1 朝鮮半島
(1)北朝鮮(拉致問題を含む。)
日本は、「対話と圧力」、「行動対行動」の方針の下、2002年9月の日朝平壌(ピョンヤン)宣言に基づき、拉致問題、核・ミサイル問題といった北朝鮮との諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を図ることを基本方針として、米国、韓国、中国、ロシアを始めとする関係国と緊密に連携しながら、引き続き様々な努力を行っている。
ア 内政・経済
(ア)内政
北朝鮮では、金正恩(キムジョンウン)国務委員長を中心とする権力基盤の強化が進められている。2016年5月には朝鮮労働党の第7回目となる党大会が36年ぶりに開催され、経済建設と核武力建設を並進させていく「並進路線」が恒久的な戦略的路線と位置付けられるとともに、「国家経済発展5か年戦略」(2016年から2020年)が発表された。また、党規約の改正により、党委員長の役職が新設されるとともに、金正恩党第一書記が党委員長に推戴され、金正恩委員長を中心とする新たな党体制が確立された。さらに、同年6月には最高人民会議第13期第4回会議が開催され、国防委員会を国務委員会に改編し、金正恩国防委員会第一委員長が国務委員長に推戴された。
(イ)経済
厳しい経済難にあると言われている北朝鮮にとって、経済の立て直しは極めて重要な課題とされている。金正恩国務委員長は、2017年1月の「新年の辞」で、「国家経済発展5か年戦略」の遂行に総力を集中するとともに、科学技術を重視する施政を示した。
一方、2015年の経済成長率はマイナス1.1%(韓国銀行推計値)で、約5年ぶりにマイナスを記録した。建設業が成長する一方、農林水産業、鉱工業、電気・ガス・水道業等の不振がマイナス成長の要因となった。また、降水量不足や灌漑(かんがい)用水の不足等により、2015年の穀物生産量は前年に比べ9%(FAO推計値)減少したとされる。
北朝鮮の対外貿易においては、引き続き中国が最大の貿易額を占める。2015年の北朝鮮の対外貿易額全体(62億5,000万米ドル(南北交易を除く。)、大韓貿易投資振興公社推計値)に占める対中貿易の割合は約9割となっている。
イ 拉致問題
(ア)基本姿勢
現在、日本政府が認定している日本人拉致事案は、12件17人であり、そのうち12人がいまだ帰国していない。北朝鮮は、12人のうち、8人は死亡し、4人は入境を確認できないと主張しているが、そのような主張について納得のいく説明がなされていない以上、日本としては、安否不明の拉致被害者は全て生存しているとの前提で、問題解決に向けて取り組んでいる。北朝鮮による拉致は、日本の主権や国民の生命と安全に関わる重大な問題であると同時に、基本的人権の侵害という国際社会全体の普遍的問題である。日本としては、拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、その解決を最重要の外交課題と位置付け、全ての拉致被害者の安全の確保と即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しを北朝鮮側に対し強く要求している。
(イ)日本の取組
北朝鮮による2016年1月の核実験及び2月の「人工衛星」と称する弾道ミサイル発射を受けて同月に日本が独自の対北朝鮮措置の実施を発表したことに対し、北朝鮮は全ての日本人に関する包括的調査を全面中止し、特別調査委員会を解体することを一方的に宣言した。日本は北朝鮮に対し厳重に抗議して、2014年5月の日朝政府間協議における合意(ストックホルム合意)を破棄する考えはないこと、北朝鮮が同合意に基づき、一日も早く全ての拉致被害者を帰国させるべきことについて、強く要求した。また、2016年6月の北東アジア協力対話の場において、金杉憲治外務省アジア大洋州局長は崔善姫(チェソンヒ)外務省米州副局長に接触し、ストックホルム合意を履行し、一日も早く全ての拉致被害者を帰国させるよう強く求めた。そして9月の核実験や累次の弾道ミサイル発射を受け、12月には、核・ミサイル問題、そして最重要課題である拉致問題といった諸懸案を包括的に解決するための更なる措置として、日本は新たな独自の対北朝鮮措置の実施を発表した。
(ウ)拉致問題の解決に向けた国際社会との連携
日本は、各国首脳・外相との会談、G7伊勢志摩サミット、日米韓首脳会談及び外相会合、東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議を含む国際会議などの外交上のあらゆる機会を捉え、拉致問題を含む北朝鮮問題を提起し、諸外国からの理解と支持を得ている。例えば、2017年2月の日米首脳会談では、両首脳の間で、拉致問題の早期解決の重要性について完全に一致し、日米首脳間の文書としては初めて拉致問題について早期解決の重要性が確認された。日本としては、国際社会へ働きかけながら、北朝鮮による具体的な対応を引き続き求めていく。
