気候変動

令和4年11月22日

1 概要

 11月6日(日)から11月20日(日)、エジプト(シャルム・エル・シェイク)において、国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)、京都議定書第17回締約国会合(CMP17)、パリ協定第4回締約国会合(CMA4)、科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA)及び実施に関する補助機関(SBI)第57回会合が開催された。我が国からは、西村明宏環境大臣が2週目の閣僚級交渉に出席したほか、外務省、環境省、経済産業省、財務省、文部科学省、農林水産省、国土交通省、金融庁、林野庁、気象庁の関係者が参加した。
 気候変動対策の各分野における取組の強化を求めるCOP27全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」、2030年までの緩和の野心と実施を向上するための「緩和作業計画」が採択された。加えて、ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失と損害)支援のための措置を講じること及びその一環としてロス&ダメージ基金(仮称)を設置することを決定するとともに、この資金面での措置(基金を含む)の運用化に関してCOP28に向けて勧告を作成するため、移行委員会の設置が決定された。

2 交渉結果概要

(1)COP・CMA全体決定「シャルム・エル・シェイク実施計画」

 「シャルム・エル・シェイク実施計画」では、科学的知見と行動の緊急性、野心的な気候変動対策の強化と実施、エネルギー、緩和、適応、ロス&ダメージ、早期警戒と組織的観測、公正な移行に向けた道筋、資金支援、技術移転、パリ協定第13条の強化された透明性枠組み、グローバル・ストックテイク(GST)、パリ協定第6条(市場メカニズム)、海洋、森林、非国家主体の取組の強化等を含む内容が決定された。同決定文書は、昨年のCOP26全体決定「グラスゴー気候合意」の内容を踏襲しつつ、緩和、適応、ロス&ダメージ、気候資金等の分野で、締約国の気候変動対策の強化を求める内容となっている。
 緩和分野では、グラスゴー気候合意の内容を引き継いで、パリ協定の1.5℃目標に基づく取組の実施の重要性を確認するとともに、2023年までに同目標に整合的なNDC(温室効果ガス排出削減目標)を設定していない締約国に対して、目標の再検討・強化を求めることが決定された。また、全ての締約国に対して、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の逓減及び非効率な化石燃料補助金からのフェーズ・アウトを含む努力を加速することを求める内容が含まれている。さらに、グラスゴー気候合意において毎年開催することが決定された、2030年までの緩和の野心に関する第1回閣僚級会合が開催され、日本からは西村環境大臣が参加した。
 気候資金については、世界全体の資金の流れを気候変動の取組に整合させることを目的としたパリ協定2条1(c)に関する理解を促進するための「シャルム・エル・シェイク対話」の開始を決定したほか、グラスゴー気候合意で決定された先進国全体による適応資金支援の倍増の取組に関する報告書作成が決定された。
 その他、生物多様性と気候変動への統合的対処、都市の役割、公正な移行等が記載された。
 決定文書の交渉に当たり、我が国からは、引き続きグラスゴー気候合意に基づいて、全締約国が野心的な気候変動対策を実施していくべきことを主張した。特に、緩和分野におけるパリ協定の1.5℃目標達成に向けた取組は、現下の国際情勢においても手を緩めるべきでなく、そのために、全ての締約国が1.5℃目標に整合的な強化されたNDC及び長期戦略の提出を求める文言が必要であること等を提案した。

(2)緩和

 2030年までの緩和の野心と実施を緊急に高めるための「緩和作業計画」が策定された。同計画には、1.5℃目標達成の重要性、計画期間を2026年までとして毎年議題として取り上げて進捗を確認すること(2026年に期間延長の要否を検討)、全てのセクターや分野横断的事項(パリ協定6条(市場メカニズム)の活用含む)等について対象とすること、最低年2回のワークショップの開催と報告という一連のサイクル、非政府主体の関与、緩和作業計画の成果を閣僚級ラウンドテーブルで毎年議論すること等が盛り込まれた。我が国からは全てのセクターを対象とすることや分野横断的事項の必要性を指摘し、これらが反映された。

(3)パリ協定第6条(市場メカニズム)、CDM(クリーン開発メカニズム)

