2 中国・モンゴルなど
(1)中国
ア 中国情勢
(ア)経済
中国では、ここ数年の実質GDP成長率の伸びが鈍化傾向にあるなど、景気は緩やかに減速しており、2016年の実質GDP成長率は前年比6.7%増、貿易総額は前年比6.8%減(特に、輸出総額は前年比7.7%減)となっている。その一方で足元の景気は地域や業種等によってばらつきがあり、例えば、製造業を始めとする第二次産業は減速する一方、金融、サービスを始めとする第三次産業は堅調であるなど、「まだら模様」の状態にある。

金融動向を見ると、上海株式市場では2015年夏に続いて2016年1月にも株価が急落し、当局が規制措置を講じるなど、市場の安定化が図られた。また、近年人民元は対米ドルで緩やかに上昇してきたが、2015年8月の為替レート基準値算出方式の変更を機に反転し、米国の利上げ等を背景に、元安ドル高が進行している。
経済の安定成長の確保は、社会の安定の基礎であり、執政党である中国共産党に対する中国人民の支持の源泉であるが、競争力の低下、急速成長の負の遺産、「4兆元対策」の後遺症を背景として、これまでになく複雑で困難になっている。こうした中、中国共産党・政府は、中国経済の現状を「新常態(ニューノーマル)」と位置付け、中長期的には構造改革を通じて従来の投資・輸出主導の高速成長から消費・内需主導の中高速成長に経済発展モデルの転換を図り、同時に短期的には景気刺激策によって持続的な安定成長の確保を目指している。
こうした状況を受けて、2016年3月の全人代(全国人民代表大会)では第13次5か年計画(2016年から2020年)が採択された。同計画では、政府目標として年平均6.5%以上の実質GDP成長率を確保し、2020年の名目GDP及び1人当たり所得を2010年比で倍増させることを堅持するとともに、過剰な生産能力や不動産在庫の削減等を通じた供給側の構造的改革、イノベーションの推進等を掲げている。12月の中央経済工作会議では、2017年後半の党大会に向けて安定最優先の経済運営を行っていく姿勢をにじませるとともに、サプライサイドの構造改革の重要性が繰り返し強調された。
(イ)内政
習近平(しゅうきんぺい)国家主席は「4つの全面」というスローガンを標榜(ひょうぼう)して政権運営を実施している。「4つの全面」は、①全面的な小康(いくらかゆとりのある)社会の建設、②改革の全面的な深化、③全面的な法による国家の統治及び④全面的な厳しい党内統治を意味し、2013年の三中全会(第18期中央委員会第3回全体会議)から2016年の六中全会(第18期中央委員会第6回全体会議)にかけて審議・採択された。また、六中全会では、習近平国家主席が党の文書で初めて「核心」と位置付けられ、2017年秋の中国共産党大会を前に現体制の権力基盤を一層強固なものにする姿勢が見られた。
その一方で、中国が直面する課題は少なくない。中国経済の成長スピードが鈍化する中、従来存在する貧富の格差、環境汚染、少数民族問題などの社会課題が顕在化している。また、インターネット人口が増大し、中国社会の価値観がますます多様化する中、中国政府は「外国NGO国内活動管理法」や「サイバーセキュリティ法」等の成立を通じて、社会に対する管理の強化を継続しており、こうした施策に対し、国内外から市民活動や個人の権利を制限するものであるとして不満の声が上がっている。10月には、待遇改善を求める退役軍人と見られる人々が中国国防部の入るビルを取り囲むという事態が発生した。2017年後半に第19回中国共産党大会を控える中、現政権は社会の不満や不安に対応しつつ、権力基盤を強化しなければならないという難しい舵(かじ)取りを迫られている。
香港では9月に4年に1度の立法会選挙が行われ、香港独立志向の強い「本土派」と呼ばれるグループが初めて議席を獲得したが、11月には全国人民代表大会が採択した香港基本法の解釈に基づき「本土派」議員2人が失職した。この処分に反発する大規模なデモの発生も報じられた。
