2 文化・スポーツ外交
(1)概要
外務省及び国際交流基金は、諸外国において良好な対日イメージを形成し、日本全体のブランド価値を高めるとともに、対日理解を促し、親日派・知日派を育成するため、海外での日本文化の紹介やスポーツを通じた様々な事業を行っている。例えば、「在外公館文化事業」では、在外公館の企画により、茶道、華道等の日本の伝統文化からアニメ、マンガ、ファッションといった日本の現代文化に至るまで幅広く紹介している。「日本ブランド発信事業」では、日本の経験・英知が結集された優れた文物を海外に発信し、日本の国家ブランドを確立し、世界における日本のプレゼンスを強化するため、各分野の専門家を海外に派遣した。それぞれの特性をいかした講演に加え、ワークショップやデモンストレーション等を実施し、聴衆と価値観や体験を共有することを通じて国際交流の端緒としている。また、各種対外広報事業では、現在オールジャパンで取り組んでいる訪日外国人数増加に資する地方の魅力の発信もソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)発信等を通じ行っている。
また、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の成功に向けて、スポーツ分野での日本の存在感を示すことも重要である。外務省は、「Sport for Tomorrow(SFT)」プログラムの一環として、各国での様々なスポーツ交流・スポーツ促進支援事業、JICAボランティアや国際交流基金によるスポーツ指導者の派遣、文化無償資金協力を活用したスポーツ器材の供与や施設の整備を実施している。また、オリンピック・パラリンピックの参加国・地域との相互交流を図るホスト・タウンの取組を支援している。
次世代の親日層・知日層の構築や日本研究を通じた対日理解促進のため、外務省は、在外公館を通じて日本への留学機会の広報や元留学生とのネットワーク作り、地方自治体に外国青年を招へいする「JETプログラム」への協力、アジアや米国との青少年交流事業や社会人を招へいする交流事業、世界各地の大学、研究所への客員教授の派遣や研究助成などを実施している。
海外における日本語の普及は、日本との交流の担い手を育て、対日理解を深めるとともに、諸外国との友好関係の基盤となるものである。このため、外務省は、国際交流基金を通じて、日本語専門家の海外への派遣、海外の日本語教師などの訪日研修、日本語教材の開発などを行っている。
これらに加え、戦略的対外発信に充てる予算を活用し、日本研究支援の強化、人的交流、スポーツ交流事業の拡充、日本語教育の更なる普及を始めとする取組を引き続き進めていく考えである。
日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)などと協力し、世界の有形・無形の文化遺産の保護支援にも熱心に取り組んでいる。また、世界遺産条約や無形文化遺産保護条約などを通じ、国際的な遺産保護の枠組みの推進にも積極的に参加している(詳細については3-3-2(7)「国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)を通じた協力」参照)。
これら文化・スポーツ外交の推進を通じて、日本の魅力を海外で高め、訪日観光客の増加にも貢献している。
(2)文化事業
各国における世論形成や政策決定の基盤となる国民一人ひとりの対日理解を促進するとともに、日本のイメージを一層肯定的なものとすることは、国際社会で日本の外交政策を円滑に実施していく上で重要である。この認識の下、外務省は、在外公館や国際交流基金を通じて多面的な日本の魅力の発信に努めている。在外公館では、管轄地域での対日理解の促進や親日層の形成を目的とした外交活動の一環として、多様な文化事業を実施している。例えば、茶道・華道・折り紙等のワークショップ、日本映画上映会、邦楽公演、武道デモンストレーション、伝統工芸品等の展示会、日本語弁論大会等を企画・実施している。また、近年では、アニメ・マンガ等のポップ・カルチャーや日本の食文化PR等を積極的に奨励している。


また、外交上の節目となる年には、効果的な対日理解の促進を目指して、政府関係機関や民間団体が連携して大規模かつ総合的な記念事業(要人往来、各種会議、広報文化事業など)を集中的に実施し、活発な交流を行っている。例えば、2017年には、日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念事業として、箏(こと)・尺八等による邦楽公演を実施した。