 COP26で決定した実施指針に基づき、排出削減・吸収量の国際的な取引を報告する様式や記録システムの仕様、専門家による審査の手続き、国連が管理する市場メカニズムの運用細則、京都議定書下の市場メカニズム(クリーン開発メカニズム)の活動やクレジットのパリ協定への移管の詳細ルール等を決定した。我が国からは、第6条の実施に必須となる、報告様式・記録システムの要件等について、我が国が実施する二国間クレジット制度(JCM)の経験を基に具体的な提案を行い、これらの提案内容が決定に含まれ、パリ協定における市場メカニズムの本格実施に必要な細則策定に貢献した。
 非市場アプローチについては、COP26で設立されたグラスゴー委員会での議論を踏まえ、非市場アプローチを登録するウェブ・プラットフォームの設置と運用、今後の作業計画について決定した。
 また、今後のCDMのプロセスと機能(2021年1月1日より前の削減を対象にしたCERの発行等)については、事務局が技術ペーパーを作成し、来年検討を行うことが決定した。

(4)適応

 COP26で設置が合意された2年間の作業計画である「適応に関する世界全体の目標(GGA)に関するグラスゴー・シャルム・エル・シェイク作業計画」について、本年の作業の進捗を確認するとともに、最終年となる来年に向けた作業の進め方について決定した。また、優先テーマや横断的課題等を含むフレームワークの設置に向けた議論を開始することを決定した。

(5)ロス&ダメージ(気候変動の悪影響に伴う損失及び損害)

 ロス&ダメージに関する技術支援を促進する「サンティアゴ・ネットワーク」の完全運用化に向けて、同ネットワークの構造、諮問委員会・事務局の責任と役割等の制度的取り決めについて決定した。

(6)気候資金

 気候資金は、長期気候資金、2025年以降の新規気候資金合同数値目標、資金に関する常設委員会に関する事項、資金メカニズムに関する事項、ロス&ダメージの資金面での措置に関する事項等の幅広い議題について交渉が行われた。
 なかでも、途上国側の強い要求を受けて新規議題となったロス&ダメージの資金面での措置に関する議題では、先進国と途上国との間で意見の隔たりが大きく、閣僚級での議論に持ち込まれた結果、特に脆弱な国へのロス&ダメージ支援に対する新たな資金面での措置を講じること及びその一環としてロス&ダメージ基金(仮称)を設置することを決定するとともに、この資金面での措置(基金を含む)の運用化に関してCOP28に向けて勧告を作成するため、移行委員会を設置することとなった。
 長期気候資金に関しては、多くの途上国から、先進国による年間1000億ドル資金目標の未達成に対して進捗の報告を求める声が強く、隔年で進捗報告書を作成することとなった。また、昨年のグラスゴー気候合意で決定された先進国全体での2025年までの適応資金の倍増についても、途上国の要求により報告書を作成することとなった。
 また、EUをはじめ一部の先進国からは、資金の流れを気候変動の取組に整合させることを目的としたパリ協定2条1(c)に関して議論の場を設けるべく新規議題の追加提案を行ったが、途上国の反対により議題は採択されなかった。他方、上述のとおりCMA全体決定において、パリ協定2条1(c)に関する理解を促進するためのシャルム・エル・シェイク対話を開始することが決定された。

(7)グローバル・ストックテイク(GST)

 第2回技術対話が開催され、我が国から、緩和について全ガス・全セクターの緩和行動や地域脱炭素に向けた取組、適応について地域・自治体レベルでの取組の重要性を中心に発表等を実施した。
 来年のCOP28で実施されるGSTの成果物の検討のため、来年4月に準備のためのコンサルテーション、来年10月に検討要素の整理を行うためのワークショップの開催が新たに決定された。

(8)その他

 第2回定期レビュー、技術開発・移転、キャパシティ・ビルディング、農業、研究と組織的観測、対応措置の実施の影響(気候変動対策の実施による社会経済的な影響)、気候変動とジェンダー、気候エンパワーメント行動(ACE:Action for Climate Empowerment)等の幅広い交渉議題について議論が行われた。技術開発・移転では、TEC(技術執行委員会)とCTCN(気候技術センター・ネットワーク)の連携強化のため、初めての共同作業計画(2023-27年)が採択された。また、農業では、コロニビア共同作業に続く、4年間の「農業及び食料安全保障に係る気候行動の実施に関するシャルム・エル・シェイク共同作業」が採択された。
 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)及びパリ協定下の構成機関に所属する委員の選挙が行われ、日本人委員2名が選出または再選された。また、次回COP28をアラブ首長国連邦(アジア太平洋グループ)が主催することが決定され、2023年11月30日から12月12日の会期で開催される。
 なお、COP/CMP/CMAの下で交渉が行われた2つの議題において、2名の日本代表団員が共同ファシリテーターとして任命され、同議題における交渉をリードした。

