外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

3 資源外交と対日直接投資の促進

(1)エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保

ア エネルギー・鉱物資源をめぐる内外の動向
(ア)世界の情勢

2010年末以降、原油価格は新興国を中心とするエネルギー需要の増加と獲得競争の激化、資源ナショナリズムの台頭、中東情勢の流動化などによって高い水準で推移していた。しかし、原油価格は2014年後半に入ると、中国等の景気低迷による需要減速、米国産シェールオイルなど非OPEC諸国の生産の堅調な伸びによる需給緩和を主要因として下落し、2016年には一時30米ドル/バレルを割るなど低い水準にとどまった。こうした長引く低油価への懸念を受け、11月のOPEC総会で加盟国、非加盟国が共に原油の減産に合意、一時は50米ドル/バレルを上回る局面が見られるなど中長期的には油価上昇の兆しが見られている。油価下落は、短期的にはエネルギー消費国に恩恵をもたらす一方、産油国の財政悪化やエネルギー関連プロジェクトへの投資縮小にもつながることから、将来のエネルギー安全保障に与える影響を引き続き注視していくことが重要である。

原油価格動向
原油価格動向
主要各国におけるエネルギー自給率
主要各国におけるエネルギー自給率
(イ)日本の状況

東日本大震災以降、日本は電源としての化石燃料依存度が、震災前の約6割から約9割に上昇した。燃料調達費が貿易収支を圧迫し、エネルギーの安定的かつ安価な供給の確保が重視されたことを背景に「エネルギー基本計画」が2014年に閣議決定された。同計画を踏まえて、2015年7月には、日本のエネルギー利用の展望を示す「長期エネルギー需給見通し」(エネルギー政策における安全性、安定供給、経済効率性及び環境適合の観点で達成すべき政策目標を想定し、政策の基本的な方向性に基づいて施策を講じたときに実現される将来のエネルギー需給構造の見通し)が決定された。また、2016年4月には電力の小売り全面自由化がスタートした。

イ エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保に向けた外交的取組

エネルギー・鉱物資源の安定的かつ安価な供給の確保は、活力ある日本の経済、人々の暮らしの基盤であり、日本は、以下を中心とする外交的取組を強化している。

(ア)G7サミット

2016年、日本はG7議長国として、エネルギー安全保障確保のための議論を主導した。5月には福岡県北九州市でG7エネルギー大臣会合を開催、成果文書として「グローバル成長を支えるエネルギー安全保障のための北九州イニシアティブ」を取りまとめた。この成果はG7伊勢志摩サミットに引き継がれ、G7伊勢志摩首脳宣言においては、日本が重視する質の高いエネルギー・インフラ及び上流開発への安定的かつ継続的な投資の重要性と、透明性と柔軟性がある天然ガス市場強化に向けた取組を継続することが明記された。また、首脳宣言の関連文書として、「コネックス持続可能な開発に向けた基本指針」が承認された。コネックス・イニシアティブは、持続可能な開発目標(SDGs)の実現を目指し、G7各国による人材育成や法整備を通じた協力を通じて開発途上国が適切に裨益(ひえき)するような資源開発を促す枠組みであり、日本は同枠組みに積極的に関与している。

(イ)資源国との包括的かつ互恵的な協力関係の強化

エネルギー・鉱物資源の安定供給確保のため、日本は、資源国との間で、首脳・閣僚レベルでの働きかけや資源分野における技術協力・人材育成などのODAを活用した協力など、包括的かつ互恵的な関係の強化に取り組んでいる。特に安倍政権発足以来、安倍総理大臣、岸田外務大臣及び世耕弘成経済産業大臣による北米、中東・アフリカ、中南米、アジア太平洋などの主要な資源国への訪問や首脳らとの会談の機会を捉えて積極的な資源エネルギー外交を展開してきた。2016年には、安倍総理大臣はロシア、モンゴルなどを訪問したほか、中東諸国(イラン、カタール、クウェート、サウジアラビアなど)、カザフスタン、ブラジルなどの首脳と会談を実施し、二国間関係の強化に努めた。

(ウ)輸送経路の安全確保

日本が原油の約8割を輸入している中東から日本までのシーレーンやソマリア沖・アデン湾などの国際的に重要なシーレーンにおいて、海賊の脅威が存在する。これを受けて、日本は、沿岸各国に対し、海上法執行能力向上支援、関係国間での情報共有などの協力、航行施設の整備支援を行っている。また、ソマリア沖・アデン湾に自衛隊及び海上保安官を派遣して世界の船舶の護衛活動等を実施している(詳細は3-1-3(4)海洋参照)。

