外交青書・白書
第3章 世界と共創し、国益を守る外交

8 ジェンダー平等・女性のエンパワーメント

2022年から続くロシアによるウクライナ侵略や2023年10月のハマスなどパレスチナ武装組織によるテロ攻撃を発端としたパレスチナ・ガザ地区での武力衝突は、紛争関連性的暴力に関する報告の増加に代表されるように、特に女性・女児に深刻な被害を及ぼしている。さらに、気候変動による台風やハリケーン、洪水、地震、大火災など大規模自然災害の影響は国を問わず世界中で頻発しており、保健や食料・エネルギーへの不安なども拡大し、既存のジェンダー不平等を一層浮き彫りにしている。このため、ジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの促進は国内外の平和と繁栄のための最重要課題の一つとして捉える必要がある。より平和で繁栄した社会を実現していく上で、女性・女児を様々な施策の中心に位置付けることは不可欠であり、あらゆる政策にジェンダーの視点を取り入れる「ジェンダー主流化」は、国際社会においてますます重要となっている。特に、紛争後の平和構築に至るまでの意思決定の全ての段階において、女性の平等で十全な参画を得ることによって、より持続可能な平和に近づくという考え方である「女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security、以下「WPS」という。)の視点が重要である。

日本の予算の基礎となる「経済財政運営と改革の基本方針2023(いわゆる「骨太方針2023」)」においては、初めてWPSが取り上げられた。外務省においても、ODAを含むあらゆるツールを用いて省内横断的にWPSを推進するため、2024年1月に大臣の下にタスクフォースを設置した。今後も、女性に関する国際会議の開催や、各国や国際機関などとの連携を通じた開発途上国支援を強力に推進し、WPSを含むジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの促進に貢献していく。

(1)G7

5月に開催されたG7広島サミットの首脳宣言では、三つの段落にわたりジェンダーが主題として扱われたほか、前文、開発、食料安全保障、労働、教育、デジタル、人権、テロ、地域情勢といった幅広い文脈においてもジェンダーが取り上げられた。なかでも、あらゆる人々が性自認、性表現あるいは性的指向に関係なく、暴力や差別を受けることなく生き生きとした人生を享受することができる社会の実現にコミットしたほか、ジェンダー主流化を深化させるため、政治と安全保障、経済と社会の領域を橋渡しする「ネクサス」89を作り出すことによる行動の効率と影響の最大化を提唱した点などが特筆される。また、6月には日本で初めての開催となるG7栃木県・日光男女共同参画担当大臣会合において、小倉將信女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣(男女共同参画)が議長を務め、会合の成果として「G7ジェンダー平等大臣共同声明(日光声明)」を取りまとめた。11月に上川外務大臣が議長を務め東京で開催されたG7外相会合においては、WPSアジェンダを含むジェンダー平等といった、より広範なグローバルな課題に対処するため、G7を超えて国際的な連帯を更に築くことにコミットすることが共同声明に盛り込まれた。

このほか、「ジェンダー・ギャップに関するG7ダッシュボード」90の改訂や、初となる「ジェンダー平等実施報告書」の経済協力開発機構(OECD)による公表など、ジェンダー分野におけるG7のコミットメントの監視メカニズムも着実に実施された。

(2)G20

8月、G20インド議長国下で、G20では3回目となる女性活躍担当大臣会合がガンディガナル(インド)で開催された。同会合の主要テーマは、「世代間変革を先導する女性主導の包摂的な開発(Women led Inclusive Development as Cusp of Inter- Generational Transformation)」で、小倉女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣は「女性のリスキリング(Skilling Opportunities for Women)」のセッションに参加し、日本の男女共同参画の現状や取組、G7栃木県・日光男女共同参画・女性活躍担当大臣会合で取りまとめた「日光声明」などに言及した。9月のG20ニューデリー・サミットで発出された首脳宣言では、ジェンダー平等並びに全ての女性及び女児のエンパワーメントや、経済的・社会的エンパワーメントの強化、ジェンダー間のデジタル・ディバイド是正の重要性を確認した。

(3)国際協力における開発途上国の女性支援

日本は、国際協力機構(JICA)や国際機関を通じ、教育支援・人材育成のほか、開発途上国の女性の経済的エンパワーメントやジェンダーに基づく暴力の撤廃に向けた取組を行っている。

