第3節 北米
1 米国
(1)米国情勢
ア 政治
2021年の米国政治の焦点は、大統領選挙の結果判明の遅れや連邦議会襲撃事案などを経て1月に発足した民主党のバイデン政権が、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)対策や経済回復のための施策を着実に進め、国政を安定的に運営することができるかという点にあった。また、米国民の分断や党派対立が進行しているとの見方が多い中、バイデン大統領が国民の融和に向けた取組の進展を得られるか否かも注目された。
1月20日、大統領就任式での宣誓を経て、バイデン元副大統領及びハリス前上院議員がそれぞれ第46代大統領、第49代副大統領に就任した。同就任式は、新型コロナ及び同月の連邦議会襲撃事案の影響を受け、参列者が大幅に制限されたほか、多くの州兵が派遣され、会場周辺への一般の立入りが禁止される中で開催された。また、トランプ前大統領が参列しなかったことも異例であった。就任演説でバイデン大統領は、新型コロナとの闘いや、「ビルド・バック・ベター」への抱負を述べるとともに、数々の困難に対処するには国民の結束が必要と強く訴え、全国民のための大統領になると改めて誓約した。
バイデン大統領は、政権運営の核となる閣僚人事において、多様性を重視する姿勢を強調した。女性初の財務長官や黒人初の国防長官、先住民として初、あるいはLGBTQ公言者として初の閣僚などが誕生した。また、バイデン大統領は、選挙公約に従い、就任から数日の間に、大統領令を始めとする行政措置を次々と発動してトランプ前政権の政策の多くを転換した。中でも、新型コロナ対策の厳格化や、米メキシコ国境の壁建設の停止といった移民関連の施策が高い注目を集めた。さらに、2月には外交政策に関する演説を行い、米国が国際社会に戻ってきたとのスローガンの下、同盟関係の修復や強化を通じて再び世界に関与すると強調した。パリ協定への復帰や、世界保健機関(WHO)からの脱退の撤回などは、こうした方針を象徴するものとなった。
バイデン政権は、当初から新型コロナ対策と経済回復に最優先に取り組んだ。新型コロナ対策では、3月に議会が1.9兆ドル規模の米国救済計画法を可決し、検査体制やワクチン供給が強化されるとともに、国民への直接給付も実現した。ワクチン接種数は順調な伸びを示し、5月には、日常への回帰に向けて7月4日の独立記念日までに成人の70%が最低1回の接種を済ませるとの目標を掲げ、バイデン大統領は、国民に更なる接種を呼びかけた。その結果、米国の1日の感染者数は、就任時の約20万人から6月後半には1万2,000人を下回るレベルまで改善した。
また、経済対策では、新型コロナからの「救済」に加え、「雇用」及び「家族」に焦点を当てた多額の財政出動計画を発表し、政権発足100日を前に実施した議会での施政方針演説で、中間層支援のため、これら経済政策への支持を訴えた。
外交面では、バイデン大統領の2月の外交演説、4月の施政方針演説、ブリンケン国務長官の3月の演説などの機会に主な方針が示された。米国のみで様々な課題に対処することはできない、戦略的競争相手と位置付ける中国には強い立場で対処するといった基本方針の下、バイデン政権は、最大の資産とする同盟関係の強化や国際協調、民主主義や人権といった価値を重視する外交政策を進めた。バイデン大統領は、4月に気候サミットをオンラインで主催し、6月には初の外遊でG7コーンウォール・サミットに出席するなど、米国の国際社会における指導力の回復を強調した。このように積極的な外交を進める一方、米国の経済力・技術力の再興や自国の民主主義再建も重要課題に掲げ、外交と国内政策の課題を表裏一体のものと捉える方針も示した。
こうしたバイデン政権の諸施策に対し、当初米国世論はおおむね好意的に反応し、大統領支持率は55%程度で安定的に推移した。しかし、政権発足から半年が経過すると、徐々に支持率が低下した。その背景には、新型コロナの変異株(デルタ株)の蔓(まん)延による感染者・死者数の増加があった。バイデン大統領は、7月4日の独立記念日演説で、社会生活の正常化に向けた進展をアピールしたものの、成人の70%が少なくとも1回接種との目標には及ばなかった。ワクチン接種やマスク着用義務化の動きへの反発の声も強く、その後も接種率が伸び悩んだことが7月以降の感染再拡大を招いたとも指摘された。9月、バイデン大統領は連邦政府機関や大企業などに対しワクチン接種を義務付ける方針を表明したものの、一部の共和党州知事は、連邦政府の権限を逸脱し個人の自由を侵害するとして相次いで訴訟を提起するなど、対立が生じた。このような中、2021年の米国内の新型コロナによる死者数は前年を上回り、11月には累計75万人を超えた。