(エ)在外公館等における資源関連の情報収集・分析

エネルギー・鉱物資源の獲得や安定供給の確保に重点的に取り組むため、在外公館の体制強化を目的とし、現在、合計50か国55公館に「エネルギー・鉱物資源専門官」が配置されている(2016年12月末現在)。また、エネルギー・鉱物資源の安定供給確保の点で重要な国を所轄する一部在外公館の職員を招集して、「エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議」を開催している。この会議では、資源確保における現在の取組の状況や今後の方向性について活発な議論を行っている。

(オ)国際的なフォーラムやルールの活用

エネルギーの安定供給に向けた国際的な連携・協力のため、日本は、国際エネルギー機関(IEA)の諸活動に積極的に参加し、世界のエネルギー市場・資源産出国の動向や中長期的な需給見通しなどの迅速かつ正確な把握に加え、石油の供給途絶などの緊急時における対応能力の強化に努めている。また、2016年に日本は、東アジアで初となるエネルギー憲章会議を東京で開催した。エネルギーに関する貿易及び通過の自由化、投資の保護・促進を規定するエネルギー憲章条約(ECT)の最高意思決定機関である同会議において、日本は議長国として議論を主導し、エネルギー安全保障と気候変動など国際的課題との両立を図るクリーンエネルギーの促進、質の高いインフラなどへの投資環境の安定性と透明性の確保、ECTへの新規加入のためのアウトリーチ活動の強化などに言及した「エネルギー憲章に関する東京宣言」を発出した。さらに、液化天然ガス(LNG)に関しては、2016年11月にLNGの生産国・消費国双方の官民が集う国際会議「LNG産消会議2016」(経済産業省及びアジア太平洋エネルギー研究センター(APERC)主催)を開催した。

ウ 海洋(大陸棚・深海底)

陸域のエネルギー・鉱物資源に乏しい日本にとって、海洋の生物資源や周辺海域の大陸棚・深海底に埋蔵されている海底資源は、安定供給源の確保及び経済の健全な発展の観点から重要である。日本は、海洋における権益を確保するため、国連海洋法条約(UNCLOS)に基づき必要な取組を進めている。200海里を超える大陸棚の限界の設定については、日本は、2012年4月、大陸棚の延長を申請した7海域のうち4海域について大陸棚限界委員会(CLCS)から一定の延長を認める勧告を受け、2014年10月、同年7月に総合海洋政策本部が決定した「大陸棚の延長に向けた今後の取組方針」に従い、2海域における延長大陸棚を設定した。また、そのほかの2海域については関係国との調整を行っているところであり、勧告が行われず先送りとなった1海域については早期に勧告が行われるよう努力を継続している(3-1-6参照)。

深海底については、日本のコントラクター2社が、国際海底機構(ISA)との契約により、特定の探査鉱区における深海底鉱物資源の排他的探査権を取得し、マンガン団塊やコバルトリッチクラストの探査活動を行っている。

COLUMN
「エネルギー憲章に関する東京宣言」の採択
~2016年、エネルギー分野の日本外交の成果~

2016年11月25日及び26日、岸田外務大臣を議長とし、エネルギー憲章会議を東京で開催しました。同会議は、エネルギー分野の投資の保護・自由化を規定する唯一の多国間枠組みであるエネルギー憲章条約の締約国、オブザーバー等が一堂に会し、今後の取組について議論を行う場で、東アジアで開催されるのは今回が初めてです。イランやジョージア、ウガンダ等のエネルギー担当相を含む閣僚級32人を始め、約80の国・国際機関の代表が集まり、エネルギー問題について活発な議論が交わされました。

閣僚級の参加者
閣僚級の参加者

日本を取り巻くエネルギー情勢について中長期的な課題として指摘されているのが、安定的かつ継続的なエネルギー関連投資の重要性です。需要面では、アジアを中心とする新興国において今後もエネルギー消費の増大が予想されますが、原油価格低迷の影響で、エネルギー関連投資は2年連続で減少しており、将来のエネルギー安定供給を脅かしかねません。一方、2016年11月のパリ協定の発効を受けた気候変動問題への関心の高まりを受け、エネルギー関連投資がクリーンエネルギーやエネルギー効率の促進につながることが期待されています。今回のエネルギー憲章会議では、こうした情勢を踏まえ、エネルギー安全保障確保のための投資の重要性を確認するとともに、気候変動への対処や持続可能な開発といったグローバル課題にも貢献するというエネルギー憲章プロセスの将来像を描くことができ、その議論は成果文書である「エネルギー憲章に関する東京宣言」としてまとめられました。

