外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

3 北アフリカ地域情勢(エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ)

(1)エジプト

中東・アフリカ・欧州地域が交差する地政学的要衝に位置するエジプトは、人口1億1,000万人以上を有する中東・北アフリカの地域大国である。2023年10月7日のハマスなどによるテロ攻撃発生以降、ガザ地区からの外国人などの退避や傷病者の受入れ、国際機関や世界各国からの人道支援物資の受入れ・ガザ地区への搬送や、カタール及び米国と共にイスラエルとハマスの仲介を行うなどの外交努力を通じて、情勢の沈静化、地域全体の不安定化の防止、人道状況改善の緊要性などの議論を主導するなど、地域の安定のために重要な役割を果たしている。

エルシーシ大統領は4月2日に3期目の就任式に臨み、引き続き安定した政権運営が進められている。6月にはマドブーリー首相が再任され、閣僚の半数以上が新たな顔ぶれとなる新内閣が7月に発足した。

日本との関係では、7月に入閣したばかりのアブデルアーティー外務・移住・国外移住者相がTICAD閣僚会合に出席するため訪日し、岸田総理大臣を表敬してエルシーシ大統領の親書を手交上川外務大臣と2度にわたり会談を行い、二国間関係及び地域・国際情勢について意見交換し、緊密な連携を確認した。9月にはニューヨークで中東に関する日本・エジプト・ヨルダン三者外相会合を行い、ガザ情勢を始めとする地域情勢について協議した。また、ガザやレバノン情勢を始めとする緊迫した中東情勢を受けて、上川外務大臣がシュクリ外相と4月4日に、岩屋外務大臣がアブデルアーティー外相と10月16日に、それぞれ電話会談を行った。

上川外務大臣とアブデルアーティー・エジプト外務・移住・国外移住者相(8月23日、東京)
上川外務大臣とアブデルアーティー・エジプト外務・移住・国外移住者相(8月23日、東京)

カイロに本部を構えるアラブ連盟との関係では、7月にアブルゲイト・アラブ連盟事務総長を招へいし、上川外務大臣と日本とアラブ連盟との協力関係について協議したほか、外務省・経済産業省とアラブ連盟共催の下、連盟加盟国の経済関係閣僚などが出席する閣僚会合、民間企業の出席を得た官民経済カンファレンスから成る第5回日本・アラブ経済フォーラムを11年ぶりに東京で開催した。

エジプト・イスラエル間の停戦監視活動などを主要任務とするシナイ半島駐留多国籍部隊・監視団(MFO)(10)は、ガザ情勢を含む地域情勢の不安定化を踏まえ、エジプト・イスラエル間の停戦維持という重要な役割を引き続き遂行している。日本はMFOに対し、拠出金など財政支援のほか、2019年4月から自衛官の派遣を開始して現在は計4人の司令部要員を派遣しており、引き続き地域の平和と安定に向けた貢献を行っている。

(2)リビア

リビアは、アフリカ1位の原油埋蔵量を誇るエネルギー大国であるが、2011年のカダフィ政権崩壊後、東西に政治勢力が並立する不安定な状況が続いている。2019年4月には、東部の実力者であるハフタル「リビア国軍」(LNA)(11)総司令官がトリポリへの進軍を指示し武力衝突に発展した。2020年10月に両勢力間が恒久的停戦合意に署名して以降、東西両勢力間の武力衝突事案は大幅に減少し、経済面が活性化してきている。2023年9月には、東部デルナを中心に洪水による甚大な被害が発生し、日本を含む各国が緊急援助を行った。

政治面では、国連主導のリビア政治対話フォーラム(LPDF)において2021年12月24日に大統領選挙を含む国政選挙を行うことで基本的合意が成立したものの、無期延期となり、2024年末時点で実施に至っていない。2023年2月にバシリー・リビア担当国連事務総長特別代表が年内の選挙実施に向けたイニシアティブを発表して、引き続き国連主導による取組が進められてきたが、2024年4月に同代表が和平の見通しができないとして辞任し、後任が待たれている。日本は、2022年8月の第8回アフリカ開発会議(TICAD 8)での日・リビア首脳テレビ会談を受け、2014年7月に大使館を一時閉館して以降初めて、2024年1月にトリポリに大使館事務所を再開するなど、要人往来が再び活性化した。同1月には、ラーフィー首脳評議会副議長が訪日し、林芳正官房長官及び上川外務大臣と会談し、今後の二国間関係の再活性化に取り組んでいくことで一致し、経済・ビジネス及び人材育成分野などにおける具体的な協力の方策についても意見交換を行った。4月には、深澤陽一外務大臣政務官がリビアを訪問し、ラーフィー副議長を表敬し、バーウール外相・国際協力相代行と日・リビア政策協議を開催した。同訪問は、日本からリビアへの政務レベルの要人訪問として約12年ぶりのものであった。8月に開催されたTICAD閣僚会合においては、上川外務大臣とバーウール外相代行が外相会談を行い、日・リビア関係を更に発展させる重要性を確認した。