国際交流基金では、外務省・在外公館との連携の下、日本の文化や芸術を様々な形で世界各地に発信する文化芸術交流事業、日本語教育、日本研究の推進及び支援等を行っている。「日印友好交流年」では、秋のジャパンフェスティバルで、邦楽、ジャズ、日本舞踊、日本映画祭等、幅広い分野で多様な日本文化をインドで集中的に紹介し、文化を通じて日印友好の絆(きずな)を深めた。
また、2013年12月に安倍総理大臣が発表した「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト」については、国際交流基金アジアセンターを通じた日本語学習支援事業と双方向の芸術文化交流事業を柱として、多岐にわたる文化交流事業を着実に実施している。そのうち日本語学習支援事業の中心である日本語パートナーズ派遣事業では、2017年末までに東南アジア10か国、中国及び台湾の中等教育機関等に計994人を派遣し、日本語教育のみならず日本文化の紹介を通じた交流事業を実施した。その結果、多くの派遣先の学校関係者から、日本語パートナーズの活動は生徒の学習意欲などの向上に貢献があったとして高い評価を受けた。

国際交流基金アジアセンターが実施する双方向の芸術文化交流事業での美術分野では、日本で過去最大規模の東南アジア現代美術展「サンシャワー:東南アジアの現代美術展1980年代から現在まで」、映像分野では、東京国際映画祭との連携及びJFF(日本映画祭)アジア・パシフィック・ゲートウェイ構想による映画交流の促進、スポーツ分野では日本サッカー協会(JFA)・Jリーグとの連携によるサッカー交流事業などを実施した。

日本国際漫画賞は、海外で漫画文化の普及に貢献する漫画家を顕彰することを目的として2007年に外務省が創設した。第11回目となる2017年は、60の国・地域から326作品の応募があり、コロンビアの作品が最優秀賞に輝いた。また、今回はオランダ、ケニア、パキスタン、ベラルーシの4か国から初めて応募があり、応募国・地域数は過去最多となった。
(3)人物交流・教育・スポーツ分野での交流
外務省では、諸外国において世論形成・政策決定に大きな影響力を有する要人、各界で一定の指導的立場に就くことが期待される外国人などを日本に招き、人脈形成や対日理解促進を図る各種の招へい事業を実施している。また、教育やスポーツの分野でも、幅広い層での人的交流促進のために様々な取組を行っている。これら事業は、相互理解や友好関係を増進させるだけではなく、国際社会での日本の存在感を高め、ひいては外交上の日本の国益増進の面でも大きな意義がある。
ア 留学生交流関連
外務省は、在外公館を通じて日本への留学の魅力や機会を積極的に広報している。また、各国の優秀な学生を国費外国人留学生として受け入れるための募集・選考業務を行っている。さらに、各国にある「帰国留学生会」などを通じた元留学生との関係維持や親日派・知日派の育成に努めている。


イ JETプログラム
外国語教育の充実と地域の国際交流の推進を図る目的で1987年に開始された「JETプログラム」には、2017年度は44か国から1,906人の新規参加者を含む5,163人が参加し、全国に配置されている。このプログラムは、総務省、外務省、文部科学省及び一般財団法人自治体国際化協会の運営協力の下、地方自治体が外国青年を招致し自治体や学校で任用するもので、外務省は、在外公館における募集・選考や渡日前オリエンテーション、16か国に存在する元JET参加者の会(JETAA、会員数約2万7,000人)の活動への支援を担当している。JETAAは各国で日本を紹介する活動を行っており、数多くのJET経験者が親日派・知日派として各国の様々な分野で活躍するなど、JET参加者は日本にとって貴重な人的・外交的資産となっている。


