外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

各論

1 戦略的な対外発信

(1)全般

政府からの発信としては、総理大臣や外務大臣を始め政府関係者が、日々の記者会見やインタビュー、寄稿、外国訪問先及び国際会議でのスピーチなどで日本の立場や考え方について積極的に発信してきている。また、在外公館では、歴史認識領土保全を始め幅広い分野で、日本の基本的立場や考え方について任国政府、国民及びメディアに対する発信に努めており、事実誤認に基づく報道が行われた場合には、在外公館の大使、総領事や外務報道官を中心に客観的な事実に基づく反論投稿などを実施している。加えて、政策広報動画等の広報資料を作成しているほか、ウェブサイトやソーシャルメディアを通じた情報発信にも積極的に取り組んでいる。

政策広報動画「自由で開かれたインド太平洋に向けた日本の取組」(11月9日からYouTube外務省チャンネルで公開。また、11月11日からCNNで放送)
政策広報動画「自由で開かれたインド太平洋に向けた日本の取組」(11月9日からYouTube外務省チャンネルで公開。また、11月11日からCNNで放送)

日本の基本的立場や考え方の理解を得る上で、有識者やシンクタンクなどとの連携を強化していくことも重要である。こうした認識の下、外務省は海外から発信力のある有識者やメディア関係者を日本に招へいし、政府関係者などとの意見交換や各地の視察、取材支援等を実施している。さらに、日本人有識者の海外への派遣を実施しているほか、日本関連のセミナー開催の支援を強化している。

また、これまで日本への関心が高くなかった人々を含め、深い理解と共感の裾野を広げていくためには、①政府、民間企業、地方自治体などが連携してオールジャパンで様々な日本の魅力を発信していくこと、②国内外の専門家の知見も取り入れつつ、現地のニーズを踏まえた発信を行うこと及び③日本に関する情報が一度に入手できるワンストップ・サービスを提供することが重要である。この認識の下、これらを実現する発信拠点として、2017年から、「ジャパン・ハウス」の開設を、サンパウロ(ブラジル)、ロサンゼルス(米国)及びロンドン(英国)で進めている(コラム「ジャパン・ハウス~評価される日本から、影響する日本へ~」237ページ参照)。

ジャパン・ハウス サンパウロ(写真提供:ジャパン・ハウス サンパウロ事務局 /Rogerio Cassimiro)
ジャパン・ハウス サンパウロ(写真提供:ジャパン・ハウス サンパウロ事務局 /Rogerio Cassimiro)

(2)諸外国における日本についての論調と海外メディアへの発信

日本が2016年に引き続き国連安保理非常任理事国を務めた2017年は、北朝鮮問題への対応を始めとする日本の外交政策、安全保障、経済・社会、国際貢献などについて、海外メディアから高い関心が寄せられた。また、総理大臣や外務大臣による「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」における積極的な外国訪問も、訪問国のメディアや国際メディアの関心を高めた。

日本への関心が強まる中、外務省としては、日本の立場や取組について国際社会からの理解と支持を得るため、海外メディアに対して迅速かつ積極的に情報提供や取材協力を行っている。その際、テーマや内容に応じて、適切なメディアに時宜を得た発信を行うことにより、戦略的かつ効果的な対外発信となるよう努めている。

海外メディアを通じた対外発信として、河野外務大臣などによる定例の記者会見やプレスリリース等による在京特派員への情報提供を行っている。また、安倍総理大臣、河野外務大臣の外国訪問やG7タオルミーナ・サミット、G20ハンブルク・サミット、TICAD閣僚会合、国連総会などの国際会議への参加の機会を捉え、海外メディアによるインタビュー、海外メディアに対する寄稿や記者会見を実施している。2017年は、安倍総理大臣の寄稿・インタビューを12件、岸田外務大臣及び河野外務大臣の寄稿・インタビューを計21件、安倍総理大臣外国訪問中の内外記者会見を4回、河野外務大臣外国訪問中の外国プレス向け記者会見を2回実施した。

例えば、安倍総理大臣は1月の東南アジア訪問の機を捉え、現地紙のインタビューに応じ、フィリピン紙、インドネシア紙、ベトナム紙で各国との二国間関係の強化、貿易・投資の拡大、海洋安全保障における協力などについて発信した。9月のロシア訪問前にはロシアのテレビ局のインタビューに出演し北方四島での共同経済活動や平和条約締結への決意を発信し、同月の国連総会出席の際には北朝鮮問題についてニューヨーク・タイムズ紙(米国)に寄稿した。11月にはトランプ米国大統領の訪日に際し、フォックスニュース(米国)のインタビューに応じ、北朝鮮への対応における連携、日米関係の強化などについて発信した。河野外務大臣は8月、米国訪問の機会を捉え、ワシントン・ポスト紙のインタビューを受け日米同盟の一層の強化を訴えた。さらに、同月のTICAD閣僚会合出席に際し、モザンビークでユーロニュース/アフリカニュースのインタビューに応じ、日本のアフリカ支援の取組について紹介した。また、11月にはCNN(米国)にインタビュー出演し、北朝鮮への対応や日米関係の強化につき発信した。