国連の場においては、2016年3月の人権理事会において、日本とEUが共同提出した北朝鮮人権状況決議が採択された(同決議の人権理事会における採択は9年連続9回目、国連総会本会議における採択は12年連続12回目)。また、11月に採択された国連安保理決議第2321号は、拉致問題を始めとする北朝鮮の人権問題に対する国連安保理を含む国際社会の強い懸念を示した。
米国においては、9月、米国議会下院本会議にて、北朝鮮に拉致された可能性のある米国人について、日本、中国及び韓国政府と連携して調査を進めるよう米国政府に求める決議が採択された。2017年3月には、国会議員によるものを含む、日本からの働きかけもあり、同様の内容の決議案が米国議会上院に提出された。このような拉致問題に関する米国における問題意識の高まりも踏まえ、日本は、米国を始めとする関係国と緊密に連携、協力しつつ、拉致問題の早期解決に向けて全力を尽くしていく。
ウ 北朝鮮の核・ミサイル問題
北朝鮮による核・ミサイル開発は、累次の国連安保理決議の明白な違反であるとともに、国際的な軍縮・不拡散体制に対する重大な挑戦であり、断じて容認できない。日本を含む国際社会が繰り返し強く自制を求めてきたにもかかわらず、北朝鮮は核・ミサイル開発を継続している。2016年に入ってからも、これまでになく短期間のうちに立て続けに核実験を強行するとともに、20発を超える弾道ミサイルを発射し、その核・ミサイル能力の増強は、日本及び国際社会に対する新たな段階の脅威となっている。
2016年1月、北朝鮮は4回目となる核実験を実施し、2月には、「人工衛星」と称する弾道ミサイルの発射を強行した。これらを受け、同月、日本は、独自の対北朝鮮措置の実施を決定した。また、3月、国連安保理は、制裁を大幅に強化する決議第2270号を全会一致で採択した。しかし、その後も北朝鮮は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を含め、弾道ミサイル発射を相次いで強行した。6月に発射された弾道ミサイルは、弾道ミサイルとして一定程度の機能を示したほか、8月に発射された弾道ミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。また、9月には3発の弾道ミサイルを同時に発射し、3発とも日本のEEZに落下した。さらに、同月、5回目となる核実験を、前回実験から僅か8か月というこれまでになく短期間のうちに実施し、その後も弾道ミサイル発射を繰り返した。
このような北朝鮮の核・ミサイル開発に対して、11月、国連安保理は、決議第2270号を強化し、北朝鮮への人、物資、資金の流れ等を更に厳しく規制する決議第2321号を全会一致で採択した。日本は、国連安保理理事国として、関係国と緊密に連携しながら、国連安保理の議論を主導した。日本はこれらの決議の実効性を確保するため、国連における制裁委員会の積極的な活用も含め、他の国連加盟国とも、緊密に連携していく。
また、9月の核実験及び累次の弾道ミサイル発射、さらには拉致問題が解決に至っていないことを踏まえ、12月、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決するための更なる措置として、日本は新たな独自の対北朝鮮措置の実施を発表し、米国・韓国も日本と緊密に連携しつつ、それぞれによる独自の対北朝鮮措置を発表した。
その一方で、金正恩国務委員長は、2017年1月の「新年の辞」において、北朝鮮が「核強国」、「軍事強国」であることを強調するとともに、「大陸間弾道ロケット」の試験発射準備が最終段階に至ったとし、威力ある軍事的保証が整ったと主張するなど、核・ミサイル開発を継続していく意図を表明した。その後も、同年2月に弾道ミサイル1発を発射したほか、3月に入ってからも弾道ミサイルをほぼ同時に4発発射し、そのうち3発を日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させるなど、核・ミサイル開発を継続している。
日本は、引き続き、米国、韓国、中国、ロシアを始めとする関係国と緊密に連携しつつ、北朝鮮に対し、挑発行動の自制、六者会合共同声明や累次の国連安保理決議の遵守を強く求めていく。
エ 北朝鮮の対外関係等
(ア)米朝関係
北朝鮮は、米国に対し、休戦協定を平和協定に変えるための対話を求めたが、米国はこれを受け入れず、北朝鮮に対する圧力を強化している。
