第1節 日本と国際社会の平和と安定に向けた取組
1 安全保障に関する取組
(1)日本を取り巻く安全保障環境
現在、日本は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。日本の周辺では、核・ミサイル戦力を含む軍備増強が急速に進展している。軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化の傾向が顕著となっており、力による一方的な現状変更の試みもこれまで以上に見られる。また、国際社会では、一部の国家が、独自の歴史観・価値観に基づき、既存の国際秩序の修正を図ろうとする動きを見せるなど、インド太平洋地域を中心にパワーバランスの歴史的な変化と地政学的競争が激化している。2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵略が発生した。また、海洋においては、既存の国際秩序とは相容(い)れない主張に基づいて自国の権利を一方的に主張し、又は行動する事例が見られ、これにより、公海における航行の自由や上空飛行の自由の原則などが不当に侵害される状況が生じている。
このような中、領域をめぐるグレーゾーン事態、民間の重要インフラなどへの国境を越えたサイバー攻撃、偽情報等の拡散を含む情報操作などを通じた認知領域における情報戦が国際的に恒常的に生起し、有事と平時の境目がますます曖昧(あいまい)になってきている。また、安全保障の対象は、経済、技術など、これまで非軍事的とされてきた分野にまで拡大し、軍事と非軍事の分野の境目も曖昧になっている。さらに、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、国際テロへの対応は、引き続き国際社会にとっての重大な課題である。こういった動きを踏まえ、様々な分野における安全保障政策に係る取組の強化が必要となっている。
2022年12月、日本は新たな「国家安全保障戦略」とともに、これを踏まえた「国家防衛戦略」及び「防衛力整備計画」を決定した。「国家安全保障戦略」においては、安全保障に係る様々な施策(反撃能力の保有を含む防衛力の抜本的な強化、総合的な防衛体制の強化、防衛装備移転三原則や運用指針などの見直しの検討、能動的サイバー防御の導入の検討、海上保安能力の大幅な強化と体制の拡充、経済安全保障政策の促進など)が打ち出される中、安全保障に関わる総合的な国力の主な要素の一つとして、まず外交力が掲げられた。引き続き、同戦略に基づき、危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出するために力強い外交を展開していく。
また、国家安全保障戦略にもあるとおり、防衛装備品の海外への移転は、日本にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略等を受けている国への支援などのための重要な政策的手段となる。こうした観点から、幅広い分野の防衛装備を移転可能とすると同時に、移転に係る審査をより厳格に行うため、2023年12月に防衛装備移転三原則及び運用指針の一部改正を行った。
(2)「平和安全法制」の施行及び法制に基づく取組
日本を取り巻く安全保障環境の変化に対応し、国民の命と平和な暮らしを守るためには、力強い外交を推進し、平和で、安定し、繁栄した国際環境を創出していくことが重要である。その上で、あらゆる事態に対し切れ目のない対応を可能とし、また、国際協調主義に基づき国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献することが重要であり、そのための「平和安全法制」が、2016年3月に施行された。
平和安全法制の施行後、米国を始めとする関係国との間で様々な協力が行われており、日米同盟はかつてないほど強固になり、日本は地域や国際社会の平和と安定に一層寄与するようになった。例えば、米軍などに対しては2017年から2022年末までの間、弾道ミサイルの警戒を含む情報収集・警戒監視活動や共同訓練の機会に、計110回の警護を実施した。また、2022年11月には、初めて日米豪3か国が連携した形で警護を実施した。さらに、国連平和維持活動(PKO)などの国際的な平和協力活動への協力についても活動が拡充された。
このように、平和安全法制の施行以来、米国のみならず様々な国との協力が深化している。今後も、国民の命や平和な暮らしを守り抜くため、外務省としても、各国との相互協力の更なる進展に資する外交関係の維持・発展に努めていく考えである。
(3)領土保全
領土保全は、政府にとって基本的な責務である。日本の領土・領空・領海を断固として守り抜くとの方針は不変であり、引き続き毅(き)然としてかつ冷静に対応するとの考えの下、政府関係機関が緊密に協力し、いかなる不法行為に対しても切れ目のない十分な対応を確保するための取組を推進している。同時に、在外公館の人脈や知見をいかしつつ、領土保全に関する日本の主張を積極的に国際社会に発信している。