(ウ)外交
2016年の中国外交は、前年に引き続き「一帯一路(シルクロード経済ベルト・21世紀海上シルクロード)」構想を踏まえた活発な経済外交が展開され、高速鉄道を始めとするインフラ輸出に力が注がれた。これに伴う動きとして、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の年次総会が6月に初開催され、AIIBが本格的に始動した。このほか、9月には杭州で中国が初めて主催するG20杭州サミットが開かれ、世界経済について議論が行われた。
米中関係は、習近平国家主席がオバマ米国大統領と首脳会談を3度行うなど、活発な交流が行われた。G20杭州サミットの際の米中首脳会談では、両国がパリ協定締結を発表し、気候変動分野での協力が進展するなど、対話や協議を通じた実務協力も拡大している。
(エ)軍事・安全保障
中国は継続的に高い水準で国防費を増加させているが、予算の内訳、増額の意図については十分明らかにされていない。こうした中、近年、核・ミサイル戦力や海・空軍戦力を中心とした軍事力は広範かつ急速に強化されているものと見られている。また、中国人民解放軍は組織改革に取り組んでおり、昨今、これらの改革は急速に具体化している。2015年12月、「ロケット軍」、「戦略支援部隊」等の成立大会が開催され、次いで、2016年1月、軍全体の指導機構である、いわゆる「四総部」が中央軍事委員会隷下の15の職能部門へと改編された。さらに、2月には従来の「七大軍区」が廃止され、5つの「戦区」に改編された。これら一連の改革は、より実戦的な軍の建設を目的としていると考えられるが、具体的な将来像は明確にされていない。
同時に、2013年11月の「東シナ海防空識別区」の設定や2016年6月の中国海軍戦闘艦艇による初めての尖閣諸島周辺接続水域への入域等、日本周辺海空域での中国軍の一方的な活動は活発化の傾向にある。
このような透明性を欠いた軍事力の広範かつ急速な拡大や一方的な現状変更の試みの継続は、地域共通の懸念事項であり、日本としては関係国と連携しつつ、中国の透明性の向上について対話を通じて働きかけるとともに、法の支配に基づく国際秩序に中国が積極的に関与していくよう促していく考えである。
イ 日中関係
(ア)二国間関係一般
東シナ海を隔てた隣国である中国との関係は、最も重要な二国間関係の1つであり、緊密な経済関係や人的・文化的交流を有している(20)。同時に、日中両国は政治・社会的側面において多くの相違点を抱えており、隣国同士であるがゆえに時に両国間で摩擦や対立が生じることは避けられない。こうした中、国際社会に共に貢献する中で、共通利益を拡大し、両国関係を発展させていくことが重要であるとの考え方に基づき、日中両国は、2006年に「戦略的互恵関係」の構築に合意し、以来、両国首脳は「戦略的互恵関係」を推進することを確認してきた。
2016年は、総じて言えば、前年に引き続き、日中関係の改善の流れが見られる1年となった。4月には岸田外務大臣が日本の外務大臣として約4年半ぶりに中国を二国間関係の文脈で訪問し、李克強(りこっきょう)総理への表敬や王毅(おうき)外交部長との会談を行った。岸田外務大臣からは「新しい時代にふさわしい日中関係」についての考え方、すなわち、協力を拡大して両国関係の肯定的な側面を増やし、課題や懸念については率直な意見交換を行い適切に対処していくべきとの考え方を説明した。こうした関係改善の流れは下半期にも引き継がれ、7月のASEM首脳会合(於:モンゴル)の際には、安倍総理大臣が李克強総理との間で2度目となる会談を実施した。同月にはASEAN関連外相会合の機会を捉えて日中外相会談も行われた。8月には、多数の中国公船による尖閣諸島周辺での領海侵入もあったが、下旬には日中韓外相会議出席のために王毅外交部長が初めて訪日した。

