であり、断じて正当化できるものではない。また、日本は、唯一の戦争被爆国として、ロシアによる核の威嚇は、断じて受け入れることはできず、ましてや、その使用はあってはならないとの立場である。欧州とインド太平洋地域の安全保障を切り離して論じることはもはやできず、日本は、いかなる地域においても、力による一方的な現状変更の試みを許さないという強い決意を持って、G7を始めとする国際社会と引き続き緊密に連携しながら、対ロシア制裁とウクライナ支援を強力に推し進める。こうした中で、ロシアとの関係については日本の国益を守る形で対応していく。日露関係は、まさにロシアによるウクライナ侵略によって厳しい状況であり、平和条約交渉の展望を語れる状況にはないが、日本として、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持する。また、北方墓参を始めとした北方四島交流等事業の再開は、今後の日露関係の中でも最優先事項の一つである。

北朝鮮との間では、日朝平壌(ピョンヤン)宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指している。日本としては、引き続き、米国や韓国と緊密に連携し、安保理の場を含め、国際社会とも協力しながら、関連する国連安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の完全な非核化を目指していく。また、最重要課題である拉致問題は時間的制約のある人道問題である。日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題であり、その解決には一刻の猶予もない。引き続き米国を始めとする関係国と緊密に連携し、一日も早い全ての拉致被害者の帰国を実現するため、全力を尽くしていく。

(4)地域外交の課題

国際秩序の動揺がもたらす危機は、世界のいずれの国・地域にとっても「対岸の火事」ではない。ロシアによるウクライナ侵略は、法の支配に基づく国際秩序の根幹に対する挑戦である。さらに、食料・エネルギー価格の高騰などを引き起こし、インド太平洋地域、中東・アフリカなどにも深刻な影響を与えている。また、ロシア・中国などの偽情報による国際社会の分断の試みにも目を向けねばならない。特に、グローバル・サウスとも呼ばれる新興国・途上国は存在感を増しており、これら諸国との連携強化が重要である。特に、共通のグローバルな諸課題に取り組むに当たっては、包摂的なアプローチで、これら諸国の声によく耳を傾け、これら諸国が真に必要とする支援を行っていく。そうした地道な外交こそが、国際社会において法の支配に基づく自由で開かれた秩序を更に強化していくと考える。

インド洋に面する南西アジアは、日本と中東・アフリカ地域を結ぶシーレーン上の要衝に位置する戦略的に重要な地域であり、また、域内で約18億人の人口を有し、高い経済成長率を維持していることから、日本企業にとって魅力的な市場・生産拠点である。南西アジア各国は伝統的な親日国であり、日本は長年にわたって安全保障、経済、経済協力、人的交流などの幅広い分野においてこの地域の国々との関係を深めてきた。こうした基盤を活用しながら、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けた重要なパートナーである南西アジア各国との関係を一層深化させていく。

太平洋島嶼(しょ)国地域は、FOIPの実現の観点からも非常に重要な地域である。10回目を迎える2024年の太平洋・島サミット(PALM)も見据え、2023年のPALM中間閣僚会合や二国間での対話などを通じて、同志国とも連携しつつ、各国のニーズに寄り添う形で太平洋島嶼国の発展やその一体性を力強く支えていく。

中東は国際社会にとり主要なエネルギー供給源の一つであり、日本も原油輸入の約9割をこの地域に依存している。したがって、航行の安全の確保を含む、同地域の平和と安定は、エネルギー安全保障や日本を含む世界経済の安定と成長にとっても極めて重要である。一方、同地域には歴史的に様々な紛争や対立が存在し、現在も不安定な緊張状態や深刻な人道状況が継続している。日本は米国と同盟関係にあり、同時に中東各国と伝統的に良好な関係を築いている。中東地域を含む法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向け、「日アラブ政治対話」などの様々な対話の枠組みを通じ各国の問題意識やニーズを十分に踏まえた上で、関係国とも緊密に連携しながら、中東の緊張緩和と情勢の安定化に資する外交努力を、積極的に展開していく。

2050年に世界の人口の4分の1を占めると言われるアフリカは、若く、希望にあふれ、ダイナミックな成長が期待できる大陸である。日本は1993年に、アフリカ開発会議(TICAD)を立ち上げて以降、約30年間にわたり、アフリカ自らが主導する開発を支援していくとの精神で取り組んできた。8月のTICAD 8では、アフリカと「共に成長するパートナー」として「人」に着目した日本らしいアプローチで取組を推進していくとのメッセージを力強く打ち出した。今後とも、アフリカ自身が目指す強靭なアフリカを実現することに貢献し、日・アフリカ関係を一層深化させていく。

中南米諸国の多くは基本的価値を共有し、国際場裡(り)でも存在感を有するパートナーであり、また、昨今のエネルギー・食料危機を背景に、資源供給源としての戦略的重要性も増している。日本は、自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて引き続き中南米諸国と連携していく。また、日本と中南米の伝統的な友好関係を支えてきた日系社会や親日派・知日派層とも連携を図りつつ、中南米諸国の格差是正や、新たな成長をもたらすグリーントランスフォーメーション(GX)・デジタルトランスフォーメーション(DX)による包摂的で持続可能な発展に向け、様々な分野で協力を強化していく。