3 閣僚級会合等 

 西村環境大臣は、アラブ首長国連邦、イタリア、インド、ウクライナ、英国、エジプト、オーストラリア、オランダ、カナダ、シンガポール、中国、ドイツ、ニュージーランド、パプアニューギニア、フランス、マーシャル諸島、モンゴル、リトアニア、EU、UNFCCC事務局、国連ハビタット事務局の計21か国・地域・国際機関の閣僚級及び代表と二国・二者間会合を行った。各会合では、カバー決定や緩和作業計画の合意に向けた提案等、交渉議題の合意に向けた議論を行ったほか、気候変動対策の在り方等について意見交換を行った。
 また、11月7日と8日には、議長国エジプトの主催による「シャルム・エル・シェイク気候実施サミット」が開かれ、エルシーシ・エジプト大統領、来年のCOP28議長国UAEのムハンマド大統領等の各国首脳やグテーレス国連事務総長から、気候変動問題が喫緊の課題であることや、対策の実施強化の必要性が指摘された。続いて、G7から英、仏、EUの首脳級を含む各地域の首脳級からステートメントが行われるとともに、6分野に特化した首脳級ラウンドテーブルが開催された。
 なお、小池東京都知事がエジプト政府の招待によりハイレベル・ラウンドテーブルに参加した。

4 我が国の取組の発信・サイドイベント

(1)ジャパン・パビリオンでの発信

 我が国は、COP27会場においてジャパン・パビリオンを設置し、会合期間を通じて、我が国企業等の13の緩和、適応、CO2有効利用、福島環境再生に関する技術・取組の実地展示を実施するとともに、環境インフラ海外展開プラットフォーム(JPRSI)のオンラインパビリオンの一環として、我が国企業の21の技術のオンライン展示を実施した。
 また、日本が国内で取り組む気候変動対策や海外のパートナー国とともに取り組む脱炭素移行の取組に関して43件のセミナーを開催し、現在の取組状況を紹介するとともに、今後の活動や方向性について世界の関係者・専門家と議論を行った。
 具体的には、長期戦略・適応計画の策定・実行、温室効果ガス排出量の算定・報告、衛星観測、サステイナブルファイナンス、二国間クレジット制度(JCM)を含む市場メカニズム、コベネフィット型気候変動対策、エネルギートランジション、各セクター(水、交通、農業、森林等)における脱炭素化・強靱化、都市の気候行動、循環経済、フロン・メタン排出削減、自然に基づく解決策(NbS)、アフリカの廃棄物管理、アフリカの地熱開発、日本のネットゼロに向けたシナリオ分析、グリーントランスフォーメーション(GX)に向けた政府や企業の取組等、多岐にわたるテーマを取り扱った。

(2)日本主導のイニシアティブの発表

 11月14日、企業の削減貢献を評価する新たな価値軸である「削減貢献度」について、ビジネス(WBCSD等)・ファイナンス(GFANZ等)・国(UAE・米)等の主要ステークホルダーを議論に巻き込み政府レベルの議論をリード。WBCSDとの強い協力関係を元に、WBCSDが策定中のガイダンスの概要が世界で初めて発表され、今後概念の確立に向けて進めていくこととなった。
 11月15日、国際社会と協力しつつ、ロス&ダメージに対する支援を包括的に提供していくため、事前防災から災害支援・災害リスク保険までの技術的支援を包括的に提供する「日本政府の気候変動の悪影響に伴う損失及び損害(ロス&ダメージ)支援パッケージ」を公表した。本パッケージの一環として、新たに追加的に、アジア太平洋地域における官民連携による早期警戒システム導入促進イニシアティブを立ち上げた。同日、産業脱炭素化の移行に取り組むイニシアティブであるLeadITの閣僚声明においてGXやトランジションファイナンスの重要性が確認される等産業分野でのプレゼンスの発揮。
 11月16日、各国、国際機関等と連携しつつ、パリ協定6条に沿った市場メカニズムを世界的に拡大し、質の高い炭素市場を構築し、世界の温室効果ガスの更なる削減に貢献していくため、パリ協定6条ルールの理解促進や研修の実施等、各国の能力構築を支援する「パリ協定6条実施パートナーシップ」を立ち上げた。2022年11月18日時点で43カ国24機関が参加を表明した。また、同日、西村環境大臣とサイモン・スティルUNFCCC事務局長との間でパートナーシップでの連携に関する覚書に署名した。同日、国連ハビタット福岡本部とともに、途上国における気候変動にレジリエントな都市づくり目指して「すばる(SUBARU)」イニシアティブを新たに発表した。
 11月18日、西村環境大臣とパプアニューギニアのシモ・キレパ環境保全・気候変動大臣との間で、二国間クレジット制度(JCM)の構築に関する協力覚書の署名が行われた。