9月のG20杭州サミットの際には、安倍総理大臣が訪中し、習近平(しゅうきんぺい)国家主席と3度目となる首脳会談を行ったが、同会談は、日中間で協力できるところは協力して両国関係の「プラス」の面を増やし、懸案についてはマネージして「マイナス」の面を減らしていくとの両首脳の共通の認識に基づく、前向きで充実した会談になった。安倍総理大臣と習近平国家主席は11月のペルーAPEC首脳会議でも短時間の会談を行い、2017年の日中国交正常化45周年、2018年の日中平和友好条約締結40周年の節目の年に向けて日中関係を改善させていくことを再確認した。このようにハイレベルの対話が頻繁に行われる中、各種対話・交流も活発化し、11月には前年に続いて日中安保対話が北京で開催され、日中双方の安全保障政策等について意見交換を行ったほか、9月及び12月には、日中高級事務レベル海洋協議が開催され、海洋分野における協力等についての意見交換を行った。また12月には、日中経済パートナーシップ協議(次官級)が開催された。

日中両国は地域と国際社会の平和と安定のために責任を共有している。安定した日中関係は、両国の国民だけでなく、アジア大洋州地域の平和と安定に不可欠であり、日本政府としては、「戦略的互恵関係」の考え方の下に、大局的観点から、様々なレベルで対話と協力を積み重ね、両国の関係を安定的に発展させていく。
(イ)日中経済関係
日中間の貿易・投資などの経済関係は、緊密かつ相互依存的である。2016年の貿易総額(香港を除く。)は約2,703億米ドルであり、中国は、日本にとって10年連続で最大の貿易相手国となっている。また、中国側統計によると、2016年の日本からの対中直接投資は、労働コストの上昇等により、約31.1億米ドル(前年比3.1%減(投資額公表値を基に推計))と、中国にとって国として第4位(第1位はシンガポール、第2位は韓国、第3位は米国)の規模となっている。


2016年は、首脳や外相レベルで経済分野における日中間の対話と協力の必要性が改めて確認された。4月の日中外相会談等において、岸田外務大臣から、日中関係の肯定的な側面を増やしていくために「5つの協力分野(①マクロ経済・財務・金融、②省エネ・環境、③少子高齢化、④観光及び⑤防災)」に関する協力を提起し、中国側からも前向きな反応を得た。また、9月のG20杭州サミットの際の日中首脳会談では、安倍総理大臣から習近平(しゅうきんぺい)国家主席に対し、「5つの協力分野」を含む様々な分野での協力等の推進を提起し、両首脳の間で、対話や協力、各種交流を進め、両国関係の肯定的な面を拡大することで一致した。
こうした動きを受け、経済分野の各種対話と交流も活発に行われた。4月には、日中韓環境大臣会合に出席するため、陳吉寧(ちんきってい)環境保護部長が訪日し、10月には、日中韓経済貿易大臣会合に出席するため、高虎城(こうこじょう)商務部長が訪日した。11月には、李金早(りきんそう)国家旅游局長が訪日し、石井啓一国土交通大臣と会談を行ったほか、閣僚級の日中省エネルギー・環境総合フォーラムが北京で開催され、日本から関係閣僚が訪中した。両国の関係省庁が一堂に会する日中経済パートナーシップ協議については、前年に引き続き、12月に次官級会合が開催され、「5つの協力分野」を含む日中二国間の課題及び協力並びに地域・多国間の課題及び協力につき幅広く意見交換を行った。また、中国政府による日本産食品・農産物に対する輸入規制に関しては、2016年9月の日中首脳会談を始め、あらゆる機会を通じて、中国側に対して、科学的根拠に基づく評価を促すとともに、規制の撤廃・緩和を働きかけている。
民間レベルの経済交流も活発に行われた。9月に日中経済協会、日本経済団体連合会(経団連)及び日本商工会議所の合同訪中団が訪中し、張高麗(ちょうこうれい)常務副総理ら中国政府要人と会談した。11月には、日中CEO等サミットが中国で開催され、日中の主要企業の経営者らの間で意見交換が行われ、李克強総理なども参加した。
実務レベルでは、第17回日中漁業共同委員会(11月、於:厦門(あもい))、日中社会保障協定政府間交渉(6月、於:北京及び11月、於:東京)など各種対話が行われた。
(ウ)両国民間の相互理解の増進
中国からの訪日者数は2016年も堅調に増加し、前年比で150万人以上増え、過去最高の延べ637万人を記録した。観光分野では団体観光から個人観光へのシフトが顕著であり、買物のみが目的ではない観光も増加していると見られ、日本への関心の高さがうかがえる。
中国との間では、2016年に「JENESYS2.0」により、中国から高校生や大学生など約2,700人を日本に招へいした。訪日した中国の若者は学校交流や企業視察などを通じて、日本の様々な文化や生活、魅力に触れるとともに、日本の青少年との間で相互理解を深め、今後の日中関係の在り方などについて活発な意見交換を行った。また、2016年には、「日中植林・植樹国際連帯事業」(21)により、中国から青少年等を招へいし、環境及び防災意識の啓発と対日理解の一層の促進を図ること等を目的に、植樹活動を始め、環境及び防災に関するセミナー、企業や関連施設の視察等を実施した。