(3)マグレブ諸国(チュニジア・アルジェリア・モロッコ)

マグレブ地域は、欧州・中東・アフリカの結節点に位置する地理的優位性や豊富な若年労働力などによる高い潜在性から、アフリカにおいて経済面で高い重要性を有している一方、引き続き貧困層の拡大、地域格差や高失業率、食料価格高騰の影響などの克服が課題となっている。加えて、リビアやサヘル地域からの武器や不法移民の侵入による治安面への影響が懸念されている。

チュニジアでは、8月にマドゥーリ首相が任命され大規模な内閣改造が行われた。10月には大統領選挙が行われ、現職のサイード大統領が再選を果たした。経済・財政面では、2023年夏以降は主要産業である観光業の復調が見られるものの、貿易赤字、財政赤字、失業率の高止まり、成長率の低迷などの課題に対し、今後、構造改革を進めることができるかが注目されている。

日本との関係では、2月にベン・レジバ外相付国務長官が訪日し、柘植外務副大臣ほかと会談し、2025年の大阪・関西万博の機会なども活用し、二国間の経済関係や人的・文化交流などの一層の強化に向けて取り組むことで一致した。また、5月には深澤外務大臣政務官がチュニジアを訪問し、アンマール外相への表敬を行った。

アルジェリアでは、2019年12月にテブン新大統領が就任し、同大統領は「新生アルジェリア」の実現に向けた経済改革の一環として、2022年に投資法の改正などを実施した。2024年9月には大統領選挙が行われ、テブン大統領が再選を果たした。政権の基盤が安定した2期目においては、「アフリカ第2の経済大国を目指す」とし、経済・社会政策に注力することが見込まれる。日本との関係では、2024年1月に日・アルジェリア租税条約、4月に合同経済委員会設置協定が発効し、経済関係の強化が期待される。7月にはハシシ国営炭化水素公社ソナトラック総裁が日本・アラブ経済フォーラム出席のため訪日、8月にはワリード知識経済・スタートアップ・零細企業相がTICAD閣僚会合出席のために訪日した。両氏の訪日時には辻󠄀外務副大臣との会談やJICA、民間企業との意見交換が実施され、従来協力が進展している石油・天然ガス分野に加え、今後は再生可能エネルギーやスタートアップといった新たな分野を含む、幅広い分野で両国経済関係の強化が期待される。2024年は、国連安全保障理事会でアラブ諸国唯一の非常任理事国として日本と議席を共にし、多国間の枠組みにおいても連携するため、活発に意見交換を行った。また、在アルジェリア日本大使館によるアルジェ国際マンガフェスティバルでの日本・アルジェリア・マンガコンテストの実施、JICA専門家で構成されるJICAミッションのアフリカ・スタートアップ会議への出席など、外交のみならず、多様な分野で二国間関係が進展している。

モロッコでは、10月に内閣改造が行われ第2期アハヌーシュ内閣が発足した。近年モロッコは深刻な水資源不足に直面しており、7月のモハメッド6世国王演説においても対策の必要性が強調された。また、国内では再生可能エネルギーの導入と、2030年サッカー・ワールドカップ開催に向けたインフラ整備が加速している。10月には、国王の招待により、マクロン・フランス大統領がモロッコを国賓訪問し、脱炭素化に向けた二国間経済協力と、モロッコにおけるインフラ開発及び産業の共同拠点化によるバリューチェーンの構築を目指すことを確認した。

日本との関係では、5月にブリタ外相が来日し、上川外務大臣と外相会談及び夕食会を実施し、「強化されたパートナーシップ協力覚書」に署名した。9月には、円借款「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジのための開発政策借款」(277.6億円)の交換公文が締結された。また、11月にはジダン投資相が来日し、武藤容治経済産業大臣と会談を実施し、経済関係の深化に向けた意見交換を行うとともに、投資・貿易活動の促進を目的とした協力覚書に署名した。