ア 教育支援・人材育成

2021年7月に開催された世界教育サミットで、茂木外務大臣がビデオメッセージで、5年間で15億ドル以上の教育支援を表明、また少なくとも750万人の開発途上国の女子に対する質の高い教育及び人材育成の機会の提供の支援を表明し、これを実施している。2022年9月に開催された第77回国連総会において、岸田総理大臣は、人への投資を重視しつつ人材育成や能力構築に力を入れること、また、教育チャンピオン91に就任し、国連変革教育サミットの成果も踏まえて人づくり協力を進めることを表明した。

イ JICAを通じた女性支援

女性の経済的エンパワーメントを推進するため、パキスタンにおいて低所得層の女性家内労働者の生活改善支援や、ベトナムにおいて女性のニーズに応じた金融サービスなどの提供促進支援を行った。また、女性の平和と安全の保障を推進するため、メコン地域を対象に人身取引対策に携わる関係組織の能力と連携強化を支援し、さらに、南スーダンやパキスタンにおいてジェンダーに基づく暴力の生存者の保護や自立支援を行う協力及びジェンダーに基づく暴力の撤廃をテーマとした研修を12か国から参加者を得て実施した。

ウ 紛争下の性的暴力への対応

紛争の武器としての性的暴力は、看過できない問題であり、加害者不処罰の終焉(えん)及び被害者の支援が重要である。21世紀こそ女性の人権侵害のない世界にするため、日本はこの分野に積極的に取り組んでおり、紛争下の性的暴力担当国連事務総長特別代表(SRSG-SVC)92事務所などの国際機関との連携、国際的な議論の場への参加を重視している。2023年、日本はSRSG-SVC事務所に対し、約90万ドルの財政支援を行い、マリにおける紛争関連性的暴力を含むジェンダーに基づく暴力の被害者に対して、医療・心理的支援や社会経済的統合に関する支援などを行っている。また、2018年ノーベル平和賞受賞者であるデニ・ムクウェゲ医師及びナディア・ムラド氏が中心となって創設した紛争関連の性的暴力生存者のためのグローバル基金(GSF)93に対し、2023年に200万ユーロを追加拠出し、これまでに計800万ユーロを拠出した(2023年12月末時点)。また、日本は理事会メンバーとして同基金の運営に積極的に関与している。さらに、国際刑事裁判所(ICC)の被害者信託基金にも引き続き拠出を行っており、性的暴力対策にイヤーマーク(使途指定)し、被害者保護対策にも取り組んでいる。このほか、国連女性機関(UN Women)を通じた支援も行っている。

(4)国連における取組

ア 女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)

日本は、WPSを主要外交政策の一環として力強く推進している。WPSとは、紛争下の女性や女児の保護及び紛争予防から和平プロセス、紛争後の平和構築に至るまでの意思決定の全ての段階における女性の平等で十全な参画を得ることによって、より持続可能な平和に近づくという考え方で、2000年に採択された安保理決議第1325号に初めて明記された。

上川外務大臣は、就任以来、国連ハイレベルウィークに際するニューヨーク訪問や東南アジア、中東訪問、G7外相会合など、二国間・多国間を問わず様々な機会をとらえて、WPSの重要性を発信している。9月の国連総会ハイレベルウィーク期間中、上川外務大臣は国際平和研究所(IPI)、アイルランド政府及び笹川平和財団の共催による「女性・平和・リーダーシップ」シンポジウム及び「WPSフォーカルポイント・ネットワーク・ハイレベル・サイドイベント」に出席し、安保理非常任理事国として、日本はWPSの推進に一層取り組んでいくと述べた。11月、APEC閣僚会議に際するサンフランシスコ訪問では、「WPS+I(イノベーション)」と題して、WPSを次の次元に引き上げるためのイノベーションをテーマに基調講演を実施し、WPSの推進や女性のエンパワーメントには男性の協力が不可欠であること、また、世界各地で自然災害が多発する中、災害対応や防災・減災の分野にWPSアジェンダを組み込むことは極めて重要であると指摘し、平和と安定が揺らいでいる時代において、経済と平和・安定を不可分のものとして議論すべきとの問題を提起した上で、斬新かつクリエイティブな議論を行った。

