外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

第2節 アジア・大洋州

1 概観

〈全般〉

アジア・大洋州地域は、経済規模世界第2位の中国や第3位の日本だけでなく、成長著しい新興国を数多く含み、多種多様な文化や人種が入り交じり、相互に影響を与え合うダイナミックな地域である。同地域は、豊富な人材に支えられ、世界経済を牽(けん)引し、存在感を増している。世界の約79億人の人口のうち、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定署名国1には約23億人が居住しており、世界全体の約29%を占めている2。名目国内総生産(GDP)の合計は過去10年間で約1.3倍以上増加しており、世界全体の約30%を占める3。また、輸出入総額は9兆8,698億米ドル(2020年)で、EUの10兆4,448億米ドル4に匹敵する。域内の経済関係は緊密で、相互依存が進んでいる。今後、更なる成長が見込まれており、この地域の力強い成長は、日本に豊かさと活力をもたらすことにもつながる。

その一方、アジア・大洋州地域では、北朝鮮の核・ミサイル開発、地域諸国による透明性を欠いた形での軍事力の強化・近代化、法の支配や開放性に逆行する力による現状変更の試み、海洋をめぐる問題における関係国・地域間の緊張の高まりなど、安全保障環境は厳しさを増している。また、整備途上の経済・金融システム、環境汚染、不安定な食料・資源需給、頻発する自然災害、高齢化など、この地域の安定した成長を阻む要因も抱えている。

その中で、日本は、地域において、首脳・外相レベルも含め積極的な外交を展開してきている。2021年は2020年に引き続き、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の影響で、他国への訪問が大幅に制限される中でも対面外交を重ねたほか、電話やテレビ形式で積極的に会談を実施し、近隣諸国との良好な関係を維持・発展させた。菅総理大臣は、ASEAN諸国やオーストラリアなどと二国間の電話会談などを実施したほか、3月には、首脳レベルで初の開催となった日米豪印首脳テレビ会談に参加した。7月には、第9回太平洋・島サミット(PALM9)をテレビ会議形式で開催し、あわせて太平洋島嶼(しょ)国との間で二国間首脳テレビ会談を実施した。また、9月に米国で開催された日米豪印首脳会合に参加した際には、モリソン・オーストラリア首相及びモディ・インド首相とそれぞれ会談を行った。10月に内閣総理大臣に就任して以降、岸田総理大臣は、オーストラリア中国韓国インドを始め、多くのアジア・大洋州諸国との電話会談などを行った。また、岸田総理大臣は、同月末にテレビ会議形式で開催されたASEAN関連首脳会議に出席した。岸田総理大臣は、3フォーラム(日・ASEAN首脳会議ASEAN+3(日中韓)首脳会議東アジア首脳会議(EAS)(いずれも10月27日))を通じて、ASEANの一体性や中心性を尊重しつつ、2020年11月に採択された「インド太平洋に関するASEAN・アウトルック(AOIP)5協力についての日・ASEAN首脳共同声明」を指針として、海洋協力、連結性、国連持続可能な開発目標、経済等というAOIPの重点分野に沿ってASEANとの具体的な協力が進展していることを確認した。また、北朝鮮情勢や東シナ海・南シナ海情勢、ミャンマー情勢などの地域・国際情勢について力強いメッセージを発信した。さらに岸田総理大臣は、11月に、来日したチン・ベトナム首相と会談を行い、共同首脳声明を発出した。茂木外務大臣は、5月にイギリスで開催されたG7外相会合出席の機会を捉え、日米韓外相会合に参加するとともに、ペイン・オーストラリア外相鄭義溶(チョンウィヨン)韓国外交部長官ジャイシャンカル・インド外相などと会談を行った。また、8月には、テレビ会議形式で開催されたASEAN関連外相会議、フレンズオブメコン6閣僚会合、日・メコン外相会議での議論に積極的に貢献した。9月に、国連総会出席のため米国を訪問した際には、日米韓外相会合に参加した。11月の新内閣発足後、林外務大臣は、オーストラリア中国インド及びモンゴルなどと積極的に会談を実施し、意見交換を行ってきた。ASEAN諸国(インドネシアカンボジアシンガポールタイフィリピンブルネイマレーシアラオス)ともそれぞれ二国間電話会談を実施したほか、11月にはソン・ベトナム外相と対面で会談を行った。また、12月にG7外務・開発大臣会合出席のためイギリスを訪問した際には、ペイン・オーストラリア外相と会談を行った。