ウ スポーツ交流
スポーツは言語を超えたコミュニケーションを可能とし、友好親善や対日理解の増進の有効な手段となる。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、世界各国から日本への関心が高まる中、日本政府は、2014年1月からスポーツを通じた国際貢献策「Sport for Tomorrow(SFT)」を実施している。このプログラムでは、2020年までに100か国以上、1,000万人以上を対象にスポーツの価値を広げるべく、各国において様々なスポーツ交流・スポーツ促進支援・人材育成事業を実施している。2015年度からは、「スポーツ外交推進事業」による選手やコーチの派遣・招へい、器材輸送支援、在外公館におけるレセプション等を展開し、各国政府や競技団体からの要望に対し、より迅速かつ細やかなスポーツ交流を実施して二国間関係の発展にも貢献している。これらSFT事業は、日本のスポーツ関係者の国際スポーツ界でのプレゼンス強化にもつながっている。

外務省はスポーツに関連する団体や個人の方々と協力をして、スポーツを通じた様々な事業を行っています。2018年は国際サッカー連盟(FIFA)が4年に1度主催するFIFAワールドカップがロシアで開催される年です。ここでは、2017年に外務省が日本サッカー協会と一緒に取り組んだ国際貢献の例と、宮本恒靖(つねやす)元サッカー日本代表主将からの寄稿を紹介します。
「スポーツは世界の共通語」と言われることがありますが、スポーツの場面では、世界中の人々が、国籍や言葉の違いを超えて交流する姿がよく見られます。スポーツに勝敗はつきものですが、それも共に競い合うことができる相手があってこそです。
日本の競技団体には、日本人選手のレベルアップはもちろんのこと、世界中で競技を一緒に盛り上げ、共にレベルアップしていこうという視点から、国際貢献に積極的な組織が数多くあります。今回は、そういった競技団体と外務省が一緒に取り組んだ一例として、サッカーを通じた貢献を紹介します。
日本サッカー協会(JFA)は、「サッカーを通じて子どもたちに明るい未来を感じてもらい、アジアサッカーの普及・発展につなげたい」というビジョンの下、アジア諸国に積極的な支援を行っています。その一つが指導者の派遣です。JFAは2017年2月から2018年1月まで、ネパールに2人の日本人を派遣しました。財政面等の理由により対外試合を組んだり海外に研修に行ったりすることは、必ずしも容易ではなかったようですが、2人の指導者はネパールサッカー向上のため日々奮闘しました。
こうした中、2017年6月、外務省は、「スポーツ外交推進事業」という、スポーツを活用した外交を推進する枠組みで、ネパールから5人のサッカー指導者を日本に招へいしました。この枠組みは、外務省と国際交流を実施したい競技団体等が連携して実施するもので、2015年から開始され、2017年が3年目です。今回訪日した5人からは、「アジアでいち早く指導者の養成に取り組んできた日本を訪れ、Jリーグクラブの指導者が選手を指導する様子を見学したり、実際に日本の選手を指導してJFAのインストラクターから指導法のフィードバックを受けたりと、得がたい経験ができた」と報告を受けています。
また、8月には、「日中植林・植樹国際連帯事業」として、ネパール代表チームを招へいしました。こちらは、2015年に大地震を経験したネパールと、同じく震災国である日本が、互いに環境・防災意識の啓発を図るとともに、スポーツ交流を通して相互理解を促進することを目的とした案件です。滞在中はサッカー交流に加え、阪神大震災を経験した大阪府・兵庫県の防災施設の訪問や、兵庫県で震災復興交流の記念として植樹活動も実施しました。訪日したネパールチームからは、サッカー交流を通じたネパールサッカーのレベルアップに対する感謝とともに、防災に関する知識もとても勉強になったという感想が寄せられ、有意義な二国間交流になりました。
外務省は2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を見据え、今後も異なる分野を組み合わせ、効果的な外交政策に取り組んでいきます。

(8月、兵庫県 写真提供:日本サッカー協会)

(8月、兵庫県 写真提供:日本サッカー協会)