また、政権の対アフガニスタン政策が更なる支持率低下の要因になったとも指摘された。バイデン大統領は、米国史上最長の戦争を終わらせるとの公約を守るべく、8月末までのアフガニスタンからの米軍撤退を表明し、断行した。その過程で、反政府勢力タリバーンはアフガニスタン全土で勢力を拡大し、8月15日に首都カブールを制圧した結果、カブール空港は国外脱出を図る人々で混乱を極めた。米軍撤退の方針への国民の支持率は比較的高かったものの、この混乱を受け、政権の情勢分析の甘さなどへの批判が高まり、共和党は議会などで厳しく追及したほか、民主党内からも厳しい指摘がなされた。8月末、バイデン大統領は、米国民やアフガニスタン人協力者などの退避作戦の成功と公約の実現を強調したものの、8月以降は不支持が支持を上回る状況が継続した。
経済政策では、バイデン大統領は、超党派のインフラ投資法案及び社会保障・気候変動分野への投資などに関する「ビルド・バック・ベター」法案を議会で可決させるため、自ら議会調整に多くの精力を注ぎ、前者は11月にインフラ投資・雇用法として成立したものの、その過程で民主党内をまとめることの困難さが浮き彫りとなった。また、債務上限問題での両党間の対立も厳しさを増し、党派対立を乗り越えることの難しさにも改めて直面した。
2021年の米国議会は、民主党が上院と下院で多数を制し、2009年以来12年ぶりに政権と議会両院を握ったが、共和党との議席差はごく僅かであり、このことが政権の主要政策の実現や議会運営に大きな影響を与えた。バイデン政権及び民主党にとって、新型コロナ対策や経済回復の施策を更に進め、同時に経済格差、人種、移民問題などをめぐる分断を改善するためには、2022年の中間選挙で上下両院の多数を維持することが重要となるが、歴史的に見れば、政権1期目の大統領の政党は中間選挙で厳しい結果となる例が多い。さらに、バイデン政権の支持率が不支持率を下回る状況が続いていることに加え、11月のバージニア州知事選で優勢と見られた民主党候補が敗北したことなどから、民主党内で危機感が高まったとの見方もあった。
また、その先の2024年大統領選挙に関し、11月、ホワイトハウス報道官は、バイデン大統領が出馬する意向であると述べた。現時点で史上最高齢の米国大統領であり、次期選挙を81歳で迎えることとなるため、この意向は大きく報じられた。また、ハリス副大統領にも注目が集まった。米史上初の女性かつ黒人の副大統領となったハリス氏は、政権発足当初に多くの外国首脳と電話会談を行うとともに、6月に中米、8月に東南アジア、11月に欧州を訪問するなど、バイデン外交の推進で役割を担った。加えて、バイデン大統領から、移民制度や投票制度の改革など国内の難題で舵(かじ)取り役を任され、対応に当たった。
一方、共和党については、トランプ前大統領が中間選挙及び次期大統領選挙での共和党の成功の鍵を握っているとの指摘が多くなされた。トランプ前大統領は、2021年1月、連邦議会襲撃事案を扇動したとして、任期中に米国史上初となる2度目の弾劾訴追を受けた。退任後の上院での弾劾裁判で無罪となったものの、トランプ前大統領に対する批判は一時的に高まった。しかし、前大統領及びその政策スタンスは多くの共和党支持者に引き続き支持されており、その人気を背景に、自身に批判的な議員を政治集会の場で非難し、次期選挙で自らが推す対抗馬を支援するなど、政治的な活動を強化した。
同時に、トランプ前大統領は2020年大統領選の不正を継続して主張し、次期大統領選への再出馬を示唆する発言を繰り返した。不正の主張に呼応する形で、ジョージア州やフロリダ州など州議会で共和党が主導権を握る州では、選挙不正を防止する観点から、郵便投票の制限や身分証明書の厳格化などを求める州の選挙法改定が進んだ。これらは民主党支持の多い人種的マイノリティに不利な内容も多く、票の抑制が目的だとの批判もなされ、党派間対立を加速させた。また、10年に一度の国勢調査の結果を受け、各州で下院選挙区の区割り変更が進められたが、このプロセスでも共和党がより多くの州で主導権を握ったと報じられた。一方、共和党内では、トランプ前大統領を忠実に支持する層と、過激な発言を繰り返す同氏とは一定の距離を置く層との間で摩擦があるとの指摘もなされた。
今後、中間選挙を見据えた両党の攻防がどのように推移し、バイデン大統領の政権運営にどのような影響を与えるかが注目される。
イ 経済
(ア)経済の現状