(3)国際イニシアティブへの参加

 日本政府はCOP27期間中に立ち上げられた気候変動に関する以下の国際イニシアティブに参加した。

  • 11月7日:世界気象機関(WMO)が主導する「気候適応の実施に関する国連世界早期警戒イニシアティブ」
  • 11月7日:英国が主導する「森林・気候のリーダーズ・パートナーシップ(FCLP: Forests and Climate Leaders' Partnership)」
  • 11月8日:アラブ首長国連邦とインドネシアが主導する、「気候のためのマングローブ・アライアンス」(MAC)
  • 11月11日:米・EUが主導する「化石燃料からの温室効果ガス削減に関するエネルギー輸入国・輸出国の共同宣言」(上記と関係し、11月12日に米・EUが開催した「グローバル・メタン・プレッジ(GMP)閣僚級会合」に我が国から外務省・赤堀地球規模課題審議官が登壇。)
  • 11月11日:UNIDOが主導する産業の脱炭素化に関するイニシアティブであるIDDI(Industrial Deep Decarbonization Initiative
  • 11月11日:米国が主導する化石燃料からのGHGの排出削減に取り組むイニシアティブである「Joint Declaration from Energy Importers and Exporters on Reducing Greenhouse Gas Emissions from Fossil Fuels
  • 11月12日:議長国エジプトが主導する持続的な変革のための食料・農業に関するイニシアティブであるFAST(Food and Agriculture for Sustainable Transformation Initiative) (閣僚級会合に、我が国から勝俣孝明農林水産副大臣がビデオメッセージで参加。)
  • 11月15日、デンマークが主導する洋上風力に係る官民プラットフォームである、グローバル洋上風力アライアンス(GOWA:Global Offshore Wind Energy Alliance)(日本は本年9月に参加を表明済み。)
  • 11月17日:米国が主導する「政府のネットゼロ・イニシアティブ」、DACや鉱物化等の技術を通じたネットゼロを達成することを目的とした米国主導の「CDR Launchpad
  • 11月17日:議長国エジプトとUN Habitatが主導する「次世代のための持続的な都市の強靭性(SURGe)」

(4)その他UNFCCCマンデートイベントや公式サイドイベント等における発信

 11月9日に開催された地球規模の気候システムや組織的観測について紹介するマンデートイベントである「2022年地球情報デー」では、ティッピングエレメントとしての南極大陸の氷棚底部融解の可能性、海洋観測の統合的研究、人工衛星で観測された周辺の森林や農地からの温室効果ガス排出量とCO2吸収量、グローバルメガシティの例などの最新の観測に基づく我が国の研究成果が発表された。11月12日に開催された「新世代の温室効果ガス観測衛星によるパリ協定への貢献」では、「温室効果ガス観測技術衛星」(GOSAT)シリーズによる世界の気候変動の現象解明や対策の一層の推進について、「適応行動連合(AAC)のセクター別ワークストリームを通じた適応の実施」では、我が国の災害リスク低減(DRR)の重要性について、11月15日に開催された「短寿命気候汚染物質削減のための気候と大気浄化の国際パートナーシップ(CCAC)閣僚会合」では、代替フロンのライフサイクルマネジメントや廃棄物分野のメタン排出削減の重要性について、「パリ協定第6条の能力構築に関する良好事例や知見の共有」では、6条の能力構築支援の効果的な実施に向けた方向性について、11月17日に開催されたマラケシュパートナーシップに関するイベントでは、ネットゼロ目標達成のための循環型移行に向けて様々なステークホルダーが連携している日本の取組について、シンガポール政府と共催した透明性に関するセミナーでは、ASEAN加盟国及び日本の協力で作成した温室効果ガス算定・報告ガイドライン案について、UNFCCC気候チャンピオン主催のGlobal Climate Actionに関するハイレベルイベントでは我が国の地域脱炭素の取組等について、それぞれ発信した。


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