外交青書・白書
第2章 地域別に見た外交

第7節 中東と北アフリカ

1 概観

中東・北アフリカ地域(以下「中東地域」という。)は、欧州、サブサハラ・アフリカ、中央アジア及び南アジアの結節点という地政学上の要衝に位置する。世界の石油埋蔵量の約5割、天然ガス埋蔵量の約4割を占め、世界のエネルギーの供給地としても重要であることに加え、高い人口増加率も背景に、湾岸諸国を中心に経済の多角化や脱炭素化を進めており、市場としても高い潜在性を有している。

同時に中東地域は、歴史的に様々な紛争や対立が存在し、今も多くの不安定要因・課題を抱えている。特に2023年10月に発生したハマスなどによるイスラエルに対するテロ攻撃を発端とするガザ情勢については、停戦と人質解放の実現に向け、米国、カタール、エジプトが仲介努力に尽力し、また国連場裡(り)においても複数の停戦決議の採択に外交努力が注がれてきた。日本は、地域諸国との関係を基盤に、また、G7や国連安全保障理事会(安保理)の一員として、各国とも緊密に連携しながら、人道状況の改善、そして事態の早期沈静化に向け外交努力を重ねてきた。

2025年を迎え、米国のバイデン政権及びトランプ次期政権の連携も相まって、長きにわたった交渉が最終局面に至り、1月15日、人質の解放と停戦に関する当事者間の合意が成立し19日に発効した。岩屋外務大臣は、同合意の成立を歓迎し、誠実かつ着実な履行を求める談話を発出し、G7は同合意を完全に承認し支持する首脳声明を発出した。

停戦合意に至るまでのガザ情勢の影響は、周辺地域にも波及し、中東地域全体の緊張と不安定性を高めてきた。ヨルダン川西岸地区では、経済活動や移動の制限により社会経済状況が悪化したほか、入植者による暴力的行為が増加し、入植者と住民との間で軋轢(あつれき)が生じている。イスラエル・レバノン国境周辺では、イスラエル軍とヒズボッラーとの間で度々戦闘や攻撃の応酬が発生し、紅海・アデン湾においてはホーシー派(イエメンの武装勢力)による船舶に対する攻撃が継続しているほか、イスラエルへのドローンやミサイルによる直接攻撃なども頻発している。また、地域情勢の予見不可能性が高まる中、4月10月には、イランがミサイルなどを用いてイスラエルを直接攻撃する事案が発生し、10月下旬には、イスラエルがイランの軍事施設に対して攻撃を行うなど、イスラエル・イラン間で報復の応酬が繰り返された。さらには、12月、シリアで長年政権の座にあったアサド大統領が国内の騒擾(じょう)を受け亡命し、政権が崩壊した。また、アフガニスタンでは、2021年8月のタリバーンによるカブール制圧以降、深刻な人道状況の更なる悪化が懸念されている。

2021年1月に成立した米国のバイデン政権は、ガザ情勢をめぐる地域の緊張の高まり、危機的な人道状況への対応に向け、イスラエルを始めとする関係国に働きかけ、とりわけ、5月末には、人質解放や停戦をめぐる交渉に関する提案を発表するなど、精力的に取り組んだ。

日本が原油の9割以上を中東地域から輸入している点も含め、中東情勢は日本の平和と繁栄に直結しており、中東地域の平和と安定を促進し、中東地域諸国との良好な関係を維持、強化していくことは日本にとり極めて重要である。こうした観点から、日本は、近年、経済、政治・安全保障、文化・人的交流を含めた幅広い分野で、中東地域諸国との関係強化に努めている。7月に東京で開催された第5回日本・アラブ経済フォーラムにおいては、アラブ諸国との経済関係を強化していくための今後の方針について意見交換が行われ、官民の日本とアラブ諸国間の多層的なネットワークを構築する機会となった。上川外務大臣は、8月に開催されたアフリカ開発会議(TICAD)閣僚会合の機会にエジプト及びリビアと外相会談を実施したほか、9月には、ニューヨークで日・イラン外相会談及び日・エジプト・ヨルダン外相会合を実施し、緊迫化する中東情勢について意見交換を行った。加えて、特にウクライナ情勢を受けてエネルギー市場が不安定化する中、湾岸諸国に対しては、首脳及び外相レベルの電話会談も含め、国際原油市場の安定化に向けた働きかけを行い、エネルギー安全保障を含む幅広い分野での協力を確認した。

2024年には、アフガニスタン北部における洪水(5月)を始めとする複数の自然災害が中東地域で発生し、甚大な被害をもたらした。これらの被害について、日本は国際機関を通じたものを含め、様々な形で人道支援を実施している。

このページのトップへ戻る
青書・白書・提言へ戻る