日中関係の更なる発展のため、日本政府は高校生や大学生など次世代を担う青少年のほか、中国の中央政府や地方政府の指導者、政・経・官・学などの各界において一定の影響力を有する者、次世代の指導者、オピニオンリーダーなどの様々なレベル・分野の人材を日本に招へいし、幅広い関係構築・強化に努めている。参加者は日本の各界や有識者との意見交換や視察などを行い、これらの交流を通じて、被招へい者と日本関係者との間に良好な関係が構築され、日本に対する正確な理解が促進されることが期待されている。
在中国日本国大使館では、2016年10月から11月にかけての時期を「日中交流集中月間」と称し、北京及び武漢にて官民一体となって41の文化交流事業を集中的に実施した。同事業には、延べ約2万5,000人が参加したほか、インターネットでもSNSを活用して文化交流事業のライブ中継や動画など掲載し、約3,600万回閲覧された。

在香港日本国総領事館でも10月から11月にかけて、「日本秋祭in香港-魅力再発見-」を開催し、スポーツ、映画・芸術、セミナー等多岐にわたるイベント・認定事業142件を実施した。


映画は家族愛、恋愛、友情といった普遍的な人々の姿を描くものであり、国境を越え、人々の胸を打ちます。そのため、魅力ある映画の交流は、日本と諸外国との友好関係の更なる醸成の一助となるものです。
2016年は、日本の映画界がとても元気な年でした。「君の名は。」を始め、話題作のヒットが相次いだこともあり、日本国内の映画館への入場者数は42年ぶりに1億8,000万人台を回復し、興行収入は過去最高の2,355億円を記録しました。

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一方、中国の映画市場は、興行収入で見ると、457億1,200万元(7,501億円、1元=16.41円、2016年)であり、日本の映画市場の約3倍の規模です。また、スクリーン数で見ても、中国国内には41,179スクリーン(2016年12月現在)があり、日本国内の約12倍の規模です。
元気な日本映画は、中国でも人々を魅了しました。中国で商業上映された日本映画は、2015年には2作品でしたが、2016年には、「君の名は。」を含め、11作品に達しました。
政府レベルでも、こうした民間レベルでの動きを後押ししています。2016年9月、安倍総理大臣と習近平国家主席の間で行われた日中首脳会談では、「2017年の国交正常化45周年、2018年の平和友好条約40周年、更に2020年、22年の両国でのオリンピック開催を見据え、様々な分野で交流を拡充していく」ことで一致しました。こうした流れを踏まえ、2016年11月、官邸に設置された「映画産業の海外展開に関する検討会議」(議長:萩生田光一内閣官房副長官)では、映画を通じた国際交流の在り方について議論され、更には、日中の映画交流を後押しすべく、日中映画共同製作協定の交渉が始まりました。また、東京国際映画祭(10月、11月)では6本の中国映画が上映され、上海国際映画祭(6月)では50本、北京国際映画祭(4月)では22本の日本映画が上映されました。国交正常化45周年に花を添える意味でも、2017年、両国で更なる映画交流が行われることが期待されます。