ナースィル・ブリタ・モロッコ外務・アフリカ協力・在外モロッコ人相と共に協力覚書への署名を行い握手する上川外務大臣(5月31日、東京)
ナースィル・ブリタ・モロッコ外務・アフリカ協力・在外モロッコ人相と共に協力覚書への署名を行い握手する上川外務大臣(5月31日、東京)
コラム日本とアラブ連盟の協力

アラブ連盟は、カイロ(エジプト)に本部を置く、アラブ22か国・地域が加盟する地域国際機関です。日本とアラブ連盟の関係は、2013年に岸田外務大臣が署名した「日アラブ協力に関する覚書」によって日本・アラブ経済フォーラム、日・アラブ政治対話、日・アラブ文化教育協力を含む包括的な日・アラブ協力メカニズムが設立されたことに基づき、着実に発展しています。要人往来も活発化しており、2023年4月には岸田総理大臣が日本の総理大臣として初めてアラブ連盟本部を訪問しました。

■日本・アラブ経済フォーラムの開催

2024年7月、日本・アラブ経済フォーラム開催の機会にアブルゲイト・アラブ連盟事務総長を外務省賓客として招へいし、東京において第5回日本・アラブ経済フォーラムを開催しました。閣僚会合には日本側から上川外務大臣及び齋藤健経済産業大臣が、アラブ側からは同事務総長を始めとする10人の閣僚級要人が出席しました。官民経済カンファレンスには齋藤経済産業大臣やアラブ側閣僚を含む多くの政府関係者や企業関係者が出席しました。同フォーラムは、日本とアラブ連盟及び加盟国との間での多様な分野における経済関係を強化するネットワーキングの役割を果たしており、持続可能な開発目標(SDGs)の達成、気候変動対策や技術進歩といった新たな課題が登場する中で、エネルギーやデジタルの分野における人材育成などを通じ、持続可能で強靱(じん)かつ発展を続ける経済社会の実現に向けて、日本とアラブ諸国が互いに信頼し合うパートナーになり得ることを改めて確認しました。

またこの機会に、上川外務大臣は同事務総長と、日本とアラブ連盟の協力や地域情勢などについて意見交換を行いました。

第5回日本・アラブ経済フォーラム閣僚会合(7月11日、東京・外務省飯倉公館)
第5回日本・アラブ経済フォーラム閣僚会合(7月11日、東京・外務省飯倉公館)
■日・アラブ政治対話

2023年9月には、アラブ連盟本部で第3回日・アラブ政治対話を開催し、日本とアラブ連盟加盟国との間で、地域及び国際情勢にかかる共通の関心事項、共通利益に向けて一層の政治協力の機会を見いだすことについて協議しました。林外務大臣がアブルゲイト・アラブ連盟事務総長と共に共同議長を務め、共同声明を採択し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の重要性をアラブ諸国と共有しました。

■日・アラブ文化教育協力

日・アラブ文化教育協力の一環として、外務省のアラビア語研修員がアラブ連盟本部を訪問し、アラブ連盟の成り立ちや目的、政治・経済・人権などの様々な分野におけるアラブ連盟の取組について講義を受講したり、在エジプト日本国大使館がアラブ連盟の若手職員に対して日本のアラブ地域における外交政策に関する講演を実施するなど、人的交流を進めています。

外務省のアラビア語研修員によるアラブ連盟本部訪問(6月11日、エジプト・カイロ)
外務省のアラビア語研修員によるアラブ連盟本部訪問(6月11日、エジプト・カイロ)
■アラブ連盟傘下機関との協力

アラブ連盟の傘下には様々な分野を所掌する14の機関がアラブ諸国に点在しており、日本はアラブ連盟加盟国の発展のためにこれらの機関とも協力しています。例えば、アレキサンドリア(エジプト)にあるアラブ科学技術海運アカデミーに対する訓練用船舶の供与や、ジブチの沿岸警備隊員の同アカデミーにおける訓練の支援を実施してきました。また、カイロにあるアラブ行政能力開発機構が主催するアラブ知的財産会議に参加して日本の知見を共有し、知的財産の保護のための方針について議論しました。

(10) MFO:Multinational Force and Observers(多国籍部隊・監視団)

(11) LNA:Libyan National Army

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