外交青書・白書
第3章 世界と共創し、国益を守る外交

7 人権

世界各地における人権状況への国際的関心が高まっているが、人権の保護・促進は国際社会の平和と安定の礎である。人権は普遍的な価値であり、達成方法や文化に差異はあっても、人権擁護は全ての国の基本的責務であると日本は認識している。また、深刻な人権侵害に対してはしっかり声を上げるとともに、「対話」と「協力」を基本とし、民主化、人権擁護に向けた努力を行っている国との間では、二国間対話や協力を積み重ねて自主的な取組を促すことが重要であると考えている。加えて日本は、アジアでの橋渡しや社会的弱者の保護といった視点を掲げつつ、二国間対話や国連など多数国間フォーラムへの積極的な参加、国連人権メカニズムとの建設的な対話を通じて、世界の人権状況の改善に向けて取り組んでいる。二国間対話としては、米国との間で民主主義の強靭(じん)性に関する日米戦略対話を新たに立ち上げ、2月に第1回日米戦略対話(東京)を開催した。8月には第12回日・カンボジア人権対話(プノンペン)、10月には第14回日・イラン人権対話(東京)を開催し、人権分野での双方の取組について情報交換し、また、多国間の場での協力について意見交換を行った。11月の第3回日・国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)政策協議では、日本とOHCHRの協力強化について議論するとともに、人権分野などにおける日本の取組やアジアを始めとする地域の人権状況などにつき意見交換を行った。

(1)国連などにおける取組

ア 国連人権理事会

国連人権理事会は、1年を通じてジュネーブで会合が開催され(年3回の定期会合)、人権や基本的自由の保護・促進に向けて、審議・勧告などを行っている。5月にはスーダンの人権状況に関する特別会合が開催され、スーダン紛争の人権への影響に関する決議が採択された。日本は、2022年までに、理事国を5期務めた。10月の理事国選挙でも当選し、2024年1月から2026年12月まで理事国を務めることとなる(6期目)。

2月及び3月の国連人権理事会第52会期のハイレベル・セグメントでは、中谷元総理大臣補佐官(国際人権問題担当)がステートメントを実施した。その中で、中谷総理補佐官は、ロシアによるウクライナ侵略を国際秩序の根幹を揺るがす暴挙として断固拒否し、国際社会が今一度結束して行動することを求めた。また、日本として引き続き、アジアの国々を始めとする世界の人権保護・促進に貢献していく決意を述べ、拉致問題の早期解決の重要性を訴えた。さらに、香港や新疆(きょう)ウイグル自治区を始めとする中国の人権状況に深刻な懸念を表明し、中国の具体的行動を求めた。また、「ビジネスと人権」、ハンセン病差別撤廃、多様性が尊重され、全ての人々がお互いの人権や尊厳を大切にし、自分らしい人生を送れる社会の実現、女性の人権の保護推進といった分野における日本の直近の取組を紹介した。同会期では、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が無投票で採択された(採択は16年連続)。この決議は、北朝鮮に対して、全ての拉致被害者の即時帰国の実現を確保することを始め、拉致被害者及びその御家族の声に真摯に耳を傾け、即座に被害者の家族に対する失踪者の安否及び所在に関する正確、詳細、かつ完全な情報の誠実な提供を改めて強く要求しているほか、関係者と建設的な対話を行うことを要求する内容となっている。

6月及び7月の第53会期では、日本はハンセン病差別撤廃決議案を主提案国として提出し、無投票で採択された。同決議は、全世界でハンセン病患者・回復者及びその家族による人権の享受を実現し、平等な社会参加を妨げる患者などへの差別や偏見を撤廃することを目的に、ハンセン病差別撤廃に関する特別報告者の任期を3年間延長することを主な内容としている。

9月及び10月の第54会期では、日本はカンボジア人権状況決議案を主提案国として提出し、無投票で採択された。同決議は、カンボジアの人権状況に対する国際社会の懸念を反映しつつ、カンボジア政府による人権状況改善のための取組を促進するほか、カンボジアの人権状況に関する特別報告者の任期を2年間延長する内容となっている。

