外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

第4節 中南米

1 概観

(1)中南米情勢

中南米地域には、自由、民主主義、法の支配、人権などの普遍的価値を日本と共有する国家が多い。同地域は、約6億5,000万人の人口を抱え、鉱物、エネルギーなどの天然資源や食料の一大産出地であるとともに、巨大市場を擁するなど大きな経済的潜在力も有している。

2020年において中南米地域は、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の世界的な感染拡大の影響を受けたが、2021年後半には多くの国で感染者数が大幅に減少し、ワクチンの接種も進んだ。2020年に大きく落ち込んだ経済は、2021年にはGDP成長率がプラスに転じるなど、回復傾向が見られている。政治面においても、おおむね安定した秩序が維持され、多くの国で平和裡(り)に民主的な選挙が実施された。

一方で2021年は、新型コロナの感染拡大により、貧富の格差などの社会問題が一層浮き彫りとなり、既存政治への不信の現れとして、左派や新勢力の台頭も見られるようになった。また、ベネズエラでは政権側と野党側の対立が継続しており、同国の政治経済社会情勢の悪化により避難民として周辺国に流出したベネズエラ人は11月時点で590万人を超え、その受入れは引き続き地域的課題となっている。8月からは与野党間対話がメキシコで実施されており、その行方が注目される。

また、中南米地域には、世界の日系人の約6割を占める200万人以上から成る日系社会が存在している。日系社会は100年以上に及ぶ現地社会への貢献を通じ、中南米地域における伝統的な親日感情を醸成してきた。一方で、移住開始から100年以上を経て、日系社会の世代交代が進み、若い世代を含め日本とのつながりを今後どう深めていくかが課題となっている。

(2)日本の対中南米外交

日本の対中南米外交は、安倍総理大臣が2014年に提唱した「3つのJuntos!!(共に)」(「共に発展」、「共に主導」、「共に啓発」)の指導理念の下で展開されてきた。2018年12月には、同理念の成果を地域全体として総括し、次なる協力の指針として日・中南米「連結性強化」構想を安倍総理大臣が公表した。日本は本構想も踏まえつつ、中南米諸国との協力関係の深化を目指してきた。

2021年は2020年に引き続き新型コロナの影響により物理的な人の往来が制限されたものの、対面での外交活動を徐々に再開し、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」や法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・拡大のための連携、新型コロナ対策を始めとする地球規模課題への対応、経済関係の強化などにつき意見交換を行った。1月には茂木外務大臣がメキシコ、ウルグアイアルゼンチンパラグアイブラジルを訪問し、大統領表敬、外相会談などを実施した。さらに、7月にはグアテマラ、パナマ、ジャマイカを訪問し、訪問先国などと会談を行うとともに、中米統合機構(SICA)やカリブ共同体(CARICOM)との間で外相会合を行った。また、同月、宇都隆史外務副大臣がドミニカ共和国とエクアドルを訪問し、各国政府要人との会談に加え、ドミニカ共和国では日本人移住65周年記念式典に出席し、日系人団体代表などと懇談した。さらに、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)の機会には、アンティグア・バーブーダの外相が訪日、11月にはコロンビアの副大統領及びパラグアイの外相が訪日し、外相会談などが行われた。日本はこうした会談などを通じ、二国間関係の強化や国際場裡における諸課題解決に向けた連携強化に取り組んだ。

経済分野においては、日本企業の中南米地域拠点が2011年の約2倍に達するなど、サプライチェーンの結び付きが強化されており、日本は、メキシコ、ペルー、チリが参加する「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」などを通じ、中南米諸国と共に自由貿易の推進に取り組んでいる。2021年も、ペルーで同協定が発効するなど、経済関係の深化がみられた。

開発協力の分野においては、経済成長を遂げた一部の中南米地域では、経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会のODA受取国リストからの「卒業国」、または「卒業」を控えた国々により南南協力が進められており、日本はこれらの国々との間の三角協力を推進している。また、中南米地域は、新型コロナの被害が深刻であることに加え、医療体制が脆(ぜい)弱である国も少なくないことを踏まえ、日本は同地域と新型コロナ対策においても協力している。二国間協力の枠組みでは、例えば、新型コロナの流行以降、中南米25か国に対し、感染症対策及び保健・医療体制の強化に資する保健・医療関連機材供与のための無償資金協力(計約91億円(2021年12月時点))を実施しているほか、2021年はワクチン供与による支援も行い、ニカラグアに約50万回分の新型コロナワクチンをCOVAX経由で供与した。さらに、新型コロナの影響を受けている中南米の日系社会に対しても支援を実施している。

日・中米統合機構(SICA)外相会合(7月16日、グアテマラ)
日・中米統合機構(SICA)外相会合(7月16日、グアテマラ)
日本人移住65周年記念式典で挨拶する宇都外務副大臣(7月26日、ドミニカ共和国)
日本人移住65周年記念式典で挨拶する宇都外務副大臣
(7月26日、ドミニカ共和国)
このページのトップへ戻る
青書・白書・提言へ戻る