「WPSフォーカルポイント・ネットワーク・ハイレベル・サイドイベント」に出席する上川外務大臣(9月21日、米国・ニューヨーク)
「WPSフォーカルポイント・ネットワーク・ハイレベル・サイドイベント」に出席する上川外務大臣(9月21日、米国・ニューヨーク)

また、12月には、日本としてWPSを次の次元に引き上げるために、各界や現場の専門家の意見をヒアリングすることが重要であるとの観点から、上川外務大臣は、「WPS+I(イノベーション)」第2弾として、「WPS+イノベーション-難民支援・人道支援の現場から-」と題する意見交換会を主催し、佐藤摩利子国際移住機関(IOM)アジア太平洋地域上級顧問のモデレートの下、国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)、赤十字国際委員会(ICRC)、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、IOMから、難民支援や人道支援の現場での経験を踏まえつつ、直面する課題や日本に期待する役割などについて聴取した。さらに、上川外務大臣は、笹川平和財団主催のWPSに関する日本・インドネシア外相対話「なぜ、女性の視点が必要なのか-日本・インドネシアの女性外相が語るー」に出席し、災害対応における女性の視点の重要性について強調しつつ、日本ASEAN友好協力50周年を契機として、インドネシアを始めとするASEAN諸国と共にWPSアジェンダを推進し、ルトノ外相と共にWPSの主流化を国際社会全体に広めていきたいと発言した。

そのほか、上川外務大臣は、10月にはジョージタウン大学女性・平和・安全保障研究所、笹川平和財団主催「女性、平和、安全保障における男性の参加」シンポジウム、11月にはWomen Political Leaders(WPL)、アイスランド政府及び同国議会が主催する「レイキャビク・グローバル・フォーラム2023」に対してそれぞれビデオメッセージを発出し、WPSアジェンダを更に推進していきたいと述べた。

また、日本は4月に、第3次「女性・平和・安全保障行動計画」(女性・平和・安全保障に関する国連安保理決議第1325号及びその関連決議の履行に向けた行動計画)を策定した。本計画に沿って、主にUN WomenやSRSG-SVC事務所などの国際機関への拠出により中東、アフリカ、アジア地域のWPS分野に貢献しているほか、モニタリングのための実施状況報告書及び外部有識者から構成される評価委員による評価報告書を作成した。さらに、日本国内では12月に「WPSパネルディスカッション:国際平和と安全保障への女性の参画促進に日本はどう貢献できるか?─G7 GEAC・WAW!フォローアップイベント-」を開催し、実務家やハイレベルの議論を行った(249ページ 特集参照)。

特集ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに向けて
─G7ジェンダー平等アドバイザリー評議会(GEAC)・国際女性会議WAW!フォローアップウィーク─

2015年以降のG7サミットでは、女性のエンパワーメントが議題の一つとして取り上げられ、重要課題と認識されています。日本が議長国を務めた5月のG7広島サミットの首脳宣言では、三つの段落にわたりジェンダーが主題として扱われたほか、前文、開発、食料安全保障、労働、教育、デジタル、人権、テロ、地域情勢といった幅広い文脈においてもジェンダーに言及しました。さらに12月には、G7の首脳に対してジェンダー平等に関する提言を行う外部諮問機関であるジェンダー平等アドバイザリー評議会(GEAC)1が、岸田総理大臣に提言を取りまとめた最終報告書を提出しました。また、日本政府は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントを国内外で実現するための取組の一環として、2014年から国際女性会議WAW!(World Assembly for Women)を開催しています。こうした取組をフォローアップする観点から、外務省は、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに向けたイベントを12月に開催しました。

12月12日、岸田総理大臣は、白波瀬佐和子東京大学教授を議長とする、GEACの代表による表敬を受けました。GEACのメンバー8人は、最終報告書「包摂的、平和的、公正な社会のためのジェンダー主流化」を提出し、ジェンダー主流化を通じたジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントを更に推進することへの強い期待を述べました。それに対し、岸田総理大臣は一層のジェンダー主流化の促進に取り組みたいと述べました。

GEACによる岸田総理大臣表敬(12月12日、東京 写真提供:内閣広報室)
GEACによる岸田総理大臣表敬
(12月12日、東京 写真提供:内閣広報室)

