2 カナダ
(1)カナダ情勢
2021年9月、連邦下院の解散を受けた総選挙が行われ、トルドー首相率いる与党自由党や最大野党の保守党を始めいずれの政党も、解散前とほとんど議席数に変化がなく、トルドー首相が政権を維持する結果となった。10月に新内閣が発足し(首相を除く閣僚数は38人で、男女19人ずつの同数)、外相にはメラニー・ジョリー元経済開発・公用語相が新たに就任した。トルドー首相は、パンデミックの完全な収束、強い経済の回復、住宅価格の高騰問題、気候変動問題及び先住民族との和解を優先課題に掲げている。
トルドー政権は、新型コロナ対策を最重要課題とし、ワクチン接種を強力に進め、2021年も給付金や賃金補助、企業への資金繰り支援などを継続した。2021年4月から6月までの四半期のGDP成長率は感染の再拡大によりマイナス0.8%(年率マイナス3.2%)と再び減速したが、7月から9月までの四半期は各種規制の段階的な解除などに伴いプラス1.3%(年率プラス5.4%)と回復している(2021年の実質GDP成長率は4.6%)。失業率は6%台で概(おおむ)ね横ばいで推移している(12月:6.0%から2022年1月:6.5%)が、サプライチェーンの混乱や油価の上昇などにより、インフレ率の上昇などが懸念されている。
トルドー首相は、気候変動政策にも力を入れており、4月、気候サミットにおいて、2030年までに2005年比で40から45%の温室効果ガスの排出削減目標を発表した。9月、連邦下院総選挙においては、トルドー首相は、2035年までに乗用自動車新車販売のZEV(ゼロ・エミッション)化、電力系統の脱炭素化、石油・ガス部門の総排出量規制、国境炭素調整の検討、CCUS5や水素の活用などを公約として掲げた。
外交面では、トルドー政権は、米・カナダ関係、国連、北大西洋条約機構(NATO)、G7、G20、米州機構など、カナダが従来重視していた分野に加え、インド太平洋地域への関与を強めている。特に、国連安保理決議により禁止されている北朝鮮籍船舶の「瀬取り」を含む違法な海上活動に対する警戒監視活動に積極的で、10月には空軍航空機の派遣を、10月から11月には海軍艦艇による警戒監視活動を実施した。中国との関係は、2018年末に発生した孟晩秋(もうばんしゅう)ファーウェイ社副会長兼CFO(最高財務責任者)の拘束とその直後に発生した中国政府によるカナダ人2人の拘束事案が懸案であったが、米国との司法取引により9月に孟副会長が解放され、その後2人のカナダ人も解放された。カナダでは、本件を通じて悪化した対中関係に加え、中国の新型コロナ対応への不信感、香港及び新疆(きょう)ウイグル人権問題などをめぐり、引き続き対中世論は厳しく、今後の対中関係が注目される。
対外経済関係では、4月に加英貿易継続協定が発効した。7月に米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が発効から1年を迎えたほか、6月にインドネシアとの包括的経済連携協定(CEPA)交渉開始、11月にASEANとのFTA交渉開始を表明した。
(2)日・カナダ関係
2021年、日・カナダ間では首脳会談が2回(うち1回電話会談)、外相会談が4回(うち、1回電話会談、1回テレビ会談)実施され、2022年2月9日、首脳電話会談が実施された。
2021年5月の日・カナダ外相会談では、日加両国が共に掲げるビジョンである「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、「自由で開かれたインド太平洋に資する日本及びカナダが共有する優先協力分野」6を発表した。6月のG7コーンウォール・サミットの際の日・カナダ首脳会談では、両国が優先協力6分野において、具体的で力強い協力・連携を更に進めていくことで一致した。
最近では、2021年12月11日、G7外相会合出席のため英国を訪問した林外務大臣が、ジョリー外相と会談を行った。両大臣は、優先協力6分野において、今後、協力の具体化に向け更に連携していくことで一致した。また、両大臣は、中国や北朝鮮などの地域情勢について意見交換を行った。さらに、両大臣は、核軍縮・不拡散について意見交換を行い、2022年のNPT運用検討会議において意義ある成果が得られるよう、連携していくことで一致した。そして、両大臣は、TPP11を含むインド太平洋地域の国際秩序について、戦略的な観点から議論を行い、TPP11のハイスタンダードを維持する重要性について一致した。
2020年、両国の貿易は、新型コロナの影響で減少したものの、2021年を通じ、回復傾向が見られた。日・カナダ間で初の経済連携協定となるTPP11協定の発効から3年を迎え、貿易投資関係の更なる深化が見られた。12月には第31回日・カナダ次官級経済協議(JEC)をオンライン形式にて開催し、TPP11やWTOを含む最近の国際経済情勢や「自由で開かれたインド太平洋」の実現を含む日加協力に関する意見交換に加えて、5つの優先協力分野((1)エネルギー、(2)インフラ、(3)科学技術協力とイノベーション、(4)観光・青年交流、及び(5)ビジネス環境の改善・投資促進)などにつき議論を行った。
5 CCUS:Carbon dioxide Capture and Storage 二酸化炭素回収・貯留技術
6 優先協力6分野:(1)法の支配、(2)平和維持活動、平和構築及び人道支援・災害救援、(3)健康安全保障(ヘルス・セキュリティ)及び新型コロナ感染症への対応、(4)エネルギー安全保障、(5)自由貿易の促進及び貿易協定の実施、(6)環境及び気候変動