2021年の米国経済は、新型コロナの流行により大打撃を受けた2020年からの回復、そして新型コロナの流行に起因する世界的なサプライチェーンの混乱により変動の大きい1年となった。2020年4月に戦後最悪の水準(14.8%)まで悪化した失業率は、2021年12月に3.94%まで改善し、新型コロナ流行初期(2020年2月、3.5%)に近い水準にまで回復した。また、GDPも2021年4月から6月までの四半期には、新型コロナ流行前(2019年10月から12月までの四半期)の水準を超えた。特にGDPの7割を占める個人消費の回復が大きく寄与しており、バイデン政権は、2021年3月に成立した1.9兆ドル規模のコロナ経済対策(米国救済計画)における最大1,400ドルの直接給付、ワクチン接種促進策による経済活動の正常化が奏功したとしている。こうした個人需要の回復がみられる中、新型コロナの流行下で生じた世界的なサプライチェーンの混乱及び人手不足による供給不足とのミスマッチが深刻化し、米国消費者物価指数(CPI)は5月以降前年同月比5%を超える水準で推移し、12月には7.1%という約40年ぶりの高水準を記録した。米国連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、当初、自動車など一部の品目のみに見られる一時的なものとしていたインフレについて、現在ではエネルギーや家賃など広範にわたる根強いインフレ傾向にあることを認め、高インフレが長期化することを避けるべく金融政策に取り組む考えを示した。バイデン政権も、2021年11月15日に成立したインフラ投資・雇用法が定める港湾・水路のサプライチェーン強化について、港湾に滞留するコンテナの内陸部への移動など具体的な行動計画を打ち出し、インフレが国民生活・心理に与える悪影響を抑えようとしている。
(イ)経済政策
2021年1月に誕生したバイデン政権は、新型コロナの流行により落ち込んだ国内の経済を回復し、「ビルド・バック・ベター」を達成すべく就任前に1.9兆ドル規模のコロナ経済対策の枠組み「米国救済計画」を発表した。3月11日には米国救済計画法が成立し、最大1,400ドルの直接給付や失業給付の拡充、中小企業支援、コロナ対策で疲弊する州政府支援などが行われた。さらに同月にはインフラ投資と法人増税などを行う約2兆ドル規模の「米国雇用計画」、4月には教育・社会福祉分野への投資と個人富裕層への増税などを行う約2兆ドル規模の「米国家族計画」を発表した。議会での与党内・与野党間協議の結果、米国雇用計画のうち超党派で合意に至った道路・港湾などのインフラへの投資に限った5,500億ドル規模の「インフラ投資・雇用法」は11月に成立したが、超党派で合意に至らなかった気候変動対策や「米国家族計画」の内容を盛り込んだ「ビルド・バック・ベター法案」は、バイデン政権と議会民主党の間での調整が続いている(2022年3月現在)。金融政策は、2021年5月以降の高インフレ傾向が継続する中、FRBは国内の経済状況に更なる著しい進展がみられたとして11月から国債などの購入ペースを順次減額する量的緩和の縮小(テーパリング)を開始し、12月には縮小ペースの加速を決定した。また、2022年1、2月で任期満了となるFRB議長・副議長の後任人事について、バイデン大統領は11月、パウエル議長の再任及びブレイナード理事の副議長への指名を発表した。
(2)日米政治関係
2021年1月にバイデン政権が発足してから、2022年2月末までに日米は首脳会談を8回(うち3回は電話会談、1回はテレビ会談)、外相会談を15回(うち9回は電話会談)行うなど、新型コロナにより国際的な人の往来が制限される厳しい状況下においてもハイレベルで頻繁な政策のすり合わせを継続しており、日米同盟は史上かつてなく強固なものとなっている。特に2021年4月の菅総理大臣とバイデン大統領の会談や、2022年1月の岸田総理大臣とバイデン大統領のテレビ会談などを通じ、日米同盟の更なる強化や「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現、中国や北朝鮮などの地域情勢や新型コロナ、気候変動、核軍縮・不拡散などの地球規模課題への対応において、緊密に連携している。そのほか、2021年7月の2020年東京オリンピック競技大会開会式に出席するためジル・バイデン大統領夫人が、同年8月の2020年東京パラリンピック競技大会開会式に出席するためダグラス・エムホフ副大統領夫君が日本を訪問し、それぞれ菅総理大臣と幅広く意見交換を行った。