2016年2月、米国では、北朝鮮制裁・政策強化法が成立した。7月には、米国は、金正恩国務委員長を含め、北朝鮮における人権侵害に関与した5団体及び11個人を制裁対象に指定した。これに対し、北朝鮮外務省は声明を発表し、①即時及び無条件の撤回の要求、②超強硬な対応措置を採るとの警告及び③米国が応じない場合の米朝間の全ての外交チャネルの遮断を予告した。その後、9月の核実験及び累次の弾道ミサイル発射を受け、12月、米国は日韓と連携し、新たな独自の対北朝鮮措置を発表した。また、2017年1月には、米国は、北朝鮮における人権侵害に関与した2団体及び7個人を制裁対象に追加指定した。
また、米国は、拡大抑止の提供を含め、日本及び韓国に対する防衛上のコミットメントの維持を表明しており、2016年7月には、米韓両政府は韓国への終末段階高高度地域防衛(THAAD)配備を決定した。
(イ)南北関係
2016年2月、韓国政府は、北朝鮮による1月の核実験及び2月の弾道ミサイル発射への対応として、開城(ケソン)工業団地を全面的に中断する措置を発表した。これを受け、北朝鮮は同工業団地にいる韓国国民を追放し、同工業団地を軍事統制区域とすることを宣言した。5月、北朝鮮は南北軍事当局会談に向けた実務協議を呼びかけたが、韓国政府はまず北朝鮮側の非核化に向けた行動が必要であるとして、北朝鮮の提案を受け入れなかった。その後、9月の核実験や累次の弾道ミサイル発射を受け、韓国は、12月に日米とも連携しつつ、新たな独自の対北朝鮮措置を発表した。2017年1月の「新年の辞」において、北朝鮮は、朴槿恵(パククネ)韓国大統領を名指しで非難しつつも、韓国との南北統一に向けた積極的な意欲を示しているが、韓国側は引き続き対話に応じていない。
(ウ)中朝関係
これまでに金正恩国務委員長と習近平(しゅうきんぺい)中国国家主席との間で首脳会談は実現していない。その一方で、北朝鮮の対外貿易(南北交易を除く。)の約9割を中国が占めるなど、経済面では密接な関係が維持されている。2016年11月に採択された国連安保理決議第2321号は、各国に対し北朝鮮の外貨収入源である石炭の北朝鮮からの輸入に上限を設定しており、今後の中朝貿易の推移が注目される。
(エ)その他
2017年2月、マレーシアにおいて北朝鮮男性が殺害され、後にマレーシア政府は当該男性が金正男(キムジョンナム)氏であると確認した。また、マレーシア警察は、遺体から化学兵器禁止条約において生産・使用等が禁止されたVXが検出されたことも発表した。2017年3月現在、マレーシアにおいて刑事司法手続が進められている段階であり、日本は関係国と連携し、情報収集・分析に努めている。
オ その他の問題
北朝鮮からの脱北者は、滞在国当局の取締りや北朝鮮への強制送還などを逃れるため潜伏生活を送っている。日本政府としては、こうした脱北者の保護や支援について、北朝鮮人権侵害対処法の趣旨を踏まえ、人道上の配慮、関係者の安全、脱北者の滞在国との関係などを総合的に勘案しつつ対応している。なお、日本国内に受け入れた脱北者については、関係省庁間の緊密な連携の下、定着支援のための施策を推進している。
(2)韓国
ア 韓国情勢
(ア)内政
2016年、就任4年目を迎えた朴槿恵(パククネ)大統領は、施政方針演説において、創造経済と文化隆盛を通じた雇用創出と経済力回復、未来に備えた成長動力の拡充と持続成長基盤の構築を重点分野に掲げた。
朴槿恵政権の支持率は、2016年4月の第20代国会議員総選挙で与党が敗北し30%台にまで下落、同年11月には崔順実(チェスンシル)事件(5)により10%台にまで下落した。
その後、同年12月9日、韓国国会において朴槿恵大統領に対する弾劾訴追案決議が可決され、朴槿恵大統領の権限が停止した。その後は、黄教安(ファンギョアン)国務総理が大統領権限を代行している。
2017年3月10日、憲法裁判所が朴槿恵大統領に対する弾劾成立を宣告し、朴槿恵大統領は大統領職を罷免された。これに伴い5月9日に第19代大統領選挙が実施されることとなった。
(イ)外交
2016年、韓国外交は、北朝鮮の核問題を最優先課題として展開された。対米関係では、2016年2月の北朝鮮による弾道ミサイル発射を受けて、在韓米軍へのTHAAD(終末段階高高度地域防衛)システムの配備に関する公式協議の開始が決定され、7月、米韓両政府はTHAADシステムを星州(韓国)に配備することを決定したと発表した。
2017年、韓国外交部は、北朝鮮の核・ミサイル能力の高度化や北東アジアの力学関係の再編を念頭に、冷戦後最も厳しい外交安保環境にあるとの認識の下、核心外交課題として、①北朝鮮の核及び北朝鮮問題解決のための全方向外交、②領域内環境に能動的に対応する周辺国外交、③主な国際懸案解決に寄与するグローバル外交、④韓国経済の未来成長エンジン確保のための経済外交、⑤テロ頻発時代における韓国国民保護の強化及び⑥信頼される中堅国としての公共外交の6点を発表した。
