2 自由で開かれた国際経済システムを強化するためのルール作りの推進
(1)経済連携の推進
近年、経済のグローバル化が進展する一方、新型コロナの感染拡大により、保護主義的な動きが一層顕著となっている。そうした中で日本は、物品の関税やサービス貿易の障壁などの削減・撤廃、貿易・投資のルール作りなどを通じて海外の成長市場の活力を取り込み、日本経済の基盤を強化する経済連携協定(EPA/FTA)4を重視し、これを着実に推進してきた。2021年1月1日には、日英包括的経済連携協定(日英EPA)が発効し、2022年1月1日には、日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、中国、オーストラリア及びニュージーランドについて地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効した。こうした取組の結果、日本の貿易のEPA/FTA比率(日本の貿易総額に占める発効済み・署名済みの経済連携協定相手国との貿易額の割合)は約80.4%に至った(出典:2021年財務省貿易統計)。

日本は、引き続き、自らの平和と繁栄の基礎となる自由で公正な経済秩序を広げるべく、TPP11協定の高いレベルの維持や、RCEP協定の完全な履行の確保、その他の経済連携協定交渉などに積極的に取り組んでいく。
ア 多国間協定等
(ア)環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)
TPP11協定は、関税、サービス、投資、電子商取引、知的財産、国有企業など、幅広い分野で21世紀型の新たな経済統合ルールを構築する取組である。日本にとっても、日本企業が海外市場で一層活躍する契機となり、日本の経済成長に向けて大きな推進力となる重要な経済的意義を有している。さらに、TPP11協定を通じて、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々と共に自由で公正な経済秩序を構築し、日本の安全保障やインド太平洋地域の安定に大きく貢献し、地域及び世界の平和と繁栄を確かなものにするという大きな戦略的意義を有している。日本、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、米国及びベトナムの12か国は、2016年2月、環太平洋パートナーシップ(TPP12)協定に署名したが、2017年に米国がTPP12協定からの離脱を表明したことから、11か国でTPPを早期に実現すべく、日本は精力的に議論を主導した。2017年11月のTPP閣僚会合で大筋合意に至り、2018年3月にTPP11協定がチリで署名された。協定の発効に必要な6か国(メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア)が国内手続を終え、同協定は2018年12月30日に発効した。2019年1月、ベトナムが7番目の締約国となり、2021年9月、ペルーが8番目の締約国となった。
TPP11協定の発効後、閣僚級を含めTPP委員会が5回開催されており、2021年は日本が議長国を務め、6月に第4回、9月に第5回をオンラインで開催した。第4回TPP委員会では、同年2月1日に加入を正式に申請した英国の加入手続の開始と英国の加入に関する作業部会(AWG)の設置が決定された。新型コロナ感染拡大により世界経済が不確実なものとなり、保護主義的な動きが一層顕著になる中、英国の加入手続の開始は、自由貿易を更に推進するとの世界に向けた力強いメッセージであり、自由で公正な21世紀型の貿易・投資ルールを広げていくためにも重要となる。英国の加入手続が、TPP11協定の高いレベルを維持しつつ円滑に進むよう、日本が議長を務めるAWGにおいてしっかりと議論していく。
2021年9月16日に中国が、同月22日に台湾が、同年12月17日にエクアドルが加入を正式に申請した。日本は、加入申請を行ったエコノミーが市場アクセス及びルールの面でTPP11協定の高いレベルを完全に満たす用意ができているかをしっかりと見極めつつ、戦略的観点や国民の理解も踏まえながら対応していく。
(イ)日EU経済連携協定(日EU・EPA)
日EU・EPAは2019年2月に発効した。EUは、日本にとって第三の輸出相手国(全体の9.2%)かつ第二の輸入相手国(11.4%)(いずれも2020年時点)となる重要なパートナーである。日・EUの経済規模は合わせてGDP(国内総生産)20.3兆ドル、貿易総額11.9兆ドルとなっており、日EU・EPAの発効により、世界GDPの約4分の1、世界貿易の約3分の1を占める自由な先進経済圏を構成している。
発効後は、本協定に基づく合同委員会及び12分野別の専門委員会などを通じて、本協定を着実に実施するため取り組んでいる。2021年2月の第2回合同委員会では、日EU・EPAの適正かつ効果的な運用を確保するための議論や、新型コロナ対策やグリーン、デジタル分野、WTO改革など、今後の日・EU間協力の在り方などについて意見交換を行った。
