外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

第1節 日本と国際社会の平和と安定に向けた取組

総論
〈安全保障〉

日本を取り巻く安全保障環境は、近年、一層厳しさを増している。北朝鮮による核・ミサイル能力の増強や、中国による透明性を欠いた軍事費の拡大、東シナ海、南シナ海等の海空域における力を背景とした一方的な現状変更の試みは、国際社会共通の懸念となっている。さらに、国際テロの拡散・多様化、サイバー攻撃等のリスクも深刻化している。

このような安全保障環境の下、日本の安全及び地域の平和と安定を実現するためには、国際社会の平和を確保することが必要であり、日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から力強い外交を推進し、平和を確保していく必要がある。日本は、3月に施行された「平和安全法制」の下、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に貢献していくための具体的な取組を進めている。

また、日米安全保障体制の下での米軍の前方展開を確保し、その抑止力を向上させていくことは、日本の平和と安全のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定にとって不可欠である。日米両国は、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化するため、新たな日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)及び平和安全法制の下での取組も含め、弾道ミサイル防衛、サイバー、宇宙、海洋安全保障などの幅広い分野における協力を拡大・強化している。在日米軍再編については、日米両政府として、普天間飛行場の辺野古移設を始め、現行の日米合意を着実に実施していくことにより、抑止力を維持しつつ、沖縄を始めとする地元の負担軽減を図っていく方針である。

日米同盟の強化に加え、アジア太平洋地域内外のパートナーとの信頼・協力関係を強化し、多層的な安全保障協力関係を築いていく必要がある。韓国、オーストラリア、インド、欧州諸国、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国などの戦略的利益を共有する各国との間でも安全保障分野における協力を促進している。

さらに、アジア太平洋地域の安全保障面での地域協力の枠組みの制度化を進めていくことも重要である。東アジア首脳会議(EAS)ASEAN地域フォーラム(ARF)拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)といった多国間の重層的な地域協力の枠組みや、日米韓、日米豪、日米印、日豪印等の3か国協力の枠組みを通じた連携・協力も推進している。

〈平和維持・平和構築〉

日本の安全と繁栄は、日本周辺の安全保障環境の改善のみで達成されるものではなく、国際社会の平和と安定という基盤の上に成り立っている。この考えの下、日本は世界の様々な問題の解決に積極的に取り組んでいる。特に、紛争の予防・再発防止や持続的な平和の実現に向けて取り組む平和構築は、日本の主要な外交課題の1つであり、日本は、平和維持、人道支援、和平プロセスの促進、治安の確保、復興・開発などの一連の活動に総合的に取り組んでいる。具体的には、国連平和維持活動(PKO)や国連平和構築委員会(PBC)などへの積極的な協力、政府開発援助(ODA)を活用した社会基盤整備や人材育成などが挙げられる。

〈治安上の脅威〉

テロの脅威は、近年、中東・アフリカ地域から、日本と地理的のみならず政治や経済等あらゆる分野で関係の深い東南アジア及び南アジアにも拡大しており、2016年には、バングラデシュにおいてダッカ襲撃テロ事件が発生し、日本人を含む犠牲者が出た。テロ組織のプロパガンダを通じた暴力的過激主義の拡大、外国人テロ戦闘員やその帰還に対する対策等が大きな課題となっている。

日本は、G7伊勢志摩サミットにおける「テロ及び暴力的過激主義対策に関するG7行動計画」の発出や、日・ASEAN首脳会議における①テロ対処能力向上、②テロの根本原因である暴力的過激主義対策及び③穏健な社会構築を下支えする社会経済開発のための取組から成る総合的なテロ対策強化策の表明等、国際社会と連携しつつ、包括的なアプローチによるテロ及び暴力的過激主義対策の国際協力を進めた。