日本は、アジア・大洋州地域において様々な協力を強化しており、引き続き多様な協力枠組みを有意義に活用していく考えである。

日豪首脳会談(9月24日、米国・ワシントンDC 写真提供:内閣広報室)
日豪首脳会談(9月24日、米国・ワシントンDC 写真提供:内閣広報室)
チン・ベトナム首相来日時の儀仗(じょう)隊による栄誉礼及び儀仗(11月24日、総理官邸 写真提供:内閣広報室)
チン・ベトナム首相来日時の儀仗(じょう)隊による栄誉礼及び儀仗
(11月24日、総理官邸 写真提供:内閣広報室)
〈日米同盟とインド太平洋地域〉

日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、日本のみならず、インド太平洋地域の平和と安全及び繁栄の礎である。地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米同盟の重要性はこれまで以上に高まっている。2021年1月に米国でバイデン政権が発足して以降、2022年2月末までに、電話会談を含め8回の首脳会談及び15回の外相会談を行うなど、首脳及び外相間を始めとするあらゆるレベルで緊密に連携し、北朝鮮を含む地域の諸課題に対応している。

また、米国とは新型コロナの感染拡大の中にあっても、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた協力を進めている。バイデン政権発足後わずか2か月後の3月に、ブリンケン国務長官及びオースティン国防長官がバイデン政権下の閣僚による最初の外国訪問先として日本を訪問し、茂木外務大臣及び岸信夫防衛大臣との間で日米「2+2」が開催された。4閣僚は、日米同盟がインド太平洋地域の平和、安全及び繁栄の礎であり続けることを確認した上で、日米同盟への揺るぎないコミットメントを新たにした。また4月に訪米した菅総理大臣は、バイデン米国大統領と日米首脳会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、日米両国が、オーストラリアやインド、ASEANといった同志国などと連携しつつ、結束を固め、協力を強化していくことを確認する共同声明を発出した。10月に岸田総理大臣は、就任翌日にバイデン大統領と日米首脳電話会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を通じて、地域及び国際社会の平和と安定に取り組んでいくことで一致した。さらに11月に林外務大臣は、ブリンケン国務長官と日米外相電話会談を行い、「自由で開かれたインド太平洋」の実現において、緊密に連携していくことを確認した。2022年1月には、日米「2+2」が初めてテレビ会議形式で開催され、日本側からは、林外務大臣及び岸防衛大臣が、米側からは、ブリンケン国務長官及びオースティン国防長官がそれぞれ出席した。日米同盟をいかに進化させ、現在、そして将来の挑戦に効果的に対処し続けるかについて率直かつ重要な議論を行い、「自由で開かれたインド太平洋」へのコミットメントを確認した。また、同月、岸田総理大臣は、バイデン大統領と日米首脳テレビ会談を行った。両首脳は、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向け、強固な日米同盟の下、日米両国が緊密に連携していくとともに、オーストラリア、インド、ASEAN、欧州などの同志国との協力を深化させることで一致した。

〈慰安婦問題についての日本の取組〉

(日韓間の慰安婦問題については、52ページ 3(2)(ウ)参照)

慰安婦問題を含め、先の大戦に関わる賠償並びに財産及び請求権の問題について、日本政府は、米国、英国、フランスなど45か国との間で締結したサンフランシスコ平和条約及びその他二国間の条約などに従って誠実に対応してきており、これらの条約などの当事国との間では、個人の請求権の問題も含めて、法的に解決済みである。

その上で、日本政府は、元慰安婦の方々の名誉回復と救済措置を積極的に講じてきた。1995年には、日本国民と日本政府の協力の下、元慰安婦の方々に対する償いや救済事業などを行うことを目的として、財団法人「女性のためのアジア平和国民基金」(略称:「アジア女性基金」)が設立された。アジア女性基金には、日本政府が約48億円を拠出し、また、日本人一般市民から約6億円の募金が寄せられた。日本政府は、元慰安婦の方々の現実的な救済を図るため、元慰安婦の方々への「償い金」や医療・福祉支援事業の支給などを行う財団法人「アジア女性基金」の事業に対し、最大限の協力を行ってきた。アジア女性基金の事業では、元慰安婦の方々285人(フィリピン211人、韓国61人、台湾13人)に対し、国民の募金を原資とする「償い金」(一人当たり200万円)が支払われた。また、アジア女性基金は、これらの国・地域において、日本政府からの拠出金を原資とする医療・福祉支援事業として一人当たり300万円(韓国・台湾)、120万円(フィリピン)を支給した(合計金額は、一人当たり500万円(韓国・台湾)、320万円(フィリピン))。さらに、アジア女性基金は、日本政府からの拠出金を原資として、インドネシアにおいて、高齢者用の福祉施設を整備する事業を支援し、また、オランダにおいて、元慰安婦の方々の生活状況の改善を支援する事業を支援した。