2021年1月20日にバイデン大統領が就任すると、同月27日に茂木外務大臣とブリンケン国務長官が、28日に菅総理大臣とバイデン大統領が、それぞれバイデン政権発足後初めての電話会談を行った。日米首脳電話会談では、日米同盟を一層強化すべく、日米で緊密に連携していくことで一致した。バイデン大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む日本の防衛に対する揺るぎないコミットメントが表明された。また、両首脳は、米国のインド太平洋地域におけるプレゼンスの強化が重要であること及び「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて緊密に連携するとともに、地域の諸課題にも共に取り組んでいくことで一致した。日米外相電話会談では、日米同盟の更なる強化に取り組むことを確認するとともに、中国や北朝鮮、韓国などの地域情勢や「自由で開かれたインド太平洋」の重要性についても意見交換を行った。また、引き続き、地域や国際社会が直面する諸課題について、日米や日米豪印などの同志国間で緊密に連携していくことで一致した。
2月11日、茂木外務大臣は、ブリンケン国務長官と、日米外相電話会談を行った。両外相は、ミャンマー情勢について、引き続き日米で緊密に連携していくことを確認した。また、両外相は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現のため、同志国間で緊密に連携し、また、日米豪印の連携を着実に強化していくことで一致した。
3月16日、茂木外務大臣は、国務長官就任後初の外遊先として日本を訪問したブリンケン国務長官と、初めて対面で日米外相会談を行った。両外相は、引き続き日米が主導して、オーストラリアやインド、ASEANなどと連携しつつ、「自由で開かれたインド太平洋」という構想の実現に向けた協力を強化していくことを改めて確認し、また、中国、北朝鮮、韓国、ミャンマーやイランなどの地域情勢について意見交換を行った。さらに、両外相は、新型コロナ対策や気候変動問題といった国際社会共通の課題についても意見交換を行った。
4月15日から18日にかけて、菅総理大臣は、世界の首脳に先駆けてワシントンDCを訪問し、バイデン大統領にとって初となる対面の首脳会談を行った。両首脳は、個人的信頼関係を強化するとともに、自由、民主主義、人権、法の支配などの普遍的価値を共有し、インド太平洋地域の平和と繁栄の礎である日米同盟をより一層強化していくことで一致した。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米両国が、オーストラリアやインド、ASEANといった同志国などと連携しつつ、結束を固め、協力を強化していくことを確認した。会談後、日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」が発出された。共同声明では、3月に開催された日米「2+2」の共同発表も踏まえ台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促した。また、両首脳は、日米両国が世界の「より良い回復」をリードしていく観点から、「日米競争力・強靭(じん)性(コア)パートナーシップ」に合意し、日米共通の優先分野であるデジタルや科学技術の分野における競争力とイノベーションの推進、新型コロナ対策、グリーン成長・気候変動などの分野での協力を推進していくことで一致した。さらに、パリ協定の実施、クリーンエネルギー技術、開発途上国の脱炭素移行の各分野での協力を一層強化していくため、「野心、脱炭素化及びクリーンエネルギーに関する日米気候パートナーシップ」を立ち上げることでも一致した。
5月3日、G7外相会合出席のため英国を訪問した茂木外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相会談を行った。両外相は、日米首脳会談などで得られた成果を一つ一つフォローアップし、日米同盟を一層強固なものにしていくことを確認した。また、両外相は、中国や北朝鮮などの地域情勢について意見交換を行い、引き続き「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて取り組むことなどについて一致した。
6月12日、G7首脳会合出席のため英国を訪問した菅総理大臣は、バイデン大統領と断続的に協議を行った。菅総理大臣から、「自由で開かれたインド太平洋」とASEANの役割の重要性を強調したところ、バイデン大統領からも、同感であり、日米が協働して取り組んでいきたいと述べた。