今後も、EPAの実施を通じ、基本的価値を共有するEUと共に様々な課題に取り組んでいく。
(ウ)日英包括的経済連携協定(日英EPA)
2021年1月に発効した日英EPAは、良好な日英関係を更に発展させるための重要な基盤である。
日英EPAは日EU・EPAを基礎とし全24章から構成されている。本協定は、日本から英国へ輸出する際の物品の関税率や英国に対する農水産品についての関税は日EU・EPAの範囲内での合意となっているものの、電子商取引や金融サービスなどの分野で日EU・EPAよりも先進的かつハイレベルなルールを盛り込んでいる。また、日本が結ぶEPAで初めて、貿易による利益を女性が十分に享受できるよう、独立したジェンダーに関する章を設けている。
現在は13ある専門委員会・作業部会を通じて本協定の円滑な実施に関する取組を行っている。今後も日英経済関係の更なる深化に向けて、引き続き緊密に協力していく。
(エ)日中韓FTA
日中韓FTAは、日本の主要な貿易相手国である中国及び韓国を相手とするFTAであり、2013年3月に交渉を開始し、2021年12月までに計16回の交渉会合を行った。
(オ)地域的な包括的経済連携(RCEP)協定
RCEP協定は、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国と日本、オーストラリア、中国、韓国及びニュージーランドの計15か国が参加する経済連携協定である。RCEP協定参加国のGDPの合計、参加国の貿易総額、人口はいずれも世界全体の約3割を占める。この協定の発効により、日本と世界の成長センターであるこの地域とのつながりがこれまで以上に強固になり、日本の経済成長に寄与することが期待される。2012年11月に、プノンペン(カンボジア)で開催されたASEAN関連首脳会合の際、RCEP交渉立上げ式が開催されて以来、4回の首脳会議、19回の閣僚会合及び31回の交渉会合が開催されるなど約8年の交渉を経て、2020年11月15日の第4回RCEP首脳会議の機会に署名に至った。
インドは、交渉開始当初からの参加国であったが、2019年11月の第3回首脳会議において、以降の交渉への不参加を表明し、RCEP協定への署名にも参加しなかった。しかしながら、RCEP協定署名の際、署名国は、同協定がインドに対して開かれていることを明確化する「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」を日本の発案により発出し、インドの将来的な加入円滑化や関連会合へのオブザーバー参加容認などを定めた。インドがRCEP協定に参加することは、経済的にも戦略的にも極めて重要であり、日本は、インドのRCEP協定への将来の復帰に向けて、引き続き主導的な役割を果たしていく。
RCEP協定は、ASEAN構成国である署名国のうち少なくとも6か国かつASEAN構成国でない署名国のうち少なくとも3か国が批准書などを(寄託者である)ASEAN事務局長に寄託した日の後60日で、これらの署名国について効力を生ずることとなっており、2021年11月2日までに日本のほかにブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、オーストラリア、中国及びニュージーランドが寄託したことから、2022年1月1日に、これらの国についてRCEP協定が発効することとなった。また、2021年12月3日に寄託した韓国については2022年2月1日に発効することとなった。日本としては、RCEP協定の完全な履行の確保を通じ、自由で公正なルールに基づく経済活動を地域に根付かせるべく、関係各国と緊密に連携しながら取り組んでいく。
(カ)アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)構想
2016年、アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議で採択された「FTAAPに関するリマ宣言」において、(1)FTAAPは質が高く包括的で次世代貿易・投資課題を組み込み、TPP11協定やRCEP協定などを道筋として構築されるべきこと、(2)その能力構築を支援する作業計画に着手することなどが確認された。2020年の首脳への進捗報告においては、更なる取組の必要性が確認された。日本は、2017年以降、FTAやEPAにおける「競争章」や投資政策に関するワークショップや政策対話を開催し、能力構築支援に継続的に取り組んでいる。また、TPP11協定やRCEP協定の発効は、質が高く包括的なFTAAPを実現する観点からも重要な意義がある。
イ 二国間協定
(ア)日・トルコEPA
トルコは、欧州、中東、中央アジア・コーカサス地域、アフリカの結節点に位置する重要な国であり、高い経済的潜在性を有し、周辺地域への輸出のための生産拠点としても注目されている。トルコは、これまでに20以上の国・地域とFTAを締結しており、日本としても、EPA締結を通じて日本企業の競争条件を整備する必要がある。