また今回のエネルギー憲章会議では新たに、イラン、イラク、グアテマラ、その他3つのアフリカ地域機関が国際エネルギー憲章(エネルギー憲章条約の近代化を支持する政治宣言)に署名し、エネルギー憲章会議のオブザーバー資格を得ました。署名式での挨拶で岸田外務大臣が「世界のエネルギー需給の安定と安全保障の強化にとって、エネルギー憲章条約の締約国拡大及び同憲章の普遍化が持つ可能性は大きい」と述べたように、今回の東京でのエネルギー憲章会議開催をきっかけとして、今後ますます多くの国がエネルギー憲章条約に参加することが期待されます。

外務省飯倉公館で行われた署名式の様子
外務省飯倉公館で行われた署名式の様子

国内のエネルギー安定供給の確保はもちろん、世界のエネルギー安全保障の実現を通じて持続可能な開発目標の達成に貢献するという日本のエネルギー外交の姿勢を世界に明確に発信させた点で、今回のエネルギー憲章会議の成功と「エネルギー憲章に関する東京宣言」は、サミット・イヤー2016年のエネルギー分野における日本外交の集大成と言えます。力強い経済の成長基盤となるエネルギーの安定供給確保のため、日本のエネルギー・資源外交の取組は続きます。

エ グリーン成長及び低炭素社会構築への取組

日本は、再生可能エネルギー(太陽・風力・バイオマス・地熱・水力・海洋利用など)の利用や省エネ技術の推進を通じて、開発途上国を始め国際社会におけるグリーン成長の実現や低炭素社会の促進に向けた貢献(人材育成、国際的枠組みを通じた協力など)を行っている。再生可能エネルギーの普及や持続可能な利用の促進に向け、日本は、国際再生可能エネルギー機関(IRENA)に積極的に関与し、2015年1月には総会議長も務めた。また、2016年3月、安倍総理大臣は福島を再生可能エネルギー研究の拠点とすることを目指す「福島新エネ社会構想22」を表明、外務省でもこの構想に基づき、同年8月に在京の各国大使等を対象に「産総研福島再生可能エネルギー研究所」等の視察(福島スタディーツアー)を実施、再生可能エネルギーの普及・促進へ向けた日本の積極的な姿勢を対外的に発信した。

(2)食料安全保障の確保

直近の国連の報告によると、世界の人口は2050年までに約97億人に達すると見込まれ、人口増加をまかなうためには、2012年の国連食糧農業機関(FAO)の推定によると、2050年までに食料生産を2005年から2007年の水準から約60%増大させる必要がある。食料の多くを輸入に頼る日本にとって、こうした世界の食料安全保障は安定的な食料供給の確保に直結する課題であり、国内での生産増大と同時に世界の食料生産を促進し、安定的な農産物市場や貿易システムの形成に貢献することが求められる。

世界の食料安全保障における喫緊の課題である飢餓について、ミレニアム開発目標(MDGs)では「1990年との比較において飢餓人口の割合を2015年までに半減させる」とされた。当目標は、実際の飢餓人口が過去10年間で1億人以上、1990年から1992年までの期間と比較では2億人以上減少したことで、開発途上地域においてほぼ達成されたとされる。その一方で、FAO、国際農業開発基金(IFAD)及び国連世界食糧計画(WFP)は「世界の食料不安の現状2015年報告」の中で、依然として世界で約7億9,500万人が栄養不足に苦しんでいると指摘している。また、食料へのアクセスを左右する国際穀物価格は、国際価格が高騰した2007年から2008年頃と比べれば低い水準で推移し続けているものの、天候などの要因によって大きく変動しやすい状況にある。食料の安定供給をめぐるこうした課題を踏まえ、グローバル・パートナーシップを活性化し、「食料不安に苦しむ開発途上国の人々の窮状を緩和し、2030年までに飢餓を終わらせる」という持続可能な開発のための2030アジェンダが掲げる持続可能な開発目標(SDGs)(ゴール2)の達成に貢献することは、日本を含む国際社会全体の責務である。