また、総理大臣、外務大臣の外国訪問の機会を活用した外務報道官ほかによる海外メディアに対する発信を積極的に実施した。例えば、11月のAPEC首脳会議及びASEAN首脳会議の機会に実施した記者ブリーフには延べ約130人が出席した。

これらに加えて、日本に拠点がないメディアなど世界各国の記者78人及びテレビチーム6件を日本に招へいし、日本の重要政策や立場への理解を促進した。例えば、3月には「地方を世界へ」プロジェクトでの岸田外務大臣の熊本訪問に合わせて、アジア5か国・地域及び中・東欧6か国から計11人の記者を日本に招へいし、熊本の震災からの復興状況等につき取材する機会を提供した。地方自治体の復興への取組につき各国で多数の報道がなされた。また、4月と11月に2件の風評被害対策グループ招へいを実施し(アジア、欧州、中南米地域から各回5人ずつ)、いわき市や相馬市で東日本大震災からの復興への歩みに関する取材・視察を行ったほか、10月には日本のエネルギー外交・エネルギー関連技術に関する取材機会を設け、アジア・中東・アフリカの5か国から5人の記者を招へいし、「福島新エネ社会構想」の関連施設等への取材を行い、各国で報じられた。また、12月にはアラブ諸国から5人の記者を招へいし、日本の対中東政策や同地域との協力関係について取材機会を設けた。

また、海外メディアによる日本関連報道の中には事実誤認に基づいた記事も見られたため、速やかに申入れや反論投稿を行うことにより、正しい事実関係と理解に基づく報道がなされるよう努めた。

(3)インターネットを通じた情報発信

外務省は、日本の外交政策に関する国内外の理解と支持を得るため、ウェブサイトやソーシャルメディアなどインターネットを通じた情報発信に積極的に取り組んできている。

外務省ホームページ(英語)トップ
外務省ホームページ(英語)トップ

外務省ホームページ(英語)については、広報文化外交の重要なツールと位置付け、領土問題、歴史問題、安全保障等を含む日本の外交政策や国際情勢に関する日本の立場、さらには日本の多様な魅力などについて英語での情報発信を強化してきている。さらに、海外の日本国大使館及び総領事館のウェブサイトを通じ、現地語での情報発信も行っている。

ソーシャルメディアでは、フェイスブックツイッターユーチューブなどを通じて、国際社会に対して迅速かつ多様な情報発信を行っている。

COLUMN
ジャパン・ハウス
~評価される日本から、影響する日本へ~

「日本を知る衝撃を、世界へ」、「『日本をいかに知らなかったか』の深い気づきと静かな感動を」をコンセプトに、日本の多様な魅力を世界に向けて発信する新たな拠点として、ロンドン(英国)、ロサンゼルス(米国)及びサンパウロ(ブラジル)の3都市にジャパン・ハウス(www.japanhouse.jp/)の設立を進めています。

日本は、深い精神性、伝統や豊かな自然・風土に根ざした文化や習俗、鋭敏・繊細な美意識が感じられる芸術・美術や日々の技、刷新的な先端技術、突き抜け極められたファッションやポップカルチャー等、他に比類無き多様で豊かな文化を持っています。これらは、国際社会において日本が存在感を高め、発言力を維持・強化していく上で、外交的な価値を持ち得ます。ジャパン・ハウスは、心を打ち、感情を動かす日本の文化や芸術に「出会う」機会を提供し、そのような文化や芸術を生み出している日本や日本人に対する関心、親しみ、共感を抱く層を広げていこうとしています。さらには、世界に影響を与えていく、世界のパートナーとしての日本の価値に対する認識を広げていこうとしています。

4月に開館したサンパウロのジャパン・ハウスは、12月末までの8か月間で来館者数が55万人を超え、サンパウロの新名所として内外から多くの人々が訪れています。同館では、ギャラリーでの展示企画のほか、民間の活力や地方の魅力を積極的に活用したレストラン、ショップ、カフェを運営し、また、ライブラリーで日本に関する様々な情報を入手することができるようになっています。セミナールームでは、展示企画に連動した参加型ワークショップや講演会が行われるほか、地方自治体や日本企業によるプロモーション・イベントも開催されています。

ジャパン・ハウス サンパウロで長蛇の列をなす来館者(ブラジル・サンパウロ)
ジャパン・ハウス サンパウロで長蛇の列をなす来館者(ブラジル・サンパウロ)

ジャパン・ハウスは、既に評価を確立した芸術家に限らず、若手芸術家、地方自治体、企業など、日本を表現し、世界に向けてアピールしていく意欲と才能を持つ人々の海外進出の足がかりになることを目指しています。サンパウロに続き、12月には米国・ロサンゼルスのジャパン・ハウスも一部開館(ギャラリー及びショップ部分)しました。現在、ロサンゼルスの全館開館及び英国・ロンドンの開館に向けた準備が進められています。

展示企画に見入る来館者(ブラジル・サンパウロ)
展示企画に見入る来館者(ブラジル・サンパウロ)
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