6月29日、G20外相会合出席のためイタリアを訪問した茂木外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相会談を行った。両外相は、日米関係や東アジア情勢などについて意見交換を行い、G20などの枠組みにおける日米の協力について確認した。
7月23日、茂木外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相電話会談を行った。両外相は、地域情勢やグローバルイシューについて、幅広く意見交換を行った。その上で、両外相は、日米同盟の強化及び「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米が引き続き主導し、関係国と連携していくことを確認した。
8月6日、茂木外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相電話会談を行った。両外相は、日米同盟の強化及び「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米で連携していくことを再確認した。また、両外相は、同週の一連のASEAN関連外相会議も踏まえ、地域情勢についても意見交換を行った。
8月10日、菅総理大臣は、バイデン大統領と日米首脳電話会談を行った。バイデン大統領から、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の成功に対する祝意が表明され、これに対し、菅総理大臣から、同大会の開催に対する米国政府からの一貫した力強い支持と協力に改めて感謝の意を伝えた。その上で、両首脳は、引き続き日米同盟の強化及び「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、緊密に連携していくことを再確認した。
9月22日、国連総会出席のためニューヨークを訪問した茂木外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相会談を行った。両外相は、日米同盟を今後とも強化していくことで一致するとともに、引き続き「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米、日米豪印、欧州との協力といった様々な枠組みを通じて、同盟国・同志国の協力を深めていくことを確認した。また、両外相は、アフガニスタンや中国、北朝鮮について意見交換を行い、今後とも緊密に連携して対応していくことで一致した。さらに、両外相は、TPPを含むインド太平洋地域の国際秩序について戦略的な観点から議論を行い、その中で、茂木外務大臣から、米国のTPP復帰を促した。
9月24日、日米豪印首脳会合出席のためワシントンDCを訪問した菅総理大臣は、バイデン大統領と懇談を行った。菅総理大臣から、今後も日米同盟の重要性に変わりはないと述べた。
10月4日に就任した岸田総理大臣は、就任翌日である5日に、バイデン大統領と日米首脳電話会談を行った。冒頭、岸田総理大臣から、日米同盟が日本外交・安全保障の基軸であることに変わりはないと述べた。これに対して、バイデン大統領から、岸田総理大臣の就任及び政権発足に祝意が述べられた。両首脳は、日米同盟を一層強化し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を通じて、地域及び国際社会の平和と安定に取り組んでいくことで一致した。また、両首脳は、新型コロナ、気候変動、「核兵器のない世界」に向けた取組といった地球規模課題への対応でも、緊密に連携していくことで一致した。
10月7日、茂木外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相電話会談を行った。両外相は、日米同盟の更なる強化と「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、引き続き緊密に連携していくことを確認するとともに、中国や北朝鮮などの地域情勢や気候変動問題における連携などについて、幅広く意見交換を行った。
11月2日、COP26出席のため英国を訪問した岸田総理大臣は、バイデン大統領と懇談を行い、日米同盟の更なる強化や「自由で開かれたインド太平洋」の実現、気候変動問題への対処に向け、日米で引き続き緊密に連携していくことを確認した。