ア 食料安全保障に関する国際的枠組みにおける協力

2016年5月のG7伊勢志摩サミットにおいて、日本は首脳宣言の関連文書として「食料安全保障と栄養に関するG7行動ビジョン」の策定を主導した。この中では、2015年のG7エルマウ・サミット(於:ドイツ)で掲げられた「2030年までに開発途上国の5億人を飢餓と栄養不良から救出する」という目標と、その達成に向け策定された「食料安全保障と栄養のための広範な開発アプローチ」を踏まえ、G7が協調して進める具体的な行動が明記された。この行動ビジョンでは、①農業・フードシステムにおける女性のエンパワーメント、②人間中心のアプローチを通じた栄養の改善及び③農業・フードシステムにおける持続可能性及び強靱(きょうじん)性の確保が3つの優先行動分野として設定された。今後とも日本は着実な行動の実施によりG7の取組を推進していく。また、4月には新潟県新潟市でG7農業大臣会合を開催し、農業を取り巻く新たな課題に対処するために必要な政策や取組について議論を行い、成果文書として「G7新潟農業大臣会合宣言」を取りまとめた。

日本の食料安全保障のための外交的取組
日本の食料安全保障のための外交的取組

また、2016年の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)(於:ナイロビ(ケニア))で日本は、アフリカにおける食料安全保障強化のための取組として、アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)における稲作技術の普及等を通じた農業生産性の向上支援策を表明した。加えて、「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」等のアフリカ地域の取組や地域機関とも協同で進める協力事業「食と栄養のアフリカ・イニシアチブ(IFNA)」の創設を発表した。

さらに、9月にペルーで開催されたAPEC食料安全保障担当大臣会合においては、APEC域内における食料安全保障の強化に向けた具体的な取組を取りまとめた「APEC食料安全保障に関するピウラ宣言」が採択され、APEC地域の具体的な状況を考慮した食料安全保障強化の取組を着実に前進させることで一致した。

このほか、9月のASEAN+3(日本、中国及び韓国)首脳会議で、安倍総理大臣は、2012年に発効したASEAN+3緊急米備蓄(APTERR)協定に基づき、日本が行ったフィリピンやカンボジアに対する米支援について紹介した上で、日本が推進しているフードバリューチェーンの構築のための官民連携協力を更に拡大する意向を表明した。さらに、日本産食品に対する原発関連の輸入規制の緩和・撤廃についても要請した。

イ 「責任ある農業投資」の促進に向けた日本の取組

世界の食料生産増大のため国際的な農業投資が促進される一方で、開発途上国における大規模な「農地争奪」が問題となったことを踏まえ、日本は2009年のG8ラクイラ・サミット(於:イタリア)にて、投資受入国、小農を含めた現地の人々及び投資家の3者が裨益(ひえき)するような投資が促進されるべきとの「責任ある農業投資」のコンセプトを提唱した。2010年4月には、4国際関係機関(FAO、IFAD、国連貿易開発会議(UNCTAD)及び世界銀行(WB))により「責任ある農業投資原則」(PRAI)が策定された。これを発展させる形で2014年10月の世界食料安全保障委員会(CFS)総会において、「農業及びフードシステムにおける責任ある投資のための原則」が採択され、この原則は2016年G7伊勢志摩サミットでも、前述した「食料安全保障と栄養に関するG7行動ビジョン」において、G7の行動の基礎を成す原則として明記されている。世界全体の食料安全保障の実現における主要な課題として、同原則の実践を引き続き主導していく。

(3)漁業(マグロ・捕鯨問題など)

日本は世界有数の漁業国及び水産物の消費国であり、海洋生物資源の適切な保存管理及び持続可能な利用に積極的な役割を果たしている。

マグロ類に関し、日本はその最大消費国として、日本漁船にとって重要な漁場である日本周辺を条約対象水域とする中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)を始め、全てのマグロ類の地域漁業管理機関(RFMO)に加盟し、保存管理措置の強化に向けた議論を主導している。2016年には、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)において、外部有識者による第2回パフォーマンスレビューが実施され、大西洋クロマグロの資源回復に関するICCAT及びその加盟国の長期的努力が高く評価されるとともに、大西洋クロマグロの総漁獲可能量(TAC)の3年連続の増加が確認された。また、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)では、南アフリカが新規加盟し、年次会合において公海大型流し網漁業に対する禁止決議が採択されたほか、2018年以降3年間のTACが現行の3,000トン増に決定された。

サンマ、サバ類、キンメダイ等の公海漁業を対象とする北太平洋漁業委員会(NPFC)においては、日本の提案で、マサバ漁船の許可隻数の抑制の推奨及び違法・無報告・無規制(IUU)漁船リストの作成手続等を定めた保存管理措置等が採択された。

国際自然保護連合(IUCN)が2014年に絶滅危惧種に指定し、2016年のワシントン条約(CITES)第17回締約国会議(COP17)でも議論されたニホンウナギにつき、日本は、ニホンウナギを利用する中国、韓国、台湾等と、国際的な管理体制構築に関する協議を行っている。