(6月、東京・外務省)
「紛争で民族が分断されたボスニア・ヘルツェゴビナに子どものスポーツアカデミーを設立し、スポーツを通して民族融和を進めることはできるか」─。
これは現役引退後に私が進んだ「FIFAマスター(国際サッカー連盟が主宰する修士課程)」で取り組んだ修士論文のテーマです。グループで様々な案を出し合ったのですが、最終的にはグループの中にボスニア・ヘルツェゴビナ出身の女性がいたこともあり、このテーマに決めました。
ボスニア・ヘルツェゴビナでは、民族の対立から激しい内戦が起こりました。1995年に和平合意が調印され、内戦は終結を迎えましたが、民族間には現在でも対立感情が根深く残っていて、民族ごとに教育カリキュラムが異なるなど、日常生活のいたるところに影響が残っています。
私たちの活動では、子どもたちが民族の分け隔てなく一緒にスポーツを通してチームワークや、相手をリスペクトすること、多様性を理解することなど、社会的な価値を学ぶということに重点を置いています。そしてここで学んだ子どもたちが将来的に町のリーダーとなっていくことを目指しています。
私が新聞に連載していたコラムで研究のことを取り上げてから、外務省やJICAの関係者から「実現に向けて動いてみませんか?」という連絡をいただき、あくまでも仮説だった私たちの研究が現実のものになる可能性が出てきました。
初めてプロジェクトの活動場所となるモスタルを訪れた際には、懐疑的だった現地の関係者も、度々足を運んでいくことで協力が得られるようになってきました。もともと日本のODAによりモスタルの町に日本からの支援があったことも信頼を得られることにつながったと思っています。日本政府からの草の根文化無償資金協力もあり、町の中心部の施設がアカデミーの活動場所となる人工芝のグラウンドとクラブハウスに改修されました。

(1月、ボスニア・ヘルツェゴビナ・モスタル市 写真提供:Little Bridge)