12月13日、「G7広島サミットフォローアップ:GEAC報告書発表シンポジウム ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに向けて」が開催されました。GEACのメンバーは、今般発表された最終報告書の内容について、ジェンダーに知見を有する各分野の専門家としての視点を交えて議論を展開しました。上川外務大臣はビデオメッセージで、最終報告書の提言はG7の考えとも一致するものであるとした上で、中でも女性・平和・安全保障(Women, Peace and Security:WPS)の完全な実施の確保が提言に含まれていることを歓迎しました。

GEAC報告書発表シンポジウムにおける上川外務大臣ビデオメッセージ(12月13日、東京)
GEAC報告書発表シンポジウムにおける上川外務大臣ビデオメッセージ(12月13日、東京)

同日、「国際平和と安全保障への女性の参画促進に日本はどう貢献できるか?」をテーマとして、WPSに関するパネルディスカッションが開催されました。第一部では、外務省から日本のWPS行動計画の特徴や日本ならではのWPSの取組を紹介したのに続いて、防衛省、笹川平和財団、独立行政法人国際協力機構(JICA)、NGO関係者などからWPSに関する現場での経験に基づく報告が行われました。第二部では、メレーン・バービア・ジョージタウン大学WPS研究所長や目黒依子上智大学名誉教授、マキシム・ウィナト国連女性機関(UN Women)東・南部アフリカ地域事務局長、ピーター・ロバーツ駐日オーストラリア大使館首席公使らが登壇し、WPSを踏まえた紛争や災害対応について、非常に活発な議論が行われました。さらに、バービアWPS研究所長は深澤陽一外務大臣政務官と懇談し、日本のWPSに関する取組などについて意見交換を行いました。

WPSパネルディスカッションの様子(12月13日、東京)
WPSパネルディスカッションの様子(12月13日、東京)
深澤外務大臣政務官とバービアWPS研究所長との昼食会(12月14日、東京)
深澤外務大臣政務官とバービアWPS研究所長との昼食会
(12月14日、東京)

1 GEAC:The Gender Equality Advisory Council

イ 国連女性機関(UN Women)との連携

日本は、2013年に約200万ドルだった拠出金を、2023年には約2,066万ドルにまで増額し、UN Womenとの連携を強化している。とりわけ、開発途上国の女性・女児に対し、平和構築及び復興プロセスに参画するための能力強化、生計支援や起業支援などの経済的なエンパワーメント、また、ジェンダーに基づく暴力の被害を受けた女性に対する支援などに取り組んでいる。このほか、紛争、自然災害の影響を受けた女性、女児に対する生活必需品の提供、雇用創出・職業訓練を通じた女性の経済的エンパワーメント支援も実施している。

ウ 国連女性の地位委員会(CSW)94

3月に開催された第67回国連女性の地位委員会(CSW67)は、2019年のCSW63以来の対面開催となった。会議では、「ジェンダー平等と全ての女性と女児のエンパワーメントの達成のためのイノベーション、技術変革、デジタル時代の教育」を優先テーマに議論が展開された。日本からは、小倉女性活躍担当大臣・内閣府特命担当大臣(男女共同参画)が、一般討論においてビデオメッセージ形式で、デジタル分野における女性のエンパワーメントに向けた日本の取組について説明した。また、閣僚級円卓会合において、田中由美子日本代表(城西国際大学特命連携教授)が、デジタル分野での女性の就業支援の取組や国際協力として実施している国外での女性たちのデジタルスキル向上支援といった日本の取組を紹介した。

89 ネクサス(NEXUS):「一貫性」「連結性」「連続性」を意味する。

90 ジェンダー平等に関するG7のコミットメントを継続的に監視するため、教育、雇用・社会保障、起業、リーダーシップ、健康・福祉、開発協力基金の分野から12の指標を選定し、G7及びEUの国内・域内のジェンダー平等の進捗を図表化したもの。2022年6月のG7エルマウ・サミットで承認された。

91 同国連総会で、岸田総理大臣は、グテーレス国連事務総長の要請を受け、国際社会において教育を推進するリーダーの役割を担う初代教育チャンピオンに就任した。

92 SRSG-SVC:Special Representative of the Secretary-General on Sexual Violence in Conflict

93 GSF:Global Fund for Survivors of Conflict-Related Sexual Violence

94 CSW:United Nations Commission on the Status of Women

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