〈軍縮・不拡散〉

日本は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界に向けた取組を積極的に進めている。核兵器のない世界の実現には核兵器の非人道性に対する正確な認識と厳しい安全保障環境に対する冷静な認識に基づいて、核兵器国と非核兵器国が協力し、現実的かつ実践的な取組を進めていくことが不可欠である。この考えに基づき、4月には、核兵器国と非核兵器国の主要国からなるG7の議長国として、被爆地広島で開催した外相会合において、核兵器のない世界に向けた力強いメッセージを「広島宣言」という形で発出した。また、5月にはオバマ米国大統領が現職の米国大統領として初めて広島を訪問した。これらは、その他世界の様々な指導者等による被爆地訪問ともあいまって、核兵器のない世界に向けた国際的な機運を盛り上げることにつながった。また、2016年は包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名開放20周年であり、日本は条約の発効促進共同調整国としてカザフスタンと共に未署名・未批准国に積極的に働きかけを行うとともに、9月には、国連総会において岸田外務大臣がCTBTフレンズ外相会合の共同議長を務めた。国連総会では核軍縮の進め方をめぐって各国の立場の違いが明らかになる場面があった1一方、日本が1994年から毎年国連総会に提出している核兵器廃絶決議案が167か国の賛成を得て採択された。核軍縮を進めるためには核兵器使用の惨禍を訴えることが重要であり、外務省としては、各国要人等に被爆地訪問を呼びかけているほか、被爆者の被爆証言活動を後押しする「非核特使」制度に加え、若い世代が海外の国際会議等で被爆の実相を伝達するために創設された「ユース非核特使」制度を運用するなど、世代と国境を越えた取組の継承に注力している。12月には各国政府関係者、有識者及び若者を長崎に招き、「核兵器のない世界へ 長崎国際会議」を開催した。

地域における核拡散の問題については、EU3(英仏独)+3(米中露)とイランとの間の核合意の履行が継続しており、IAEAは、イランが核合意に基づく自らのコミットメントを遵守していると報告した。

その一方で、北朝鮮は2016年に2回の核実験を強行し、20発を超える弾道ミサイルを発射するなど、東アジアのみならず国際社会にとって新たな段階の脅威となっている。日本は、こうした状況を踏まえ、各国と核問題や核不拡散について協議を継続するとともに、特にアジアの開発途上国を中心に、国際原子力機関(IAEA)の保障措置輸出管理体制を強化する取組を行っている。例えば、アジア諸国を中心に18か国2が参加して毎年開催しているアジア不拡散協議(ASTOP)では、北朝鮮の核問題を始めとする不拡散の諸課題について意見交換するだけでなく、アジア地域の不拡散分野の能力向上を支援している。日本は、引き続き不拡散体制の強化に向けた支援を積極的に行っていく。

〈海洋・サイバー・宇宙〉

力ではなく、法とルールが支配する海洋秩序に支えられた「開かれ安定した海洋」は、日本だけでなく国際社会全体の平和と繁栄に不可欠である。海洋秩序の維持に貢献していくという観点から、日本は、海賊対策を始め様々な取組や各国との連携を通じて公海における航行・上空飛行の自由や海上交通の安全確保に尽力している。特に、四方を海に囲まれた海洋国家である日本にとって、海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約:UNCLOS)が根幹を成す海洋秩序は、海洋権益の確保や海洋に関する活動を円滑に行うために不可欠なものである。

サイバーについて、日本は、自由、公正かつ安全なサイバー空間の創出に向け、民間企業、専門家等の幅広い関係者と協力しつつ、国際的なルール作りを始めとしたサイバー安全保障に関する国際的な議論に積極的に貢献している。また、各国とサイバー分野に関する対話・協議を行い、具体的な協力や信頼醸成を進めるとともに、開発途上国等の能力構築のために支援を行っている。

宇宙分野では、持続的かつ安定的な宇宙空間利用に対するリスクの増大等に対応するため、日本は宇宙空間における法の支配の実現・強化や各国との宇宙に関する対話・協議の実施等に取り組むとともに、宇宙科学・探査における国際協力の促進、日本の宇宙産業の海外展開支援等に取り組んでいる。

