第4節 欧州
1 概 観
2018年の欧州は、経済が引き続き緩やかに回復し、2015年に比べ難民庇護(ひご)申請者自体は激減しているものの、各国で既存の移民・難民政策に対する批判を中心に反欧州連合(EU)を主張する政党が台頭し、いわゆる「ポピュリズム(大衆主義)」の高まりやこれに対する懸念が広がり、欧州の一体性にゆらぎが見えている。また、英国のEU離脱交渉の難航も加わり、先行きが不透明で情勢が流動的な一年となった。
英国のEU離脱については、11月の特別欧州理事会で英国を除くEU27か国が離脱協定及び政治宣言を承認したものの、英国議会での審議は2019年に持ち越された。移民・難民問題については、6月の欧州理事会で一定の対応措置を含む結論文書を採択したが、各国の立場の違いの大きさを色濃く残した合意内容となった。またEU内ではここ数年、司法制度改革等国内制度をめぐって、一部の加盟国が欧州委員会と対立する動きも見られた。
各国内政については、英国ではEU離脱交渉をめぐる議会及び政府内の方針の不一致、フランスでは「黄色いベスト運動」に見られるマクロン大統領に対する反対運動や支持率の低下が見られ、ドイツでは地方選挙の結果メルケル首相が次期党首選不出馬に追い込まれ、イタリアでは政権交代をめぐって混乱が見られた。
さらに、欧州各国は、テロ事件やサイバー攻撃を含む複数の手段を組み合わせたハイブリッド脅威等にも引き続き直面しているほか、欧州の安全保障環境に大きな影響を与えているウクライナ問題を含めたロシアとの関係は、引き続き欧州にとって重要な課題となっている。また、中国も「一帯一路」の下に「16+1」(中国と中・東欧諸国の協力枠組み)などを用い、中・東欧諸国に対し影響力を強めている。
欧州がこのような動揺に直面していても、日本にとって重要なパートナーであることに変わりはない。EU及び欧州各国は、自由、民主主義、法の支配及び人権等の基本的価値や原則を日本と共有しており、自由貿易や多国間主義の推進者であり続けている。また経済的にも、EU加盟28か国合計で世界の国内総生産(GDP)の約21%を占めている。
加えて、欧州各国は、EUを含む様々な枠組みを通じて外交・安全保障、経済、財政等の幅広い分野で共通政策を採っており、国連安保理の常任理事国やG7等の主要な国際的枠組みの構成国を含んでいる等、国際社会での規範形成過程において大きな役割を果たしている。また、様々な国際課題について、日本と共通の立場をとることが多い。
さらに、言語、歴史、文化・芸術活動、有力メディアやシンクタンク等を背景に、国際世論に対して引き続き大きな影響力を有している。
強く結束した欧州は、基本的価値や原則を共有する日本を含め国際社会全体にとっての利益である。日本は、引き続きこのような欧州の結束を支持するとともに、EUと同時に英国、フランス、ドイツを始めとして多様化しつつある欧州各国とも、重層的に、また複眼的な視点から、よりきめ細やかに協力関係を強化してきている。
EUとの間では、7月に日EU経済連携協定(EPA)及び日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)の署名が行われ(2019年2月1日にそれぞれ発効・一部適用開始)、2018年は日・EU関係が大きく強化された歴史的な年となった。日EU・EPAは、世界で保護主義的な動きが広がる中、日本とEUが世界をリードしていくとの揺るぎない政治的意思を世界に鮮明に示すものとなった。SPAは、共通の価値を有する日本とEUが様々な分野で協力を深化させることを規定した条約であり、その意義は極めて大きい。
また日本は、英国、フランス及びドイツ各国と、首脳や外相・閣僚との会談を通じ、自由で開かれた国際秩序の維持・強化のための連携を深めた。英国とは、G7サミットやG20サミットの機会に首脳会談を行い、9月に日英外相戦略対話を行ったほか、2019年1月には安倍総理大臣が英国を訪問した。フランスとは、2018年1月に日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を開催し、10月には安倍総理大臣がフランスを訪問した。さらに、12月には太平洋国家でもあるフランスと海洋政策を幅広く議論するための日仏海洋セミナーを東京で開催し、その後、日仏の包括的海洋対話を立ち上げた。このように、英国及びフランス両国と、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた協力を含め、二国間協力を大きく進展させた。また、ドイツとの間では、2018年は日独外相の相互訪問及び共同声明発出に加え、2019年2月にはメルケル首相が訪日して、インド太平洋地域において両国で協力していくことを確認した。
他の欧州諸国及び域内地域枠組みとも、各国・地域の情勢を踏まえてきめ細やかな外交を展開し、協力関係を進めた。1月、安倍総理大臣は日本の総理大臣として初めて、バルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)、ブルガリア、セルビア及びルーマニアの6か国を訪問し、バルト三国との全般的な協力を進める「日バルト協力対話」及び、EU加盟を目指す西バルカン諸国の経済・社会改革を支援する「西バルカン協力イニシアティブ」を立ち上げた。スペインには10月に安倍総理大臣が訪問し、日・スペイン関係を「戦略的パートナーシップ」へと強化した。また河野外務大臣は、11月にイタリアに訪問した際に、日本の外務大臣として初めて、イタリア外務・国際協力省及びシンクタンクが共催する「地中海対話」に出席した。さらに、5年ぶり第2回となる「V4(チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)+日本」首脳会談を10月に開催したほか、6回目となる「GUAM(ジョージア、ウクライナ、アゼルバイジャン及びモルドバ)+日本」外相級会合を9月に開催した。
さらに、アジアと欧州の安全保障は不可分との認識の下、北大西洋条約機構(NATO)、欧州安全保障協力機構(OSCE)等の地域安全保障機関との協力を進めるとともに、アジア欧州会合(ASEM)を通じ、アジアと欧州との協力関係を一層強化した。

(10月18~19日、ベルギー・ブリュッセル 写真提供:EU)
このほか、欧州等から学生を招へいする人的・知的交流事業「MIRAI」や、講師派遣などの対外発信事業を積極的に実施している。こうした取組を通じて、欧州各国・機関との間で、政治、安全保障、経済、教育、文化、科学技術など幅広い分野で多様なつながりを構築し、日本やアジアに関する発信や相互理解等を促進することにより、緊密かつ重層的な関係の維持に努めている。