(8月、堺市 写真提供:Little Bridge)
2017年の夏にはアカデミーの子どもたち10人がスタディツアーで日本を訪れ、日本の同年代の子どもたちとサッカー交流も実施しました。言葉が通じない友達と交流したことは彼らの心に何かを残したと思います。アカデミーの運営についても課題はまだまだありますが、さらに活動を広げていきたいと考えています。
(4)知的分野の交流
ア 日本研究
外務省は、海外における日本の政治、経済、社会、文化などに関する様々な研究活動を複合的に支援している。2017年度も、34か国・地域の70か所の日本研究を行っている機関に対し、客員教授の派遣、日本関係図書の拡充、研究助成、セミナー・シンポジウムの開催支援などを行ったほか、日本で研究・調査活動を行うためのフェローシップを、前年からの継続分と併せ、39か国・地域の143人に提供した(2017年度第4四半期実施予定分含む。)。また、各国・地域の日本研究者や研究機関のネットワーク構築を促進するため、学会活動への支援なども行っている。
イ 知的交流
外務省は、諸外国との共同作業・交流を重視した知的交流事業も実施している。具体的には、国際交流基金を通じて、共通の国際的課題をテーマとしたセミナー・シンポジウム、海外の主要大学において現代日本に対する理解を深めるための講義等を行うプログラムを実施しているほか、NPOや他の交流団体とも協力しつつ、様々な分野・レベルでの対話を通じて関係を強化し相互理解を深める交流事業などを企画・支援している。
ウ 日米文化教育交流会議(CULCON:カルコン)
日米の官民の有識者が両国の文化・教育交流について議論するカルコンでは、現在ある美術対話委員会、教育交流レビュー委員会、日本語教育委員会に加え、2016年に開催された、第27回日米合同会議の提言を受け、次世代の日米関係を担うリーダーの育成に焦点を置いた「次世代タスクフォース」を新たに設立した。10月には、「次世代タスクフォース」の事業として、日米両国で活躍する外部有識者を招いたフォーラムが東京で開催された。また、米国側では、2016年に開催された美術対話委員会の提言を受け、6月、米国内での日本美術関連のイベントを広報する公式サイト「Arts Japan2020」を日米友好基金事業として立ち上げたほか、教育交流レビュー委員会では2014年の日米首脳会談時の共同声明付属書にも記載された「2020年までに日米双方向の学生交流数を2倍にする」との目標達成に向けた取組を続けており、いずれの委員会も活発に対話や活動を行っている。
エ 国際連合大学(UNU)との協力
日本政府は、地球規模課題の研究及び人材育成を通じて国際社会に貢献するUNUの創設を重視し、日本(東京)に本部を誘致し、様々な協力と支援を40年間にわたり行ってきた。UNUは、日本の大学や研究機関と連携し、平和、開発、環境等日本が重視する国際課題に取り組むことで、日本政府の政策発信に貢献している。また、UNUは、2010年に大学院プログラムの修士課程、2012年に博士課程を開設しており、グローバルな人材育成プログラムの質の向上にも努めている。
(5)日本語普及
日本の経済構造のグローバル化に伴う日本企業の海外進出の増加や日本のポップカルチャーの世界的な浸透などにより、若者を中心に外国人の日本語への関心が増大している。海外において日本語の普及を一層進めることは、日本の国民や企業にとって望ましい国際環境作りにつながっている。国際交流基金が2015年度に行った調査では、海外137の国・地域では約366万人が日本語を学習していることが確認された。また、同基金が実施する日本語能力試験は、2017年には世界81の国・地域、286都市で行われ、受験応募者数が試験開始年以来初めて100万人を突破した(国内実施分を含む。)。一方、これらの多くの国・地域では、日本語学習への関心・ニーズに応える上で日本語教育人材の不足が大きな課題となっていることが明らかになった。
外務省は、国際交流基金を通じて海外の日本語教育現場での多様なニーズに対応している。具体的には、日本語専門家の海外派遣、海外の日本語教師や外交官などの訪日研修、インドネシア及びフィリピンにおける経済連携協定(EPA)に基づく看護師・介護福祉士候補者への訪日前日本語予備教育、各国・地域の教育機関等に対する日本語教育導入等の働きかけ、日本語教材開発、外国語教育の国際標準に即した「JF(国際交流基金)日本語教育スタンダード」の普及活動などを行っている。そのほか、国際交流基金は、アニメやマンガを使った学習支援ウェブサイトやスマートフォンのアプリなどITの活用や、各国・地域の日本語教師会を始めとする日本語教育機関の活動支援などを通じて海外で日本語教育の普及に取り組んでいる。これらの取組の成果として、近年、学校教育で日本語教育を新たに導入する国も現れている。例えば、2015年にラオスの中等教育で、また2016年にはベトナムの初等教育で、それぞれ日本語教育が開始された。また、2017年9月には日インド首脳会談が行われ、両国が協力して大学等の日本語教育を拡大していくことが合意された。
(6)文化無償資金協力
開発途上国での文化・高等教育を支援し、日本と開発途上国の相互理解や友好親善を深めるため、政府開発援助(ODA)の一環として文化無償資金協力を実施している。2017年は、一般文化無償資金協力4件(総額約4億7,000万円)、草の根文化無償資金協力21件(総額約1億8,000万円)を実施した。2017年は、一般文化無償では文化遺産保存及び放送分野、草の根文化無償ではスポーツと日本語普及分野で重点的に活用した。