11月10日に就任した林外務大臣は、就任3日後の13日に、ブリンケン国務長官と日米外相電話会談を行った。両外相は、日米同盟の一層の強化、「自由で開かれたインド太平洋」の実現、新型コロナや気候変動など地球規模課題への対応において、緊密に連携していくことを確認した。また、両外相は、中国や北朝鮮などの地域情勢について意見交換を行った。そして、両外相は、一層厳しさを増す地域の安全保障環境に鑑み、喫緊の課題として日米同盟の抑止力・対処力の強化を推し進めていくことで一致した。
12月11日、G7外務・開発大臣会合出席のため英国を訪問した林外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相会談を行った。両外相は、一層厳しさを増す地域の安全保障環境に鑑み、日米同盟の抑止力・対処力の強化が不可欠であり、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致した。また、林外務大臣から、バイデン大統領のEASやAPEC出席やブリンケン国務長官の東南アジア訪問など、米国のインド太平洋地域へのコミットメントを歓迎すると述べた。その上で、両外相は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、ASEANなどとの協力やオーストラリアやインドを始めとする同志国間の連携を引き続き深化させていくと確認した。
2022年1月6日、林外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相電話会談を行った。両外相は、日米同盟の強化及び「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米で連携していくことを再確認した。また、両外相は、在日米軍の新型コロナ感染状況や、北朝鮮やロシア・ウクライナなどの地域情勢について、意見交換を行った。
1月21日、岸田総理大臣は、バイデン大統領と日米首脳テレビ会談を行った。両首脳は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、強固な日米同盟の下、日米両国が緊密に連携していくとともに、オーストラリア、インド、ASEAN、欧州などの同志国との協力を深化させることで一致した。この関連で、岸田総理大臣から、バイデン大統領の訪日を得て日米豪印首脳会合を2022年前半に日本で主催する考えであると述べ、バイデン大統領から、支持が表明された。また、両首脳は、中国、北朝鮮、ロシア・ウクライナなどの地域情勢について意見交換を行った。さらに、両首脳は、地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化することで一致した。岸田総理大臣から、新たに国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を策定し、日本の防衛力を抜本的に強化する決意を表明し、バイデン大統領は、これに支持を表明するとともに、極めて重要な防衛分野における投資を今後も持続させることの重要性を強調した。そして、岸田総理大臣は、「新しい資本主義」の考え方を説明し、両首脳は、次回首脳会合で、持続可能で包摂的な経済社会の実現のための新しい政策イニシアティブについて議論を深めていくことで一致した。両首脳は、閣僚級の日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)の立上げに合意するとともに、「日米競争力・強靭(じん)性(コア)パートナーシップ」などに基づき、日米間の経済協力及び相互交流を拡大・深化させていくことで一致した。そのほか、岸田総理大臣から、現実主義に基づく核軍縮の考えを説明し、バイデン大統領から支持が表明され、両首脳は、「核兵器のない世界」に向けて共に取り組んでいくことを確認した。両首脳は、NPTに関する日米共同声明が同日に発出されたことの意義を強調した。
2月2日、林外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相電話会談を行った。両外相は、北朝鮮の核・ミサイル活動について意見交換を行い、一層厳しさを増す地域の安全保障環境に鑑み、日米同盟の抑止力・対処力の強化が不可欠であり、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致した。また、両外相は、ロシア・ウクライナ情勢についても意見交換を行った。