また、両国の経済界からも日・トルコEPAの早期締結に対する高い期待感が示されていることから、2014年1月の日・トルコ首脳会談において交渉開始に一致し、2021年12月末までに17回の交渉会合が開催された。
(イ)日・コロンビアEPA
豊富な資源を有し、高い経済成長を遂げているコロンビアとは、2012年12月からEPA交渉を開始した。コロンビアは各国(米国、カナダ、EU、韓国など)とFTAを締結していることから、日本も競争環境を整える必要性が高まっているほか、EPA締結による二国間関係の強化は、国際場裡(り)における協力強化や太平洋同盟(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ)との協力促進にもつながることが期待されており、引き続き交渉を行っている。
ウ その他の発効済みの経済連携協定(EPA)
発効済みのEPAには、協定の実施の在り方について協議する合同委員会に関する規定や、発効から一定期間を経た後に協定の見直しを行う規定がある。また、発効済みのEPAの円滑な実施のために、発効後も様々な協議が続けられている。
また、EPAに基づき、インドネシア、フィリピン、及びベトナムから看護士・介護福祉士候補者の受入れを実施しており、インドネシア(2008年開始)、フィリピン(2009年開始)及びベトナム(2014年開始)の累計受入数はそれぞれ3,346人(2021年度まで)、3,147人(2021年度まで)及び1,543人(2021年度まで)となっている。また、2020年度までの累計国家試験合格者数は、看護士は529人、介護福祉士は1,762人である。
エ 投資関連協定
投資関連協定は、投資家やその投資財産の保護、規制の透明性向上、投資機会の拡大、投資紛争解決手続などについて共通のルールを設定することで、投資家の予見可能性を高め、投資活動を促進するための重要な法的基盤である。海外における日本企業の投資環境を整備するだけでなく、日本市場への海外投資の呼び込みにも寄与すると考えられることから、日本は投資協定の締結に積極的に取り組んできている。
3月には日・コートジボワール投資協定が、7月には日・ジョージア投資協定がそれぞれ発効した。2022年1月末時点で、発効済みの投資関連協定が51本(投資協定34本、EPA17本)、署名済み・未発効となっている投資関連協定が3本(投資協定 2本、EPA 1本)あり、これらを合わせると54本となり、79の国・地域をカバーすることとなる。これらに現在交渉中の投資関連協定を含めると、94の国・地域、日本の対外直接投資額の約93%をカバーすることとなる5。

オ 租税条約/社会保障協定
(ア)租税条約
租税条約は、国境を越える経済活動に対する国際的な二重課税の除去(例:配当などの投資所得に対する源泉地国課税の減免)や脱税・租税回避の防止を図ることを目的としており、二国間の健全な投資・経済交流を促進するための重要な法的基盤である。日本政府は、日本企業の健全な海外展開を支援するため、これに必要な租税条約ネットワークの質的・量的な拡充に努めている。
2021年には、ペルーとの租税条約(1月)、スペインとの新租税条約(全面改正)(5月)、ウルグアイとの租税条約(7月)、ジョージアとの新租税条約(全面改正)(7月)及びセルビアとの租税条約(12月)が発効した。また、スイスとの租税条約の改正議定書(7月)が署名された。さらに、3月にはウクライナとの間で、5月にはアゼルバイジャンとの間で、新租税条約(全面改正)の締結交渉を開始した。2021年12月末時点で、日本は82本の租税条約などを締結しており、148か国・地域との間で適用されている。
(イ)社会保障協定
社会保障協定は、社会保険料の二重負担や年金保険料の掛け捨ての問題を解消することを目的としている。海外に進出する日本企業や国民の負担が軽減されることを通じて、相手国との人的交流の円滑化や経済交流を含む二国間関係の更なる緊密化に資することが期待される。2021年12月末時点で日本と社会保障協定を締結又は署名している国は23か国である。
(2)国際機関における取組
ア 世界貿易機関(WTO)
(ア)オコンジョ新事務局長の就任
WTOは現在、新興国の台頭やデジタル経済の進展などの変化に加え、新型コロナへの取組などの新たな課題に直面している。このような状況の中、2月、初のアフリカ出身かつ女性の事務局長としてオコンジョ=イウェアラ氏がWTO事務局長に任命された。オコンジョ事務局長は国内外で数々の要職を歴任しており、これらの経験で培った深い知見・経験を基に、WTOの諸課題に取り組むことが期待される。日本としても同事務局長の任命を歓迎しており、就任直後の3月には、茂木外務大臣は同事務局長との間で電話会談を行い、事務局長と協力してWTO改革を進めていくことを確認した。
(イ)WTOのコロナ対応
新型コロナの感染拡大に際し、WTO事務局は、貿易と新型コロナに関連する各種報告書を作成・公表している。また、2021年に公表した「世界貿易報告書2021」の中で、経済的強靱(じん)性を高めるためには、更なる国際連携が必要であると指摘した。