(7)国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ)を通じた協力
日本は、教育、科学、文化などの分野ではユネスコの様々な取組に積極的に参加している。ユネスコは1951年に日本が戦後初めて加盟した国際機関であり、以来、開発途上国に対する教育、科学、文化面等の支援で日本と協力してきた。
文化面では、世界の有形・無形の文化遺産の保護・振興及び人材育成分野での支援を柱として協力するとともに、文化遺産保護のための国際的枠組みにも積極的に参画している。その一環として、日本は、ユネスコに有形・無形それぞれの文化遺産保護を目的とした任意拠出を行っている。この拠出金の一部では、カンボジアのアンコール遺跡、ウガンダのカスビ王墓、ネパールの文化遺産の震災後の復興を始め、日本人の専門家が中心となって、現地の人々が将来は自らの手で遺跡を守ることができるよう人材育成を行うとともに、遺跡の保存修復を行っている。特にアンコール遺跡保存修復事業(カンボジア)は、1994年以降、継続的な支援を行っている。また、無形文化遺産保護についても、開発途上国における音楽・舞踊などの伝統芸能、伝統工芸などを次世代に継承するための事業、各国が自ら無形文化遺産を保護する能力を高めるための国内制度整備や関係者の能力強化支援事業を実施している。
教育面では、開発途上国の人材育成を目的とした任意拠出を行っており、ユネスコが主導する「万人のための教育(EFA)」の推進など、教育分野を中心とした人材育成への取組を支援している。「持続可能な開発のための教育(ESD)」について、日本は、2014年11月に岡山県岡山市及び愛知県名古屋市でユネスコと共催した「持続可能な開発のための教育に関するユネスコ世界会議」で採択された、「あいち・なごや宣言」の進展に向けた各種の支援を行った。また、2016年9月には、日本からユネスコへ推薦した「岡山ESDプロジェクト」が第2回ユネスコ-日本ESD賞を受賞した。2017年9月には、ヨルダン、英国及びジンバブエの3団体が第3回ユネスコ-日本ESD賞を受賞した。
その他ユネスコが力を入れているジェンダー格差を改善する分野では、エチオピアにおける女子生徒就学の維持及び学習効果の向上のための事業を行った(2017年3月に終了)ほか、サブサハラ・アフリカ諸国における教員教育を通じたジェンダーに配慮した科学、技術、工学、美術及び数学(STEAM)教育の促進事業を行っている。
ユネスコは、機構改革、分権化及びプログラム改革などを推進しており、日本もこれらのユネスコ改革を継続的に支援している。11月には、アズレー・ユネスコ新事務局長が就任し、12月に河野外務大臣と会談を行った。
ア 世界遺産条約
世界遺産条約は、文化遺産や自然遺産を人類全体の遺産として国際的に保護することを目的としており、日本は1992年にこの条約を締結した(2017年12月現在締約国数は193か国)。この条約に基づく「世界遺産一覧表」に記載されたものが、いわゆる「世界遺産」である。建造物や遺跡などの「文化遺産」、自然地域などの「自然遺産」、文化と自然の両方の要素を持つ「複合遺産」に分類され、2017年12月現在、世界遺産一覧表には世界全体で1,073件が記載されている。2017年、クラクフ(ポーランド)で開催された第41回世界遺産委員会において、日本が推薦した「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」(福岡県)の世界遺産一覧表への記載が決定され、日本からは、文化遺産17件、自然遺産4件の計21件が記載されている。


イ 無形文化遺産条約
無形文化遺産条約は、伝統芸能や伝統工芸技術などの無形文化遺産について、国際的保護の体制を整えるものである(2017年12月現在締約国数は175か国)。国内の無形文化財保護において豊富な経験を持つ日本は、この条約の作成作業の牽引(けんいん)役となり、運用指針の主要部分を取りまとめるなど、積極的な貢献を行っている。2017年12月現在、条約に基づき作成されている「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」には、日本の無形文化遺産として計21件が記されている。その中には、「人類の口承及び無形遺産に関する傑作」としてユネスコが宣言した能楽、文楽及び歌舞伎の3件が含まれている。現在、「来訪神:仮面・仮装の神々」が日本の同一覧表への記載案件候補として提案されている。
ウ ユネスコ「世界の記憶」事業
ユネスコ「世界の記憶」事業は、貴重な歴史的資料の保護と振興を目的に1992年に創設された。2017年12月現在、427件が登録されている。「上野三碑」及び日韓両国の共同団体から共同申請されていた「朝鮮通信使」が、10月に「世界の記憶」へ登録された。
また、2015年10月に中国の関係機関によって申請された「南京事件関連資料1」の登録の例にあるように、関係国間での見解の相違が明らかであるにもかかわらず、一方の国の主張のみに基づき申請・登録がなされ政治的対立を生むことは、ユネスコの設立趣旨である、加盟国間の友好と相互理解の推進に反するものとなるので、日本としては引き続き同事業の制度改善に努めている。2017年10月に行われたユネスコ執行委員会において、政治的緊張を回避し制度改善を進める決議が採択され、その後の登録審査で「従軍慰安婦関連資料」については関係者による対話を促すとして登録が先送りされた。また、12月には、案件登録のための新規申請を当面受け付けないことが事務局から発表された。