(ウ)経済
2016年、韓国のGDP成長率は2.7%となり、前年の2.6%よりも増加した。総輸出額は、前年比5.9%減の約4,955億米ドルであり、総輸入額は、前年比7.1%減の約4,057億米ドルとなったため、貿易黒字は約898億米ドル(韓国産業通信資源部統計)となった。
国内的な経済政策としては、政権樹立時から「経済民主化」、「創造経済」及び「内需活性化」を主軸として経済改革を進めてきた。2014年2月に発表した「経済革新3か年計画」に次ぎ、「四大改革」を掲げ、公共、労働、教育及び金融分野の構造改革を進めた。通商分野では、FTAやRCEP交渉のほか、中米各国とのFTA推進等に取り組んだ。
イ 日韓関係
(ア)二国間関係一般
日本にとって、韓国は戦略的利益を共有する最も重要な隣国であり、日韓両国の連携と協力はアジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。また、日本と韓国は北朝鮮問題への対処を始め、核軍縮や不拡散、平和構築、貧困などの地域や地球規模の様々な課題についても連携・協力してきた。今後も、政治、経済、文化などあらゆる分野において、様々なレベルで意思疎通を図り、相互の信頼の下、日韓関係を未来志向の新時代へと発展させていく。

北朝鮮による核・ミサイル能力の増強が日本及び国際社会に対する新たな段階の脅威となる中、北朝鮮問題に関する日韓、日米韓の連携が今までになく重要となっている。2016年1月6日及び同年9月9日の北朝鮮による核実験を受けて、日韓両国は首脳・外相間で速やかに電話会談を実施し、断固たる対応を採ることで一致するとともに、日韓の緊密な連携を確認した。また、11月23日、日韓両国は日韓秘密軍事情報保護協定を締結し、これにより、北朝鮮の核・ミサイルに関する情報を含め各種事態への実効的かつ効果的な対処のために必要となる様々な情報を日韓間で直接交換することが可能になった。
(イ)交流
日韓両国民の相互理解と交流の流れは着実に深化し、拡大してきている。2015年には日韓国交正常化から50周年を迎え、両国の間では多岐にわたる交流が活発に行われている。日本では「K-POP」や韓国ドラマなどが世代を問わず幅広く受け入れられ、また、韓国において日本の漫画・アニメや小説を始めとする日本文化が人気を集めている。
また、国交正常化当時には年間約1万人であった両国間の人の往来は、2016年にはこれまでで最多の約739万人に達した(6)。
日韓両国で毎年開催されている文化交流事業「日韓交流おまつり」は、2016年9月24日及び25日に東京で、10月2日にソウルでそれぞれ開催され、合わせて約11万人が参加した。
また、アジア・大洋州諸国・地域との青少年交流事業については、対象者を社会人まで拡充した「対日理解促進交流プログラム」(JENESYS2016)を実施し、相互理解の促進、未来に向けた友好・協力関係の構築に努めた。
(ウ)竹島問題
日韓間には竹島の領有権をめぐる問題があるが、竹島は歴史的事実に照らしても国際法上も明らかに日本固有の領土であるという日本の立場は一貫している。日本は、竹島問題に関し、様々な媒体で日本の立場を対外的に周知するとともに(7)、韓国国会議員などの竹島上陸、韓国による竹島やその周辺での軍事訓練や建造物の構築などについては、日本として断じて容認できず、韓国に対して累次にわたり厳しい抗議を行ってきている(8)。日本は、竹島問題に関し、国際法にのっとり、平和的に解決するため、今後も粘り強い外交努力を行っていく方針である(9)。
(エ)慰安婦問題
日韓間で長年懸案となっていた慰安婦問題は、2015年12月28日に行われた日韓外相会談における合意によって最終的かつ不可逆的に解決されることが確認され、その後の日韓首脳電話会談ではその合意を改めて確認し、評価した(10)。この合意に基づき、2016年7月28日、韓国において「和解・癒やし財団」が設立され、8月31日、日本は同財団に10億円を支出した(11)。しかし、2016年12月30日、韓国の市民団体により、在釜山総領事館に面する歩道に慰安婦像(12)が設置された(13)。このような事態は日韓関係に好ましくない影響を与えるとともに、領事関係に関するウィーン条約に照らして問題であり、極めて遺憾である。日韓合意は国際社会も高く評価したものであり、日韓それぞれが合意を責任をもって実施することは国際社会に対する責務である。引き続き韓国側に対し、粘り強く、あらゆる機会を捉えて、合意の着実な実施を求めていく(「日韓両外相共同記者発表」参照)。
日韓間の慰安婦問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、日本政府として、以下を申し述べる。
①慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、かかる観点から、日本政府は責任を痛感している。
安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する。
②日本政府は、これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ、その経験に立って、今般、日本政府の予算により、全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には、韓国政府が、元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し、日韓両政府が協力し、全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。
③日本政府は上記を表明するとともに、上記②の措置を着実に実施するとの前提で、今回の発表により、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
あわせて、日本政府は、韓国政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。
韓日間の日本軍慰安婦被害者問題については、これまで、両国局長協議等において、集中的に協議を行ってきた。その結果に基づき、韓国政府として、以下を申し述べる。
①韓国政府は、日本政府の表明と今回の発表に至るまでの取組を評価し、日本政府が上記1.②で表明した措置が着実に実施されるとの前提で、今回の発表により、日本政府と共に、この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。韓国政府は、日本政府の実施する措置に協力する。
②韓国政府は、日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し、公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し、韓国政府としても、可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する。
③韓国政府は、今般日本政府の表明した措置が着実に実施されるとの前提で、日本政府と共に、今後、国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える。
(オ)その他の問題
朝鮮半島出身の「旧民間人徴用工」をめぐる裁判(14)については、日韓間の財産・請求権の問題は、日韓請求権・経済協力協定により完全かつ最終的に解決済みであるとの日本の一貫した立場に基づき、今後とも適切に対応していく。
また、盗難被害に遭い、現在も韓国にある文化財(15)については、早期に日本に返還されるよう、外交ルートを通じて韓国政府に対して要請を行っており、引き続き、速やかな返還を韓国政府に求めていく。
そのほか、朝鮮半島出身者の遺骨問題(16)、在サハリン「韓国人」支援(17)、在韓被爆者問題への対応(18)、在韓ハンセン病療養所入所者への対応(19)など、多岐にわたる分野で、人道的観点から、日本は可能な限りの支援を進めてきている。
また、排他的経済水域(EEZ)境界画定交渉については、日韓間で協議を重ねている。
ウ 日韓経済関係
日韓の経済関係は、緊密に推移している。2016年の日韓間の貿易総額は約7兆7,400億円であり、韓国にとって日本は第3位、日本にとって韓国は第3位の貿易相手国である。なお、韓国の対日貿易赤字は、前年比約10.5%増の約2兆3,000億円(財務省貿易統計)となった。また、日本からの対韓直接投資額は約12億5,000万米ドル(前年比25.2%減)(韓国産業通商資源部統計)であり、日本は韓国への第5位の投資国であった。
このように、日韓両国は相互に重要な貿易・投資相手国であり、製造業におけるサプライチェーンの一体化の進展とともに、日韓企業の第三国への共同進出など、両国間では新たな協力関係が進んできている。
こうした緊密な日韓経済関係を一層強固にし、また日韓両国が共にアジア地域の経済統合に主導的な役割を果たすためにも、日韓両国の経済連携が重要であると考え、日中韓自由貿易協定(FTA)及びRCEP交渉などに取り組み、進展に向け努力を続けている。
また、環境分野については、2016年7月に第18回日韓環境保護協力合同委員会を開催し、気候変動、環境協力、海洋環境問題等の課題について意見交換を行い、これらの分野で日韓両国が緊密に連携していくことを確認した。