また、新型コロナに関連し、ワクチンやその原材料を含む医療物品に対する輸出規制、透明性などに関する議論や、ワクチンなどの知的財産権をめぐる議論などが、WTOで行われている。中でも、知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)6上の義務免除に関する議論が特に大きな注目を集めている。この議論は、2020年10月にインドと南アフリカが、新型コロナ感染対策に関連しTRIPS協定上の幅広い義務の免除を提案したことから始まった。これに対し、2021年5月、米国は、コロナワクチンに係る知的財産保護免除を支持すると発表し、6月には、EUが、TRIPS協定における強制実施許諾関連規定の使用に係る合意に関する提案を行った。オコンジョ事務局長も合意に向け精力的に関与しており、議論が続いているものの、合意の目処(めど)は立っていない(2022年2月1日時点)。
(ウ)第12回WTO閣僚会議(MC12)の延期
2021年11月末に予定されていたMC12での成果を目指し、日本を含めたWTOメンバーは精力的に交渉を行ってきた。特に、20年間にわたり交渉が続いている漁業補助金交渉については、オコンジョ事務局長就任以降特に交渉が加速しており、7月には同交渉に関する貿易交渉委員会閣僚級会合がオンライン形式で開催され、外務省からは鷲尾英一郎副大臣が出席し、交渉の早期妥結にコミットした。11月24日には、林外務大臣はオコンジョ事務局長との間でオンライン会談を行い、MC12に向け互いに緊密に連携していくことを確認した。しかし、新型コロナ(オミクロン株)の拡大に伴い、11月末に予定されていたMC12は延期されることとなった。MC12は既に開催が2度延期されており、今回で3回目の延期となる。その後、MC12は2022年6月に開催されることが決定された。
(エ)有志国間での取組の進展
MC12が延期された一方で、延期決定後の12月には、有志国間での取組にいくつかの進展が見られた。まず、日本を含む67か国・地域により、WTOサービス国内規制に関する交渉の妥結を確認する宣言が発出された。今般合意された規律は、免許要件及び資格要件に関する法令の公表などの各国の国内規制に関する指針を定めている。本交渉の妥結は、海外進出企業の利便性向上につながるものであり、複数国間(プルリ)交渉の成果として意義がある。また、電子商取引に関する交渉に関し、共同議長国である日本、オーストラリア及びシンガポールの関係閣僚は、これまでの交渉の進捗を確認し、合意に向けた道筋を示す、共同議長国閣僚声明を発出した。WTOにおいて、電子商取引交渉は最重要分野の一つであり、交渉の更なる進捗を目指し、成果を積み上げていくことが重要である。日本は、電子商取引交渉の共同議長国として、多くの参加国を包摂していく形で、データ流通の自由化を含む高い水準のルール形成を目指し、引き続き交渉を加速していく。
貿易と環境についても、12月、日本を含む70か国・地域により、「貿易と環境持続可能性に関する閣僚声明」が発出された。
(オ)紛争処理7
WTO紛争解決制度は、加盟国間のWTO協定上の紛争を手続に従い解決するための制度であり、WTO体制に安定性と予見可能性を与える柱として位置付けられている。第2審(最終審)に相当する上級委員会は、2019年12月以降、審議に必要な委員数を確保できずその機能を停止しているが、第1審に相当するWTOの紛争解決小委員会(パネル)に紛争を付託することは可能であり、2021年には9件の紛争が付託された。
日本は、2021年6月、中国による日本製ステンレス製品に対するダンピング防止(AD)措置について、WTO協定に基づく二国間協議要請を行った後、8月にパネル設置を要請した(9月パネル設置)。これにより、WTOの紛争解決手続に付託された日本の当事国案件は、6件となった(他5件は、インドによる鉄鋼製品に対するセーフガード措置、韓国によるステンレス棒鋼に対するダンピング防止措置、韓国による自国造船業に対する支援措置、インドによるICT製品に対する関税引上げ措置及び日本の対韓国輸出管理運用の見直し)。
イ 経済協力開発機構(OECD)
(ア)特徴
OECDは、経済・社会の広範な分野について調査・分析を実施するほか、加盟国などに対し、具体的な政策提言を行っている。また、約30の委員会で行われる議論などを通じて、国際的なスタンダードやルールを形成している。日本は、1964年にOECDに加盟して以降、各種委員会での議論や、財政・人的な貢献を通じて、OECDの取組に積極的に関わってきている。
(イ)2021年OECD閣僚理事会
2021年の閣僚理事会は2回に分けて実施され、第1部(5月31日及び6月1日)では、新旧事務総長交代式も行われた。議長国の米国、副議長国の韓国及びルクセンブルクの下、「共通の価値:グリーンで包摂的な未来の構築」をテーマにオンライン形式で議論が行われた。日本からは、西村康稔経済財政政策担当大臣及び鷲尾外務副大臣が出席し、鷲尾外務副大臣は、OECDのルール・スタンダード作りの役割に対する期待、G20を始め他の機関との連携及び東南アジアへのアウトリーチ強化の重要性を発信した。