イ 国連総会第3委員会

国連総会第3委員会は、人権理事会と並ぶ国連の主要な人権フォーラムであり、例年10月から11月にかけて、社会開発、女性、児童、人種差別、難民、犯罪防止、刑事司法など幅広いテーマが議論されるほか、北朝鮮、シリア、イランなどの国別人権状況に関する議論が行われている。第3委員会で採択された決議は、総会本会議での採択を経て、国際社会の規範形成に寄与している。

第78会期では、EUが提出し、日本が共同提案国となった北朝鮮人権状況決議案が、11月の第3委員会と12月の総会本会議において、無投票で採択された(採択は19年連続)。同決議は、深刻な人権侵害を伴う拉致問題及び全ての拉致被害者の即時帰国の緊急性及び重要性を始めとしたこれまでの決議内容を重ねて言及し、さらには、北朝鮮が被害者及びその家族の声に真摯に耳を傾け、被害者の家族に対する被害者の安否及び所在に関する正確、詳細かつ完全な情報の誠実な提供、関係者との建設的な対話を行うよう強く要求する内容となっている。また、同会期では、英国が50か国を代表して、新疆ウイグル自治区における深刻な人権侵害に関する共同ステートメントを読み上げ、日本はアジアから唯一これに参加した。

さらに日本は、シリア、イラン、ミャンマーなどの国別人権状況や各種人権問題(社会開発、児童の権利など)を含め、人権保護・促進に向けた国際社会の議論に積極的に参加した。

ウ 「ビジネスと人権」に関する行動計画の実施

日本は、国連人権理事会において支持された「ビジネスと人権に関する指導原則」を受け、2020年に政府が策定した「ビジネスと人権」に関する行動計画の下、企業活動における人権尊重の促進に取り組んでいる。また、企業における人権尊重の取組を後押しするため、2022年9月に業種横断的な人権デュー・ディリジェンス88に関するガイドラインを策定したことに加え、2023年4月には、公共調達における人権配慮に関する政府の方針についての決定を行った。5月、G7広島サミット首脳コミュニケにおいても、G7内外でビジネスと人権に関する議論を深める必要性を強調した。さらに、国際機関とも連携し、日本企業の進出国を中心に、現地政府への支援や、日本企業及びそのサプライヤーに対する研修やセミナーなどを実施している。今後も、関係府省庁と連携しつつ、ステークホルダーと継続的に対話を行いながら、行動計画の着実な実施に取り組んでいく。

(2)国際人道法に関する取組

日本は、国内における国際人道法の履行強化に向けて積極的に取り組んできた。11月にはアジア太平洋国際人道法地域会合に参加した。また、国際人道法の啓発の一環として、例年同様、赤十字国際委員会(ICRC)主催の国際人道法模擬裁判・ロールプレイ大会に、審査員役として講師を派遣し、12月には国際人道法(IHL)国内委員会を開催した。

(3)難民問題への貢献

日本は、国際貢献や人道支援の観点から、2010年度から2014年度まで第三国定住(難民が、庇(ひ)護を求めた国から新たに受入れに同意した第三国に移り、定住すること)により、タイに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れた。2015年度以降は、マレーシアに一時滞在しているミャンマー難民を受け入れている。

その後、難民を取り巻く国際情勢の大きな変化や国際社会の動向を踏まえ、難民問題に関する負担を国際社会において適正に分担するとの観点から、日本は、2019年6月、第三国定住による難民の受入れを、年約60人の範囲内へ拡大することを決定した。

2020年度は、国内外における新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて、難民の受入れが延期されたが、2022年3月に再開され、2010年度から2023年末時点までに合計101世帯276人が来日した。

来日した難民は生活のための語学習得や就職支援サービスを受けるなど、6か月間の定住のための研修を受ける。研修を終えた者は、それぞれの定住先地域で自立した生活を営んでいる。当初、首都圏の自治体を中心に定住を実施してきたが、難民問題への全国的な理解を促進することなどの観点から、2018年以降は、首都圏以外の自治体での定住を積極的に進めている。

第三国定住による難民受入れは欧米諸国が中心となって取り組んできたが、アジアで開始したのは日本が初めてである。

88 人権デュー・ディリジェンス:企業活動における人権への影響の特定、予防・軽減、対処、情報提供を行うこと

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