~文化遺産を未来へ受け継ぐために~
アフガニスタンの中央部、バーミヤンの谷には、荘厳な大仏が二体佇(たたず)み、千年以上にわたり多くの人々を魅了してきました。かつてこの地を訪れた玄奘三蔵も仰ぎ見た大仏は、2001年3月、タリバーンによって一瞬のうちに破壊されました。
同じ年、長く続いたアフガニスタンの紛争も終焉(しゅうえん)を迎え、日本は平和と復興に向けたアフガニスタン国民の努力をいち早く支持し、2002年1月には、その後の復興プロセスの端緒となるアフガニスタン復興支援国際会議を東京で主催しました。2002年5月、カブールで開催されたアフガニスタン文化遺産復興国際セミナーにおいて、日本は、バーミヤンの文化遺産の保存修復のため、ユネスコ文化遺産保存日本信託基金を通じて支援を行うことを表明しました。このセミナーに日本から出席した故平山郁夫ユネスコ親善大使(当時東京藝術大学学長)は、破壊された大仏について、「負の遺産」として現状のまま保存する重要性を示唆しつつ、その再建については「将来アフガニスタン人自身が決めるべきこと」と述べられました。

支援開始準備のため、戦火がやんで間もないカブールに入った日本人専門家がまず目にしたのは、東西の文明の粋を集めたかつての面影もなく略奪され、破壊された国立博物館でした。しかし、その荒廃した入り口には、「自らの文化が生き続ける限り、その国は生きながらえる。(A nation stays alive when its culture stays alive.)」と手書きで書かれた布が掲げられていました。
この言葉に勇気を与えられ、2003年、ユネスコを通じた日本のバーミヤン遺跡保存・修復事業がスタートします。現在に至るまで、約7億円という資金面の支援を行ってきただけではなく、考古学や、また大仏を取り囲む石窟に残る貴重な壁画の保存などの分野で高い専門性を持つ日本人専門家が現場に赴き、アフガニスタンの人々と共同作業で保存・修復を行ってきました。日本だけでなく、ドイツやイタリアを含め、国際的に高い水準の技術を持つ専門家の力を結集する形で事業を継続しています。

こうした実績を踏まえ、2017年秋、東京藝術大学においてバーミヤン遺跡の将来の方向性を話し合う国際会議が開催されました。焦点は、アフガニスタンが希望を表明している「東大仏の再建」に当てられ、世界遺産でもあるこの文化遺産を再建する場合、どのような理念で、どのような手法で行い得るか、地元アフガニスタンの関係者を始め各国から集まった専門家の間で意見が交わされました。今回の会議では、破壊された現場はそのまま保存し、別の場所にバーミヤン遺跡から発見された遺物などを展示・保管する総合博物館を併設したモニュメントとしての大仏を建てるという日本の案から、大仏の破片一つひとつを組み合わせて元の場所に大仏を復原するというドイツの案まで、いくつかの具体案が示されました。また、今後はアフガニスタン政府が中心となって各案を検討していくこととなりました。
日本は、将来的に文化遺産を守るのはその国の人々だという考えを基本として協力していますが、現在のアフガニスタンの治安情勢では、日本人専門家が現地で地元の人々と手を携えて保存修復を行うことがますます困難となっています。アフガニスタンの平和と安定の上に、再び文化の花が開くよう、未来を見据えた支援を行っていく所存です。
1 「世界の記憶」事業では、対象文書へのアクセスが登録基準として求められているが、南京事件関連資料については、その資料の閲覧等が認められていない状況にある。