2月11日、日米豪印外相会合出席のためオーストラリアを訪問した林外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相会談を行った。両外相は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、引き続き日米で緊密に連携していくとともに、オーストラリア、インド、ASEAN、欧州などの同志国との協力を深化させていくことで一致した。また、両外相は、中国、北朝鮮、ロシア・ウクライナなどの地域情勢について意見交換を行い、その上で、一層厳しさを増す地域の安全保障環境に鑑み、日米同盟の抑止力・対処力の強化が不可欠であり、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致した。さらに、両外相は、岸田総理大臣とバイデン大統領がそれぞれ推進する「新しい資本主義」と「より良い回復」について意見交換を行い、今後、日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)も活用しながら、双方の経済政策について議論を深めていくことで一致した。また、林外務大臣から、米国のTPP復帰を促した。そして、両外相は、1月21日の日米首脳テレビ会談での岸田総理大臣とバイデン大統領のやり取りも踏まえ、2022年前半に日本で開催される日米豪印首脳会合の際のバイデン大統領の訪日について、しかるべく調整していくことで一致した。
2月26日、林外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相電話会談を行った。両外相は、ロシア・ウクライナ情勢について意見交換を行い、引き続き日米、そしてG7を始めとする国際社会と緊密に連携していくことで一致した。その上で、両外相は、日米同盟の抑止力・対処力の強化が不可欠である点を改めて確認し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、引き続き日米で緊密に連携していくことで一致した。

(11月2日、グラスゴー 写真提供:内閣広報室)



(3)日米経済関係
日米経済関係は、安全保障、人的交流と並んで日米同盟を支える3要素の一つである。
2019年から、米国内の直接投資残高で日本は世界最大の対米投資国となっている(2020年は6,790億米ドル、米国商務省統計)。また、対米直接投資は日本企業による米国での雇用創出という形でも米国経済に貢献しており、2019年には約100万人の雇用を創出した(英国に次ぎ2位)。特に製造業では約53万人の雇用を創出しており、同業種では世界第1位である。また、R&D分野(企業の研究開発活動)の投資額は2018年に続き2019年も100億ドルを超え世界第1位となるなど、活発な投資や雇用創出を通じた重層的な関係強化が、これまでになく良好な日米関係の基礎となっている。
2021年4月には、日米首脳会談で「日米競争力・強靭性(コア)パートナーシップ」が立ち上げられた。これは、日米のみならず国際社会全体の新型コロナからの「より良い回復(Build Back Better)」を日米でリードし、明るい未来像を国際社会に提示すべく立ち上げられたもので、(1)競争力・イノベーション、(2)コロナ対策・グローバルヘルス、(3)グリーン成長・気候変動の3本柱の下で、具体的かつ包括的な協力を推進していくこととしている。また、2021年12月にフェルナンデス国務次官が訪日し、鈴木外務審議官との間で本パートナーシップをフォローアップするとともに、日米の協力を継続していくことを確認した。
今後は、2022年1月の日米首脳テレビ会談で立ち上げられた閣僚級の日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)を活用し、本パートナーシップに基づく協力の推進やインド太平洋地域を含む国際社会におけるルールに基づく経済秩序の確保などについて戦略的観点からハイレベルで議論を行い、経済分野での日米協力を更に深化・拡大していく。
2021年11月、レモンド商務長官とタイ通商代表が訪日し、松野博一内閣官房長官への表敬、林外務大臣及び萩生田光一経産大臣との会談をそれぞれ行い、これらの対面外交の機会を活用して、様々な分野における日米協力や米国のインド太平洋地域への関与について、意見交換した。また同月、外務省、経済産業省、USTRの三者で日米が共同で取り組むべき様々な国際通商面の課題を議論する局長級の「日米通商協力枠組み」を立ち上げた。