中央アジア・コーカサス諸国は、ロシアと歴史的、経済的に緊密な関係にある中で、ロシアによるウクライナ侵略の影響を大きく受けている。日本は、「中央アジア+日本」対話などの枠組みも活用しながら、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するためのパートナーとして協力を推進していく。

日本として、あらゆる地域の国々との間で築き上げてきた「きめ細やか」な地域外交を礎に、地域・国際社会の安定化のため、法の支配に基づく秩序の重要性を共有し、共に維持・強化していくための努力を継続する。

(5)人類共通の課題への対応

日本の擁護する国際秩序が世界の人々の信頼に足るものであるために、人類共通の課題への対応を主導していかねばならない。国際社会の多数を占める開発途上国は、複雑化する国際情勢と地球規模課題の深刻化の中で、安定的な発展を見通すことが困難な状況に陥っている。こうした中で、新たな時代における人間の安全保障の理念に立脚しつつ、最も重要な外交ツールの一つであるODAをより一層拡充し、戦略的・効果的な活用を通じて、FOIPの実現やSDGsの達成に向けた取組を加速する。そのために、開発協力大綱を2023年前半を目処(めど)に改定する。

ロシアによるウクライナ侵略に起因する食料価格の高騰に対しては、国際機関や同志国との連携に加え、TICADプロセスなどを通じて、脆弱性を抱える国々の支援に取り組んでいく。

気候変動は人類共通の課題であり、国際社会全体が連携して取り組むべき重要な課題である。ウクライナ情勢を受けて、エネルギー安全保障の強化との両立が重要な課題となっているが、11月に開催されたCOP27の成果に基づき、引き続き気候変動問題に取り組み、1.5℃目標7に沿った排出削減努力を含め、全締約国の更なる行動を呼びかけていく。

核軍縮・不拡散については、引き続き同盟国である米国との信頼関係を基礎としつつ、岸田総理大臣が「厳しい安全保障環境」という「現実」を「核兵器のない世界」という「理想」に結び付けるための現実的なロードマップの第一歩として提唱した「ヒロシマ・アクション・プラン8を始め、「核兵器のない世界」に向けた現実的かつ実践的な取組を着実に進めていく。国際賢人会議9などの取組を通じて、「核兵器のない世界」に向けた国際社会の機運を一層高め、G7広島サミットでこうした観点から力強いメッセージを発信できるよう、G7メンバーなどと議論を深めていく。

国際保健は、人々の健康のみならず、経済、社会、安全保障にも直結する重要な課題である。新型コロナ対応の経験も踏まえて、将来の健康危機に対する予防・備え・対応の強化に資するグローバルヘルス・アーキテクチャー(国際保健の枠組み)の構築に貢献しつつ、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)10の達成に向け、新型コロナで後退した国際保健課題への対応を主導していく。

プラスチック汚染、生物多様性の保全、深刻化する人道危機、難民・避難民、テロ・暴力的過激主義、男女共同参画などSDGs達成に向けた諸課題にも積極的に取り組む。

基本的な価値である人権の擁護のため、深刻な人権侵害に対してしっかり声を上げ、努力をしている国に対しては、「対話と協力」によりその取組を促す、日本らしい人権外交を進めていく。

(6)総合的な外交実施体制の強化

以上の諸課題について、着実に具体的な成果を挙げるためには、機動的な外交実施体制を確保し、外交活動の最前線に立つ在外職員などの勤務環境や生活基盤を強化することが不可欠であり、為替・物価変動の影響を受ける各種手当などの改善に取り組んでいく。また、人的体制、ODAの一層の拡充を含む財政基盤、DX推進を含めた外交・領事実施体制の抜本的強化と戦略的な対外発信に取り組み、日本人国際機関職員の増加、親日派・知日派の発掘・育成、日系社会との連携強化に努める。さらに、「佐渡島(さど)の金山」の世界遺産登録に向け、外務省としてもしっかりと役割を果たしていく。各国の水際措置緩和に伴い、国際的な交流が再活性化していることも踏まえ、海外における邦人の安全確保にも、引き続き万全を期していく。

4 ある国が有する抑止力をその同盟国などにも提供すること

5 日豪の一方の国の部隊が他方の国を訪問して協力活動を行う際の手続及び同部隊の地位などを定める協定

6 日英の一方の国の部隊が他方の国を訪問して協力活動を行う際の手続及び同部隊の地位などを定める協定

7 パリ協定で示された、世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分下回るものに抑え、また、1.5℃高い水準までのものに制限するための努力を継続するという目標

8 8月に開催された「第10回NPT運用検討会議」において、岸田総理大臣が「核兵器のない世界」に向けた現実的なロードマップの第一歩として提唱した、(1)核兵器不使用の継続の重要性の共有、(2)透明性の向上、(3)核兵器数の減少傾向の維持、(4)核兵器の不拡散及び原子力の平和的利用、(5)各国指導者などによる被爆地訪問の促進、の五つの行動を基礎とするプラン

9 1月に岸田総理大臣が施政方針演説で立上げを表明。核兵器国と非核兵器国の双方からの有識者や現職・元職の政治リーダーが「核兵器のない世界」の実現に向けた具体的な道筋について議論する国際会議。12月に広島で第1回会合を開催した。

10 すべての人が、効果的で良質な保健医療サービスを、負担可能な費用で受けられること

このページのトップへ戻る
青書・白書・提言へ戻る