個々の慰安婦の方々に対して「償い金」及び医療・福祉支援が提供された際、その当時の内閣総理大臣(橋本龍太郎内閣総理大臣、小渕恵三内閣総理大臣、森喜朗内閣総理大臣及び小泉純一郎内閣総理大臣)は、自筆の署名を付したおわびと反省を表明した手紙をそれぞれ元慰安婦の方々に直接送った。

2015年の内閣総理大臣談話に述べられているとおり、日本としては、20世紀において、戦時下、多くの女性たちの尊厳や名誉が深く傷つけられた過去を胸に刻み続け、21世紀こそ女性の人権が傷つけられることのない世紀とするため、リードしていく決意である。

このような日本政府の真摯な取組にもかかわらず、「強制連行」や「性奴隷」といった表現のほか、慰安婦の数を「20万人」又は「数十万人」と表現するなど、史実に基づくとは言いがたい主張も見られる。

これらの点に関する日本政府の立場は次のとおりである。

●「強制連行」

これまでに日本政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった。

●「性奴隷」

「性奴隷」という表現は、事実に反するので使用すべきでない。この点は、2015年12月の日韓合意の際に韓国側とも確認しており、同合意においても一切使われていない。

●慰安婦の数に関する「20万人」といった表現

「20万人」という数字は、具体的な裏付けがない数字である。慰安婦の総数については、1993年8月4日の政府調査結果の報告書で述べられているとおり、発見された資料には慰安婦の総数を示すものはなく、また、これを推認させるに足りる資料もないので、慰安婦の総数を確定することは困難である。

日本政府は、これまで日本政府がとってきた真摯な取組や日本政府の立場について、国際的な場において明確に説明する取組を続けている。具体的には、日本政府は、国連の場において、2016年2月の女子差別撤廃条約第7回及び第8回政府報告審査2021年9月提出の同条約実施状況第9回政府報告を始めとする累次の機会を捉え、日本の立場を説明してきている。

また、韓国のほか、米国、カナダ、オーストラリア、中国、ドイツ、フィリピン、香港、台湾などでも慰安婦像7の設置などの動きがある。このような動きは日本政府の立場と相容(い)れない、極めて残念なものである。2017年2月、日本政府は、米国・ロサンゼルス郊外のグレンデール市に設置されている慰安婦像に係る米国連邦最高裁判所における訴訟において、日本政府の意見書を同裁判所に提出した。日本政府としては、引き続き、様々な関係者にアプローチし、日本の立場について説明する取組を続けていく。

慰安婦問題についての日本の取組に関する外務省ホームページの掲載箇所はこちら

https://www.mofa.go.jp/mofaj/a_o/rp/page25_001910.html

外務省ホームページ掲載箇所QRコード

1 地域的な包括的経済連携(RCEP)協定署名国:日本・中国・韓国・ASEAN(加盟国:ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ及びベトナム)10ヵ国・オーストラリア・ニュージーランドの計15カ国

2 国連人口基金「世界人口白書2021」

3 世界銀行

4 国際通貨基金(IMF)

5 AOIP:ASEAN Outlook on the Indo-Pacific
2019年6月、ASEAN首脳会議において採択。インド太平洋地域におけるASEAN中心性の強化に加え、開放性、透明性、包摂性、ルールに基づく枠組み、グッドガバナンス、主権の尊重、不干渉、既存の協力枠組みとの補完性、平等、相互尊重、相互信頼、互恵、国連憲章及び国連海洋法条約その他の関連する国連条約を含む国際法の尊重といった原則を基礎として、海洋協力、連結性、SDGs及び経済などの分野での協力の推進を掲げている。

6 フレンズオブメコン:旧「メコン河下流域フレンズ(FLM)」
対メコン協力を行う開発パートナー間の連携・協力を促進することを目的とした米国主導の枠組み。2014年にミャンマーにおいて開催された閣僚会合には、日本から岸田外務大臣(当時)が出席

7 分かりやすさの観点から、便宜上、「慰安婦像」との呼称を用いるが、この呼称は、これらの像に係る元慰安婦についての描写が正しいとの認識を示すものでは決してない。

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