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(エ)個別の懸案事項
東シナ海では、日本側として受け入れられない中国公船による尖閣諸島周辺における領海侵入や日中間の境界未画定海域における一方的な資源開発が継続している。
尖閣諸島周辺海域において、中国は、2016年を通じて公船を尖閣諸島周辺海域に頻繁に派遣し、1年間で36回(累計121隻)に及ぶ領海侵入を繰り返した。特に8月には多数の中国公船が中国漁船と共に尖閣諸島周辺に押し寄せ、領海侵入を繰り返す事案も発生した。
そもそも尖閣諸島は歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現に日本はこれを有効に支配している。したがって、尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない。日本は、1885年以降再三にわたる現地調査を行い、清朝の支配が及んでいる痕跡がないことを確認の上、1895年1月に尖閣諸島を日本の領土に編入した。その後、日本政府の許可に基づき、尖閣諸島において鰹(かつお)節製造などの事業経営が行われ、多数の日本人が同諸島に居住した。第二次世界大戦後は、サンフランシスコ平和条約によって尖閣諸島は米国の施政権下に置かれた。日本が1895年に国際法上、正当な手段で尖閣諸島の領有権を取得してから、東シナ海に石油埋蔵の可能性が指摘され、尖閣諸島に対する注目が集まった1970年代に至るまで、中国は日本による尖閣諸島の領有に対し、何ら異議を唱えてこなかった。また、中国側は異議を唱えてこなかったことについて何ら説明を行っていない。
中国による一方的な現状変更の試みに対しては、関係諸国や国際社会と緊密に連携し、また、日本の領土・領海・領空は断固として守り抜くとの決意で毅然(きぜん)かつ冷静に対応しており、外交ルートを通じ、厳重な抗議と退去の要求を繰り返し実施している。
また、近年中国は東シナ海において資源開発を活発化させており、政府として、中間線の中国側で、2013年6月以降新たに12基、それ以前から確認してきたものを含めると合計16基の構造物を確認している。