また、無秩序な操業を行う船舶によるIUU漁業が持続可能な漁業に対する大きな脅威となっている状況に対し、日本は、4月に開催されたG7広島外相会合の際の海洋安全保障に関する外相声明において、IUU漁業の防止に向けた対策の重要性を強調するなど、IUU漁業対策に積極的に取り組む姿勢を示している。

捕鯨問題に関し、日本は、国際法及び科学的根拠に基づき、鯨類資源管理に不可欠な科学的情報を収集するための鯨類科学調査を実施し、商業捕鯨の再開を目指すという方針の下、2014年3月の国際司法裁判所(ICJ)判決及び国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会等の指摘を踏まえ最終化された「新南極海鯨類科学調査計画(NEWREP-A)」を2015年12月から2016年3月にかけて実施した。また、北西太平洋においては、2016年11月、「新北西太平洋鯨類科学調査計画(NEWREP-NP)」案をIWC科学委員会に提出し、今後の同委員会での議論を踏まえて計画案を最終化する予定である。IWCでは反捕鯨国が締約国の過半数を占めており、捕鯨をめぐる国際的な状況は依然厳しいが、日本は、国際法及び科学的根拠に基づき、国際社会の理解が深められるよう粘り強く取り組んでいる。

(4)対日直接投資

「成長戦略」において、2013年の「日本再興戦略」で掲げられた「2020年までに外国企業の対内直接投資残高を35兆円に倍増する」との目標が再確認された(2015年末時点で24兆4,000億円)。2014年から開催されている「対日直接投資推進会議」が司令塔として投資案件の発掘・誘致活動を推進するとともに、外国企業経営者の意見を吸い上げ、外国企業のニーズを踏まえた日本の投資環境の改善に資する規制制度改革や投資拡大に効果的な支援措置など追加的な施策の継続的な実現を図っていくこととしている。

2015年3月の第2回対日直接投資推進会議で取りまとめられた「外国企業の日本への誘致に向けた5つの約束23」に基づき、2016年4月以降、外国企業は5つの約束の1つである「企業担当制24」を活用し、担当副大臣との面会を行っている。また、2016年5月に開催された第4回対日直接投資推進会議では、日本が貿易・投資の国際中核拠点(グローバル・ハブ)となることを目指した「グローバル・ハブを目指した対日直接投資促進のための政策パッケージ」が決定され、「経済財政運営と改革の基本方針2016」や「成長戦略」にも反映された。

外務省としては、対日直接投資推進会議で決定された各種施策を実施するとともに、外交リソースを活用した取組として、在外公館を通じた取組も行っている。対日直接投資案件の発掘に係る情報収集体制の強化を図るとともに、案件成立に向けた支援体制の構築のため、2016年4月、126の在外公館に「対日直接投資推進担当窓口」を設置した。関係者との連絡・調整窓口として、日本貿易振興機構(JETRO)とも連携しつつ、関連活動の支援を始め、諸外国の参考事例調査や日本の規制・制度の改善要望調査、在外公館が有する人脈を最大限に活用した対日投資の呼びかけ、対日直接投資イベントの開催など積極的な活動を行っている。2016年7月には、JETRO主催(在ベトナム日本国大使館後援)でベトナム初の対日投資セミナーが開催されたほか、2016年9月の安倍総理大臣訪米の際の「対日投資セミナー」(主催:JETRO)の開催、2016年10月の東京における「対日直接投資フォーラム(INVEST JAPAN Forum 2016)」(日本経済新聞社主催(関係府省及びJETRO共催))の開催など、政府要人によるトップセールスや関係機関との協力を通じて、国内外において対日直接投資促進に向けた各種取組を戦略的に実施している。

22 安倍総理大臣のイニシアティブによる、未来の新エネルギー社会実現に向けたモデルを福島で創出し、このモデルを世界に発信し、福島を再生可能エネルギーや未来の水素社会を切り拓(ひら)く先駆けの地とする構想

23 ①小売業や飲食店、医療機関、公共交通機関等における多言語対応の強化、②街中での無料公衆無線LANの整備の促進・利用手続の簡素化、③地方空港での短期間の事前連絡によるビジネスジェットの受入れ環境の整備、④外国人留学生の日本での就職支援及び⑤「企業担当制」の実施

24 日本に重要な投資を実施した外国企業を対象に副大臣を相談相手として付ける制度。担当副大臣は企業の専業分野に応じて決定され、外務副大臣は全ての面会時に同席する。

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