インフラ分野では、協力案件の一つとして、米国運輸省及びインディアナ州との連携の下、「第4回日米インフラフォーラム」がオンライン形式で2021年3月に開催された。同フォーラムでは、日米両政府からスマートシティ・スマートモビリティや効率的なインフラメンテナンスなどの新技術・デジタル技術、次世代エネルギーの活用などのインフラ政策に関する講演があったほか、米国で活躍する日本企業などから、それぞれの米国での経験と、自社が持つ技術などについて紹介があった。
エネルギー分野では、4月の日米首脳会談で発出された「日米競争力・強靭(じん)性(コア)パートナーシップ」及び「日米気候パートナーシップ」を踏まえ、従来の日米戦略エネルギーパートナーシップ(JUSEP)1を改組し、クリーンエネルギー分野での協力により焦点を当てる形で「日米クリーンエネルギーパートナーシップ(JUCEP)2」を立ち上げた。これによりインド太平洋地域及び世界中の国々が、脱炭素化に向けた努力を加速できるよう支援するとともに、クリーンで安価かつ安全なエネルギー技術を実装することで、エネルギー安全保障と持続可能な成長を促進することとなった。2021年6月に第1回会合を開催、中心となる協力分野として(1)再生可能エネルギー、(2)電力網の最適化、(3)原子力エネルギー、(4)脱炭素化技術を特定し、12月の第2回会合では、第1回会合のフォローアップを行うとともに今後の進め方について議論した。
デジタル分野では、2021年5月、従来の日米戦略デジタル・エコノミーパートナーシップ(JUSDEP)3の協力関係を拡大し、安全な連結性や活力あるデジタル経済を促進させる枠組みとして日米「グローバル・デジタル連結性パートナーシップ(GDCP)4」を立ち上げた。5月及び10月には専門家レベル作業部会を開催し、インド太平洋地域、アフリカ、ラテンアメリカなどの第三国における協力、多国間の枠組みにおける協力、5GやBeyond 5Gなどに関する両国の取組などの推進について議論した。また、11月に開催された第12回インターネットエコノミーに関する日米政策協力対話(日米IED)では、第三国におけるOpen RANの推進やサイバーセキュリティのキャパシティ・ビルディングなどに関する連携、日米二国間における5Gベンダーの多様化や、Beyond 5Gなどに関する協力、マルチのフォーラムにおけるAI、DFFTなどに関する更なる協力、グリーン成長・復興に貢献するICT(情報通信技術)の活用など、日米両国間でインターネットエコノミーに関する幅広い事項について議論した。
米国の各州など地方レベルとの協力も進んでいる。ワシントン州、メリーランド州、インディアナ州及びシカゴ市などの地方政府との間で、経済及び貿易関係に関する協力覚書に基づく協力が行われている。また、各州との間で運転免許試験の一部相互免除に関する覚書を作成することで現地邦人の運転免許取得の負担軽減を図っており、メリーランド州、ワシントン州、ハワイ州、バージニア州に加え、2021年3月にはオハイオ州と、5月にはインディアナ州との間で覚書を作成した。
2017年の「グラスルーツからの日米関係強化に関する政府タスクフォース」の立ち上げ以降、日米の紐(ちゅう)帯をより確かなものとするために、草の根レベル(グラスルーツ)での取組を打ち出していくことが重要との認識の下、各地域の特徴や訴求対象の日本への関心度に応じたテイラー・メイドのアプローチに基づく取組を行ってきた。2021年には、バイデン政権発足も踏まえ、同政権の重点政策(労働者・中間層重視、新型コロナ対策、気候変動・エネルギー、イノベーション・科学技術)に沿った新たなアプローチ「行動計画2.0」を取りまとめたほか、動画配信による日本企業の現地での活動や日本産食品のプロモーション、経済関係者を日系企業のネットワーキング・マッチングイベントの開催、日本企業が複数進出している地域を回る「地方キャラバン」の実施、シンクタンクと協力した各種ウェビナーの実施など様々な取組が各省庁、機関の協力体制の下で実施されている。今後も、日米経済関係の更なる飛躍のため、様々な取組をオールジャパンで実施し、草の根レベルでの対日理解促進などを図っていく。


(11月17日、東京)
1 JUSEP:Japan-U.S. Strategic Energy Partnership
2 JUCEP:Japan-U.S. Clean Energy Partnership
3 JUSDEP:Japan-U.S. Strategic Digital Economy Partnership
4 GDCP:Global Digital Connectivity Partnership