詳細は、http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/higashi_shina/tachiba.html参照
東シナ海における日中間の排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚の境界は未画定であり、日本は日中中間線を基に境界画定を行うべきであるとの立場である。このように、いまだ境界が画定していない状況において、中国側が一方的な資源開発を進めていることは極めて遺憾である。日本としては、中国側による関連の動向を把握するたびに、その都度、中国側に対して、そのような一方的な開発行為を中止するとともに東シナ海資源開発に関する日中間の協力に関する「2008年6月合意」の実施に関する交渉再開に早期に応じるよう強く求めてきている。
このような中、日中両国は、9月及び12月の日中高級事務レベル海洋協議第5回会議及び第6回会議の場において「2008年6月合意」に関する意見交換を行った。引き続き協議の即時再開と合意の早期実施を強く求めていく。
不測の事態を回避するための「日中防衛当局間の海空連絡メカニズム」については、2016年9月に行われた日中首脳会談の際に、早期運用開始に向けて協議を加速することで一致し、11月に第6回共同作業グループ協議を開催したほか、9月及び12月の日中高級事務レベル海洋協議第5回会議及び第6回会議の場においても率直な意見交換を行った。日中双方は本メカニズムの早期運用開始に向けて引き続き協議を行うことで一致している。(1-1(2)、2-1-6及び3-1-3(4)参照)
日本政府は、化学兵器禁止条約に基づき、中国における遺棄化学兵器の廃棄処理事業に着実に取り組んできている。2016年は、河北省石家荘(せっかそう)市における移動式廃棄処理設備による廃棄処理及び吉林省敦化(とんか)市ハルバ嶺地区における試験廃棄処理を進め、累計で約4万5,000発の遺棄化学兵器の廃棄を完了(2017年1月現在)した。
(2)台湾
ア 内政
1月の総統選挙で民進党の蔡英文(さいえいぶん)主席が当選し、立法委員選挙でも民進党が単独過半数を占め、8年ぶりに与野党が交替した。蔡英文総統は5月20日の就任演説において、年金、教育、エネルギー・資源、人口構造、環境汚染、財政、司法、食品安全、貧富の格差等の問題を列挙し、若者の低収入や苦境を最重要課題と位置付けた。
経済面では、輸出と消費がやや回復し、2016年の実質GDP成長率は前年比1.40%増(概算値)となった。
イ 両岸関係・外交
蔡英文政権の発足以降、中台双方の窓口機関(中国側:海峡両岸関係協会、台湾側:海峡交流基金会)によるやり取りは中断しており、中国から台湾への観光客は大幅に減少している。そうした中、11月のペルーAPEC首脳会議の際には、宋楚瑜(そうそゆ)親民党主席がチャイニーズ・タイペイ代表として出席し、習近平国家主席との間で短時間の会談を行った。
ウ 日台関係
日本と台湾との関係は、1972年の日中共同声明に従い、非政府間の実務関係として維持されている。日本にとって台湾は、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーであり、大切な友人である。このような状況を背景に、実務関係も日々深化している。2016年には、公益財団法人交流協会(22)と亜東関係協会との間で、①製品安全や②言語教育交流に関し協力文書が作成された。
なお、台湾が東日本大震災後に日本産食品に課している輸入規制については、交流協会を通じて、科学的根拠に基づかない規制の撤廃・緩和を台湾側に対し繰り返し求めている。また、海洋に関する諸課題を話し合うため、10月には交流協会と亜東関係協会との間で日台海洋協力対話を開催した。
(3)モンゴル
ア 内政
6月に行われたモンゴル国家大会議(一院制、任期4年)総選挙の結果、野党人民党が全76議席中65議席を獲得して圧勝し、絶対安定多数議席を確保した。一方で、与党民主党は29議席を失う大敗を喫した。同選挙の結果を踏まえ、7月5日、新議長にエンフボルド人民党党首が就任、同8日には新首相にエルデネバト元大蔵大臣が就任、さらに同30日までに全閣僚が任命され、「プロフェッショナル内閣」を目指す新内閣が発足した。
新内閣が直面するモンゴル経済・財政の不振・低迷の状況は極めて厳しい。モンゴル経済は2011年にGDP成長率17.3%を記録したものの、その後最大の貿易相手国である中国の景気減速や資源価格の低迷などに見舞われ、GDPの20%を占める主要産業である鉱業が不振に陥った。さらに、食料品、日用品、石油等を輸入に依存する経済構造による貿易赤字や、資源ナショナリズムを背景とした制限的な投資政策・法律による外国直接投資の激減、外貨準備高の大幅減少により、2015年のGDP成長率は2.3%にまで落ち込み、2016年にはモンゴル通貨の為替相場も過去最安値を記録、財政赤字も極めて厳しい状況にある。
イ 日・モンゴル関係
モンゴルは日本と基本的価値を共有する、地域の重要なパートナーであり、引き続き「戦略的パートナーシップ」として位置付けた友好的な両国関係を、真に互恵的なものとするべく一層の強化を目指していく。
2016年も前年に引き続き、ハイレベルの交流が活発に行われた。モンゴルからは、プレブスレン外相(5月)、エンフボルド国家大会議議長(民主党党主)(6月)、ムンフオルギル外相(9月)、エルデネバト首相(10月)が相次いで訪日し、7月には安倍総理大臣が3度目のモンゴル訪問を行い、エルベグドルジ大統領とは9回目の首脳会談を行った。6月にはモンゴルにとって初めての経済連携協定(EPA)が日本との間で発効し、EPAに基づき設置された合同委員会の第1回会合が、ウランバートルにおいて木原誠二外務副大臣とプレブスレン外相の出席の下開催された。



こうした多くの会談においては、両国外交関係樹立(1972年)45周年に当たる2017年に向けた更なる互恵関係の強化を念頭に、幅広い意見交換が行われた。
20 日本は、1979年以降、中国に対し、累計3兆円を超える政府開発援助(ODA)を実施してきたが、中国の経済的発展及び技術水準の向上を踏まえ、既に一定の役割を果たしたとの認識の下、対中ODAの大部分を占めていた円借款及び一般無償資金協力は、約10年前に新規供与を終了した。現在、日本国民の生活に直接影響する越境公害、感染症、食品の安全等の協力の必要性が真に認められるものに絞って限定的に実施している。技術協力(2015年度実績8億600万円)を中心とし、草の根・人間の安全保障無償資金協力(2015年度実績1億600万円)も実施している。また、新しい協力の在り方として、最近は中国側が費用を負担する形での協力を進めている。
21 予算規模90億円(2015年度補正予算)
22 公益財団法人交流協会は、2017年1月1日から公益財団法人日本台湾交流協会に名称を変更した。