韓国政府による日本産水産物等の輸入規制の問題に関しては、日本の要請により、2015年9月、世界貿易機関(WTO)に紛争解決小委員会が設置され、検討が行われている。この関連で、日本は、様々な機会を捉えて、韓国側に規制を早期に撤廃するよう求めている。
5 朴槿恵(パククネ)大統領が自身の演説や青瓦台人事に関する資料等の公文書を、古くからの知人である、崔順実(チェスンシル)氏に事前に渡していたことが発覚。同年10月25日、朴槿恵大統領は崔順実氏との関係を認め、国民に謝罪。12月3日には野党3党が朴槿恵大統領の弾劾訴追案を発議
6 2016年の渡航者数 訪日韓国人数:509万300人(日本政府観光局(JNTO))、訪韓邦人数:229万7,893人(韓国観光公社(KTO))
7 2008年2月、外務省は「竹島 竹島問題を理解するための10のポイント」と題するパンフレットを作成。現在、日本語、英語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、アラビア語、ロシア語、中国語及びイタリア語の11言語版が外務省ホームページで閲覧可能。また、2013年10月以降、外務省ホームページにおいて、竹島に関する動画やフライヤーを公開し、現在は上記11言語での閲覧が可能になっている。加えて、竹島問題を啓発するスマートフォンアプリをダウンロード配布するといった取組を行っている。
8 2016年7月の文在寅(ムンジェイン)「共に民主党」前代表、8月の羅卿瑗(ナギョンウォン)セヌリ党議員率いる韓国国会議員団計10人の上陸に続き、2017年1月25日には、韓国の金寛容(キムグァンヨン)慶尚北道知事が上陸。日本は、これらの事案ごとに直ちに、竹島の領有権に関する日本の立場に照らし受け入れられず、極めて遺憾であることを韓国政府に伝え、徹底した再発防止を求めるとともに、厳重に抗議してきている。
9 日本は、竹島問題に関し、これまで3回(1954年9月、1962年3月及び2012年8月)、国際司法裁判所に付託することを韓国側に提案した。
10 慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題については、1965年の日韓請求権・経済協力協定により、法的には完全かつ最終的に解決済みであるということが、日本政府の一貫した立場である。
11 10億円を基に、これまでに同財団は29人の元慰安婦の方々に対し名誉と尊厳の回復、心の傷の癒やしのための事業を実施(2016年12月23日時点)
12 在韓国日本国大使館前や在釜山総領事館前にある像について、分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。
13 これを受け日本は、当面の措置として①在釜山総領事館職員による釜山市関連行事への参加見合わせ、②長嶺安政駐韓国大使及び森本康敬在釜山総領事の一時帰国、③日韓通貨スワップ取極の協議の中断、④日韓ハイレベル経済協議の延期の措置を採ることを決定した。
14 第二次世界大戦中、日本統治下の朝鮮半島において、新日鉄住金株式会社及び三菱重工株式会社の前身企業に「強制徴用」されたとされる韓国人が、それぞれの企業に損害賠償と未払賃金の支払を請求した件に関し、2013年7月10日に韓国ソウル高等裁判所が新日鉄住金に対して、同月30日は韓国釜山高等裁判所が三菱重工業に対して、それぞれ原告側の訴えを認め、損害賠償などの支払を命じた。
15 2016年4月に韓国の浮石寺(プソクサ)が韓国政府に対し、長崎県対馬市で盗難され、いまだ日本側に返還されていない「観世音菩薩坐像」を、浮石寺に返還するよう求め、大田(テジョン)地方裁判所に訴訟を提起していたが、2017年1月26日、同裁判所は原告側(浮石寺)勝訴の第一審判決を出した。
16 第二次世界大戦終戦後、日本に残された朝鮮半島出身者の遺骨返還問題。韓国政府から返還要請があった遺骨について、可能なものから順次返還を進めている。
17 第二次世界大戦終戦前、様々な経緯で旧南樺太(サハリン)に渡り、終戦後、ソ連による事実上の支配の下、韓国への引揚げの機会が与えられないまま、長期間にわたり、サハリンに残留を余儀なくされた朝鮮半島出身者に対し、日本政府は、一時帰国支援、サハリン再訪問支援を行ってきている。
18 第二次世界大戦時に広島又は長崎に在住して原爆に被爆した後、日本国外に居住している方々に対する支援の問題。これまで日本は、被爆者援護法に基づく手当や被爆者健康手帳などに関連する支援を行ってきている。
19 第二次世界大戦終戦前に日本が設置した日本国外のハンセン病療養所入所者が、「ハンセン病療養所などに対する補償金の支給などに関する法律」に基づく補償金の支払を求めていたが、2006年2月に法律が改正され、新たに国外療養所の元入所者も補償金の支給対象となった。