2016年1月から2年間、日本は加盟国中最多の11回目となる国連安全保障理事会(国連安保理)の非常任理事国を務め、世界の平和と安全のために積極的な役割を果たしている。

また、2016年は日本の国連加盟60周年に当たる年であった。戦後、平和国家として再出発した日本は、1956年に念願の国連加盟を果たした。それから60年、日本は一貫して、国連の活動の三本柱である平和と安全、開発、人権を始め様々な分野において、国際貢献を積み重ねてきた。

今日、国際社会は、紛争やテロ、難民、貧困、気候変動、感染症など、国境を越えた様々な課題に直面しており、国連が果たすべき役割は更に大きくなっている。日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下、国連を通じ、一層積極的にこれらの諸課題に取り組んでいく。

新興国の台頭や新たな地球規模課題への対応など、国際情勢は大きく変化している。国連が国際社会が直面する諸課題により効果的に対応できるよう、日本は、国連安保理を始めとする国連改革にも引き続き積極的に取り組んでいく。

〈法の支配〉

「法の支配」とは、全ての権力に対する法の優越を認める考え方であり、国内において公正で公平な社会に不可欠な基礎であると同時に、友好的で平等な国家間関係の基盤となっている。また、法の支配は、紛争の平和的解決を図るとともに、各国内においては「良い統治」(グッド・ガバナンス)を促進する上で重要な要素でもある。このような考え方の下、日本は安全保障や経済・社会分野及び刑事分野を始めとする様々な分野において二国間・多国間でのルール作りとその適切な実施を推進している。さらに、紛争の平和的解決や法秩序の維持を促進するため、国際司法裁判所(ICJ)、国際海洋法裁判所(ITLOS)や国際刑事裁判所(ICC)を始めとする国際司法機関の機能強化に人材面・財政面からも積極的に協力している。また、法制度整備支援のほか、国際会議への参画、各国との意見交換や国際法関連の行事の開催を通じて、アジア諸国を始めとする国際社会における法の支配の強化に努めてきている。

〈人権〉

人権や基本的自由は普遍的価値である。その保護・促進は全ての国家の基本的な責務であると同時に、国際社会全体の正当な関心事項である。これらが各国で十分に保障されることは、日本国内の平和と繁栄のみならず、国際社会に平和と安定の礎を築いていくために必要である。そのため、日本は人権分野にこれまで以上に積極的に取り組んでいる。具体的には、対話と協力の姿勢に基づく、世界の人権状況改善に向けた貢献や二国間での対話、国連など多数国間のフォーラムへの積極的参画、国際人権メカニズムとの建設的な対話を行ってきている。

〈女性〉

日本は、21世紀こそ、女性の人権侵害のない世界にしていくため、国内外で「女性が輝く社会」を構築するべく、①女性の権利の尊重、②能力発揮のための基盤の整備及び③政治、経済、公共分野におけるリーダーシップ向上を重点分野に位置付け、国際社会の先頭に立ってジェンダー主流化と女性のエンパワーメント推進に向けた取組を進めている。その一環として、G7伊勢志摩サミットや国際女性会議WAW!等を通じて世界における女性の活躍を促進するための議論を主導するとともに、女性の社会進出と能力の更なる強化に向けた「女性の活躍推進のための開発戦略」を発表し、開発途上国の女性たちの活躍を推進するため、2018年までに総額約30億米ドル以上の支援を行うことを表明し、着実に実施している。

1 例えば、核兵器禁止条約を推進する立場の国々から核兵器禁止条約交渉開始決議案が提出され、オーストリア、メキシコ、スウェーデンほか113か国の賛成で採択されたが、中国、インド、パキスタン、オランダほか13か国が棄権、米国、英国、フランス、ロシア、日本、オーストラリア、ドイツ、カナダほか35か国は反対した。

2 日本、ASEAN諸国、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、米国、カナダ及びフランス

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