第2部(10月5日、6日)は、2年ぶりにOECD本部(パリ)で対面(一部参加者はオンライン)で開催され、第1部に引き続き「共通の価値:グリーンで包摂的な未来の構築」をテーマに、気候変動、国際課税、デジタル化、貿易など、経済分野で国際社会が直面する共通の課題について活発な議論が行われた。日本からは、岡村善文OECD代表部特命全権大使他が出席した。第2部では「OECD設立60周年ビジョン・ステートメント)」と「閣僚声明」が採択された。前者は2021年がOECD設立60周年に当たり、世界がグローバルな協力と行動を必要とする課題に直面する中、OECD加盟国が、個人の自由の保護、民主主義、法の支配などの共通の価値を持ち、志を同じくすることを改めて強調し、その上で、世界経済の持続可能な発展に対するコミットを新たにすることなどを含む、OECDの今後10年の理念を示すものである。後者は閣僚理事会の議論の成果として採択され、DFFTの推進(個人データへのガバメント・アクセスに関する高次原則の策定の促進など)を通じたデジタル経済の前進へのコミット、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」などを通じた質の高いインフラ投資への支援、WTO改革や「G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則」の見直しの重要性など、日本の考えが多く反映されたものになった。
(ウ)各分野での取組
OECDはG20、G7、APECなど、他の国際フォーラムとの連携を深めており、国際課税制度の見直しの議論を主導するほか、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」の普及・実施や鉄鋼及び造船の過剰生産能力問題への対処、コーポレート・ガバナンスに関する原則の改定などの取組がある。
(エ)東南アジア地域へのアウトリーチ
OECDは、世界経済の成長センターとしての東南アジアの重要性の高まりを受け、東南アジア地域プログラム(SEARP)を通じ同地域との関係強化に取り組んでいる。2021年は5月のSEARP地域フォーラムを含め、政策対話などが行われた。日本は今後も、OECD東京センターを活用しながら、同地域からの将来的な加盟を後押ししていく。
(オ)財政的・人的貢献
2021年現在日本は、OECDの本体予算(分担金)の9.1%(米国(20.2%)に次ぎ全加盟国中第2位)を負担している。また日本は代々事務次長(4ポストあり)を輩出しているほか(現在は武内良樹事務次長)、事務局には2020年末時点で約90人の邦人職員が勤務している。
(3)知的財産の保護
知的財産保護の強化は、技術革新の促進、ひいては経済の発展にとって極めて重要である。日本は、APEC、WTO(TRIPS)8、世界知的所有権機関(WIPO)9などでの多国間の議論に積極的に参画し、日本の知的財産が海外で適切に保護され、活用されるための環境整備を行っている。また、二国間の対話においても、積極的に知的財産保護の強化を諸外国に求めている。EPAなどでも、知的財産に関する規定を設け、知的財産の十分で効果的な保護が達成されるよう努めており、TPP11協定や日EU・EPAに続き、日英EPA及びRCEP協定も、知的財産の保護と利用の推進を図る内容となった。また、海外で模倣品・海賊版被害など知的財産についての問題に直面する日本企業を迅速かつ効果的に支援することを目的として、ほぼ全ての在外公館で知的財産担当官を指名し、日本企業への助言や相手国政府への照会、働きかけなどを行っている。さらに、知的財産担当官会議を地域ごとに毎年開催し、各国における被害や在外公館の対応状況の把握、適切な体制構築に関する意見交換やベストプラクティスの共有を行い、知的財産権侵害への対応の強化を行っている。2021年は東南アジア(3月)及び中南米(11月)を対象に行った。
4 FTA:Free Trade Agreement
5 財務省「直接投資残高地域別統計(資産)(全地域ベース)」(2020年末時点)
6 「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)を改正する議定書」の発効に関する外務省
ホームページの掲載箇所はこちら:https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty166_11.html

7 関連記事の掲載箇所はこちら:2021年版外交青書 225ページ特集「経済紛争処理課の新設」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2021/html/chapter4_02_06.html

8 TRIPS:Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)
9 WIPO:World Intellectual Property Organization